- 著者
-
木村 聡
- 出版者
- 公益財団法人 史学会
- 雑誌
- 史学雑誌 (ISSN:00182478)
- 巻号頁・発行日
- vol.128, no.8, pp.33-58, 2019 (Released:2021-09-02)
従来、ワシントン軍縮会議後の問題は、その後の海軍における統帥権独立の問題や海軍軍令部の独立問題、大臣人事の問題に注目が集まり、条約に対する具体的な対応策については十分に議論がなされなかった。本研究はその後の海軍の在り方に影響を与えたとして、連合艦隊の常置化とその役割の変遷を取り扱う。
海軍という組織は、軍政を掌る海軍省と軍令を掌る軍令部の二元組織と解釈されるが、正確には、軍政権と統帥権の並立の下に、最高機関として海軍大臣、艦隊・鎮守府の司令長官、海軍軍令部長(軍令部総長)が存在するという構造である。そして、艦隊司令長官や鎮守府司令長官の役割は指揮統率であった。
それが、ワシントン条約への対応策として精兵主義の方策がとられた。連合艦隊はその中で常置化された。これにより、海軍の主兵力が連合艦隊に一本化され、さらに連合艦隊司令長官の平時における権限や役割が明確に規定された。こうして連合艦隊は、非常時に指揮権を統一するための組織から、平時から海軍の指揮統率と実戦部隊の軍政を、その施行のみならず計画までも担う恒常的な組織へと変化した。
戦争の危機が認識されると連合艦隊の規模は急激に拡大した。そこで連合艦隊司令部とその麾下の各艦隊の司令部とが分離し、司令部は後方での全体の作戦指導と戦線の統合を担うようになる。軍令部と機能を同じくした連合艦隊司令部は、海軍中央で問題視される一方で、麾下の艦隊指揮官との間にも精神的に距離が生じるようになった。この結果、海軍の戦争指導は、後方での戦争指導を行う大本営海軍部、後方にあって作戦を練り、その指揮を執る連合艦隊司令部、そしてその戦場で戦う各艦隊や部隊の三者からなる遠心的な三重構造となった。
連合艦隊はワシントン条約後の常置化以来、その性質を全く異なるものに変化させ、それは海軍全体の組織の在り方にも影響を与えた。