- 著者
-
松浦 雄介
- 出版者
- 西日本社会学会
- 雑誌
- 西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, pp.21-32, 2019 (Released:2020-03-27)
- 参考文献数
- 26
近年、文化遺産が観光やまちづくりなどの目的に活用されることが多い。この傾向は、社会学および関連領域で「文化の資源化」として論じられてきた。文化遺産を資源として活用するとき、1つのジレンマが発生しうる。一方で、文化遺産を活用して観光やまちづくりを推進することは、文化の道具化・商品化につながりかねない。他方で、文化の自律性という大義のもとに文化遺産の積極的活用を否定することは、「文化遺産は誰のものか?」という批判を招くことになりかねない。本稿の目的は、このジレンマについて考察することである。最初に文化と経済の関係の構造的変化を概観し、次に文化の資源化がもっとも劇的に起こった事例としてイギリスおよび日本の産炭地を取り上げる。さらにイギリスにおける「遺産論争」やL・スミスなどの議論を検討し、文化遺産の保存と活用について新たな捉え方を提示する。最後に文化遺産の活用に商品化とコモン化の2つの面があることを明らかにし、文化遺産を活用した観光まちづくりが、これら2つの効果を及ぼしうることを論じる。