著者
小江 茂徳 櫻井 雅充
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
pp.20240401-1, (Released:2024-04-01)
参考文献数
30

本稿では,ジェンダーとそれに伴う権力関係の観点から,実践共同体における参加者の個別性に応じた学習を検討した。大手部品メーカーが工場内に設置した女性育児者専用生産工程における女性作業員の学習プロセスの事例分析を行い,参加のあり方の相対化,権力関係に根ざした有能さの構築,社会物質的な排除による包摂,という3つの理論的含意を明らかにした。
著者
小俣 岳
出版者
独立行政法人 大学入試センター
雑誌
大学入試研究ジャーナル (ISSN:13482629)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.223-228, 2024 (Released:2024-03-31)
参考文献数
28

日本から留学する学生が最も多いのは米国だが,学位取得目的の留学は少ない。ここに,国内普通科高等学校から米国学士課程へ直接進学する際に障壁があると考えられる。限定的な政府主導の送り出し留学支援,高校生の留学への消極性という環境下で,それでも米国大学進学を希望する高校生にとっての情意面,社会経済面,そして教育・入試制度の違いに起因する障壁につき,先行研究および各種データに基づき整理する。
著者
柳浦 猛 日下田 岳史 福島 真司 山地 弘起
出版者
独立行政法人 大学入試センター
雑誌
大学入試研究ジャーナル (ISSN:13482629)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.248-253, 2024 (Released:2024-03-31)
参考文献数
20

本稿は,2016 年度に施行された私立大学の定員管理厳格化政策が,志願者の大学進学にどのような影響をもたらした可能性があったのかを考察する。まず,教育経済学的視点から,当該政策と類似した性質を持つと考えられる海外の高等教育政策として,米国の大学選抜におけるアファーマティブアクションの廃止を取り上げ,両者の政策の類似点について論じる。次に,アファーマティブアクションの廃止がマイノリティ志願者に与えた影響に関する実証研究をもとに,定員管理厳格化政策が都市部に比べ地方部の志願者に対してアンダーマッチングのリスクをより高め,地方と都市部の経済格差の拡大のリスク要因を高めていた可能性を指摘する。
著者
竹中 喜一 杉森 公一 西野 毅朗 吉田 博
出版者
日本高等教育開発協会
雑誌
高等教育開発 (ISSN:24369918)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.11-19, 2024-03-31 (Released:2024-03-31)
参考文献数
5

本研究は、日本の大学教育センター等の特徴と課題について「日本版CTLアセスメント基準」を用いて明らかにすることを目的とする。具体的には①センターの特徴や課題は何か、②特徴や課題の背景は何か、③本基準の意義と課題は何か、の3つの問いについて、同基準を分析枠組みに用い、大学教育センター等に所属する教職員を対象としたインタビュー調査を実施した結果をもとに追究した。その結果、日本の大学教育センター等には同基準のカテゴリーである「組織構造」「資源分配とインフラ」「プログラムとサービス」に沿った特徴や課題があり、同基準に4つの意義や2つの課題を有することが示唆された。
著者
大西 徹 堀尾 洋人
出版者
一般社団法人 PMI日本支部
雑誌
プロジェクトマネジメント研究報告 (ISSN:24362115)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.40-44, 2024-03-31 (Released:2024-03-31)
参考文献数
7

自律社会は個人から集団へ,物から心への重心移動を特徴とし,価値観が急速に変化する時代である.この時代において効果的なコミュニティ運営には新しいアプローチが求められる.本研究では,「ソース」と呼ばれるコミュニティ活動の創造源となる個人の役割とアジャイル・プラクティスの適用を通じてコミュニティ運営を効果的に行う方法を探求する.ソースはコミュニティのビジョンやイニシアチブを提供し,コミュニティ・コーチはそのビジョンを具現化するサポートを提供する.アジャイルな計画法を応用し,持続可能な運営を促進する.本研究は,自律社会におけるコミュニティ運営方法を提案し,その実践的な適用について洞察を提供する.
著者
大谷 弘
出版者
The Philosophy of Science Society, Japan
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.45, 2024-03-31 (Released:2024-03-31)
参考文献数
26

Several studies on later Wittgenstein's notion of picture have recently emerged in Japanese literature. Here, I critically examine three of them: Ohtani (2020), Furuta (2020), and Noya (2022). My contentions are twofold. First, the disagreement between these studies lies in the fact that Noya supposes a common core shared by Tractatus's notion of picture and that of Philosophical Investigations, while Ohtani and Furuta deny this core. Second, Furuta and Noya fail to provide a conception of picture that contributes to the understanding of Wittgenstein's text, while Ohtani alone proposes an illuminating notion.
著者
比嘉 悠貴 深見 裕之 小野 直亮 金谷 重彦
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.97-101, 2022-07-31 (Released:2022-08-13)
参考文献数
13

