著者
吉益 光一
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.130-141, 2020-07-30 (Released:2021-03-02)
参考文献数
70

注意欠如多動性障害(ADHD)は児童・思春期だけではなく,成人期においても職場での問題などから,大きな社会的関心が寄せられるようになっており,自閉症と並んで児童期から成人期に至る発達障害の双璧をなしている。病因は極めて多彩かつ複雑であり,遺伝要因,自然環境要因,心理社会的環境要因の全てが関与する先天性の,ないしは幼児期早期に基本的病像が確立される多因子疾患と捉えることができるが,要因相互間の関連性もこの疾患の臨床像の正確な把握を困難にしている。さらに最近の研究により,精神疾患,身体疾患ともに多彩な併存障害を有することが明らかになっており,特に精神科領域においては,併存障害が受診のきっかけとなることもある。さらに忘れてはならないのが,ADHDという病態像をめぐる歴史的な認識の変遷であり,多分に時代ごとの社会的関心や価値基準の影響を受ける病態像において,ADHDという単一類型(カテゴリー)に拘泥して,遺伝要因や環境化学物質を含む種々の生物学的要因を探索しても方法論的に限界があることにも留意する必要がある。本稿ではこのような点を踏まえつつ,主として遺伝要因と環境要因の関係性の視点から,ADHDの疫学と病態について論じた。

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