- 著者
-
劔 陽子
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.2, pp.146-153, 2020-02-15 (Released:2020-02-22)
- 参考文献数
- 9
目的 近年,動物の多頭飼育崩壊問題への関心が高まっている。周辺の生活環境の悪化や犬が徘徊していて怖いといったことが,地域住民から苦情として保健所に寄せられることも多い。この度,熊本県内の保健所で犬の多頭飼育事例に対し,多機関で連携して対応に取り組んだ2事例を経験したので報告する。方法 事例1については,以前より保健所に苦情が寄せられ,現在に至るまで10年間程度対応を続けている事例であり,保健所の担当者による記録が残っている対応について検証した。事例2については,一年間にわたって対応した事例であり,一定の対応が終了した後に関係した諸機関が集まって振り返り検証会を実施した。活動内容 事例1に対しては,苦情が寄せられ始めた当初は保健所衛生環境課が飼養主に対し犬の登録・注射・係留について指導し,時に係留されていない犬の捕獲を行い,飼養主からの要求があれば指導の後返還するということを繰り返していた。それにも関わらず非常に多数の近隣住民からの苦情が保健所に寄せられるようになって一層の対策を求められ,以降警察,市町村の保健福祉関係者,地域住民等とでたびたび話し合いがもたれた。とくに熊本地震で飼養主とその家族が被災し仮設住宅に入居して以降は,災害関連の支援機関や市町村の地域包括センターなども加わって飼養主の見守りを行い,犬の保健所への引き取り依頼・譲渡をするよう説得に努めた。熊本地震後累計30頭程を保護して多くを譲渡につなぎ,その後4頭程度の飼育となって近隣からの苦情も少なくなっている。事例2では,犬の放し飼い苦情対応に出かけた保健所衛生環境課職員により高齢夫婦が不衛生な環境下で多数の犬と生活をしている状況を発見し,県福祉事務所,市町村福祉課,地域包括センター,認知症初期集中支援チームなどと連携して見守り・支援活動を行った。多くの機関が関わったが,どこが全体を把握して主導するかが曖昧となり,情報共有も不十分であったため,効率的な連携ができず,対応が遅れがちになるなど,課題も見つかった。結論 多頭飼育に関しては,環境衛生,動物愛護の観点からの対応開始がなされることが多いが,精神保健,高齢者福祉,生活困窮など,多くの問題が含まれていることが多い。対応には難儀することが多く,すぐに問題が解決されるわけではないが,長期間にわたる多機関連携での対応が求められる。