著者
麦倉 泰子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.57-82, 2021-05-31 (Released:2022-07-02)
参考文献数
7

遷延性意識障害者と家族についての語りは,家族の回復の物語,制度の不十分さの指摘,医療における技術の革新,といったさまざまな文脈のもとに現れる.ナラティヴを,制度を形作る社会意識のあらわれとして捉えるならば,遷延性意識障害者とその家族の生を支えるための法制度はいまだ十分とは言い難い状況にある. 遷延性意識障害の人が「何もわかっていない」と考え,彼らへの働きかけを無意味なものとみなす意識は根深い.こうした意識は,彼らの生と尊厳をも脅かす脅威となって現れる. このような脅威にあらがうのは,遷延性意識障害者と「共にある」人たちの実践と,それをめぐるナラティヴである.家族や看護師,脳神経外科医といった人たちの実践とそれにまつわる語りからは,わずかでも反応を引き出し,身体の健康を保つという連続的な実践が「植物人間」という存在そのものを変化させていることを示している.実践のなかから制度を産み出し,遷延性意識障害者の新たな生の在り様をつくりだしているとも言えるだろう.ナラティヴは,制度を形作る社会意識の「あらわれ」であると同時に,制度を形作っていく「動因」でもあるという再帰的な実践としてある.

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