著者
小柳 健一 野田 堅太郎 大島 徹 増田 寛之 塚越 拓哉 桒子 嘉美 木谷 尚美
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.89, no.927, pp.23-00128, 2023 (Released:2023-11-25)
参考文献数
26

When mascot suits or plush fabrics are used to cover a human-friendly robot, frequent sterilization may be required, depending on the use of the robot. However, the effects of such sterilization are not sufficiently understood. In this study, variations in the strength and color values of plush fabrics were measured and quantitatively evaluated following 50 cycles of sterilization by ethylene oxide gas (EOG). The fabrics were composed of boa fabric, which is commonly used in mascot suits and plush dolls, and cloth reinforced with polyurethane foam. The tensile strength and the elongation were measured by the tensile strength test for clothes or clothing seams, in accordance with the standard JISL1096. In terms of appearance, red-green-blue (RGB) color values were obtained from photographs taken under the same light conditions to evaluate the color tone. A friction test was used to evaluate the tactile sensation. These results showed that EOG sterilization did not notably affect the properties of the fabrics; however, a single cycle of autoclave sterilization degraded the fabrics. Notably, the boa fabric shrunk and hardened. Thus, EOG sterilization, which does not feature elevated temperatures, may be an effective sterilization approach for these materials.
著者
本多 正純
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.685-689, 2022-10-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
7

近年量子計算機を取り巻く技術が急速に発展している.ここでは“ユーザー”として,このような発展が場の量子論の数値シミュレーションにどのように役立つかを考える.場の量子論は様々な物理学における共通言語であるが,一部の特殊な例を除いて解析的に解くことは難しい.それゆえしばしば数値計算に頼りたくなるが,現時点では既存の手法では効率的な数値シミュレーションが難しい場面も少なくない.通常場の量子論の数値シミュレーションでは,ラグランジュ(経路積分)形式の場の量子論に対して格子正則化を行い,物理量を表す多重積分にモンテカルロ法が適用される.これはボルツマン重みで与えられる確率で場の配位を生成し,積分を生成サンプルに関する平均によって近似する方法である.しかしながら,ボルツマン重みが正の実数でない場合は,確率解釈を直接適用することができないため,何らかの工夫が必要となる.特に,被積分関数が激しく振動するような場合は様々な工夫を凝らしても解析が難しいことが知られている(符号問題と呼ばれる).これは物理的には例えばトポロジカルな相互作用や化学ポテンシャルがある場合,実時間系などにしばしば現れる.一方ハミルトン(演算子)形式に基づいた数値シミュレーションの場合,技術的に行う問題は積分ではないため,符号問題ははじめから存在しない.しかし場の量子論の状態空間は典型的に無限次元であり,正則化を行った後でも状態空間の次元は“自由度”の増加に対して指数関数的に増大する.そのため非常に大きな次元をもつベクトル空間上で線形代数を行わなくてはならず,典型的には莫大な計算コストがかかる.しかし量子計算機を用いれば,少なくとも一部の問題に関しては計算量が劇的に少なくなることが期待されている.場の量子論を量子計算機に乗せるには,状態空間が有限次元になるような正則化を行った後に,スピン系に書き換えれば良い.多くの場合,はじめに時空の内の空間部分に格子正則化が適用される.フェルミオン場の場合はこれだけで状態空間が有限になり,適当な変換の下でスピン系に書き換えることができる.ボソン場では,特殊な場合を除いて格子に切ってもなお状態空間は無限次元となっているため,数値シミュレーションを行うためにはさらなる正則化が必要となる.本研究において,我々はチャージqシュウィンガー模型の基底状態を構成し,様々な物理量の計算を行った.シュウィンガー模型は作用にシータ項と呼ばれるトポロジカル項をもつが,その係数が小さくないときは符号問題により通常のモンテカルロ法による解析が困難なことが知られている.この模型は境界条件をオープンに取りガウス則を用いると,純粋にフェルミオン場のみをもつ系になり,比較的容易にスピン系に書き換えることができる.基底状態の構成には,断熱近似を量子回路により実装するアルゴリズムを用いた.現在のところ,量子計算機の実機では必要な量子ビット数に対して誤りが少ない結果を得るのは難しいので,ここではシミュレータを用いて数値シミュレーションを行った.最もよく研究されてきたq=1の場合は,カイラル凝縮と呼ばれる量をシータ項の係数が大きい領域も含めて解析を行い,その連続極限を量子シミュレーションの文脈で初めて取ることに成功した.より一般のqの場合は,重い荷電粒子の間のポテンシャルを計算した.フェルミオンの質量が小さいときに信用できる解析的な計算から,このポテンシャルの定性的な性質は,粒子の電荷やシータ項の係数の値に強く依存することが期待されている.シミュレーションにより,このような振る舞いが有限質量でも起きることが分かった.
