著者
松嶋 麻子
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

重症熱傷患者の死亡は、受傷早期の循環不全(いわゆる熱傷ショック)とその後に訪れる敗血症が主な原因である。今回は、重症熱傷患者の救命を目的に、社会保険中京病院(現独立行政法人地域医療機能推進機構 中京病院)で行った調査と感染対策について報告する。1.敗血症の起因菌と感染対策敗血症で死亡した広範囲熱傷の患者を調査したところ、約6割の患者において、創、痰、尿、血液、カテーテルのいずれかからmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)が検出され、全員から多剤耐性緑膿菌が検出されていた。これに対し、接触予防策と環境整備を中心とした感染対策を施行したところ、MRSAの検出率に大きな変化はなかったが、多剤耐性緑膿菌の検出率は1/3まで低下した。敗血症の発症率および受傷から敗血症を発症するまでの日数は感染対策の前後で変化はなかったが、多剤耐性緑膿菌による敗血症が減少した結果、死亡率は半減した。2.熱傷患者におけるToxic Shock Syndrome (TSS)TSSは、急激にショックから多臓器不全に陥る病態である。小児の熱傷患者における発症頻度は2.5-14%とされており、診断に至らず治療が遅れた場合には死亡率は50%に上ると言われている。成人では思春期までにTSST-1に対する中和抗体が産生されるためTSSの発症は極めて稀と考えられてきたが、近年、MRSAの院内感染により発症するTSSが小児だけでなく、成人でも問題となりつつある。我々の調査研究では、熱傷患者のMRSA院内感染によるTSSの発症頻度は8.2%であり、年齢や熱傷面積の分布に一定の傾向は認めなかった。TSST-1を産生するMRSAに感染した患者の内、TSSを発症した患者は発症しなかった患者と比較して、来院時の抗TSST-1抗体は低かった。TSST-1を産生するMRSA株が蔓延する施設においては、小児、成人に関わらず、MRSAの院内感染によるTSSの発症を考慮する必要がある。
著者
岩田 知孝 浅野 公之 宮本 英 緒方 夢顕
雑誌
日本地震学会2022年度秋季大会
巻号頁・発行日
2022-09-15

2022年6月19日に石川県能登地方でMJ5.4の地震が発生して,K-NET正院(ISK002)では震度6弱を観測し,周辺で被害が生じた.この記録は周波数1Hz程度が卓越していることが見てとれた.染井・他(2022)では,ISK002を含む北陸地方の強震観測点記録を用いて,スペクトルインバージョンにより観測点サイト増幅特性を求めているが,ISK002のそれは,地震基盤面相当の地表観測点のサイト増幅特性を2とした時に,解析周波数帯の0.2-10Hzにおいて,10倍以上の増幅特性を持っていることが示されている.染井・他(2022)では観測点サイト増幅特性を1次元重複反射理論に基づく理論増幅と仮定して,当該サイトのS波速度構造の推定も行っている.これらの結果からはISK002においては,工学的基盤面相当以浅の浅部地盤構造による地震波への影響が大きいと推定されている. 一方,珠洲の平野部においては,1993年能登半島沖地震(MJ6.6)においても建造物被害が発生しているが,単点微動による地盤の卓越周波数特性から,被害を及ぼした地震波の特性と沖積層厚についての議論がなされていた(土質工学会・1993年地震災害調査委員会(1993)). 本研究ではこれらの調査結果を踏まえ,微動アレイ探査を実施し,当該地域の地質ボーリング資料などをもとに,ISK002及び周辺地域の浅部地盤構造と地震動増幅特性についての議論を行う. 参考文献:社団法人 土質工学会・1993年地震災害調査委員会(1993), 1993年釧路沖地震・能登半島沖地震災害調査報告書,404pp. 染井一寛・浅野公之・岩田知孝・大堀道広・宮腰 研(2022) , 北陸地方の強震観測点におけるサイト増幅特性とそれを用いた速度構造モデルの推定,京都大学防災研究所研究発表講演会, B120. 謝辞: 国立研究開発法人防災科学技術研究所強震観測網(https://doi.org/10.17598/NIED.0004)のデータを利用しました.関係諸氏に感謝致します.本研究は令和4年度科学研究費(特別研究促進費)「能登半島北東部において継続する地震活動に関する総合調査」(22K19949,研究代表:平松良浩(金沢大学))によるサポートを受けました.記して感謝致します.
著者
仲内 悠祐 佐藤 広幸 長岡 央 佐伯 和人 大竹 真紀子 白石 浩章 本田 親寿 石原 吉明
雑誌
日本地球惑星科学連合2021年大会
巻号頁・発行日
2021-03-24

