著者
松尾 諒 堀之内 龍一 酒井 敏
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

森という場所は涼しい。都会の中にある木々に囲まれた公園でさえもそれは同じである。ではなぜ涼しいのかということについては突き詰められていない。漠然と、街と森とでは森のほうが気温が低く、相対湿度が高いということがわかっているだけだった。また植物が蒸散を行うということから、植物の蒸散量を計測することは植物の生態への興味や都市緑化のためなどの多角的な方向から盛んに行われてきた。そこで「蒸散量」という「観える」値は水蒸気という言葉と関連付けられ「観える」値として認識されていった。故に「植物が蒸散を行うから森や公園は涼しい」という意見は一般に広まっているように思える。しかし、もっと単純に気温と水蒸気量を眺めてみるとどうだろうか。これまででも街と森の気温と相対湿度を観測し、その差を見るということについては試みられてきたはずである。しかし、少し前までの相対湿度のセンサーというのは、誤差が±5%と大きいものが多く、気象庁のJMA-10型地上気象観測装置の湿度計でやっと誤差±1%という観測精度であった。もし街と森とで湿度を比較しようとしても、この誤差の大きさでは森のほうが相対湿度が高いという大まかな差は分かるものの、大気中の水蒸気量を比べるといった細かな差を測ることはできなかった。しかし、昨今のIT化や産業の自動化、モバイル端末の普及などによりセンサー市場の需要が高まる中で、センサーの精度も飛躍的な向上が見られた。そして相対湿度センサーについても誤差±0.2%とするものが現れたのだ。これにより今まで「観えなかった」ものが観えるようになってきたのだ。すなわち、街と森での大気中の水蒸気量の差が有効なデータとして観測できるようになったのである。すると街と森での気温と水蒸気量について見えてきたものがある。まず、街と森の気温差と水蒸気量差の変化は連動しないということだ。もし、水の蒸発によって街と森で気温差がつくのであれば気温差と水蒸気量の差は比例するはずである。しかし実際には午前中のうちに気温差は最大となり、水蒸気量の差は殆ど変化しない。水蒸気量の差が大きくなるのはその後である。次に森は街よりも常に気温が低いということだ。常にというのは季節に関係なく、昼夜を問わず、まさに常にである。これは森に常に気温を冷やす要因があるということを示している。そうでなければ、放射冷却の影響を考えると、少なくとも夜は森のほうが気温が高くなるはずだからである。更に飽差(ある温度と湿度の空気に、あとどれだけ水蒸気の入る余地があるか)と街と森の水蒸気量の差の間には非常に高い相関があることが分かった。これはすなわち街と森の水蒸気量の差について、植物の生物的な作用による説明ではなく、大気の混合過程のみで説明できる可能性を示している。現在はこのことを検証するために、街と森における気温と相対湿度を一年を通して観測しようとしており、今回はその経過を発表するものである。
著者
髙原千紗
雑誌
サイエンスキャッスル2018
巻号頁・発行日
2018-11-21

<考察・展望>ポカリスエットは豆腐を作ることが出来るので、災害時に適している。また、マグネシウムは汗によって体外に出されるので、汗をかいたときにも適する。アクエリアスには必須アミノ酸が含まれていて、運動時のエネルギー源として重要な役割を果たし、疲労回復効果がある。しかし、ポカリスエットにはそれらが含まれていないため、疲労回復にはアクエリアスが適している。スポーツドリンクで作った豆腐は、残念ながら私の口には合わなかった。
著者
清水 星香 江口 幸臣 森脇 典弘 中野 貴文 池内 忠宏 兼重 晋 神村 英利
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】現在,福岡大学病院でのEnterococcus faecium(E. faecium)感染症に対するバンコマイシン(VCM)の投与は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)感染症に対する投与方法を基に設計されている。しかしながら,E.faecium感染症に対するVCMの有効性および安全性を評価する指標は検討されていない。そこで、E. faecium菌血症に対するVCMの適切な投与方法を後方視的に検討するため,薬物血中濃度と有効性、安全性の関連を調査した。【方法】2010年4月~2020年12月に血液培養でE. faeciumが分離された患者のうち,VCMが投与された症例を対象とした。