- 著者
-
佐藤 正之
- 出版者
- 日本神経心理学会
- 雑誌
- 神経心理学 (ISSN:09111085)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.2, pp.106-116, 2021-06-25 (Released:2021-07-17)
- 参考文献数
- 19
失音楽症の自験2例に対し音楽能力の検査を行い,音楽認知の脳内機構について考察した.症例1は70歳代の女性.両側側頭葉前部の梗塞により,和音弁別の障害と童謡の歌唱の際の旋律の入れ替わり(錯メロディ,paramelodia)を呈した.楽曲の和声分析の結果から,歌唱の際にヒトは先行する4小節もしくは1フレーズの和声進行をもとに,続くメロディを記憶から想起していることが示唆された.症例2は60歳代,男性.両側側頭葉の梗塞の結果,広義の聴覚性失認と表出性失音楽を生じた.音楽の受容系と表出系との離断(伝導性失音楽,conduction amusia)のために歌唱の調節が出来なくなったと思われた.過去の失音楽症例のレビューでは,音楽認知の責任病巣として右側頭葉の皮質・皮質下があげられている.今後は,脳賦活化実験の結果との照合・統合をさらに進めていく必要がある.