- 著者
-
君島 彩子
- 出版者
- 「宗教と社会」学会
- 雑誌
- 宗教と社会 (ISSN:13424726)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, pp.97-111, 2018-06-09 (Released:2020-06-30)
- 参考文献数
- 30
本稿は、長崎市の平和公園に設置された彫像に対する「祈り」について考察するものである。よく知られた《平和祈念像》は、長崎市の重要な観光資源となっている。しかし巨大で異質な造形の彫像は、地域住民から批判的に論じられることが多かった。作者である北村西望は、特定宗教によらない祈りの対象を目指したが、原爆犠牲者のために祈る対象として《平和祈念像》では不十分であった。《平和祈念像》が納骨機能を持たずに完成したため、行政も関わる形で納骨堂が作られ、本尊として《聖観世音》が設置された。《聖観世音》は遺骨との関係もあり、原爆犠牲者の慰霊を祈る対象となった。長く死者の供養を担ってきた仏教によって裏付けされた《聖観世音》は、見慣れた造形であることで、信仰的な意味を理解することが容易である。つまり公共空間である平和公園の「祈り」においても、観音像のような既存の信仰体系の形象が重要であった。