- 著者
-
武田 健
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.72, no.1, pp.1_179-1_201, 2021 (Released:2022-06-15)
- 参考文献数
- 21
EUの内部において、一種の同調圧力がかけられる時がある。その圧力は、EU全体の目標に対して積極的に取り組もうとする国々から消極的な国々に対してかけられ、その圧力の結果、消極姿勢を改めて、EU全体の目標にコミットするように行動を変化させる国々が出てくることもある。同調圧力とは実際にどのようにかけられることがあるのか。そして、どのような状況であればその圧力は効果を発揮しやすいのか。本論は、これらの問いに取り組み、EU内部で作用する同調圧力の理解の向上を目指した。 本論が同調圧力の基底にある心理過程を理解し、その圧力が効果を持つ諸条件を推測する上で依拠したのは、認知・社会心理学の分野で発達してきた社会的アイデンティティ・アプローチである。経験的な観察対象としたのは、リスボン条約の策定に至る過程である。本論は、この交渉で実際にかけられた同調圧力の動態を、各国およびEUの公式文書や筆者によるインタビュー調査などに依拠しながら描き出し、その上で、EUに集う政治指導者のなかに、「私たちは一緒」 であるとの感覚が共有された者たちがおり、その者たちの間で、同調圧力が効果を発揮することがあるとの主張を提示する。