著者
船越 公威
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.125-140, 1977-06-30 (Released:2017-04-11)

Female P.jenynsii deposits prepupa on the host-roosting quarter except host-hibernating quarter. Intervals between depositions were about 5 days. Pupal period was about 20 days. Both the interval and period of prepupal deposition became shortened with the rise of experimental temperature. After the bat died away, the majority of flies also died within 24 hours. This indicates that blood-sucking is necessary at least once a day. Wintering flies sucked blood intermittently and lived for at least 4 months, but did not propagate. Average infestation number per host was 0.1-0.3 in winter and 0.2-0.7 in the other seasons. The low density per host throughout the year may primarily be due to host-predation and secondly due to density effect of fly. Periodic fluctuation of the average infestation number from April to September is largely caused by synchronization with the breeding cycles starting soon after awakening. The more bats grew, the more they were infested, its tendency being marked in adult females. Infestation degree corresponded presumably with the degree of hosts' activity at their roost. It was considered that specific and adaptive host-parasite relationship was ecologically influenced by duration of bats' roost utilization, activity at roost, size of cluster and flying pattern, together with the life history of flies.
著者
千葉 直樹
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.67, pp.98_1, 2016

<p> 本研究では、2012年の「体罰」事件以降の時期に焦点を絞り、高校のバスケットボール指導者の暴力行為の実態を明らかにすることを目的にする。2015年の高等学校総合選手権大会でベスト32以上に進出した19都道府県の指導者を対象に、2016年3月に郵送調査を行った。回答者の40.1%は、選手時代に指導者からの暴力行為を受けていた。22.1%の指導者が「体罰」事件以前に暴力行為を選手に行ったことがあると回答した。一方で、2013年1月以降の時期では、5.8%の指導者が暴力行為を行っていた。この結果から、「体罰」事件以降に、暴力行為を行うバスケットボール指導者の数が少なくなったと考えられる。しかし、暴力行為の範囲を「ボールを投げつける」、罰走、暴言という項目まで拡大すると、28.8%まで暴力行為を行った指導者の比率は高くなった。以上の結果から、「拳で殴る」や「平手打ち」等の暴力行為は少なくなった一方で、暴言や身体的な苦痛を伴う懲戒などは依然として一部の高校バスケ部で行われていることが示唆された。さらに、先行研究の指摘通りに、暴力指導を受けた指導者ほど、選手に暴力行為を行う傾向が確認された。</p>
著者
烏賀陽 梨沙
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.123-135, 2014

本稿の目的は,近年のアメリカの美術館教育の現状を文化的,教育的,社会的枠組みの中で位置付け,美術館教育の発展にはどのような要因が影響しているかについて,社会的・経済的視座もいれ多角的に分析・考察することである。1990年代以降を中心に,筆者の過去の調査・研究をもとにニューヨークの美術館の実例や先行研究の例から分析する。事例に即して検討した結果,1980年代後半から1990年代の財政困難期,美術館はその脱却方策を模索したが,そこに二つの方向性がみられた。一つは外部資金(公・民)を積極的に取りにいくこと,二つ目は教育的プログラムやサービスの充実に美術館の焦点が移行することである。こうして美術館教育の発展に,資金援助側の戦略的助成方針など外的要因も関係するようになる。また,近年の認知心理学の進歩も相乗し,美術館に関連した新しい学習理論がうみだされ美術館教育の方法論の充実へとつながり発展を助長した。
著者
福田 航 横山 茂樹 山田 英司 片岡 悠介 濱野 由夏 池野 祐太郎 五味 徳之
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.25-31, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
19