著者
Takuma Tsuzuki Wada Kazuhiro Yokota Fumito Inayoshi Sakon Sakai Nobuhito Okumura Mayumi Matsuda Iichiro Osawa Yasuto Araki Yu Funakubo Asanuma Yuji Akiyama Toshihide Mimura
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.62, no.24, pp.3699-3706, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
50
被引用文献数
2

We present the case of a 42-year-old woman with rheumatoid arthritis and Sjögren's syndrome treated with adalimumab who developed immune-mediated necrotizing myopathy (IMNM) and trigeminal neuropathy after severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) mRNA vaccination. Trigeminal neuralgia and elevated serum creatine kinase levels emerged 12 days post-vaccination, followed by myalgia in the femoral muscles. IMNM was histologically diagnosed. The pathogenesis may involve molecular mimicry between the SARS-CoV-2 spike glycoprotein and autologous tissues triggered by vaccination. This case emphasizes the association between SARS-CoV-2 vaccination, tumor necrosis factor inhibitor, IMNM, and trigeminal neuropathy, as well as the importance of monitoring immune-mediated adverse events following SARS-CoV-2 vaccination in patients with autoimmune disease.
著者
野田 聖子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.81-84, 2020 (Released:2022-08-03)

「医療的ケア児」という耳慣れない言葉があります。今日は市民講演ということで、専門的な方もいらっしゃいますし、同じ医療的ケア児の親御さんもいらっしゃいます。そういう人からすると医療的ケア児というのはよくご存じの言葉ですけれども、この医療的ケア児が日本で定義づけされたのは2年前です。児童福祉法という法律が改正されて、医療的ケア児は障害児の一人で、「これからは医療だけではなくて、福祉や教育の場でもちゃんとみんなで支えていこう。」と定められたのです。だから、まだほとんどの皆さんがご存じないと思いますが、今日はぜひとも皆さんに医療的ケア児という言葉を認識していただければうれしいなと思いやってきました。 さて、障害というのは、本当にたくさんあります。日本では15年前に発達障害という障害が認知されて、今、申し上げた医療的ケア児が新たな障害児(者)の仲間として法律で定義づけされたのが2年前です。 私の息子はどうかというと、身体障害があり、0歳のときに左脳に血栓が直撃し脳梗塞を起こしたことで右半身麻痺となり、病院からは「おそらく一生寝たきりだろう。」と言われておりました。そして、仮死状態で産まれたことや脳梗塞の副作用もあり、中度の知的障害もあります。身体障害も2級(1級と2級の間ぐらい)で知的障害は中度なのに、なぜ超重症児と呼ばれているのかというと、医療的ケア児に指定されているからです。 これから医療的ケア児について説明をしていきたいと思いますが、私の息子は重複の障害児というふうにご理解いただければと思います。今日のテーマは「医療的ケア児って何だろう」ということですけれども、法律が改正され、ある程度の定義ができています。実は医療的ケア児は、皆さんが知らず知らずのうちにどんどん増えています。もともと重心の子どもたちの中にも、当然、人工呼吸器を使っている子もいれば、自分でモグモグゴックンができない子は胃瘻を使ったり、お鼻から栄養を入れたりしています。こういう子もすべて医療的ケアの枠組みの中に入ります。そのため、突然現れたわけではなく、昔から重心の子どもたちの中には医療的ケアに支えられている子どもたちは沢山いたわけです。 しかし、今回改めて医療的ケア児として定めなければならなかったのは、医療的ケアが必要で一般的な社会生活を送ることに差し支えがあるにもかかわらず、社会福祉を受けられない子どもたち。