著者
美馬 達哉
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-18, 2015-03-30 (Released:2016-06-03)
参考文献数
15

「治療を超えて」生物医学的テクノロジーを健常人に対して用いることで、認知能力や運動能力を向上させようとする試みは、「エンハンスメント(Enhancement)」として1990年代後半以降から社会学や生命倫理学の領域で注目を集めている。とくにスポーツの分野では、新しいトレーニング手法、エンハンスメント、ドーピング、身体改造などの境界は問題含みの混乱状況にある。本稿では、医療社会学の観点から、まず、カンギレムの『正常と病理』での議論を援用して、正常、異常、病理、アノマリーなどの諸概念を整理し、正常/異常が文化的・社会的な価値概念であることを明確化した。 次に、スポーツと身体能力のエンハンスメントに力点を置いて、エンハンスメントをめぐる生命倫理学での議論を概観した。病者への治療(トリートメント:treatment)と健常者へのエンハンスメントを対比して、前者を肯定し後者を否定して線引きする伝統的な議論では不十分であることを、具体的実例を挙げて示した。また、資質と努力の賜物としての達成(アチーブメント:achievement)とエンハンスメントを対比して、前者の徳としての重要性を指摘する議論を紹介した。加えて、本稿は、エンハンスメントの根本問題とは何かという点で、現代社会のテクノロジーによる人間的自然の支配こそが再考されなければならないという視点に立って、エンハンスメントを超える展望を提示した。

言及状況

外部データベース (DOI)

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・サンデルのエンハンスメント批判。偉業は選手ではなく薬剤師が達成する。個人としての人間を変えるのではなく不完全な人間に包容力のある社会体制・政治体制を作り出す。P16*テクノロジーや選択の不可避性の軽視。https://t.co/088vHxZMow #優生社会 https://t.co/Qmqrk8wavm
・アノマリーはアブノーマルと混同されやすいが、平坦でなくでこぼこなものを指す。トップアスリートにもアノマリーが存在している。P12https://t.co/088vHxZMow https://t.co/Y5MRdXEieT
・エンハンスメントとは生物医学的テクノロジーを認知能力や運動能力の向上のために用いること。アチーブメントは努力や資質の賜物。病人が苦しんでいるのは病気であるが医療者が診察するものは疾病である。ソンタグは病気を人間の織りなす空想とする。https://t.co/088vHxZMow https://t.co/UeicubQrmk

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