著者
才津 祐美子
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.23-40, 2006-10-31 (Released:2018-12-25)
被引用文献数
2

世界遺産への登録を地域おこしの切札のように考えている地域は少なくない。実際,現在日本各地で行われている世界遺産登録運動は,枚挙に暇がないほどである。しかし,世界遺産登録は,当該地域に望ましいことばかりをもたらすわけではない。本稿で事例として取り上げる「白川郷」では,近年特に,この文化遺産の骨子である景観に「変化」が生じていることが問題として指摘されている。この場合の変化は,観光客急増に起因した「悪化」という意味で使われることが多い。しかし,「白川郷」で起きている変化は,〈景観の「悪化」〉だけではない。修景行為に伴う〈景観の「改善」〉もまた「白川郷」で起きている変化だといえるからである。つまり,「白川郷」では,〈景観の「悪化」〉と〈景観の「改善」〉の両方に変化が生じているといえる。しかしながら,実は,個々の変化を「悪化」と見るか「改善」と見るかは,評者によって違うのである。そこで必然的に,誰がそれを判断するのか,ということが問題になってくる。また,〈景観の「悪化」〉であろうと〈景観の「改善」〉であろうと,それらの変化が「白川郷」に暮らす人々の生活に直結しているということも重要である。にもかかわらず,従来景観の変化が取り沙汰される場合,その点が軽視されがちであった。そこで本稿では,住民と「専門家」という二つの行為主体に関する考察を軸に,生活者である住民の視点に留意しつつ,現在における景観保全の在り方の問題点を明らかにした。その際,これまでほとんど指摘されてこなかった,世界遺産登録後の〈景観の「改善」〉のための規制強化に着目し,検討を加えた。

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