著者
川地 亜弥子
出版者
日本教育方法学会
雑誌
教育方法学研究 (ISSN:03859746)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-12, 2005-03-31 (Released:2017-04-22)

本稿では,1930年代の生活綴方の教育評価論について,形成過程を明らかにすると同時に,作品批評の実際として集団的合評作業に注目し,その構造を明らかにする。綴方教師は子どもの生活把握を契機として,学校における既存の価値基準を問い直した。その上で,作品批評に関する議論において,子どもの認識と表現のリアリズムとともに,全人的な評価の重要性が自覚された。同時に,子どもの内面に手をのばし,子どもたちが文化を生み出すための技術として,基礎的な表現技術の獲得が目指された。このような作品批評の規準の転換が行われる中で,教科の体系からではなく,民衆の生活と子どもの発達要求からの綴方指導の体系の構築,すなわち「生活学」とそれに基づく「教育学」の構築が目指された。また,その体系は教師の「教養」によって鍛え直されるべきとされた。集団的合評作業の分析からは,以下のことが明らかになった。綴方教師たちは,子どもたちの自由な表現を大切にし,教師も協働者として位置づけた。また,集団的合評作業を通じて生活の改善と文化の創造が目指された。その中で,直接的に生活に役立つ行動のみでなく,悩みや問題を共有し,相手の立場で考える過程も「協働」と捉えるような,新たな作品批評規準が誕生していた。生活綴方における教育評価論は,子どもたちの議論を通じて文化を生み出させていく作品批評の中で構築されたのである。

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手塚治虫の伝記で、高等師範付属小学校の時に蟻の気持ちになって作文を書いたら嘘を書くなと大人に怒られたという話があった。あれは当時の作文教育(生徒の生活を正直に書かせ、道徳教育へも持っていく生活綴方というメソッドというか派閥)の証言やったんかもな。 https://t.co/ruA4KmBeTf

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