【目的】本研究の目的は,ACL 再建術前後における片脚スクワットの運動学・運動力学データの変化と健患差を把握することである。【方法】対象はACL 再建術後患者11 名(年齢24.9 ± 6.9 歳,男性8名,女性3名)であった。方法は,床反力計と3 次元動作解析装置を用いて術前と術後9 週時の片脚スクワット下降相の膝屈伸モーメント変化量と体幹および下肢の関節角度変化量を測定し,健側と患側,術前と術後で比較した。【結果】ACL 再建術前後ともに患側は膝屈曲変化量が小さく,体幹前屈変化量は大きく,膝屈伸モーメント変化量は伸展方向に小さかった。患側の骨盤前傾変化量は術後に増加した。【結論】術後に膝屈伸モーメント変化量が小さかったことは膝伸展機能の回復が不十分であると示唆される。術後の膝屈伸モーメント変化量に関連する因子は体幹前屈変化量,膝屈曲変化量,骨盤前傾変化量が考えられ,スクワット動作を観察する視点になると示唆される。
著者
神野 秀雄
出版者
愛知教育大学
雑誌
治療教育学研究 (ISSN:09104690)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.21-30, 2007-02

本論文は,ある高機能自閉症児(A君,言語性IQ:72)の情緒(感情)発達に伴う不安に関して検討したものである。A君が本センターに初来所したのは小1であり,小6まで週1回定期的に来所し療育を終了した。筆者は母親面接,学部生や院生がA君のプレイを担当した。A君はプレイ開始当初よりセラピストと野球や卓球などを好んでしており,人とのかかわりを求めていた。そして次第に情緒発達が促され,家庭や学校等で多様な不安感情を体験するようになった。これらの不安体験の背景として①聴覚過敏に由来する不安,②病気やケガに対する身体の安全に関する不安,③他者評価からもたらされる不安,④自閉性障害(情緒発達障害・認知障害)に由来する不安,以上の4つの不安の源泉が考えられた。そして4つの不安に対して①→回避・逃避,②→強迫観念・行為,③→努力,④→質問癖などによる適応機制を用いていた。そして高学年になるにつれて①②は次第に改善され,③④が課題となってきたが,一般的には,②が高機能自閉症の理解にとって最も重要な不安の起源ではないかと考察された。
著者
樹林 伸
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.302-303, 2019-03-15
著者
Risako KAWATA Tatsuhito II Tatsuya HORI Yukino MACHIDA Kazuhiko OCHIAI Daigo AZAKAMI Toshiyuki ISHIWATA Masaki MICHISHITA
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.186-189, 2019 (Released:2019-02-09)
参考文献数
17

A 14-year and 8-month-old intact male Amur tiger presented with an enlarged left testis, measuring 5.7 × 5.5 × 4.5 cm. The cut surface was mottled dark red to reddish brown in color. Microscopically, the enlarged left testis comprised round or polygonal neoplastic cells arranged in a diffuse sheet pattern. These neoplastic cells had a hyperchromatic nucleus and an abundant eosinophilic cytoplasm. Immunohistochemically, these neoplastic cells were positive for vimentin, chromogranin A, synaptophysin, melan-A, inhibin-α, and S100 and negative for desmin and WT-1. Based on these morphological and immunohistochemical findings, the tumor was diagnosed as a Leydig cell tumor.
著者
Michael Leach マイケル リーチ
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.283-300, 2019-01-25

This chapter examines some the evolving characteristics of East Timoresenationalism. It starts by examining the distinctive features of East Timoresenationalism, including its rapid transition from a conventional anti-colonialistnarrative, mobilised against Portuguese colonialism, to one contestingIndonesia’s looming forced integration of the decolonising territory in1975; and the way in which the East Timorese resistance employed ideas ofan inner ‘spiritual domain’ (Chatterjee 1993) of identity. It then focusses onmore recent shifts in ‘official’ East Timorese nationalism, in the way governmentdiscourses have invoked the arrival of Catholicism as the‘affirmation of Timorese identity’ (RDTL 2015a) and developed a modernnationalist narrative that partly reflects traditional ‘origin stories’. In thisvein, it discusses recent government attempts to transform a national identityfocussed on the history of the resistance to one mobilised around thegoals of national development. Finally, it speculates on the future of EastTimorese nationalism, reflecting on the implications of the ‘youth bulge’ inEast Timorese society.
著者
中山 一麿 落合 博志 伊藤 聡
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

