著者
山北 輝裕
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.5-18, 2020 (Released:2021-05-29)
参考文献数
13

本稿は、長期野宿者に対して居宅をすみやかに提供し、居宅移行後もケアを継続する支援実践であるハウジング・ファーストを質的調査から検討する。なかでもアパートに出現する「幽霊」に悩む男性の経験をめぐって、その男性、支援者、福祉事務所、不動産屋、地域住民との間で経験の分離がどのように立ち現れ、そしてそれに人々がどのように向き合うのかという問題に着目した。そのことで、ハウジング・ファーストのフィデリティである無条件性がどのように達成されているのかが明らかになった。当事者と支援者は経験の分離から離脱せず、両者が共有する「経験の飛び地」を志向することによって、相互作用を継続させた。そのことが結果的に当事者に変容を迫らない無条件性を成立させていた。しかし経験の分離が保たれたまま「飛び地」を志向することは、両者を取り巻く社会においては容易に共有されず、否定されていた。住居提供にとどまらず、「飛び地」を拡大することに当事者たちの生活を支える社会運動としてのハウジング・ファーストの意義が存在する。

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“―野宿を経験した一人の男性とハウジング・ファーストの支援実践― ”

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