紅麹菌(Monascus)を米に生育させた紅麹米は,世界中で食品として利用されている.近年は天然色素としての着色料だけではなく,血圧低下作用やコレステロール低下効果など機能性食品としての利用も高まっている.紅麹菌はヒトの健康に良い効果をもたらすモナコリンKやアザフィロン色素を生産する一方で,健康を害すると考えられるカビ毒シトリニンも作る.したがって,安全に食品として利用できるカビ毒シトリニンをつくらない紅麹菌の産業利用が望まれる.我々は,紅麹3菌種について次世代シークエンサーを用いたゲノム解析とLCMSを用いた二次代謝物解析を行った.その結果,ゲノムレベルと代謝物レベルでカビ毒シトリニンを生産しない紅麹菌株としてMonascus pilosus NBRC 4520とMonascus ruber NBRC 4483を見出した.また,Monascus ruberについてはシトリニンを生産することが報告されているが,Monascus pilosusについてはゲノムレベルでシトリニンの生合成遺伝子が保存されていないことが複数の菌株で報告されている.したがって,食品として利用するための紅麹菌種として安全性が最も高いのはMonascus pilosusであると考えられる.これらの研究知見が,安全な紅麹菌の研究を通じて食品への利用,世界中のヒトの健康の維持増進へ貢献する端緒となれば幸いである.
著者
松澤 通生
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.402-412, 1986-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
47

常識に反して, 異常に膨脹した原子がこの世の中に存在する. 一つの電子が高い主量子数を持つ軌道に励起された状態にある原子を高リュードベリ原子と云い, これが上記の膨脹した原子の正体である. 原子の世界での最も簡単な系でもある. 静かにそっとしておくと寿命は長いが, 他粒子と出会うとすぐこわれやすい. 超高真空が実現している星間空間では半径0.02mm程度の原子が存在する. 地上でも 10-4cm 程度の半径の原子を実験室で作れるようになった. この励起原子は風変わりな存在で, 原子の世界でのスケールから大分かけ離れた挙動を示す. 本解説ではこの励起原子のいささか "非常識" な振舞について解説し, その正体を明らかにする.
著者
竹田 琢
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.23, no.Special, pp.S133-S140, 2024 (Released:2024-03-20)

大学の授業で行われるグループワークでは,しばしば雑談が行われている。雑談は関係構築機能を有するが,授業内グループワークにおいては学習目標を阻害するものとして扱われ,雑談に焦点を当てた検討はほとんどなされず,その相互行為の内実は明らかにされていない。そこで本研究では相互行為分析の手法を用いて,グループワークにおける雑談に焦点を当て,学生がグループワークにおける雑談を通じて何を達成しているのかについて検討を行う。対象は短期大学の授業における最終回で行われた振り返りを目的とするグループワークである。分析では,まず雑談がグループワークにおいて頻繁に発生していることを検証した。次に相互行為分析により,雑談の前後を含む場面の検討を行った。その結果,学生は雑談することで志向を共有し,全員で新たな話題に参加していることが明らかになった。学生はグループワークを全員が参加できるものにするために,雑談を利用している可能性が示された。
著者
尾木 竜司 池田 大輔
出版者
計量国語学会
雑誌
計量国語学 (ISSN:04534611)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.571-585, 2023-03-20 (Released:2024-03-20)
参考文献数
8

文章には書き手の個性が表れ,その個性は大きく変化しないこと(個人内恒常性)が知られている.逆に,メンタルヘルスの異常など書き手の内面の大きな変化が恒常性の崩壊につながることを示せれば,文体的特徴の変化から内面の変化を検出できるようになる可能性がある.特定の個人に対し,内面の大きな変化によって文体的特徴が変化することが示されているが,内面に同じ変化を持つ集団を集めるのは困難であり,統計的には示されていない.本研究では,出産は内面に大きな変化を与えると考え,出産経験のある女性らのブログの文体的特徴を調べた.単語の使用率など文章の内容に依存する特徴を用いると,書き手の内面の変化ではなく生活環境の変化を検出してしまう.そこで,非内容語の使用率や品詞のbigramの出現率などの,文章の内容に依存しない特徴を用いた.検証した全ての特徴において,出産を経ることで通常の変動よりも変化することがわかった.
著者
神前 英明
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌 (ISSN:24357952)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.129-135, 2022 (Released:2022-12-28)
参考文献数
47