つまり、私の息子もそうですけれども、重症心身障害の子と違うのは、たとえば寝たきりではないとか、知的にはIQが70以上あって通常の知能を持っているとか、そういうふうになった途端、福祉の枠から外れてしまっていたので、「これは大変だ!」ということになりました。 もう一つは、今、少子化の中で、1人でも多くの小さい命を助けようということで、医療がすごく進歩しています。子ども病院の中には必ずNICUという集中治療室があって、小児科の医師や看護師さんやスタッフの方が24時間懸命に医療を施してくれます。たとえば、350ccのペットボトルぐらいの子どもが産まれたときに、10年前だったら救えなかったであろう命も、今は救うことができるんです。 それで、仮に病院の中であれば一生医療ケアを受けて安全に暮らすことができるのですが、さすがに医療の中でそこまで責任は持てないので、何らかの支えがあったら社会で暮らせるという状態になった途端に病院を卒業することになり、いきなり家が病室と化します。 医療的ケア児を法律で定めたのですが、生きていくために日常的な医療的ケアが必要な子で、一般的に多くの人たちが想像する最期の瞬間に施されるものが医療的ケアだと思ってください。あと1週間延命するためにおなかの中に栄養剤入れますとか、あと1週間生かすために気管切開しチューブを入れて人工呼吸器を装着しますとか、そういうものが医療的ケア児たちが日常的に受けている医療ケアなのです。これまでは、最期の最期のために使われる大道具だったのが、近年医療が進歩して、医療的ケア児が生きていくための小道具化としているわけです。残念ながら一般的には、医療的ケアをしていると聞いただけで敬遠されてしまうのが現状なので、そこのギャップを縮めたくて今日はここまでお邪魔したわけです。 とにかく、子どもたちはたくさんの可能性を持っていて、それを握りつぶしてはいけないのです。高齢者の在宅介護と子どもの在宅介護、同じように思うのですが、無限の可能性を持つ子どもに対しては、高齢者と同じようなケアでは駄目だという意識を持って向き合ってほしいなという思いでおります。 今、申し上げたように、呼吸、肺がちっちゃかったり心臓が悪かったり、そういう不全のところを補うために、人工呼吸器を付けて生きていく子どもたちがいます。二つ目には、さまざまな障害でご飯が食べられない子は、胃瘻を開けたり、お鼻から管を入れて、そこから直接栄養を送り込むという形で栄養を取り育てられています。 こういうものを使っている子どもたちを総じて、その子が重度であろうとなかろうと、ベースメントとして医療的ケア児と呼ぶことになり、この子たちもこれまでの身体障害や知的障害や精神障害や発達障害の子と同じように、差別なく地域社会の福祉の力を借りてちゃんと生きていけるように、首長は責任を持たなくてはいけないということで2年前から検討が始まりました。 しかしプライバシーの問題で、医療的ケア児の様子がなかなか見えないので理解してもらえないことが多いのです。大島分類という障害の判定基準がありますが、寝たきりで重い知的障害の子は確実に守ろうというのがこの国の福祉の形。ところが、お医者さんたちが頑張ってくれたお蔭で生きることができた医療的ケア児の場合は、歩くことができる、走ることができる、そして頭もまあまあ、足し算、掛け算もできるとなると、今までの福祉の枠にははまりません。しかし、歩くことができても、人工呼吸器が外れたらその場で死んでしまうリスクのある子がこの世にたくさん存在しています。要は医療の進歩と福祉の進歩が相まっていないというところが問題で、これは全部法律によって適用させていかなくてはなりません。 日本は少子国家で、今後もその少子化のトレンドというのは変わらない。ところが、医療的ケア児というのは、医師のご尽力や子どもの生きる力や親の努力で、反比例にどんどん増えていくだろうと。今でこそ人工呼吸器や胃瘻程度ですが、補助心臓を皆さんご存じですか?心臓移植を控えた子どもが、移植を待っている間に補助心臓を付けます。これはとても大掛かりなもので、基本的には補助心臓を付けている子どもは入院しています。しかし医師たちの話によると、「このような子たちも、あと数年で病院の中ではなくて、家で生きられるようになるだろう。」と言われています。病院の中で生きるということは正常ではないのですから、子どもにとってはそれが一番良いことなのです。家族と一緒に育つということを、本当は国が責任を持って取り組まなくてはいけない。どんな子であっても、病院にいることがいいことではなくて、病院から一日も早く出してあげて、人として生かすことが大事。その対象になる医療的ケア児が、どんどん増えていることをご理解いただきたいと思います。 現在、学校の先生を減らすという話が出ていますが、こういう子どもたちが学校に入れるように、看護師さんを増やす等、ケアをしてくれる人を増やすという切り替えをしていかなければいけないのではないかと思います。 医療的ケア児に会ったことがない方も多いと思うので、今日はどのような子が医療的ケア児かというニュアンスだけでもわかっていただければ。国会議員の息子なので、どんどん社会の役に立たせようと、今日もこの場に息子を連れてきたかったのですが、学校があって残念ながら連れてくることができませんでした。