昨年度後半から本格始動させた覚城院の調査であるが、調査が進むにつれて新たな発見があり、多義に亘る史料の宝庫として、その実態把握を加速させている。字数制限上、覚城院に関する主たる成果のみ以下に記す。6月には、中山一麿「寺院経蔵調査にみる増吽研究の可能性-安住院・覚城院」(大橋直義編『根来寺と延慶本『平家物語』』、勉誠出版)において、新出の増吽関係史料を中心に、増吽やその周辺の研究を進展させると共に、聖教調査研究が新たな発展段階にあることを示唆した。9月には本科研を含めた6つのプロジェクトの共催で、「第1回 日本宗教文献調査学 合同研究集会」が行われたが、中山はその開催に主導的役割を果たし、二日目の公開シンポジウム「聖教が繋ぐ-中世根来寺の宗教文化圏-」では基調報告として「覚城院所蔵の中世期写本と根来寺・真福寺」を発表し、覚城院から発見された根来寺教学を俯瞰する血脈の紹介を交えつつ、覚城院聖教が根来寺・真福寺などの聖教と密接に関係することを報告した。加えて、同時に開催された寺院調査に関するポスターセッションでは、全29ヵ寺中、本科研事業に参加する研究者5名で計10ヵ寺分(覚城院・安住院・随心院・西福寺〈以上中山〉・木山寺・捧択寺〈以上向村九音〉・善通寺〈落合博志〉・地蔵寺〈山崎淳〉・薬王寺〈須藤茂樹〉・宝泉寺〈中川真弓〉)のポスターを掲示した。3月には「第1回 覚城院聖教調査進捗報告会―今目覚める、地方経蔵の底力―」を開催し、覚城院調査メンバーから9名の研究者による最新の研究成果を公表した。同月末刊行の『中世禅籍叢刊 第12巻 稀覯禅籍集 続』(臨川書店)においては、覚城院蔵『密宗超過仏祖決』の影印・翻刻・解題を掲載し、翻刻(阿部泰郎)・特論(中山一麿)・解題(伊藤聡・阿部泰郎)がそれぞれ担当して、本書の持つ中世禅密思想上の意義やその伝来が象徴する覚城院聖教の重要性を論じた。
著者
水沼 進 前田 貞夫 白神 太郎 箕浦 有二 座古 寛三郎
出版者
一般社団法人 日本ゴム協会
雑誌
日本ゴム協会誌 (ISSN:0029022X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.441-445, 1966-06-15 (Released:2009-10-20)
参考文献数
3

カルボキシリックポリブタジエンゴムにε-カプロラクタムをグラフトさす反応において, リン酸を触媒として, ゴムへのε-カブロラクタムの添加量の影響, 加熱温度と時間の影響を検討した.その結果, 混入するε-カブロラクタム量が増加するにつれて, ゴムへの結合量は直線的に増加した.また混入ε-カプロラクタム量が40~50部程度の時に良好な物性がえられた.ゴムに結合するε-カプロラクタム量は高温, 長時間加熱するほど増加した.しかし物性面にはゴムの過度のゲル化によると思われる影響が現われ, あまり好ましくないことがわかった.さらに, ゴム用補強剤として代表的なカーボンブラックの影響についても検討した結果, 酸性カーボンよりも塩基性カーボンの方が補強効果が大であった.
著者
伊藤 修一
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100103, 2014 (Released:2014-03-31)

