- 著者
-
伊藤 純
- 出版者
- 大阪歴史博物館
- 雑誌
- 大阪歴史博物館研究紀要 (ISSN:13478443)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.0069-0081, 2017 (Released:2022-10-30)
光格天皇は、天明六年(一七八六)に隠岐国駅鈴を実見した。駅鈴は古代律令制下で、天皇が日本各地を支配するためのモノであった。駅鈴の存在を知った光格天皇は、日本国の歴史が古代から連綿と続いているのを認識した。天明八年(一七八八)に御所が焼失した。三年後、御所は古代王朝風の姿に再建され、寛政二年(一七九〇)一一月二二日に新御所への遷幸が行われた。朝廷の存在と権威を市中に知らしめるため、遷幸行列は古代王朝風の姿で行われた。この行列に隠岐国駅鈴が加わった。今日、光格天皇は復古的と評され、討幕、明治維新へという流れの出発点となったとされる。光格天皇が幕末史で画期となったのは、歴史の必然、時代の要請というような言葉で説明できるものではない。光格天皇の世界観、歴史観、国家観に決定的な影響を与えたのは、古代と光格天皇の時代を結びつけた隠岐国の駅鈴だったのである。