Smart Lander for Investigating Moon (SLIM) project will demonstrate a “pin-point” landing within a radius of 100 m on the lunar surface. It will be launched in FY2022. The SLIM aims “SHIOLI” crater (13.3º S, 25.2º E) to derive the detailed mineralogy of the olivine-rich exposures to investigate the composition of the lunar mantle or deep crustal material, and understand their origin. The Multi Band Camera (MBC) is the scientific instrument on board SLIM lander to obtain Mg# (= molar Mg / (Mg + Fe)) of lunar mantle materials. The MBC is composed of a Vis-InGaAs imaging sensor, a filter-wheel with 10 band-pass filters, a movable mirror for panning and tilting, and an autofocus system. The MBC observes the boulders and regolith distributed around the lander. Since various distances to the objects are expected from a few meters to infinity, the MBC is equipped with an auto-focus (AF) system. The MBC uses the jpeg compression technique. An image with maximum sharpness taken in a best focus position will have the largest image file size after JPEG compression. Using this characteristic, the AF algorithm is designed to automatically find the focus lens position that maximizes the image file size after jpeg compression. Our AF system has been tested using the Engineering Model of MBC (MBC-EM). The imaging target is a picture of lunar surface obtained by previous spacecrafts and basaltic rocks from Hawaii. Our results suggest that the amount of initial movement is important parameter. In the presentation, we will show the results of AF system, and MBC operation plan.
著者
藤井美優
雑誌
サイエンスキャッスル2018
巻号頁・発行日
2018-11-21

<考察・展望>仮説ではエノキと同様に明所条件が色素形成には良いと考えていたがまったく逆の結果となった。ジャガイモ抽出液及びショ糖共に添加量の多い処理区で良好な結果となったため、さらに高い濃度の処理区を設け再度実験を行いたい。菌糸が液体培地の表面のみで生育していることから、幅が広い培養器に薄く培養液を入れ効率化を図りたい。熱に弱い色素があると解ことから、酸抽出法で他のキノコはどのように発色するのか調べてみたい。
著者
奥川 純子中井 昭夫
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【背景と目的】 近年,習慣的運動,特に協調への介入が認知機能を向上させることが報告され,神経発達障害の中核症状を改善させる可能性も示唆されている.ラジオ体操は広く普及し,短時間で,屋内でも実施可能な,音楽に合わせた,左右対称の全身運動である.本研究は,DCD特性のある子どもに対し,ラジオ体操を用いた身体性からの介入が,協調のみならず,神経発達障害の中核症状や情緒,適応行動に与える影響を客観的尺度を用いて検証することを目的とする.【方法】 放課後等デイサービスに通う小学2〜5年生の25名を,ラジオ体操を8週間実施群と未実施群の2群に分け交叉試験を行った.毎朝zoomで参加できるよう設定し,開始時,交叉時,終了時の3回,M-ABC2,DCDQ,AD/HD-RS,SDQ,VinelandⅡにより評価し,また,インフォーマルな評価として経過報告,終了時アンケートを実施した.本研究は武庫川女子大学教育研究所倫理審査委員会の承認を受け,参加者およびその保護者から同意を得て実施した.【結果】1)協調 開始時のM-ABC2においてDCD/DCD疑いと判定とされた児の79%に改善を認めた.特に「手先の器用さ」の改善が大きく,開始時に5パーセンタイル以下であった児の82%に改善を認めた.2)AD/HD特性 全体の48%でAD/HD-RSのスコアの改善を認めた.3)情緒の問題 「情緒の問題」は1群で57%,2群で55%が改善した.「総合的困難さ」は,1群で36%,2群で55%が改善した.4)適応行動 1群は「日常生活スキル」が50%,「社会性」が64%で,2群では「社会性」が55%で改善した.zoomがラジオ体操に参加した動機となった参加者の81%に「社会性」の改善が見られた.5)介入前後の各検査間の相関の変化 開始時と終了時の各検査間の相関の比較では,M-ABC2のスコアが改善したことにより,他の検査間データとの相関が弱まり,また,SDQとその他の相関も弱まった.一方で,DCDQ,AD/HD-RS,Vineland Ⅱの相関はあまり変化なく,子どもの日常生活での困難さは,単純に個別検査における課題遂行能力だけでは推し量れないことが示唆された.6)インフォーマルな評価 「生活リズム」「身体機能」「社会性」「AD/HD特性」に関する肯定的な回答が上位を占めた.診断/特性ごとで見ると「身体機能」はDCD特性がある児,「社会性」はASD特性のある児,「AD/HD特性」はAD/HD特性のある児でそれぞれ肯定的な感想が得られた.「生活リズム」については特性にかかわらず,肯定的な意見が多かった.【考察】 習慣的運動が認知機能を高めることは,既に成人では多く報告されているが,本研究から,神経発達障害の特性のある小児でも中核症状,情緒,適応能力の改善効果があり,その期間は2か月,1回約3分というラジオ体操でも効果があることが示された.頻度に関しては,週4日以上でその効果が大きかった.また,全身運動であるラジオ体操により「手先の器用さ」の改善が認められたことは,活動指向型・参加指向型アプローチとして微細運動に介入する際にも,身体機能指向型アプローチを組み合わせることが有用であることが示唆された.神経発達障害の特性のある子どもに対するオンラインによる継続的運動により,小集団での社会性の促進,体性感覚の弱さに対する視覚フィードバック,セロトニンやBDNFを介した中枢神経系,睡眠に与える効果などが複合的に協調を改善させ,さらに,中核症状,情緒,適応能力にもよい影響を与えた可能性が考えられる.
著者
山田 俊弘
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

