著者
谷口 義則 中野 繁
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.79-94, 2000-02-25 (Released:2009-06-12)
参考文献数
75
被引用文献数
1 3

地球温暖化に伴う水温の上昇が,淡水魚類に及ぼす影響に関する研究は,主に1990年代に入ってから盛んに行われてきている。これらの研究の多くは,対象魚種の水温に対する生理反応データに基づく分布変化予測と生物エネルギーモデルを用いた個体群動態の予測に大別される。しかし,実際には,温暖化が淡水魚類に及ぼす影響は,温度上昇そのものだけでなく,他の局所的環境撹乱因子との複合効果などを通じてもたらされると考えられる。さらに,多くの場合,従来の温暖化の影響予測では,個体群の遺伝構造の変化,生活史の可塑的変化および捕食者一被食者関係や競争などといった生物問相互作用の変化を介した影響に関する議論が欠落している。そのため,温暖化に対する淡水魚類群集の反応に関して十分に適正な予測が未だ得られているとは言い難い。また,温暖化によってもたらされると予測される淡水魚類の絶滅や分布変化は,食物網や物質循環の動態など生態系の諸特性に波及的な効果を及ぼすものと考えられるが,このような視点からの研究も未だ行われていない。今後は,長期間の観測データの蓄積や大規模操作実験によって温暖化の影響をメカニスティックに解明することに主眼を置くこと,さらに多分野の研究者が相補的に共同しうる研究体制を構築することなどが必要と考えられる。

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