そのため、息子の写真を見ていただくことで、いろいろな誤解や偏見や差別等を解いてもらいたくて。とにかく難しい説明より写真を見ていただいた方が理解しやすいかなと思い準備をさせていただきました。(講演では写真スライドで説明) 息子は生きていくために、赤ちゃんのときに気管を切開して人工呼吸器と酸素を入れていました。3歳までは24時間の人工呼吸器、酸素ということになりましたが、成長につれて自発呼吸がだんだんできるようになってきていて、現在は夜寝てから起きるまで、就寝時間だけ人工呼吸器のお世話になっています。 息子は産まれてすぐ仮死状態になり、口の中に人工挿管されて私のおっぱいも吸えませんでしたし、口から物を食べるということができなかったので、口は何のためにあるのだろうかとわからないまま育ちました。でも生きていくためには栄養が要るということで、最初は医師から処方されたツインラインという栄養を1回につき2~3時間かけて1日6回胃瘻からあげていました。こうなると親は睡眠もままならない人生を送るわけです。 あるとき夫が、「ツインラインを飲ませてもいいけど、真輝も人だろう。だから人間が食べる物も食べさせてみたいよね。」と言い出し、「じゃあ、手作りのミキサー食をやってみようか。」と、最初は医師に内緒でやりました。食材は30から40品目、旬の食べ物や調味料を工夫し、和食のようなテイストにしました。現在は1日、朝昼夜夜。7時、12時、17時、22時に60ccのシリンジ7本分のおかずとデザートをあげています。 (以降はPDFを参照ください)
著者
Yuki Ishikawa-Ishiwata Yuichi Nosaka Toshinori Usui Hiroshi Sasaki
出版者
The Plankton Society of Japan, The Japanese Association of Benthology
雑誌
Plankton and Benthos Research (ISSN:18808247)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.74-83, 2023-05-31 (Released:2023-05-30)
参考文献数
58

We investigated the growth, thermotolerance, and fatty acid composition of the green alga Desmodesmus sp., which was isolated from a freshwater puddle in Ibaraki, Japan. Incubation experiments on the isolated strain were performed at a range of temperatures (20–40°C) with continuous illumination (110 µmol photons m−2 s−1) and nutrient-replete medium. High specific growth rates of 1.14–1.62 day−1 were observed at 20–35°C, but growth rates declined to 0.59 day−1 at 40°C. Lipid contents were 13.2%–14.4% (% dry weight) at 20–35°C and increased to 21.3% at 40°C. Some microalgae are known to regulate membrane fluidity by changing their fatty acid compositions in response to changes in ambient temperature. We found that the major polyunsaturated fatty acid (PUFA; C18:3 ω3) of Desmodesmus sp. was negatively correlated with water temperature. By contrast, no significant relationship was identified between temperature and the ratio of saturated to unsaturated fatty acids. The negative relationship between ω3 PUFA composition and temperature was stronger among thermotolerant as opposed to non-thermotolerant microalgae. This suggests that thermotolerant Desmodesmus sp. can grow at high temperatures by altering its fatty acid composition to affect membrane fluidity.
