- 著者
-
岡 奈理子
- 出版者
- 日本鳥学会
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.59, no.2, pp.161-167, 2010-10-20 (Released:2010-11-08)
- 参考文献数
- 35
- 被引用文献数
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表層採食ガモのマガモAnas platyrhynchosは,湖沼や河川,湿地などの好適な生息地のほとんどが氷雪で覆われる寒冷な地域においても越冬する.彼らは厳冬期にオホーツク沿岸の藻琴湖の水深1 mの汽水河川で繰り返し潜水し,二枚貝を8割の高い成功率で採食していた.潜水時間は平均6秒・回−1で最長12秒,飲み込み時間は平均10秒・回−1,最長21秒であった.潜水と飲み込みに要した採食時間は平均16秒,最長31秒であった.彼らは小型な貝を採ることで採食速度を早められたが,実際には嘴幅サイズ(20 mm)もしくはやや大きめなサイズを多く採食し,その結果,採食速度を大幅に落としていた.秋に優占し,小型サイズの貝を好む潜水ガモの捕食圧フィルターを経て,厳冬期には大きめのサイズの相対資源量が多かったためと判断された.マガモが1日のエネルギー要求量を,藻琴湖汽水域のベントス資源のなかから貝の採食だけで満たすならば,性状が異なる貝の種類によって,1日あたり体重の1.1倍~3.5倍の採食量が必要であった.厳冬期のマガモは,採食方法を本来の水面採食から潜水に変化させることで,氷雪で覆われる北方で,汽水域の豊富なベントス資源を利用し,越冬を可能にしていたと考えられた.