- 著者
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河村 賢
- 出版者
- 日本社会学理論学会
- 雑誌
- 現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, pp.80-93, 2013 (Released:2020-03-09)
「ルールに従うこと」は社会的現実の基礎をなす原初的行為として、多くの社会学者たちの関心を捉えてきた。そこで焦点となったのは、ルールに従うことはルールによって因果的に引き起こされた行動として記述できるのかという論点であった。本稿はルールに従うことの因果的描像を最も一貫した形で提示した哲学者であるジョン・サールの社会哲学を批判的に検討することによって、この古典的な議論に決定的な結論を与えることを試みる。サールは、現実に存在する様々なルールを区分するための理念型として、統制的規則/構成的規則の二分法を導入した上で、構成的規則の持つ「新たな行為可能性を作り出す」という性質こそが、社会制度に関わる諸事実の基盤であるとした。この統制的規則/構成的規則という区分は、1950年代にロールズが「二つのルール概念」論文で展開したルールの要約的見方/実践的見方という区分を着想の源としている。だが、サールとロールズの間には、ルールとそれによって描かれる行為の関係を因果関係として捉えるか、ルールを人々が用いて様々な活動を営むという実践的関係として捉えるかという差異が存在する。そして本稿はサールのような外在的・因果的記述の立場ではなく、ロールズのような内在的・実践的記述の立場を取ることによって、社会的現実が編成される場面を、その場面に外的な装置を持ち込まずに分析することが可能になると論ずる。