著者
武子 愛 児島 亜紀子
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.61-79, 2023-12-16 (Released:2023-12-16)
参考文献数
24

軽度の知的障害がある女性たちの性産業従事に関するこれまでの言説の多くは、彼女たちを性搾取の被害者として捉えるものであった。本研究ではその捉え直しを行うべく、性産業従事経験と婦人保護施設の入所経験があり、かつ軽度の知的障害のある女性たち2名に聞き取り調査を行った。分析枠組みとして反抑圧アプローチ(AOP)における抑圧と抵抗の概念を用いた。結果、彼女たちにとって性産業従事は、周辺化・無力化されにくい場所であり、抑圧に対して抵抗することができる、主体的な行動を発揮しやすい場所であることが明らかになった。
著者
遠山 日出也
出版者
日本女性学研究会
雑誌
女性学年報 (ISSN:03895203)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.40-60, 2023-12-16 (Released:2023-12-16)
参考文献数
62

筆者はこれまで、近代家族は、その基底的特徴である家内領域と公共領域の分離を高い段階で再び統一することによって乗り越えられると論じてきた。「高い段階」と言う理由は、前近代の共同体に戻るのではなく、自立した個人の家族や国家を超えた相互扶助を実現するからである。 公私の両領域の高い段階での統一は、新自由主義がもたらす社会的変化とは方向が逆である。しかし、ナンシー・フレイザーは、第二波フェミニズムと新自由主義の親和性を指摘している。筆者自身も、日本の左派とフェミニズムの一部にある程度そうした傾向が見られること、その背景には、資本主義と家父長制との二元論的理解があることを述べてきた。本稿の第1章では、近代家族論の専門家でありながら「官製婚活」を肯定する山田昌弘にもまたそうした傾向があることを論じる。また、江原由美子のフレイザーに対する応答に関しても、フレイザーの持つ資本主義批判の視点をより生かすことによって、より的確なものになることなどを述べる。 また、家内領域と公共領域の分離の乗り越えは、高い段階の「統一」である必要がある。すなわち、平等主義規範が家族の壁を打ち破るだけでなく、相互扶助を家族や国家の枠を超えて広げることが必要である。さらにそれを人類の枠を超えて「自然」にまで広げるためにはエコロジカル・フェミニズムが重要だが、エコフェミは現在の日本では発展していない。本稿の第2章では、その原因を1980年代のエコフェミ論争に遡って検討し、当時、青木やよひを批判した側が、青木のエコフェミの独自の意義を捉えていなかったことを述べる。さらに、その後のエコフェミの発展も踏まえて、エコフェミを含めた、女性が先覚的におこなってきた社会的再生産のための運動は、近代家族の乗り越えやフェミニズムにとって独自の意味があることやその発展のプロセスを示す。 今後の課題は、一部の左派やフェミニズムにおける新自由主義との親和性の問題とエコフェミの立ち遅れの問題とがどのように関連しているかについて、より具体的に明らかにし、それを通じて、今後のジェンダーをめぐる理論と運動のあり方を考えることである。
著者
Naoki Ushirooka Kotaro Muratomi Shin Omura Satoru Tanigawa
出版者
Active Aging Research Center
雑誌
Journal of Trainology (ISSN:21865264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.24-28, 2023-11-09 (Released:2023-11-22)
参考文献数
26

Objective: This study aimed to examine whether the addition of lower-body aerobic exercise as a warm-up (LGW) improves upper-body resistance training (RT) performance more than a specific warm-up (SW) alone and to investigate whether maximal muscular strength modulates the performance-enhancing effect of LGW. Design: Randomized crossover design. Methods: Fourteen male participants performed 3 sets of 80%1RM bench press under two warm-up conditions. In one con dition, the participants performed only a SW for the bench press exercise. In the other condition (LGW + SW), the participants performed cycling for 20 minutes and the SW for the bench press exercise. Results: There was no statistically significant difference in the total number of repetitions (REPTOTAL) and the mean propulsive velocity (MPV) of the barbell during the concentric phase between the SW and LGW + SW. Also, 1RM did not modu late the relationship between SW and LGW + SW for REPTOTAL and maximum MPV among all sets. Conclusion: This study suggests that the LGW in addition to the SW does not have large additional effects on performance during upper-body RT. In addition, maximal muscular strength does not modulate the performance-enhancing effect of the LGW on upper-body RT performed at 80%1RM.
