著者
中村 靖子 大平 英樹 金 明哲 池野 絢子 重見 晋也 葉柳 和則 中川 拓哉
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-07-17

本研究は、独伊仏日の四カ国語圏にまたがって愛国的文化運動や、公共芸術や文化遺産保護運動、文芸誌とその検閲などを対象とし、ファシズム期のスイス、イタリア、日本、フランスにおける集合的記憶の構成過程を辿ろうとする領域横断型の学際プロジェクトである。四つの言語圏における文化運動のオラリティ資料を介して、人間の社会に情動が広範なムーヴメントを創り出すメカニズムを考察しようとするものであり、伝統的な人文学が培ってきた文献研究のスキルとテキストマイニング手法が共同することにより上記の目的を達成することが可能になると期待できる。
著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.207-232, 2019-08-31

本稿は、腐女子と呼ばれる男性同性愛フィクションを嗜好する少女・女性の二次創作活動とメディア利用を対象とし、彼女たちがどのようにコミュニティを形成し維持しているのかについて、作品やキャラクタへの「愛」という不可視で不可量なものを議論の導きの糸として明らかにすることを目的としている。二次創作コミュニティは、二次創作者らの原作に対する「愛」によって形成されている。しかし、原作に対する解釈は個人によって異なっており、「愛」をめぐってコンフリクトが発生する。本稿では、このコミュニティ内で発生したコンフリクトが、2種類の対応によって調停されることが明らかとなった。1つ目は、二次創作者が言行一致の姿勢を取っている/いない、原作のキャラクタや設定から逸脱し過ぎている/いないなどの基準によって、原作に対する「愛」の具体化である二次創作作品を評価し、「愛」がないと判断した場合、コミュニティのソトに押しやり、原作への「愛」を持つ者同士のコミュニティを維持しようとする。2つ目は、過度な性描写や暴力表現などが盛り込まれた二次創作作品であっても、肯定的なコメントを送ったり、無視をして評価を行わないことで、メンバ間の衝突を回避し、コミュニティを維持しようとする、という調停である。
著者
永島 義男
出版者
東京藝術大学
巻号頁・発行日
2017-03-25

平成27年度
著者
戸邉 直人 苅山 靖 林 陵平 木越 清信 尾縣 貢
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
pp.18044, (Released:2019-10-28)
参考文献数
42
被引用文献数
1

In the take-off motion of the high jump, huge power exerted by the lower limb is required in a very short time. Consequently, to achieve the take-off motion, improvement of power exertion ability is important, and most high jumpers work to achieve this. However, the components of the kinetics that contribute to high jump performance are unknown. This study investigated lower limb joint kinetics during the take-off phase of the high jump and the relationships between kinetic variables and performance. Seven male high jumpers were investigated. Their take-off motions were filmed using an infrared camera (Vicon Motion System, 250 Hz), and the ground reaction force was recorded using a force platform (Kistler, 9287C, 1000Hz). The coefficients of correlation between the vertical velocity of the center of gravity of the whole body (CG) at the moment of take-off and kinetic variables were calculated. The following results were obtained: 1. The muscles involved in hip extension play a primary role in shock absorption at the moment of touchdown. Furthermore, the muscles involved in hip abduction, knee extension and ankle plantarflexion play a significant role in lifting the body in addition to the above functions. 2. The concentric power produced by hip abductors during the take-off motion may increase vertical velocity of the CG at the moment of take-off. 3. As it has been reported that single leg exercises impact the function of hip abductors, such exercises may improve take-off motion in the high jump. These results illustrate the characteristics of take-off motion in the high jump, and these may be studied further to plan effective training aimed at improving performance.
著者
白川 慧一 大越 利之
出版者
公益社団法人 日本不動産学会
雑誌
日本不動産学会誌 (ISSN:09113576)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.88-96, 2017-06-29 (Released:2018-06-29)
参考文献数
8
被引用文献数
1

