著者
大内 裕和
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.69-86, 2015-05-29 (Released:2016-07-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

この論文の目的は,大学生の奨学金問題を検討することである。 奨学金利用者の数は,1990年代後半以降に急増した。1990年代半ばまで,奨学金利用者の比率は全大学生の20%ほどであった。その後,2012年には全大学生の52.5%に達した。 奨学金利用者の増加は,1990年代以降の4 年制大学への進学率の上昇を背景としている。女性の短大進学者が減り,高卒の就職者数も減少した。民間企業労働者の平均年収と世帯所得は,2000年~2010年にかけて急激に減少した。 近年の奨学金制度の変化も,奨学金をめぐる社会状況に大きな影響をもたらした。1984年の日本育英会法の改定によって,有利子の貸与型奨学金が創設された。有利子の貸与型奨学金の増加に拍車をかけたのが,1999年4 月の「きぼう21プラン」であった。2004年に日本育英会は廃止され,日本学生支援機構への組織改編が行われた。日本学生支援機構は,奨学金制度を「金融事業」と位置づけ,その中身をさらに変えていった。 この奨学金制度は,1990年代後半からの4 年制大学進学率の上昇に貢献したことは間違いない。しかし,この有利子を中心とする奨学金制度の拡充は,奨学金返済の困難という問題をもたらしている。 現在の奨学金制度には改善すべき課題が存在している。第一に奨学金返還の困難を解決することである。第二に貸与型中心の制度から給付型中心の制度へと変えることである。
著者
渡辺 朝一
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A11-A18, 2012 (Released:2012-03-14)
参考文献数
6
被引用文献数
1

レンコン栽培が盛んな茨城県下のハス田で,レンコン食害を防ぐための防鳥ネットに,コガモ Anas crecca,ヒドリガモ A. Penelope,オオバン Fulica atar など,多くの野鳥が羅網して落鳥する事態が続いている.防鳥ネットが多く敷設されている霞ヶ浦湖岸のハス田で,2010 年から2011 年にかけての冬期に5回の調査を行なった.その結果,羅網鳥は15種が記録され,種の識別ができなかったものも含め,のべ185羽の落鳥が記録された.防鳥ネットの天井面積を1haに換算すると,1日の調査では7.5 ± 1.8 羽が記録された.マガモ属は主に翼を引っかけて羅網し,オオバンは主に足を引っかけて羅網していた.コガモの羅網はレンコン収穫前のハス田でより多く記録されたが,オオバンの羅網はレンコン収穫後のハス田で多かった.種の識別ができたのべ145羽の羅網落鳥個体のうち,98羽は同じネットで連続的に記録されず,確実に 1 か月以内にネットから消失していた.生息している鳥類は25種が記録された.サギ類,シギ・チドリ類は防鳥ネットの敷設されたハス田にはわずかな出現かあるいは全く出現せず,防鳥ネット敷設により生息にマイナスの影響を受けていた.スズメ目のハクセキレイ,セグロセキレイ,タヒバリ,ツグミは防鳥ネットの有無に関わりなく記録され,防鳥ネットは生息の障害となっていないと考えられた.
著者
吉本 龍司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.97-105, 2012 (Released:2012-05-01)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

図書館蔵書検索サイト「カーリル」は,無料で利用できるWebサービスである。全国の図書館が,Web-OPACにより提供する書籍の所蔵情報を,横断的に抽出し,整理・統合した上で,利便性の高いユーザーインターフェースにより利用者に提供している。カーリルは,楽しい本との出会いを提供し,図書館に足を運ぶきっかけをつくることをコンセプトに開発が進められた。サービス開始時は,主に公共図書館の利用者を対象としたサービスであったが,現在では,大学図書館や専門図書館への対応も進んでいる。本稿では,サービス立ち上げから開発に携わり,現在,エンジニアとしてカーリルの開発マネージャーを担当する筆者の立場から,カーリルの基本的な機能やコンセプト,サービス提供開始以降の進化と,今後の展開について紹介する。
著者
西田 豊明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.461-471, 2012-10-01 (Released:2012-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
3 4

