- 著者
-
大隅 典子
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.S16-2, 2021 (Released:2021-08-12)
近年、疾病の原因が胎児期にまで遡ることができるというDOHaD(Developmental Origin of Health and Disease)説が着目を浴びている。DOHaDでは古典的には母体の栄養摂取や薬物暴露等、胎仔にとっての子宮環境に主眼が置かれてきたが、近年の疫学研究により、父親側の因子も次世代に影響することが指摘されつつある(Paternal Origin of Health and Disease, POHaD)。例えば、高齢の父から生まれた子どもにおいて、低体重出生児や、神経発達障害の増加が繰り返し報告されている。米国では、神経発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)のリスク因子を特定するための試みとして縦断調査(EARLI study)が行われ(http://www.earlistudy.org/)、この調査成果により、父親の精子DNAメチル化の変化と子どものASD的な兆候が確かに相関することや、そのうちの複数のDNAメチル化変化がASD患者の剖検脳においても共通していることが明らかにされた。このような背景にもとづき、我々は、加齢雄マウスを用いて父親の加齢が子どもの神経発達障害のリスクとなる分子機構について研究し、継精子エピゲノム変異に着目している。このような父親の加齢だけでなく、内分泌かく乱物質等、様々な要因によって変化し得る雄性生殖細胞エピゲノムが子どもの疾患リスクとなることが明らかとなりつつある。これは精子を介するエピゲノムの経世代影響の結果として、子孫が多様な表現型を持ち得るということも示唆している。エピゲノム変異の経世代影響という観点はこの問題に対する新たな切り口となるかもしれない。