著者
渡邉 仁
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.1-30, 2020-12-23

本研究では,国内外の高校における学校適応研究の研究動向を掴み,今後の研究課題を指摘することを目的とした。具体的には,学校適応の実態把握,関連要因,学校適応が他の問題に及ぼす影響を検討した研究を概観した。その結果,学校タイプや学年によって生徒の学校適応の様相が異なり,学校適応の関連要因は多岐にわたっていることが示唆されていた。また,在学中の学校適応が卒業後にまで影響していることが指摘されていた。社会的背景に困難を抱える生徒が多い非進学校では,生徒は入学してすぐに学校適応問題に直面し,教師の働きかけによって適応することもあれば,留年や中退することもある。しかし,これまでの学校適応研究では教師側の視点や生徒の社会的背景,留年や中退等は検討されていない。したがって,今後は高校の多様性や学年差を考慮し,留年や中退も視野に入れ,教師側の視点や生徒の社会的背景をみる観点から検討する必要性が示唆された。
著者
揚妻 直樹
出版者
北方林業会
巻号頁・発行日
pp.114-117, 2009-03

北の森づくりQ&A : 北方林業創立60周年誌
著者
佐野 博之
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.19-49, 2020-01-17

アリンガムとサンドモによる脱税のモデルは多くの実証研究を誘発し,それらは理論分析の結果のいくつかが現実と乖離していることを明らかにした。特に,理論分析により予測される社会の平均脱税額は現実をはるかに上回ることから,納税者は金銭的動機だけで脱税額を決定していない可能性が示唆された。これに対して,理論モデルは非金銭的動機をもたらす心理費用を納税者の効用関数に組み込んで分析することで現実との乖離を説明しようとし,実験室実験を中心とした実証研究は心理費用が納税者の行動に影響していることを強く示唆してきた。本稿ではまず,アリンガムとサンドモ以降の脱税研究を,理論と実証の両面からサーベイする。最近の脱税研究は,他の納税者の行動の観察を通じて心理費用が変化するような社会的納税者に注目している。このような社会的納税者が存在すると,税情報公開が脱税抑止のための有効な手段になる可能性があるため,税情報公開の効果を調べた実験室実験が数多く行われている。本稿では,これまでの脱税研究とそれらの実験室実験の結果を基に理論モデルを構築し,税情報公開の効果を分析する。さらに,このような理論分析の限界を示す。
著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.11-18, 2022-06-09

不可分財を人数に比例して配分する問題は,衆議院や下院で 議員定数を地域人口に比例して配分する定数配分の問題が その典型である。 本稿ではアメリカ下院議員の州への配分で用いられた最大剰余方式 や除数法の代表的な方式に関して,その方法や理論的背景を 述べていく。特に,よく使われる d'Hondt 方式が除数法の Jefferson 方式であることを示した。 日本では衆議院小選挙区の議員定数を各都道府県に配分する 定数配分の問題が有るが,「一票の格差」をできるだけ小さく する目標が有り,2016年の選挙改革法では,早晩 Adams 方式 を使うことが決まっている。2021年10月末の第49回衆議院議員 総選挙に関して,実際の配分,Adams 方式の配分,Hill 方式 の配分を比べ,それぞれの「一票の格差」を計算した。
著者
増田 弘
出版者
立正大学法学会
雑誌
立正法学論集 = The Rissho law review (ISSN:02864800)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.93-115, 2021-03-20
著者
下出 茉波
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.9, pp.84-100, 2017-03-10