In residential real estate market, the agent has an incentive to steer her clients to her own listing or buyers rather than offering the best value transaction, which derives from allowing dual agency and information asymmetry among buyers, sellers and agents. We estimated commission levels and sale prices of real estate brokers by questionnaire survey, and found that seven out of ten brokers are making dual-agency deals and lowering sale prices. We couldnʼt find any effects of the number of employees, location of office and major types of contract on dual agency.
著者
小林 正宏
出版者
公益社団法人 日本不動産学会
雑誌
日本不動産学会誌 (ISSN:09113576)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.98-105, 2018-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
9

Market price of existing houses in Japan depreciates more dramatically than in other advanced economies including the US. It is usually recognized that the price of the structure of wooden residential properties in Japan become zero after 20 years of construction. In this paper, actual transaction data from MLIT is analyzed with several assumptions because of availability of data. The attempt to decompose the price of the structure and land revealed that the structure component depreciates very rapidly and the price of the structure becomes not only zero but also negative after 28 years on average.
著者
好井 久雄
出版者
公益財団法人 日本醸造協会
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.43-49, 1967-01-15 (Released:2011-11-04)
参考文献数
83
被引用文献数
2 1

微生物に限らず広く植物や動物など, 生物というものは塩類がなければ生活できない。そしてその生活に対する最適の塩類の濃度というものは, 生物の種類でちがっているが, 一般的にいえば2%以下であるといえる。この綜説では味噌, 醤油などのように食塩の濃度が高い環境で生育し, そして発酵作用を営み, 製品の熟成にあづかっている特殊な細菌の一群をとりあげて, その解説を試みている。わが国で伝統的に行なわれた醸造技術では, こういう細菌の一群が作用していることが今から50年ぐらい前から判っているが, それらの細菌の組織的な微生物学的研究は最近緒についたばかりである。この新しい分野は微生物細胞学者などによっても着々進められているが, 筆者は刻明にそれらの研究をしらべあげて, 醸造技術研究者という立場からこれをまとめている。発酵微生物一般に対する考えかた, またその応用の面に示唆を与えるものが多いであろう。
著者
姜 暻來
出版者
日本比較法研究所
雑誌
比較法雑誌 (ISSN:00104116)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.75-102, 2012-09-30

近年、韓国では、児童を対象とする凶悪な性暴力犯罪に対処するため、2000年に性犯罪者の身上公開制度(インターネットでの性犯罪者の個人情報の公開及び閲覧制度)、2005年に電子監視制度(性犯罪者へのGPS機能を搭載した電子足輪の装着)、さらに、2008年には、性的倒錯(小児性的嗜好及び加虐性愛)等の性的性癖がある者を治療監護対象者とする新たな対策を次々と導入してきた。しかし、その後にも児童を対象する凶悪な性暴力犯罪が発生したため、化学的去勢(chemical castration)を主な内容とする「性暴力犯罪者の性衝動薬物治療に関する法律」を2010年に制定し、2011年7月から施行している。これは、性犯罪者に対する薬物治療を通して性衝動を抑制することで、再犯を防止することを内容とする制裁手段の一つであるが、身体に直接影響を与えるために人権侵害等の問題等が指摘されている。そこで本稿では、化学的去勢の意義と効果、「性暴力犯罪者の性衝動薬物治療に関する法律」の概要等に対して分析を加え、韓国の化学的去勢に関して論議されている問題点について論じることにした。
著者
本宮 嘉弘 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.34-41, 2018 (Released:2019-03-28)
参考文献数
6

