著者
田中 裕
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.72-87, 2018 (Released:2019-06-30)
参考文献数
40

本稿は空間における抵抗の契機を考察することを目的とする. アンリ・ルフェーブルによって提出された不生産的消費という概念を出発点に, 空間の領有に向けた身体的実践のあり方を論じた. この概念はモノの生産や交換を目的とする生産的消費とは異なり, 断片化された空間を「生きられた経験」によって再編することを狙いとしている. また, 不生産的消費は使用価値に基づいており, 語りや聴取などの身体的行為として想定される. それゆえ不生産的消費は, 身体を媒介した対象の把握とその日常的実践として措定可能である. この行為のプロセスを明らかにするため, ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの「感性的知覚の界」を援用し考察を進めた. それにより, 私たちはその時々に応じて複数の感性的知覚を関連させることで対象を理解しているが, その対象は以前と異なる対象として立ち現れる可能性を潜在的に有していることが明確となった. ただし, このプロセスでは特定の理解を排除ないし無効化する権力的な秩序が背後で作動している. そこで, これらの感性的知覚を異なった2つの実践として捉え直し, 権力的秩序に基づく理解を受動的な「翻訳的実践」, 新たな理解の創出を能動的な「翻訳的実践」と位置づけた. ここから, 物理的空間としての場所を想像力に富む感性的知覚の1つとするならば, 翻訳的実践は空間領有の可能性を有するものとして考えられることが明らかになった.

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田中裕、2018、空間の領有に向けた身体的実践──対象の実在化と抵抗の契機としての翻訳(『社会学評論』69号) https://t.co/A27k4vs8D3

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