著者
川上 和人 江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.7-23, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
158
被引用文献数
1

鳥類の起源を巡る論争は,シソチョウArchaeopteryxの発見以来長期にわたって続けられてきている.鳥類は現生動物ではワニ目に最も近縁であることは古くから認められてきていたが,その直接の祖先としては翼竜類やワニ目,槽歯類,鳥盤類恐竜,獣脚類恐竜など様々な分類群が提案されてきている.獣脚類恐竜は叉骨,掌骨や肩,後肢の骨学的特徴,気嚢など鳥と多くの特徴を共有しており,鳥類に最も近縁と考えられてきている.最近では羽毛恐竜の発見や化石に含まれるアミノ酸配列の分子生物学的な系統解析の結果,発生学的に証明された指骨の相同性,などの証拠もそろい,鳥類の起源は獣脚類のコエルロサウルス類のマニラプトル類に起源を持つと考えることについて一定の合意に至っている.一般に恐竜は白亜紀末に絶滅したと言われてきているが,鳥類は系統学的には恐竜の一部であり,古生物学の世界では恐竜は絶滅していないという考え方が主流となってきている.このため最近では,鳥類は鳥類型恐竜,鳥類以外の従来の恐竜は非鳥類型恐竜と呼ばれる. 羽毛恐竜の発見は,最近の古生物学の中でも特に注目されている話題の一つである.マニラプトル類を含むコエルロサウルス類では,正羽を持つ無飛翔性羽毛恐竜が多数発見されており,鳥類との系統関係を補強する証拠の一つとなっている.また,フィラメント状の原羽毛は鳥類の直接の祖先とは異なる系統の鳥盤類恐竜からも見つかっており,最近では多くの恐竜が羽毛を持っていた可能性が指摘されている.また,オルニトミモサウルス類のオルニトミムスOrnithomimus edmontonicusは無飛翔性だが翼を持っていたことが示されている.二足歩行,気嚢,叉骨,羽毛,翼などは飛行と強い関係のある現生鳥類の特徴だが,これらは祖先的な無飛翔性の恐竜が飛翔と無関係に獲得していた前適応的な形質であると言える.これに対して,竜骨突起が発達した胸骨や尾端骨で形成された尾,歯のない嘴などは,鳥類が飛翔性とともに獲得してきた特徴である. 鳥類と恐竜の関係が明らかになることで,現生鳥類の研究から得られた成果が恐竜研究に活用され,また恐竜研究による成果が現生鳥類の理解に貢献してきた.今後,鳥類学と恐竜学が協働することにより,両者の研究がさらに発展することが期待される.
著者
小澤 正直
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.157-165, 2004-03-05
参考文献数
38
被引用文献数
1

古典力学は,過去の状態を完全に知れば,それ以後の物理量の値を完全に知りうるという決定論的世界観を導いたが,量子力学は,測定行為自体が対象を乱してしまい,対象の状態を完全に知ることはできないことを示した.ハイゼンベルクは,不確定性原理により,このことを端的にかつ数量的に示すことに成功したといわれてきたが,測定がどのように対象を乱すのかという点について,これまでの関係式は十分に一般的ではなかった.最近の研究により,この難点を解消した新しい関係式が発見され,これまで個別に得られてきた量子測定の精度や量子情報処理の効率の量子限界を統一的に導く第一原理の役割を果たすことが明らかになってきた.
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.177-188, 2009-06-10

本研究では,サンタクロースのリアリティに対する幼児の認識を調べた。研究1と2では,私たちは"昼間に保育園のクリスマス会で出会う大人が扮装したサンタ"(直接的経験)と"夜中に子どもの寝室にプレゼントを届けてくれるサンタ"(間接的経験)について子どもにインタビューした。その結果,4歳児は大人が扮装したサンタを"本物"と判断する傾向があるのに対し,6歳児は"偽物"と判断する傾向があることが示された。他方,6歳児は夜中にプレゼントを届けてくれるサンタを"本物"と判断していることが示唆された。研究3では,研究1と2の2種類のサンタに加えて,"デパートで出会うサンタ","昼に子どもの家を訪問するサンタ","夜に空を飛んでいるサンタ","夜にサンタ国に子どもを招待するサンタ"について,本物か偽物かの判断を求め,その根拠も求めた。その結果,5歳児は外見の類似をもとにサンタを「本物」と判断する傾向があるのに対し,6歳児は伝承されているサンタクロース物語と登場文脈との一致をもとに,"寝室","空の上","サンタの国"サンタを「本物」,"デパート","保育園","玄関"サンタを「偽物」と判断する傾向があった.以上の結果は,サンタクロースのリアリティ判断の発達における直接的経験と登場文脈の影響という点で議論された。
著者
久恒 靖人 松下 恒久 野田 顕義 天神 和美 佐治 攻 榎本 武治 民上 真也 福永 哲 大坪 毅人
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.875-878, 2015-11-30 (Released:2016-03-02)
参考文献数
8