わが国では近年、軽ハイトワゴンと呼ばれる車高の高い軽乗用車が流行しているが、このような車種は重心が高いため、交差点等で低速度で衝突しただけでも容易に横転する。車両が横転した場合、乗員が車室内に強く二次衝突したり、割れた窓部から車外放出されるなどして死傷することが多い。筆者らが実際に調査した横転死亡事故をもとに、実車を用いた衝突実験やコンピューターシミュレーション解析により事故時に軽ハイトワゴンが横転するメカニズムを解明した。その結果、横転には衝突後のヨー回転速度やローリング共振周波数等が影響することが判明し、さらに走行速度が低いほど横転し易い可能性も示された。このため、軽ハイトワゴンが横転し易い車両であることを周知させるとともに、横転に備えてカーテンシールドエアバッグの装着を義務付ける等の方策が必要であろう。
出版者
内務省地理局
巻号頁・発行日
vol.巻之203 崎玉郡之5,巻之204 崎玉郡之6,巻之205 崎玉郡之7,巻之206 崎玉郡之8,巻之207 崎玉郡之9,巻之20, 1884
著者
松浦 茂樹
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.73-83, 1991-06-05 (Released:2010-06-15)
参考文献数
17

利根川と荒川で囲まれている埼玉平野は、近世の江戸幕府にとって重要な生産拠点であった。近世、埼玉平野では開発が進められていくが、ここにはまた、出土品である鉄剣から金象嵌銘文が発見され、近年、古代史に大きなインパクトを与えた埼玉古墳群がある。本稿は、河川との関わりが深い水田開発と舟運整備に焦点をあて、埼玉古墳群を支えた生産基盤を考察するとともに、家康入国時までの開発状況を論じたものである。埼玉平野の安定した開発には大河川利根川・荒川の洪水対策が不可欠であるが、古代の技術では防禦することができず、氾濫を前提として開発が進められ、「不安定の中の安定」という状況になっていた。開発は少しづつ進められていくが、利根川防禦に重要な役割を果たしたのが中条堤と、それに続く右岸堤である。この地域の拠点として忍城が整備されたのが1490年である。また綾瀬川筋から元荒川筋へという荒川付替が、さらに利根川水系の舟運の整備が、後北条家の時代に既に行われていた。家康は、決して未開の地ではなく、かなり整備が行われていた状況で関東に移封されたのである。
著者
猪川 嗣朗
出版者
一般社団法人 日本臨床化学会
雑誌
臨床化学 (ISSN:03705633)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.2-14, 2000-03-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
5
被引用文献数
1
著者
森本 岩太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.95, no.4, pp.477-486, 1987 (Released:2008-02-26)
参考文献数
6
被引用文献数
10 11

打ち首(斬首)の所見が認められる古人首例は比較的少なく,偶然に発見されたとしても,頭蓋の刀創などから斬首を間接的に想定した場合が大部分を占めると思われる.著者が最近経験した鎌倉市今小路西遺跡出土の南北朝期(14世紀後半)に属する斬首された2個体分の中世頭蓋の場合は,切られた上位頸椎が一緒に残っていたので打ち首の技法がよく分かる.当時の屋敷の門付近に,A•B2個体分の頭蓋と上位頸椎だけが一緒に埋められていた.首実験後に首だけが遺族に返されず,そこに仮埋葬されたものであるらしい.2体とも男性で,年齢は A が壮年期前半,B が壮年期後半と推定される.頭蓋は無傷で,それぞれの頸椎が日本刀のような鋭利な刃物により切断されている.頭蓋と第1~3頸椎からなる男性 A の場合,切断面は第3頸椎体の前下部を右後下方から左前上方へ走って椎体の途中で止まり,その先の椎体部分は刀の衝撃によって破壊され失われている.切断面の走向からみて,第4頸椎(残存せず)を右後下方から切断した刃先が第3頸椎体に達して止まったと思われる.頭蓋と第1~4頸椎からなる男性 B の場合,主切断面は第4頸椎の中央を右からほぼ水平に走っている.切断面より上方にある右横突起と右上関節突起の上半部だけが残存し,それ以外の第4頸椎の大部分は失われている.A の場合と同様に,刃先が第4頸椎の椎体の途中で止まって,その先の部分が破壊されたものと推定される.別に第3頸椎の左下関節突起先端部から右椎弓根基部上面へ向けて椎体を左下方から右上方へ斜めに走る副切断面があり,この副切断面によって改めて首が切り離されている.失われた第3頸椎の椎弓板もこのとき壊されたと思われる.切断面の走向からみて,両個体とも,垂直に立てた頸部を横切りにされたというよりは,むしろ正座のような低い姿勢をとって前方に差し伸べた頸部を,左側やや後方に立った右利きの執刀者により切り下ろす形で右背後から鋭く切断され,絶命したと推定される.この際,首は一気に切り落とされていない.これは俗に「打ち首はクビの前皮一枚を残すのが定法」と言われるところに近似の所見であり,この技法の確立が中世までさかのぼり得るものであることが分かる.2体とも最初に第4頸椎部を正確に切断され,頭蓋には刀創の見られないところから,同一の練達者によって斬首されたと推測されるが,切られたほうも死を覚悟した武士であったかも知れない.英国のSutton Walls 出土の鉄器時代人骨における斬首例のように,首を刀で一気に切り離すのが昔のヨーロッパ流のやり方とすれば,中世における日本の打ち首では頸部を後方から半切して処刑する点にその特徴があると思われる.
著者
安彦 鉄平 島村 亮太 安彦 陽子 相馬 正之 小川 大輔 新藤 恵一郎
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.935-938, 2010 (Released:2011-01-28)
参考文献数
19

