1 0 0 0 OA 葛藤する保守

著者
池田 裕
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.43-58, 2017 (Released:2018-06-13)
参考文献数
24

日本では、有権者のイデオロギー的立場が、社会福祉への選好や小さな政府への選好とほとんど相関しないとされている。すなわち、先行研究の結果は、保守と革新が政府支出の増加を同じ程度に支持することを示唆している。それに対して、本稿は、イデオロギーが依然として福祉支出選好の重要な規定要因であることを示す。具体的には、イデオロギーは、市場制度への信頼と福祉支出選好の関係を条件づけるという、調整変数としての役割を果たす。イデオロギーは福祉支出選好に直接影響しないが、市場制度への信頼が福祉支出選好に影響する文脈を提供するというのが、本稿の主張である。日本版総合的社会調査(JGSS)のデータを用いた分析によって、以下の知見が得られた。福祉支出に関して、日本では保守と革新のあいだに意見の隔たりが存在しない。重要なのは、保守と革新の対立ではなく、市場制度を信頼する保守と市場制度を信頼しない保守の対立である。ほかの条件が等しければ、社会保障への支持と雇用対策への支持の予測確率は、市場制度を信頼する保守のあいだで最も低く、市場制度を信頼しない保守のあいだで最も高い。社会保障と雇用対策が福祉国家の主要な活動であることを考慮すると、福祉国家の熱心な支持者が革新であるとは限らない。本稿の結果は、葛藤する保守が福祉国家の潜在的反対者であると同時に、福祉国家の潜在的支持者でもあることを示唆している。

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