性的嗜好により経肛門的異物挿入で直腸穿孔となった症例を経験した。症例1,64歳男性。以前よりホースを肛門に挿入する自慰行為を行っていた。受傷当日も,ホースを使用した自慰行為を施行していたが,行為後より腹痛を認め,経過観察するも症状悪化したため近医へ救急搬送された。近医で処置困難と診断され当院へ紹介となった。精査にて直腸穿孔を認め,ホースによる直腸穿孔と診断し,緊急開腹術を施行した。症例2,75歳男性。友人に肛門へソーセージを挿入された。その後,ソーセージの排泄は認めず,腹痛増悪したため近医を受診された。イレウスと診断され,当院紹介受診。精査にてソーセージによる直腸穿孔と診断し,緊急開腹術を施行した。性的行為による経肛門的直腸異物挿入での直腸穿孔はまれであるため若干の文献的考察を加え報告する。
著者
山根 章生 武信 誠一 井上 大輔 吉田 誠一 小崎 昌義 藤本 洋介 伊与田 健敏 崔 龍雲 久保田 譲 渡辺 一弘
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.65-66, 2003

汎用超音波トランスデューサは, その周波数特性より中心周波数40kHzより±5kHzで約20dBの減衰が生じる。これらの送受信器特性を考慮し, スペクトル拡散音波の信号伝搬特性を実験より求め, 拡散要素である設定について検討を行う。
著者
平田 圭 増田 利隆 松本 義信 長尾 光城 長尾 憲樹 松枝 秀二 守田 哲朗
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.341-345, 2000

運動を行う時間帯の違いが脂肪燃焼に与える影響について明らかにすることを目的として検討を行った.1.静脈血および指頭血の血中遊離脂肪酸(FFA)濃度の関係について被験者は, 健康な一般成人女性20名(平均年齢21.7±0.9歳)とした.早朝空腹時, 座位安静状態において静脈血, 指頭血の順に採血を行い, 血中FFA濃度を測定した.全被験者の静脈血FFAおよび指頭血FFAの間に有意な正の相関(r=0.813,p<0.001)が認められ, 血中FFA濃度の定量が指頭から採取した血液で可能であることが明らかとなった.2.空腹時および朝食・昼食摂取2時間後の運動中の呼吸商(RQ)および血液性状の変化被験者は, 健康な一般成人女性5名とした.運動は自転車エルゴメータを用い, 60%VO_<2max>の運動強度で30分間行った.運動実施時刻は, 空腹時9 : 00a.m.(空腹時運動群), 朝食摂取2時間後(朝食後運動群), および昼食摂取2時間後(昼食後運動群)の3回とした.運動中の酸素摂取量(V0_2), 呼吸商(RQ)を測定した.採血は安静時(0分), 運動開始20分後, 25分後, 30分後の計4回行い, 血糖値, 乳酸値, 血中FFA濃度を測定した.空腹時運動群のRQは運動開始20分値, 25分値がそれぞれo.83±0.13,0.84±0.12であり3詳聞で最も低値を示した.しかし, 運動開始30分後では昼食後運動群が空腹時運動群と同じ値となった.空腹時運動群の血中FFA濃度は運動中に増加傾向を示した.昼食後運動群の血中FFA濃度は安静時(0分)において朝食後運動群より低値であったが, 運動開始後増加し, 30分後には朝食後運動群より高値となった.以上の結果から, 空腹時, 朝食摂取2時間後, 昼食摂取2時間後の3条件において30分間運動を実施する場合, 昼食摂取2時間後における運動開始30分後に空腹時と同様に脂肪燃焼が亢進することが明らかとなった.
著者
酒井 善則 鶴原 稔也
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.239-243, 2012-01-01 (Released:2012-01-01)
参考文献数
11

学会への論文投稿は研究者等の重要なミッションであるが,最近二重投稿問題や剽窃問題等の増大が懸念されている.特に,最近のICTやインターネットの発展によりこれらの問題が顕著になっており,学会としての対応も求められている.剽窃問題等が明らかになった場合,研究者個人だけでなくその所属する大学や企業等の組織に与える影響も大きく,更には科学技術全体に対する社会的評価をおとしめることとなる.本稿ではこれらの問題の現状の一部を紹介し,背景について解説するとともに,倫理に関する啓発活動が重要なことを述べる.
著者
水越 美奈 下重 貞一
出版者
日本身体障害者補助犬学会
雑誌
日本補助犬科学研究 (ISSN:18818978)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.60-63, 2007-07-01 (Released:2007-10-12)
参考文献数
6