Ⅰ.はじめに 破産は債務者の財産状態が悪化して,債権者への債務完済が不可能となることを指し,日本では破産法に基づく裁判手続きによって認められる(斎藤 1998).法制度の違いはあるが,アメリカ,イギリス,カナダ,オーストラリアなどの先進国では近年個人の破産が増えており,日本も破産事件の8割以上が個人(自然人)によるものであって例外ではない. 破産事件総数の推移は,法務省『司法統計調査年報』に基づいて,山本(2012)などが定量的に説明している.1980年までは3,000未満だった件数は,1983年の貸金業規制法施行と出資法改正の直前の駆け込み的な取立行為が多かったことや,非事業者の破産に破産宣告(破産手続開始決定)と同時に手続を終了させる同時廃止型破産を積極的に適用されはじめたことによって,同年には2.64万件と,それまでの8倍も増加した(第1のピーク).その後バブル景気に伴って1万件台まで減少したが,バブル経済の崩壊のほか,消費者信用の与信枠が拡大されて,「カード破産」が増加したことで1993年には4.62万件まで急増した(第2のピーク).さらに長引く平成不況は1990年代後半から件数の増勢を促して,2003年には過去最悪の25.2万件に達した(第3のピーク).しかし,翌年の貸金業規制法改正や2006年の貸金業法施行で過払金請求が増加したことなどで減少傾向となり,2012年は第3のピーク時の36.8%にあたる9.26万件に至る. このような破産傾向に地域差があることは,晝間(2003)が指摘している.これによると,各県を1985~1998年の破産率の順位の平均と変動の大きさの組み合わせから9分類した結果,変動が最小のグループのうち,高位は九州・中国地方,中位は四国・近畿地方,低位は中部・関東地方の諸県が占める.一方,変動が最大のグループでは高位に九州地方,中低位には東京圏や中京圏の諸県が含まれている.これは,基本的な分布パターンがいわゆる「西高東低」であって,大都市はパターンの変化に重要な役割を果たしていることを示唆している. この分布は第1と第2のピークの間にみられる特徴であり,全国推移の傾向からは1985~1998年の前後で分布が異なることは容易に推察される.そこで,破産率の全国推移が前述のピークに従って,統計的にも4期に区分されるかどうかを確認したうえで,各年の破産率の分布パターンを空間的自己相関統計量を用いて検討する.Ⅱ.分析データ 本研究で用いる破産事件数は『司法統計調査年報』における破産の新受事件数である.この件数は,原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所ごとに集計される.地方裁判所は50か所に立地するが,分析の都合上,県ごとに件数を再集計して用いる.これを住民基本台帳に基づく人口1万で除した値を破産率とする.対象とする期間は全県の統計がそろう1972~2012年とする.Ⅲ.破産率の全国推移 推移の特徴から4期に区分されることを仮定して,クラスター分析によって,傾向をとらえた(図1).第1期は1972~1991年で,破産率が平均0.72‱と全期間中で最低である.続く1992~1997年が第2期で,平均4.25件で第1期の6倍程度増加した期間である.第3期は1998~2001年と2008~2012年に分かれているが,2002~2007年は平均16.1‱と,第3期の10.3‱よりも高く,特異な期間と判別された.Ⅳ.破産率分布パターンの変化 第1期は,モランI統計量が平均0.3程度で推移し,弱い集中傾向がみられる(図1).1972年から第1のピーク直前の1981年までは中京圏と大阪圏の府県で,ローカルモランI統計量により有意な高率の空間クラスターが認められた.ただし,九州地方や東北地方で破産率が急上昇したこともあって,このクラスターは1983年には完全に解消した.同時廃止型破産の積極導入は,分布パターンを激変させた一因であることがうかがえる. 一方で,1980年代前半から第4期の2000年代半ばまでのおよそ20年間にわたって,九州地方では高率の空間クラスターが,北関東や甲信越地方に低率の空間クラスターがそれぞれ形成された.この間のモランI統計量は増加傾向で,1996年からの8年間で7年も0.4を超えており(図1),前述の「西高東低」パターンが強まったといえる. しかし,2003年以降はモランI統計量は急低下して,第3期後半の2009・2010年には有意な負の値を示すように,「西高東低」パターンを形成するクラスターは解消している.特に2007年以降の東京都は全国一破産率が高く,2004年からは平均20.7‱と近隣県よりも有意に高率であり,貸金業への規制が強まる第4期以降に,他県とは異なる例外的な特徴を示している.
著者
田原 範子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.233-255, 2018