著者
Takumi Tsutaya Naomi Doi Chiaki Katagiri Rikai Sawafuji Minoru Yoneda
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (ISSN:09187960)
巻号頁・発行日
pp.230718, (Released:2023-12-15)

The development of the modern industrialized food production system has resulted in a homogeneous human diet worldwide. However, it is not clear whether a developed food production system led to a homogenized human diet also in ancient societies. Due to the lack of large archaeological datasets, we know little about the chronological trends and ancient circumstances of dietary homogenization. Here we compiled carbon and nitrogen stable isotope ratios, indicators of palaeodiet, of adult human skeletons from premodern mainland Japan (AD 1603–1868, n = 318) to investigate chronological changes in diet. Comparison with datasets from Japan in modern, premodern (Edo), and foraging (Jomon) periods showed that the human diet was rapidly homogenized isotopically in modern times. Premodern people in Japan typically obtained dietary proteins from C3 crops and fish, and the establishment of agriculture created a new isotope dietary niche compared with the foraging period. Dominant protein contributions from agricultural C3 crops cultivated with organic fertilizers and/or rice that are grown in paddy fields with denitrification increased premodern human nitrogen isotope ratios without increasing their carbon isotope ratios. Diet differed according to the social status of individuals or the availability of foods, and a unique diet can be seen in people in higher social classes such as the Shogun family. Meta-analysis of stable isotope ratios of archaeological human skeletons enables a comprehensive understanding of human dietary change through time and regional variations.
著者
光田 航 東中 竜一郎 李 廷軒 杉山 弘晃 水上 雅博 中村 竜太 安達 敬武 川端 秀寿 吉田 仙 杵渕 哲也
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.1172-1205, 2023 (Released:2023-12-15)
参考文献数
53

本研究では,単一の人物の大規模な対話データを大規模言語モデルと組み合わせることで,対象人物を再現するチャットボット(なりきりAI)を構築した.さらに,構築したチャットボットの公開実験とそのエラー分析を行うことで,現状の到達点と問題を調査した.その結果,構築されたチャットボットは高い自然さとキャラクタらしさを持つことが明らかになった.さらに,対象人物を再現するチャットボットのエラーは,属性に関するエラーと関係に関するエラーに分けられ,また,自己に関するエラーと他者に関するエラーに分けられることが明らかになった.
著者
Satoshi Kutsuna Hiroyuki Ohbe Naoki Kanda Hiroki Matsui Hideo Yasunaga
出版者
Japan Epidemiological Association
雑誌
Journal of Epidemiology (ISSN:09175040)
巻号頁・発行日
pp.JE20230178, (Released:2023-12-16)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Background: Legionella pneumonia, a severe form of pneumonia, is caused by Legionella bacteria. The epidemiology of Legionnaires' disease in Japan, including seasonal trends, risk factors for severe disease, and fatality rates, is unclear. This study examined the epidemiology of Legionella pneumonia in Japan.Methods: This retrospective cohort study included data of adult patients hospitalized for Legionella pneumonia (identified using the ICD-10 code, A481) in the Japanese Diagnosis Procedure Combination inpatient database, from April 2011 to March 2021. We performed multivariable logistic regression analysis to explore the prognostic factors of in-hospital mortality.Results: Of 7370 enrolled hospitalized patients from 1140 hospitals (male, 84.4%; aged >50 years, 87.9%), 469 (6.4%) died during hospitalization. The number of hospitalized patients increased yearly, from 658 in 2016 to 975 in 2020. Multivariable logistic regression analysis revealed that higher in-hospital mortality was associated with older age, male sex, lower body mass index, worsened level of consciousness, comorbidities (congestive heart failure, chronic renal diseases, and metastasis), hospitalization from November to May, and ambulance use. However, lower in-hospital mortality was associated with comorbidity (liver diseases), hospitalization after 2013, and hospitalization in hospitals with higher case volume.Conclusions: The characterized epidemiology of Legionella pneumonia in Japan revealed a high mortality rate of 6.4%. To the best of our knowledge, this is the first study to demonstrate a higher mortality rate in winter and in patients with congestive heart failure and metastasis. Further research is needed to understand the complex interplay between the prognostic factors of Legionella pneumonia.