盲導犬は酷使されるので寿命が短い、という話を聞くことがあるが、この話は科学的な根拠はない。今回、日本に9つある盲導犬育成施設のうち8つの施設より、盲導犬として実働していた犬の447例の死亡年齢を調査する機会を得ることができた。その結果、これらの平均寿命は12歳11カ月であり、死亡年齢が15歳を超える割合は28%だった。そのうちラブラドールレトリバーの平均は13歳3カ月、ゴールデンレトリバーでは11歳5カ月であった。死亡年代別の平均死亡年齢は、80年代で11歳、90年代で12歳3カ月、2000年代では13歳7カ月であり、いずれも家庭犬の平均寿命についての調査に比較して高いことが明らかになった。
著者
砂川 芽吹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.87-97, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム障害(ASD)の女性は,知られている有病率の少なさと,ASDの症状が分かりにくいことから,これまで焦点が当たってこず,見過ごされている可能性がある。本研究では,①ASDの女性を見えにくくする要因は何か,及び,②ASDの女性は診断に至る過程のなかでどのように生きてきたのか,という2つの問いを明らかにするために,大人になって初めてASDの診断を受けた成人女性12名を対象としたインタビューを行い,GTAによって質的に分析した。その結果,【「大人しさ」のベール】,【就労状況のベール】,【家庭のベール】,【精神症状のベール】という,周囲からASDの女性を見えにくくする4つの社会環境的な要因が見いだされた。さらに,これらのベールの下で,ASDの女性が適応の【努力と失敗の繰り返し】から【社会適応のスキルを学習】することもまた,周囲がASDの女性を認識し難くなる要因となっていることが示唆された。一方で,ASDの女性は,診断に至る過程であらゆる失敗経験を〈自分に原因帰属〉しているために,【自尊心の低下】が起きていた。そのため,ASDの女性は表面的な社会スキルによってASDであることが周囲から見えにくくなっているが,自尊心が低く,支援が必要な状態だと考えられた。本研究を通して,ASDの女性が障害を持つことを見えにくくする要因と適応過程を見いだし,ASDの女性におけるアセスメントや支援についての示唆を得た。
出版者
内務省地理局
巻号頁・発行日
vol.巻之40 荏原郡之2,巻之41 荏原郡之3,巻之42 荏原郡之4,巻之43 荏原郡之5,巻之44 荏原郡之6,巻之45 荏原郡之, 1884

64 0 0 0 OA 金魚養玩草

著者
安達喜之 著
出版者
丹波屋理兵衞 [ほか2名]
巻号頁・発行日
1748

金魚飼育書の初出版だが、著者・増補者は堺の人としかわからない。本文は金魚の渡来から始まり、尾形など形状の説明、飼育・繁殖の方法、病気と治療など、基礎的なことを記し、当時輸入されて間もないランチュウについても触れる。本資料は初版本だが、流布しているのは後刷の無刊記本と弘化3年(1846)本で、当館も計7点所蔵する。そのうち、『金魚そだて草』(199-150)には、『[後編]金魚秘訣録』(折本)が貼り込まれている。この『秘訣録』は稀本だが、内容は前編の追補にすぎない。『金魚養玩草』は、金魚の初渡来を元亀2年(1571)とするが、それを裏付ける同時代資料は無く、実際には元和2年(1616)頃に初めて中国から持ち込まれたらしい。(磯野直秀)
著者
西村 貴裕
出版者
人間環境大学
雑誌
人間環境論集 (ISSN:13473395)
巻号頁・発行日
no.5, pp.55-69, 2006

1933年の政権獲得後、ナチス・ドイツは次々と動物保護、自然保護に関する立法を実現していった。本稿はそれらの法律、すなわち「動物の屠殺に関する法律」、「動物保護法」、「帝国森林荒廃防止法」、「森林の種に関する法律」、「帝国自然保護法」といった法律の成立過程、内容を分析する。「動物の屠殺に関する法律」、「森林の種に関する法律」がナチスの病理を表現するものである一方、「動物保護法」、「帝国自然保護法」は、当時の水準からすれば極めて進歩的な法律であった。これらの立法過程には帝国森林監督官たるヘルマン・ゲーリングが深く関与した。彼の意図は、動物・自然保護を促進させることよりも、むしろ広範な社会層の支持を取り込むことにあった。こうした立法事例は、動物保護・自然保護と全体主義思想との関連、自然思想と全体主義思想との親和性について再検討する必要があることを、我々に教えている。