- 著者
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堀口 兵剛
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.S19-2, 2016 (Released:2016-08-08)
20世紀後半の我が国には鉱山や製錬所に由来するカドミウム(Cd)汚染地域が各地に存在し、地元産米摂取などによりCd経口曝露を受けて腎尿細管機能障害(カドミウム腎症)を発症した人が住民健康調査などによって多数見つかった。最も高度のCd汚染地域はカドミウム腎症のみならずイタイイタイ病も多発した富山県神通川流域であったが、石川県梯川流域や長崎県対馬などのCd汚染地域においても住民健康調査などによって多数のカドミウム腎症患者の存在が明らかにされてきた。 ところで、環境省の農用地土壌汚染防止法の施行状況によれば、秋田県には基準値を越えるCd濃度の米が生産された農用地土壌汚染対策地域が全県にわたって散在しており、その指定面積と件数はともに全国第一位である。それは、かつて県内に125カ所も存在した非鉄金属鉱山に由来すると考えられる。しかし、1960年代に県北地域の一部で実施された疫学研究以外には住民健康調査の報告は20世紀中にはほとんどなく、住民におけるCdの健康影響の実態は長らく不明であった。すなわち、秋田県は「忘れられたカドミウム汚染地」であったと言える。 21世紀に入ってようやく県北のCd汚染地域において広範囲に住民健康調査が実施されたところ、自家産米を摂取してきた農家は県内対照地域と比較して年齢依存性の高度の血中・尿中Cdレベルを示し、特に70歳以上の女性では腎尿細管機能への影響が現れており、カドミウム腎症と考えられる人も見つかってきた。従って、県中・県南の未調査のCd汚染地域においても同様の状態であることが推測される。 これらの結果は、Cdの非常に長い生物学的半減期と国民の長寿化のために、富山県や秋田県などのCd汚染地域では高齢者の中から将来にわたってカドミウム腎症やイタイイタイ病が発生する危険性があること、そして今後も継続的な住民健康調査と保健対策が必要であることを示している。