上気道における代表的な好酸球性炎症,アレルギー性炎症をきたす疾患として好酸球性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎があげられる。好酸球性副鼻腔炎は,手術後も再発が多いため,難治性疾患として扱われている。その病態として,抗原の感作なしに2型炎症を誘導する自然型アレルギーの関与が強いことが知られている。上皮細胞から産生された上皮由来サイトカイン(TSLP, IL-25, IL-33)は,2型自然リンパ球(ILC2)や病原性記憶Th2細胞を介して大量の2型サイトカイン産生を誘導し,好酸球浸潤,ムチン産生,杯細胞の過形成など,好酸球性副鼻腔炎に特徴的な組織像が形成されると考えられる。近年,病態の解明に伴うバイオ製剤の登場により,恩恵を得られる患者が増えている。アレルギー性鼻炎は,世界中で患者が増加しており,本邦では人口の半数が罹患していると推定される。アレルゲン免疫療法は,アレルギー性鼻炎に対する高い有効性が示され,長期的な寛解や治癒が期待できる唯一の方法である。アレルゲン免疫療法の作用機序は,IL-10,IL-35,TGF-β,IgG抗体の増加および制御性T細胞の誘導によって特徴づけられる免疫寛容の獲得に基づいている。しかしながら,アレルゲン免疫療法を行うことでなぜ長期寛解が得られるか,その全貌はまだ明かにされていない。いずれも2型炎症またはIgE依存的アレルギー炎症が特徴となる疾患で,これらの炎症を制御することが治療につながると考えられる。我々が行ってきた研究を中心に,好酸球性副鼻腔炎の病態と,アレルギー性鼻炎に対するアレルゲン免疫療法の作用機序について解説する。
著者
上山 隆大
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.370-373, 2024-02-29 (Released:2024-03-07)

The Council for Science, Technology, and Innovation (CSTI) requires high-quality evidence to effectively function as the government's central coordinating body. To aid in its strategic planning and allocation of resources, CSTI has formed a specialized team and developed the e-CSTI system. This system includes a comprehensive database designed to analyze the distribution of the national budget, university operating costs, competitive funding, and the correlation between researcher productivity and outputs like academic papers and patents. Additionally, e-CSTI facilitates the identification of priority areas through detailed analysis of research outcomes, funding allocation, and expert assessments. The 6th Science, Technology, and Innovation Basic Plan has introduced a proposal for creating a Think Tank dedicated to Safety and Security, and preparations for its establishment are currently underway. I would like to extend my sincere thanks to everyone involved for their significant contributions to the development of e-CSTI.
著者
寺﨑 昌男
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.7-21, 2010-05-25 (Released:2019-05-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2

職員の組織的な能力開発(SD)は,その必要性と重要性にもかかわらず,効果的なプログラムの実現,体系的なカリキュラムの編成の面で多くの課題を抱えている.本稿では,現在日本の大学で実現されている五つの能力開発ステージを取り上げて,おのおののメリットとデメリットを点検し,今後の活用方法を考察する.次いでSD のミニマム・エッセンシャルズを,①大学の本質への理解,②自校理解の形成,③大学政策への理解という3点に絞って提言する.さらにSD の目標は企画能力の養成にあるのではないかという観点から,職員のライフステージに即応したSD プログラムが必要ではないかと論じ,さらにFD と結合したSD のあり方を論じ,職員の専門性を保障する人事コースをどのように創るかというテーマについて提案を試みる.
著者
蛯谷 孟弘 加藤 拓巳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングレビュー (ISSN:24350443)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.21-29, 2024-03-19 (Released:2024-03-19)
参考文献数
22

近年,商品機能を過剰に表現した「過剰広告」が散見される。それら過剰広告が消費者の知覚に及ぼす影響については,これまで盛んに議論されてきた。既存研究の多くは過剰広告の負の影響について論じたものだが,以下2つの条件では正の影響を及ぼす;(1)消費者がブランドに好意的な態度を有する,(2)過剰さを受容しやすい国民性を有する。しかし,これら既存研究は消費者の態度や属性に依拠しており,消費者に魅力的に映る過剰広告の要素についての議論は乏しい。そこで本研究は柔軟剤広告を対象に,過剰な要素として香り(私益)とエシカルさ(公益)を挙げ,各要素を過剰に訴求した場合の広告の魅力について,以下2つの仮説を導出した。H1:柔軟剤広告の香り要素(私益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に負の影響を与える。H2:柔軟剤広告の過剰なエシカル要素(公益)の表現は,過剰と知覚された場合,広告の魅力に正の影響を与える。ランダム化比較試験の結果,2つの仮説は支持された。よって,消費者の知覚する広告の魅力を高めるために過剰広告の公益要素は効果的であり,企業は積極的に消費者に訴求すべきである。
著者
金 昭英
出版者
University of Tokyo(東京大学)
巻号頁・発行日
2015

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 影浦 峡, 東京大学准教授 李 正連, 東京大学教授 小国 喜弘, 東京大学教授 秋田 喜代美, 東京大学客員教授 根本 彰