著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-25, 1999 (Released:2018-05-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ニホンコウノトリ(Ciconia boyciana)の生息数がわずかとなった1950年〜60年代, 兵庫県但馬地方では官民一体となって, この稀少鳥種のための様々な保護対策を展開した。餌となるドジョウを全国から集める『ドジョウ一匹運動』や, 営巣中の個体を守るための『そっとする運動』などはその代表的なものである。野生動物のために講じられたこれらの保護活動は, 現在でも学ぶところの多い先駆的なものとして評価できる。江戸時代に出石藩が瑞鳥(兆)として手厚く保護してきたことが, この地域でとくに保護活動がさかんであった理由のひとつである。コウノトリ保護に対する地域住民の思いは現在も確実に受け継がれており, 兵庫県が主宰する野生復帰計画の励みともなっている。コウノトリが水田で採餌できるように, 完全無農薬を目的としたアイガモ農法が徐々に広がりつつある。餌生物を増やすためにビオトープづくりを行っているグループや, 生物観察会などの環境教育を行っているグループもある。その一方で, 開発による環境破壊はなおも進行中である。野生復帰したコウノトリが餌場とするであろう河川の護岸はコンクリートで固められ, 水田地帯を縦断する広域農道が建設されようとしている。圃場整備された水田は生物の生息に適さない環境となっている。コウノトリが絶滅した1970年当時よりもはるかに悪化している自然環境に, 果してこの鳥を野生復帰できるのかどうか疑問を感じずにはおれない。経済発展か野生動物保護かという2者対立の構図は, 過去においても現在においても大きな問題である。コウノトリの野生復帰を成功させるためには, 今すぐにでも現状の開発技術を自然環境復元のために転用し, 人間が野生動物と共生できる妥協点を模索する努力を始めなければならい。そのためには, 地元住民の協力を得ることが最重要課題である。望まれるのはライフスタイルの変革である。だがこれは, 地元住民だけではなく, 多くの環境問題を身近に抱えているすべての市民が目標としなければならない課題でもある。

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コウノトリといえばこの論文。 本物は揺がず、変わらず、 根幹はびくともしないのだ。
@ElephasF この記事もステキですよね✨ 村田園長先生がどのような方か、論文の方がストレートにわかるとおもいます
@zooman_koichi これでしょうか? https://t.co/oWwU6hcqo0

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