- 著者
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海野 敦史
- 出版者
- 公益財団法人 情報通信学会
- 雑誌
- 情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.1, pp.1-12, 2019 (Released:2019-07-22)
匿名表現の自由が憲法上保障される程度に関し、米国法上の議論を参照しつつ考察すると、以下の帰結が導かれる。すなわち、①匿名性は個人の尊厳の確保に資する役割を果たすうえに、それが表現物と結びつくことにより固有の価値を有することを踏まえ、匿名表現の自由は憲法21条1項に基づき保障される、②他人の基本権に関する法益を著しく害する表現については、公共の福祉に基づき制約され、当該他人との関係において表現者を特定する必要性が生じ得る限りにおいて、その匿名性についても制約される、③公共的事項に関する表現のうち、その表現者の身元の把握が民主政の意思決定過程における各種の判断に際して必要となると認められる場合における匿名表現の自由については、国民の「知る権利」と緊張関係に立つ結果、憲法上一定の範囲で制約され得る、④前記③以外の表現に関する匿名表現の自由は、前記②の場合を除き、憲法上手厚く保障される、⑤匿名性は、非表現の行為との関係においても憲法上一定の保護を受ける、と考えられる。