ネットワーク社会が急速に形成されつつある今日,人工知能研究は1950年代から今日までの五十余年にわたる1番目のステージを終え,2番目のステージに移りつつある。本稿では,第2ステージの人工知能研究のあり方を議論するため,まず,過去の人工知能研究の流れを回顧し,顕著な成果が大規模探索,知識ベースシステム,言語・音声・画像処理,プランニング,機械学習とデータマイニング,人工知能と芸術との融合であることを指摘する。次に,「すごい」と言わせるくらいの高い問題解決能力を持つ知的エージェントを作ることを目指した従来研究に対して,これからの研究では,ユーザーに「君がいてよかった」と言ってもらえるような高い共感力を持ち,計算知能と人間社会をつなぐコミュニケーション知能の実現にもっと重点を置くべきであることを論じる。
著者
Jeffrey C. Raber Sytze Elzinga Charles Kaplan
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.797-803, 2015-12-01 (Released:2015-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
6 141

Cannabis concentrates are gaining rapid popularity in the California medical cannabis market. These extracts are increasingly being consumed via a new inhalation method called ‘dabbing’. The act of consuming one dose is colloquially referred to as “doing a dab”. This paper investigates cannabinoid transfer efficiency, chemical composition and contamination of concentrated cannabis extracts used for dabbing. The studied concentrates represent material available in the California medical cannabis market. Fifty seven (57) concentrate samples were screened for cannabinoid content and the presence of residual solvents or pesticides. Considerable residual solvent and pesticide contamination were found in these concentrates. Over 80% of the concentrate samples were contaminated in some form. THC max concentrations ranged from 23.7% to 75.9% with the exception of one outlier containing 2.7% THC and 47.7% CBD. Up to 40% of the theoretically available THC could be captured in the vapor stream of a dab during inhalation experiments. Dabbing offers immediate physiological relief to patients in need but may also be more prone to abuse by recreational users seeking a more rapid and intense physiological effect.
著者
齋藤 新 佐藤 大介 高木 啓伸
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_42-3_57, 2014-07-25 (Released:2014-09-25)

近年,情報通信機器およびそれらを介して得られる情報にアクセスできることは,暮らしの上で必要不可欠なものとなっている.とくに,障害を持つユーザにとって,情報通信技術(ICT)は「社会への扉」でありその社会的意義は非常に大きい.そのため,情報および情報通信機器へのユニバーサルアクセスを義務付ける,または推進するための法令を施行している国は多い.また,World Wide Web Consortium (W3C)などの標準化団体はアクセス可能性(アクセシビリティ)に関する技術的標準およびガイドラインを定めており,ICTの提供者が具体的に検証することを可能にしている.本稿では,ICTにおけるアクセシビリティを取り巻く歴史的経緯について紹介し,アクセシビリティ向上を推進する法整備および標準規格について解説する.また,それらの法令・規格に適合するコンテンツの作成および検証を支援する技術について概説する.さらに,近年注目を浴びているタッチUIおよびクラウドソーシングを含む,アクセシビリティ研究の最新動向についても述べる.
著者
小林 淳 萬年 一剛 奥野 充 中村 俊夫 袴田 和夫
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.245-256, 2006
参考文献数
45
被引用文献数
1 4