有効性の指標は,体温,白血球数,C-reaticve protein値とし,改善かつE. faeciumが消失した場合を有効と判定した。一方,安全性の指標は,血清クレアチニン値の変化量とした。VCMのarea under the blood concentration-time curve(AUC)およびE. faeciumに対するminimum inhibitory concentration(MIC)を用いてAUC/MICを算出し,治療成績との関連を調査した。AUCはVCMのトラフ濃度を基にTDM解析ソフトウェアを用いて算出した。【結果】E. faecium感染症に対してVCMが使用された32例のうち,発熱がみられなかった4例とVCM血中濃度測定が未実施であった1例を除いた27例を対象とした。対象患者のうち,5例が有効と判定された。有効例のうち,4例はAUC/MICが1000以上であり,このうち2例に腎障害がみられた。【考察】本研究によりVCMのE. faecium菌血症に対するPK/PD指標としてAUC/MIC≧1000が必要である可能性が示された。一方で,高用量のVCMによる腎障害のリスクを考慮する必要があり,TDMの重要性が示唆された。
著者
久保 儀忠 栗栖 幹典 大屋敷 岳男 寺井 桃加 中川 勉 柴山 良彦
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】医薬品の一包化調剤は、薬剤管理の簡便性が高まり、患者の服薬アドヒアランスの向上につながるため広く利用されている。エゼチミブ‐アトルバスタチン配合錠は、分包または一包化した際の安定性に関する資料がないため、PTPシートのまま保存及び調剤することが推奨されている。本検討は、エゼチミブ‐アトルバスタチン配合錠を多湿の条件下で保存した際の性状の変化について製剤試験を用いた検討を行った。【方法】エゼチミブ‐アトルバスタチン配合錠は、アトーゼット配合錠®HDを対象とし、相対湿度75%、30℃の条件下で4週間保存し、質量の測定、硬度試験、崩壊試験及び溶出試験を行い、保存前後における試験結果を比較した。【結果】アトーゼット配合錠®HDは吸湿により、質量が増加した。硬度試験の結果、PTPから取り出した直後の硬度が平均21.4㎏に対し、4週間保存後は平均11.7㎏に低下した。水を試験液とした崩壊試験の結果、崩壊に要した時間は、PTPから取り出した直後の場合は平均7分20秒であったのに対し、4週間保存後は平均42分38秒に延長した。溶出試験第2液にポリソルベート80を添加した試験液を用いて溶出試験を行った結果、アトルバスタチンの溶出率は保存後に著しく低下し、エゼチミブの溶出率はやや増加した。【考察】アトーゼット®配合錠は、フィルムコーティング錠であるが、吸湿によって錠剤自体の硬度は低下するものの、崩壊試験における崩壊に至る時間の延長から、フィルムコーティングの性状に変化が起こるものと推察された。また、溶出試験の結果から、高い湿度の保存条件下において、エゼチミブ‐アトルバスタチン配合錠をPTPから取り出し、長期間保存することは望ましくないものと考えられる。
著者
炭家 千尋 大川 貴治 男乕 夏実 川合 いずみ 浅香 えみ子
雑誌
第21回日本救急看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-09-03

【背景・目的】 Rapid Response System(RRS)は予期せぬ院内心肺停止率、死亡率の低下や入院日数を削減する可能性が示唆され、国内外の医療安全指針に採用されている。RRSの第1コンポーネントである求心的視点(患者のバイタルサイン等の異常への気づきとRRSの起動)は、看護師の状況認識力のひとつであるため、能力差により状態変化を見逃される可能性があることから、モニタリングの重要性が強調されている。しかし、全患者に生体情報モニターによる観察を行うことは、物理的に不可能である。これらの現状から、看護師の能力差によらず、患者への負担が最少で状態変化の把握ができ、適切なタイミングでの訪室と観察に繋がるシステムが望まれる。そこで、介護施設において、「見守りシステム」として利用されているパラマウント製品の「眠りSCAN®」が急変の前兆を早期に確認する患者安全のデバイスとして活用可能性があるのではないかと着眼した。しかし、眠りSCAN®は生体情報モニターではないため、患者の病態を正確に反映するものではない。ただし、患者の状態変化を示す呼吸数と心拍数が眠りSCAN®により得られる指標として含まれる。そこで、眠りSCAN®の指標が患者の病態変化を捉える看護師の感覚を裏付けることができるかを検証することとした。