日本地球惑星科学連合の英語表記は Japan Geoscience Union となっており,Geo (地球)関連学会の連合組織であることを示唆している.言い方をかえれば earth science のことであるが,これは戦後発足した地学教育の「地学」earth sciences に通じる.「地学」には天文分野も含まれており,ある意味では現在の「地球惑星科学」に近い内容だからである.しかしこうした領域設定がどのような背景で1940年代の時点で出て来たのか必ずしも十分に説明されていない.戦後地学教育の成立に主導的な役割を果たした地質学者の一人小林貞一 (1901–1996) の足跡を追うことによってこの問いに答えられないか検討してみたい.​ 小林が1942年に公にした地学教育の振興策についての論考ではすでに「地学を地球を対象とする諸学の総称と解するのが最も適切であろう」として,地球を宇宙の一天体として見る天文学や,固体地球物理学,海洋学,気象学まで含めていた (小林 1942: 1474).戦後になるとその主張は明確化し,「地学」とは「地球の科学 (Earth Sciences) の事である」として,古今書院の地学辞典 (1935) や旧制高校の地学科の内容を例に,地質学を主体としつつ地球物理や測地,地球化学,天文気象,気候,海洋,湖沼等を含めた分野と定義した (小林 1946 : 17).同じ時期に地学教育を推進した藤本治義 (1897–1982) が地質学鉱物学を中心に「地学」を考えていたことをみれば,小林の認識の新しさがわかる.​ このような小林のある種の確信に満ちた主張の背景には1930年代までに知られるようになってきた宇宙の進化や太陽系の形成についての諸説があったと考えられる.​ たとえば天文学者の一戸直蔵 (1878–1920) が翻訳したアレニウス (Svante August Arrhenius, 1859–1927) の関係書は,『宇宙開闢論史』(小川清彦と共訳)(1912年),『宇宙発展論』 (1914年),『最近の宇宙観』 (1920年) と出版されていた.一方,京都帝大で宇宙物理学の分野を開拓した新城新蔵 (1873–1938) の天文関係書には,『宇宙進化論』 (1916年),『天文大観』 (1919年),『最新宇宙進化論十講』 (1925年),『宇宙大観』 (1927年) などがある.またハッブル (Edwin Powell Hubble, 1889–1953) の The Realm of the Nebulae が『星雲の宇宙』として翻訳されたのは1937年のことだった(相田八之助訳、恒星社).​ 小林が京都時代に新城の一般向けの講演を聞いたかどうかわからないが,1930年代にアメリカで在外研究をした際に,ヨーロッパを含む多くの博物館を見学したことも考慮に入れると,このころまでの地球像の提示が宇宙や太陽系の生成を含むものになっていたことを実感していたことが彼のジオサイエンス観の背景にあったと推測されるのである.引用文献小林貞一 1942: 地学の特質と教育方針, 地理学, 10, 1473-1494.小林貞一 1946: 地学とは何ぞや, 地球の科学, 1-1, 17–19.
著者
髙木智子 松本修治 横田健一 阿部雅弘
雑誌
コンクリート工学年次大会2023(九州)
巻号頁・発行日
2023-06-16

コンクリートの高所への場内運搬において,圧送行った場合と,バケットを用いた場合のコンクリートの品質変化を比較する目的で,施工中の斜張橋主塔を対象に運搬前後のスランプ,空気量,圧縮強度試験を実施した。また,品質変化が耐凍害性に与える影響として,気泡径分布とスケーリング量を測定した。その結果,コンクリートポンプにより圧送した場合,スランプが低下したことに加え,空気量は増加し圧縮強度が低下した。一方,バケットにより運搬した場合,品質変化は確認されなかった。スケーリング試験の結果,打込み方法によらず場内運搬後のコンクリートが良好な耐凍害性を有していることが確認された。