We discovered a set of phreatic explosion deposits, herein referred to as the Owakidani tephra group, on the northern slope of Mt. Kamiyama and in the Owakidani fumarolic area of the Hakone Volcano. The tephra group is the product of the volcanic activities since the latest magmatic eruption of Hakone Volcano at around 2.9ka. It comprises five units named Hk-Ow1 to Hk-Ow5 in the ascending order. Both Hk-Ow1 and Hk-Ow2 comprise tephra fall deposits and secondary debris flow deposits. In addition to these deposits, Hk-Ow2 is also associated with surge deposits. Hk-Ow3, Hk-Ow4 and Hk-Ow5 consist of tephra fall deposits. The ash of these tephra fall deposits and the matrix of the secondary debris flows are principally composed of clay, altered lithics and secondary minerals supposed to be of fumarolic area origin. It is possible that Hk-Ow1 and Hk-Ow2 erupted from a fissure on the northeastern ridge of Mt. Kamiyama, while Hk-Ow3, Hk-Ow4 and Hk-Ow5 erupted at Owakidani. No juvenile material was found within the deposits of these eruptions except for Hk-Ow2, while the surge deposit of Hk-Ow2 contained trace amounts of volcanic glass fragment. Although it is considered that the principal nature of the eruptions of the Owakidani tephra group is phreatic, the deformation of the edifice around the source area implies the possibility of magma intrusion to shallow levels. Based on the calendar ages of the Owakidani tephra group and the stratigraphic position of the Kozushima-Tenjosan tephra, we estimated that Hk-Ow3, Hk-Ow4 and Hk-Ow5 erupted in relatively short intervals between the latter half of the 12th and 13th centuries. On the other hand, Hk-Ow1 and Hk-Ow2 erupted at around 3 kyr BP and 2kyr BP, respectively. The eruption ages of the Owakidani tephra group generally correspond to the seismic events that occurred in the Kozu-Matsuda Faults and the Tanna-Hirayama tectonic line. It is suggested that the activity of the Hakone Volcano may be closely related to the tectonic events in this region.
著者
河本 大地
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.534-548, 2018 (Released:2018-12-06)
参考文献数
42
被引用文献数
1

「身近な地域」の調査とウィキペディア編集の組合せの有効性と課題を,大学の初年次教育における実践をもとに整理することが本稿の目的である.対象地域は古都・奈良のならまちで,奈良教育大学の近くに歴史的町並みを有する.学生は,ならまち各町を「マイタウン」として担当し,ウィキペディア記事を作成するとともに,自治会長等への聞取りや施設訪問などをおこない,成果を報告会でのプレゼンテーションや,小学生向け冊子にまとめた.取組みを分析した結果,初年次教育として広範な意義が認められた.また,大学教育におけるローカルなフィールドワークおよびその成果の発信によって得られる知識・技能,思考力・判断力・表現力,主体性・多様性・協働性が明らかになった.大学および学生と地域社会との関係性構築にも寄与しており,初年次教育に対する地理学の貢献可能性を見出せる.
著者
村上 宣寛
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Human Development University of Toyama (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.119-128, 2017-03-15

急性高山病の主症状は頭痛か睡眠障害である。急性高山病が重篤化すると高所脳浮腫や高所肺水腫になる。急性高山病の場合は症状の進展を確認してよいが,高所脳浮腫や高所肺水腫の場合はただちに下山する。急性高山病を避けるには,標高2,500~2,800メーターへの移動に二日以上かけるとよい。急性高山病の予防・治療薬としてアセタゾラミドやデキサメタゾンがある。比較的安全な代替薬では非ステロイド系消炎剤がある。イチョウ,ビートの根,鉄サプリの効果は確認されていない。高所での激しい運動は急性高山病のリスク要因ではなく,高所での運動は,高所順応とは関係しない。極端な高所では体重の減少がさけられない。炭水化物が有利というエビデンスはなく,炭水化物60%程度のバランス・ダイエットでよい。筋肉の消耗を防ぐために,ロイシンのサプリが有利である。
著者
牧野 智和
出版者
[出版者不明]
巻号頁・発行日
2011

制度:新 ; 報告番号:甲3399号 ; 学位の種類:博士(教育学) ; 授与年月日:2011/7/26 ; 早大学位記番号:新5721
著者
辻 慶太 楳原 衣恵 木川田 朱美 原 淳之
出版者
日本図書館研究会
雑誌
図書館界 (ISSN:00409669)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.594-608, 2010-03-01

