- 著者
-
伊東 孝
石崎 正和
- 出版者
- Japan Society of Civil Engineers
- 雑誌
- 土木史研究 (ISSN:09167293)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.69-80, 1993-06-01 (Released:2010-06-15)
- 参考文献数
- 7
小泉橋は、多摩川から取水する二ヶ領用水に架けられた江戸時代の石桁橋である。本橋は、明治期および昭和戦前期に、拡築・補強が行われたが、近世の石桁橋が現役で使用されていた希有の事例である。しかし、二ヶ領用水の河川改修の伴って、本橋が架け替えられることになった。そこで、橋の解体発掘調査を進めた結果、架橋に関する古文書が発見されるなど、興味深い特徴が明らかになった。その一つは、橋台壁にも橋脚を設置していること。もう一つは、太鼓落し仕上げの松丸太一本物が、橋軸方向の土台木として橋長よりも長く通されていたことである。これにより、橋全体は、松丸太基礎の上で一つの構造体を構成し、不等沈下に対しても極めて強い構造になっている。本論では、これを “一種の免震構造” と呼んだ。そのほか橋脚の瘤出し装飾、漆喰と平落釘を利用したガタ留め、新しい材料としてのセメントと丸棒の使用、江戸時代の橋普請、架橋費用を捻出した「橋山」、天保の石桁橋と明治の拡築工事の経緯など、小泉橋の構造的・歴史的特徴が明らかになった。