著者
浅原 正和
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.387-390, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
6

日本遺伝学会用語編集委員会が新たに遺伝学用語の和訳を策定し,2017年9月に用語集を発刊した.日本遺伝学会はこれに基づいて文科省に教科書の用語変更を求めていく方針だという.今回改訂された用語には,遺伝学以外の分野で用いられる用語も含まれる.中でも,進化学や生物多様性分野における最重要用語の一つである「variation」はこれまで「変異」と訳されてきたが,これを「(1)多様性,(2)変動」と訳すように変更し,「変異」は「mutation」の訳語として用いるように変更するという.しかし,歴史を紐解けば,variationの訳語としての「変異」は遺伝学そのものが誕生する以前から使われてきた.また,「変異」という用語は多くの派生語があり,現在も哺乳類学を含む,遺伝学以外の様々な自然史分野で広く使われている.このように広い分野で継続して使われてきた「変異」という日本語の意味する対象が突然variationからmutationに変更されてしまうと,これまで蓄積されてきた日本語文献について誤読が生じかねない.以上のように,variationの訳語変更は歴史的な正当性を欠き,学術的にも混乱を招きかねず,日本語という言語の価値を保つ上で問題がある.そのため,今後もvariationの訳語として,伝統的に用いられ,現在も広く使われている「変異」という訳語を残すことが望ましいと考えられる.

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[ことば][突然変異][はたらく無能は社会悪][日本遺伝学会][気持ちわるい]

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哺乳類科学の浅原先生の記事を読んで思ったのは、同一の約後を複数の英単語に当てはめる重複問題については、新しい訳語を作るのが本質的な解決法だけど、それは結構骨が折れる作業なんだよね。潜性、顕性はいい訳語だと思った。 https://t.co/wKT2MQyivv
引用ツイで教えてもらった文献https://t.co/nVuNFHp2EFに"dominant の訳語が優性→顕性,recessive が劣性→潜性,mutation が突然変異→変異,variation が変異→(1) 多様性,(2)変動,diversity が多様性→(1)多様性,(2) 分岐"とあって、驚いている
恥ずかしながらわかってなかったのだけれど、これか… https://t.co/YdG6XnvomN > 現状でmutation(突然変異)を変異と略して呼ぶことが行われているわけなので,variation(変異)との取り違えは現状で大きな問題になっていないのではないかと思われる 大きくはないのかもだが初学者は混乱するわ… https://t.co/BpcwP2pF9I
メモメモ。/「variation」はこれまで「変異」と訳されてきたが,これを「(1)多様性,(2)変動」と訳すように変更し,「変異」は「mutation」の訳語として用いるように変更する https://t.co/WtoZx1hDJH
@hitonarunishie Ciniiで「進化」や「個体」でandで絞って「多様体」を検索すると、使っている人はおらず、全然普及していなさそうですね。 用語の問題点については、日本哺乳類学会の人がまとめているpdfを見つけました。 日本語訳難しい… https://t.co/70kUUzrGKb
[欹耳袋]浅原正和 2017. 「Variation」の訳語として「変異」が使えなくなるかもしれない問題について:日本遺伝学会の新用語集における問題点.哺乳類科学, 57巻(2): 387-390. https://t.co/S9O2ZjDZWa [abstract] https://t.co/LdnEnu6Qou [pdf: open access]
[欹耳袋]浅原正和 2017. 「Variation」の訳語として「変異」が使えなくなるかもしれない問題について:日本遺伝学会の新用語集における問題点.哺乳類科学, 57巻(2): 387-390. https://t.co/S9O2ZjDZWa [abstract] https://t.co/LdnEnu6Qou [pdf: open access]
日本遺伝学会の提案する用語改訂(2017年発刊『遺伝単』)のうち、「variation」の訳語として「変異」を排除することで問題が生じることを論じた意見文がオンラインで公開されました。訳語の利用に際して参考にしていただければ幸いです 記事(右上にPDFリンク) https://t.co/7UfutTgTIe

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