著者
金子 龍司
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.125, no.12, pp.25-46, 2016 (Released:2018-01-28)

本稿は、太平洋戦争末期の娯楽政策について考察する。具体的にはサイパンが陥落した一九四四年七月に発足した小磯国昭内閣期以降終戦までの政策に注目する。 小磯内閣期の思想・文化統制については、先行研究により、東條内閣期の言論弾圧が見直されて言論暢達政策が採用され、思想・言論統制の緩和によって戦意昂揚を目指したことが指摘されている。娯楽統制についてもこの枠組みで語られ、従来強化一方だった統制がサイパン陥落・同内閣の成立を契機として一転して緩和されたと整理され、その画期性が指摘されている。 しかし、この統制緩和は小磯内閣が娯楽に対して講じた措置のひとつに過ぎないし、画期といっても、この統制緩和に限らなければ、娯楽への積極的な措置は小磯内閣発足以前からすでに講じられていた。つまり先行研究は、統制緩和の画期性を重視するあまり、小磯内閣の娯楽政策の全容を明らかにしておらず、しかも従前の政策との連続性も見過ごしているきらいがある。 したがって本稿は、小磯内閣期の娯楽政策をできるだけ詳しく分析することで右の二点を明らかにし、同政策を歴史的に位置づける試みを行う。具体的には、当事者たちの問題認識や政策決定過程や政策の実効性を検討材料とする。 本稿が明らかにするのは以下の事柄である。第一に、娯楽統制史上、小磯内閣期の統制緩和は個別の措置としてはたしかに画期的であったが、娯楽に対する積極的な姿勢や問題認識に関してはむしろ前内閣との連続性が目立っていたこと。第二に、政策の実効性といった観点からは、個別具体的な措置については一定の成果が見られ、戦争末期にあっても興行の機会は確保され盛況も珍しくなかったこと。第三に、それにもかかわらず、政策全体の評価としては、絶望化する戦況下で観客や興行者たちが娯楽を供給・享受して戦意昂揚に結びつけるだけの精神的余裕を失っていたため、失敗に終わったと結論せざるを得ないことである。

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金子龍司(2016)「太平洋戦争末期の娯楽政策:興行取締りの緩和を中心に」 https://t.co/O155q6VJkJ
戦前の映画産業は ・国策映画はクソ映画なので売れない ・娯楽映画のほうが営業成績が良い ・国策映画でも、娯楽性が高ければ人気のやつがあった という状況があり、やがて本土決戦に向けての娯楽統制解除になると。検閲は官僚が熱心で、政府が穏健で妥協的という。 https://t.co/pWHTsIBjZU
J-STAGE Articles - 太平洋戦争末期の娯楽政策 https://t.co/p87qGDy4FT 寝付けなかったので、読んでみたが面白かった。これ読む限り東条内閣は小磯内閣より下手くそやったんやね、と思う。
本土決戦を控えた1944年頃から、娯楽統制が解除されていったという話。理由が「国民に娯楽を供給して戦意昂揚に結びつける」だったそうな。 J-STAGE Articles - 太平洋戦争末期の娯楽政策 https://t.co/aufUSfdBwr
J-STAGE Articles - 太平洋戦争末期の娯楽政策 https://t.co/xUfhiOwamm 小磯内閣期の娯楽政策の分析。娯楽に関しては締め付ける一方ではなかったことがわかり興味深い。
太平洋戦争末期の娯楽政策 https://t.co/dNWJNzRj8b

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