- 著者
-
黒田 悦史
石井 健
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.EL2, 2017 (Released:2018-03-29)
アジュバントはワクチンに添加されている免疫増強剤であり、ワクチンの種類によってはなくてはならないものです。現在日本で認可されている主なアジュバントはアルミニウム塩(アラム)であり、安全性が高いアジュバントとして多くのワクチンに添加されています。しかしながら、アラムがどのような作用機序で免疫系を活性化するのかについては不明な点が多く残されています。またアラムのみならず、多くの粒子状物質(尿酸塩結晶やシリカなど)もアジュバントとして働くことが知られていますが、その作用機序も詳細には明らかにされておりません。さらに最近話題になっているPM2.5などの大気中の微細粒子もアジュバント作用を介してアレルギー性炎症などを誘導していると考えられています。 近年の免疫学の発展により、T細胞やB細胞を主体とする獲得免疫の誘導には、マクロファージや樹状細胞を主体とする自然免疫の活性化が必須であることが明らかにされています。そのためアラムを含めた粒子状物質の多くが何らかの形で自然免疫を活性化すると考えられています。最近になり、アジュバント活性を有する粒子状物質の多くが免疫細胞の細胞死を誘導し、そこから遊離される死細胞由来因子(内因性デンジャーシグナル)が自然免疫の活性化に重要であることが報告されてきています。 このように、ある種のアジュバントはそれ自身がアジュバントとして機能するのではなく、細胞死を介して内因性のアジュバント(内因性デンジャーシグナル)を誘導する「アジュバント誘導物質」として働くと考えられます。このような観点から毒性研究は医薬品の副作用の研究だけでなく、新規アジュバントの探索/開発という点においても重要であると言えます。本教育講演では、アジュバントによる細胞死やデンジャーシグナルを介した免疫活性化のメカニズムについて私たちの研究成果を含めながら紹介したいと思います。