池澤夏樹「キップをなくして」は、『小説 野性時代』にて二〇〇三年十二月から二〇〇五年三月にかけて連載された小説である。連載が終了した四か月後である二〇〇五年七月には大幅な本文の修正を加え、角川書店より初版を刊行しており、また文庫版がその四年後である二〇〇九年六月に発売されている。この作品には多くの実在する駅や地名が登場し、それが物語の魅力の一つでもある。駅構内の様子や電車が発車する時刻なども忠実に再現されており、読者はまるで実際にその駅で登場人物たちと行動を共にしているかのような錯覚に陥るだろう。また、物語の主人公が小学生でありながら、生と死という重いテーマについて向き合っているのも、この作品の特徴だといえる。作者である池澤の価値観をベースに、作品では生と死という問題について分かりやすく解説されており、清々しい気持ちで読者も物語を読み進めることができるだろう。だが、それと同時に読んでいる最中にどこか釈然としない感覚もある。主人公であるイタルがやけに大人じみているのである。時代設定も連載当時より一昔前であり、最後の旅行の行き先もなぜ急に北海道なのか。そのわりに鉄道関係の描写は非常に丁寧で、現実味を帯びている。これらの諸問題について、旦敬介が文庫版にて解説を添えている。旦はこの作品の時代が、書かれた二〇〇三年ではなく一九八七年前後であることに注目し、一九八〇年代後半の鉄道文化に焦点を当てている。国鉄が廃止になり一九八八年四月一日からは民営化されたJRが発足し、一九八八年三月には本州と北海道を結ぶ青函トンネルが、同年四月には本州と四国を結ぶ瀬戸大橋が開通した。なお、本州と九州を結ぶ関門トンネルは随分と昔である一九四二年に開通している。このことについて旦は、「きわめて具体的な意味で、日本列島が歴史上初めて、ひとつに統合されたのが一九八八年の春」であり、「連絡船の時代の終わり、鉄道の(ひとつの)時代の終わりに対して池澤さんが捧げた別れの歌だったようにも見えてくる」と、作者である池澤について語っている。また、寝台列車や厚紙のキップ、駅員さんの入鋏作業など、今はなきものが多く存在していたのがこの作品の時代であり、「すっかりファンタスティックな物語であるように見えて、これはある意味で実は、きわめて現実に密着したリアリスティックな物語」であると解説を締めくくっている。旦は一九八〇年代後半の鉄道文化に注目しているが、作品の連載が始まった二〇〇三年当時の鉄道文化については触れられていない。二〇〇〇年代前半の鉄道文化に焦点を当ててみると、その時期は交通ICカードの導入が開始され、鉄道に乗車する際のシステムの移り変わりの時代であった。第一章では、タイトルにもある「キップ」に成り代わるものとして登場したICカードに注目する。キップとICカードの性質の違いから、池澤の連載当時の様子を考察したい。また、この作品は昭和五〇年に発表された黒井千次「子供のいる駅」という短編と、設定が似ていることが指摘されている。第二章では「キップをなくして」と「子供のいる駅」を比較し、両作品でのキップの描かれ方についてまとめたい。第三章では池澤の作品に対するインタビューから、第四章では作品に実際に登場する駅から作品の深層を読み取り、「キップをなくして」という作品に対する読みを深めていきたい。
著者
佐藤 隆太郎
巻号頁・発行日
2021-03

Supervisor: 上原 隆平
著者
平田 未季
出版者
北海道大学高等教育推進機構国際教育研究部
雑誌
日本語・国際教育研究紀要
巻号頁・発行日
vol.26, pp.42-65, 2023-03

本稿では、江別市を事例とし、来訪者との国際交流を目的として活動を開始した住民有志による団体が、地域の内なる国際化に目を向け日本語教室を開設するに至るまでの過程と、彼らが教室の運営において抱える課題や思いを、当事者へのインタビュー調査に基づき記述する。インタビューから、当事者が、日本語教育や多文化共生支援は専門家が行うものであり自らが主体的に関われるものではないと認識していること、日本語教室が軌道に乗らない中でかつての国際交流活動こそが多様化する市において必要な活動ではないかと考えていること、しかし、現在の文脈で国際交流を中心とする団体には戻ることは難しいという意識があることが分かった。本稿では、日本語教室が団体にもたらした質的変化についても述べ、地域日本語教室の存在意義について考える。