<p>本稿は、アルル人の死者祈念の最終儀礼をとおして、死者と生者の交流について論考するものだ。死者祈念の最終儀礼は、死後10年くらいまでに、死者のクランが、他のクランを招待して饗宴をもつことで完了する。2つのクランは、笛と太鼓と踊りに3夜連続、興じながら、死者のティポ(精霊)を祖霊の世界へ送りだしてきた。ところが、ウガンダ共和国ネビ県においては、死者祈念の最終儀礼は1987年が最後であった。このまま儀礼が消滅することを案じた筆者は、パモラ・クランのウヌ・リネージの人びとに協力し、2009年より準備を重ね、2012年3月に簡略化した死者祈念の最終儀礼を行った。</p><p>調査対象の社会に対して、こうした働きかけをすることに迷いがなかったわけではないが、消えゆく儀礼を若い世代へ継承する一助になればという気持ちがあり、映像化を試みた。また、対話的に儀礼を生成する過程をとおして、当該社会の意思決定過程や社会関係を学べるのではないかと考えた。人びとと共に死者祈念の最終儀礼の再興を模索する過程で、パモラ・クランの人びとがコンゴ民主共和国の人びとの支援を受けたり、ウガンダ国内の異なるクランの人びとから助けられたりする状況が明らかになった。この儀礼は、日常生活では関係を密にしない生者たちが再会し、音楽と踊りを楽しみ、共に飲み、共に食べることをとおして、友好関係を再確認する場でもあった。本特集に執筆しているニャムンジョの言葉を借りれば、死者祈念の最終儀礼とは、一過的で集合的なコンヴィヴィアリティを構築する場であった。</p><p>本稿では、こうした死者祈念の儀礼空間に、緩やかな連帯関係にあった生者が参入し、儀礼を共同して構築すること、この一時的で流動的な共同性を、リチュアル・シティズンシップと名付けた。それは、死者という存在によって生者たちが構築する共同性であり、死者と生者が交流する場に現れるシティズンシップである。従来、シティズンシップにかかわる研究は、生者を中心に行われてきた。なぜならシティズンシップの根幹には、法的・政治的・経済的、すなわち現世的な権利や義務の制度があり、そこに死者の存在は勘案されることはなかったからだ。しかし死者や祖霊の存在は、私たち生者の日常生活に深く根をおろしている。本稿では、死者という存在を含めた共同性を考察するために、従来のシティズンシップ概念に死者を含めるリチュアル・シティズンシップという新たな概念を提唱した。その概念を使用することにより、死者祈念の最終儀礼の記述をとおして、アルル人のクラン間の緩やかなつながりを考察し、生者の共同性の底流にあるものを明らかにすることを試みた。</p>
著者
新本 万里子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.25-45, 2018

<p>本稿は、モノの受容を要因とするケガレ観の変容を、女性の月経経験に対する意識とその世代間の違いに着目して明らかにすることを目的とする。パプアニューギニア、アベラム社会における月経処置の道具の変遷にしたがって、月経期間の女性たちがどのような身体感覚を経験し、月経期間をどのように過ごしているのかについて民族誌的な資料を提示する。その上で、月経を処置する道具を身体と外部の社会的環境を媒介するものとみなし、そこにどのような意識が生じるのかを考察する。これまで、パプアニューギニアにおいて象徴的に解釈されてきた月経のケガレ観を、女性たちの月経経験とケガレに対する意識との関連という日常生活のレベルから捉え直す。</p><p>本稿では、月経処置の道具の変遷にしたがい、女性たちを四世代に分類した。第一世代は、月経小屋とその背後の森、谷部の泉という場で月経期間を過ごした世代である。第二世代の女性たちは、布に座るという月経処置を経験した。この世代は、月経小屋が土間式から高床式に変化し、さらには月経小屋が作られなくなるという変化も経験している。第三世代は、下着に布を挟むという月経処置をした女性たちである。第四世代は、ナプキンを使用した女性たちである。各世代の女性たちの月経経験とケガレに対する意識との関係の分析を行い、第一世代の女性たちは、男性の生産の場から排除される自分の身体にマイナスの価値づけだけをしていたのではなく、むしろ男性の生産の場に入らないことによって、男性の生産に協力するという意識をもっていたことを明らかにする。第二世代、第三世代を経て、第四世代の女性たちは、月経のケガレに対する意識を維持しながらも、月経期間の禁忌をやり過ごすことができるようになったことを論じる。</p>