【方法】 ベッドサイドで呼吸・循環を持続モニタリングする必要のない救命病棟入院患者に対して、眠りSCAN®を退院まで使用した。人工呼吸器装着中の患者と15歳未満の小児患者は対象から除外した。眠りSCAN®で得られる指標(呼吸回数、心拍数、活動量)のうち、急変前兆候を示す呼吸と心拍数に焦点をあて、設定数を逸脱した場合には訪室し、患者の迅速評価、一次評価を行った。但し、眠りSCAN®によるデータに変化がない場合も看護師の懸念が生じた場合は訪室することを前提としている。【倫理的配慮】 得られたデータは匿名化を図り、機密性確保に努めた。また、研究発表後は再現不可能なかたちでデータは破棄をする。【結果】 対象患者は28名であった。看護師が訪室しようと思うレベルの数値が眠りSCAN®で示された患者に迅速評価・一次評価を実施した結果、眠りSCAN®の数値は、実測の呼吸数や心拍数、と差異がなかった。一時的に眠りSCAN®で逸脱した値を示した症例は、体動や咳嗽反射によって現れた生体反応であった。持続的に眠りSCAN®で逸脱した値を示した症例は、疼痛や喘息発作、発熱による生体反応であった。【考察】 看護師が「何かおかしい」と感じて観察する状態のバイタルサインと眠りSCAN®が表すシグナルは差異が無く反映していることが明らかとなった。よって、眠りSCAN®の指標は患者の病態変化を捉える看護師の感覚を裏付ける可能性が高いことが示唆された。 しかしながら、本研究で対応した看護師は中堅以上であったため、経験値などによって差が見られないかという点においては追研究が必要である。さらに、眠りSCAN®は医療機器や耐圧分散式エアマットレスの振動を読み取るという特性を踏まえた対象患者の選定と、同時にサンプル数を増やして追研究することで、この先、急変の前兆を早期に確認する患者安全に役立つデバイスとして医療現場で使用できる可能性が高まると考えられる。
著者
佐藤 洋祐 松田 律史 民谷 健太郎 増井 伸高 松田 知倫 瀧 健治 丸藤 哲
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】我々はしばしば悪性症候群(NMS)に遭遇する。またICU-acquired weakness(ICU-AW)が知られているが、近位筋が侵され中枢神経に影響はない。今回我々はNMSに中枢神経を含む全身性の神経疾患を合併した一例を経験したので報告する。【臨床経過】60歳代男性。搬送3日前より四肢の脱力・感覚鈍麻を自覚、歩行困難・呂律障害も出現し当院搬送となった。既往症は双極性障害と脂質異常症で、内服薬は炭酸リチウム 600mg/日、クロチアゼパム 15mg/日、メコバラミン 1.5mg/日、フルニトラゼパム 2mg/日、ゾテピン 25mg/日。来院時現症:GCS E4V5M6, 瞳孔 4+/4+、RR 12/min、SpO2 98%(室内気)、HR 134bpm、BP 161/118mmHg、BT 36.8℃。頭部・胸腹部および脳神経(II-XII)に異常所見認めず、上下肢の脱力及びdermatomeに一致しない感覚鈍麻を認めた。頭部CT/MR、CXR、胸腹部CT、ECG及びUCGに特記所見は認めなかった。血液検査で軽度の白血球増多およびCRP高値を認めた。23年来のLi内服者で、血中Li濃度は低値だったが晩期リチウム中毒として入院加療を開始した。補液により感覚鈍麻は改善したが、四肢の脱力と、横隔膜の筋力低下を認めた。髄液検査では蛋白細胞解離を認めたが、原因は不詳であった。GBSやCIDPを考慮し各種検査を追加したが、オリゴクローナルバンドやGQ1b抗体、GM1抗体は陰性で、髄液HSV抗体は既感染パタンだった。血清IgG抗体は高値を示したが、IgG4は正常範囲に留まった。HIVは同意が得られず検査できなかった。第4病日に意識レベルの低下と頻脈を認め、第5病日に発熱、眼球の上転、著名な発汗をきたし、NMSを疑い診断基準を検討したが、CKの上昇や筋強剛は認めなかった。EEGでは群発波・鋭波を認めた。神経伝導速度検査で潜時の延長および振幅の低下を認め、末梢神経脱髄と判断し、最終的に振戦のないNMSと診断した。ステロイドパルス療法(mPSL 1000mg/day)を3日間施行し、意識状態および頻脈・血圧高値の改善を得た。脱力も改善した。しかし脳波異常および髄液検査異常を説明できず、精査を目的に第10病日に神経内科へ転院した。【結論】NMSに、末梢神経の脱髄性ポリニューロパチー、蛋白細胞解離および鋭波を伴う中枢神経が関与する病態の一例を経験した。ICU-AWを考慮したが横隔膜の筋力低下を伴っていた。本症例では中枢神経が侵されており、全身性疾患の一部であった可能性は否定できないが原因は不詳であった。