本研究では近年急速に成長しているQ&Aサイトと公共図書館レファレンスサービスに同じ質問を行い,正答率などを比較した。前者には「教えて!goo」を,後者には首都圏近郊の32館を選び,60個の質問を行った。結果,直接的に完全な正答が与えられた割合は共に32%で,間接的に与えられた場合を含めても両者の正答率に大きな差はなかった。質問の主題別に見ても差はなく,答えが得られるまでの時間もQ&Aサイトの方が大きく劣ることはなかった。こうした状況を踏まえ公共図書館は新たなレファレンスサービスのあり方を検討する必要がある。
著者
仁上 幸治
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.310-317, 2005-07-01

大学における学術情報リテラシー教育に図書館員が参画する機会が増えている。司書職の専門性が崩壊の危機に瀕する状況にあって, 専門性の社会的認知を回復し向上させるためには, パブリック・リレーションズとマーケティングの視点が必要不可欠となっている。本稿は, 図書館員の社会的イメージの問題点を整理し, 新しい学術的専門職像の訴求をめざす広報イメージ戦略の基本的な考え方と取り組みのアイディアを例示する。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-86, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
5

社会学の現状の“危機”は、その理論の欠如に由来しており、個別科学としての社会学の独立と安定のためには理論の創出という営為が不可欠である。社会学にはこれまで理論と言うよりも擬似理論の方が横行している。それらは例えば「視座」「概念図式や定義」「経験的一般化」「the more..., the more型言明」あるいは「パスモデルのような統計的モデル」などである。前二者は真偽性を欠いているし、後の三つは説明力に乏しい。 こうした背景には次のような方法的な誤りがある。(1)説明の持つ意義を否定して記述のみに満足する経験主義的バイアス、(2)小さな問題への理論的考察の価値を評価しない全体論的バイアス、(3)理論の正しさがそれ自体にではなくそれが生産される基盤の方にあると考える土台理論とそれと関連した方法的一元主義、(4)新しい知識がデータからのあるいは既存の言明からの積み上げによってえられるとする積み上げ主義。 我々の知識の拡大に貢献するような理論の創出にとって必要なのは、知的課題に対してさまざまな解を思い付く想像力とともに、それを自ら厳しく検討していく批判力である。
著者
川添 歩 篠原 稔和
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.548-554, 2018-11-01 (Released:2018-11-01)

情報探索におけるユーザビリティという観点から,主にウェブにおけるユーザーインターフェース(UI)について,情報探索のしやすいデザインがどのようなものかについて論じる。ユーザーが情報探索をする際のタスクを示した上で,それらのタスクごとに検討すべき内容と,それに対応した「あるべきUI」のデザインパターンについて,「国立国会図書館サーチ」等の例を挙げながら説明する。
著者
高木 聡一郎
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.746-753, 2013-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
4
被引用文献数
3 5

政府が保有するデータの公開と利活用を行う「オープンデータ」が注目を集めている。わが国においても政府が「電子行政オープンデータ」を策定するなど,政策課題として取り組み始めたところである。本稿では,こうしたオープンデータについて先行して取り組む欧州の政策動向を概説することにより,オープンデータの概念,経緯,および推進上の主要な論点を明らかにする。とりわけ,データ公開の現状,政策的取り組みの経緯,データのライセンス,民間とのコミュニケーション施策を取り上げる。こうした欧州における先進動向を踏まえ,今後日本が進めるにあたっての課題を考察する。
著者
後藤 真孝
出版者
一般社団法人 電気学会
雑誌
電気学会誌 (ISSN:13405551)
巻号頁・発行日
vol.132, no.9, pp.630-633, 2012-09-01 (Released:2012-09-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

本記事に「抄録」はありません。