〔目的〕体幹と骨盤の動きを必要とする座位に着目し,骨盤の傾斜角度の違いが背筋群の筋活動に与える影響を検討した。〔対象〕腰痛の既往のない健常成人男性10名。〔方法〕測定肢位を骨盤軽度後傾位(以下後傾位)と骨盤軽度前傾位(以下前傾位)とし,課題を安静座位と腹部引き込み運動とし,肢位と課題の組み合わせの4条件下での腰部脊柱起立筋と腰部多裂筋の筋電図を導出した。課題間の比較は,一元配置分散分析後,多重比較検定を実施した。〔結果〕安静座位と腹部引き込み運動の課題において,多裂筋の筋活動は後傾位に対し前傾位で有意に増加したが,脊柱起立筋の筋活動に有意な差はなかった。これは骨盤前傾作用として多裂筋の筋活動が増加したと考える。〔結語〕前傾位は脊柱起立筋の筋活動を有意に増大することなく,選択的に多裂筋の筋活動を高めることができる姿勢と考える。
著者
渡辺 春巳
出版者
中央大学商学研究会
雑誌
商学論纂 (ISSN:02867702)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5・6, pp.267-316, 2017-03-01
著者
梶原 直美
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.11-20, 2014

「スピリチュアルケア」が耳慣れた用語となって久しい.WHOでは健康理解としてそれまでの身 体的,精神的,社会的に留まらず,霊的という言葉も加える議論がなされたことはよく知られている. この場合の霊的とは何を指すのか.スピリチュアリティに関する研究は近年盛んになりつつあり,様々 な定義づけが提示されている.本稿は,実践的な様々な現場でのケアを前提に,スピリチュアリティ の語源を,その背景にあるキリスト教に求め,旧約聖書に遡って文脈や語義の分析を行い,意味を問 うた.その結果,以下のことが明らかとなった. 1 .スピリットに相当するヘブライ語のルーアハは始原のエネルギーであり,神との関わりのなかで, 神に従って,完全に新しい世界さえ作り出すダイナミズムを有するものであった. 2 .物質で造られた体に,スピリットと同様の性質を持つ神の命の息ネシャマーが入れられたことで, 人は自分の命を生きる存在となった. 3 .魂とは,体も含め,命を吹き込まれて生きることとなったその人の全存在を指す. 4.人間も動物も,神から命の息を与えられた生命体である. 5.スピリチュアリティはすでに内在するものであり,人の存在を根底から支えている. われわれ人間が超越者なる神との関わりのなかでスピリチュアルな存在とされたように,互いの関 わりにおいてもまたその同じもので繋がっていけるということは,スピリチュアルケアを実践するさいに,安心と希望を与えるのではないだろうか.