著者
末永 絵里子
出版者
宗教哲学会
雑誌
宗教哲学研究 (ISSN:02897105)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.84-97, 2012 (Released:2019-09-18)

本研究の目的は、ポール・リクールの論文「希望による自由」(1969)で提示された、「根元悪」をめぐる解釈の独自性を示すことにある。われわれはまず、リクールが採用する方法的態度としての「哲学者のアプローチ」という観点から、論文全体の構成を示し、次に、この論文に固有の問題系を、根元悪という問題を軸として明らかにする。 根元悪をめぐるリクール的解釈の独自性は、通常、『実践理性批判』の分析論との関係で理解される根元悪という概念を、『純粋理性批判』および『実践理性批判』の弁証論との関係で理解する点にある。それによって、最高善の実現を要求する実践的主体が不可避的に陥る倒錯を、人間の理性が不可避的に陥る超越論的仮象の一環として、いわば、カント的批判の遂行動機に立ち返って理解しようとする点にある。この根深い仮象にまつわるさらなる倒錯を、リクールは、根元悪と呼ぶのである。リクール的意味における根元悪という問題の問題性は、まさにこの、倒錯的仮象としての悪という点に存しているのである。 しかし他方で、根元悪をめぐるリクール的解釈の第一の意義は、あくまで従来の解釈との接点を保持しつつ、カントの根元悪概念がもつ本来の奥行きに光を当てようとした点にある。リクール的解釈の第二の意義は、二つの弁証論との関係で理解される根元悪を、国家や教会によって組織的に引き起こされる倒錯として規定することによって、たとえば、同じく現代フランスの哲学者、エマニュエル・レヴィナスが暴力という術語で言い表そうとした事態を、西洋哲学史上の、より緻密な問題系の内に置く可能性を与えた点にある。われわれは、この第二の点が、レヴィナスとの思想的対話において、重要な示唆を与えることになるという見通しを立てている。

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メモ:希望を知ることによる自由 ポール・リクールによる「根元悪」概念の掘り下げ、末永 絵里子https://t.co/pZ7ZLVWe8N

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