著者
伊藤 渉 沖野 峻也 齋藤 篤志 菖蒲 幸宏 渡部 颯大
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

1.動機および目的信夫山は福島市民にとって重要なスポットである。信夫山は福島盆地の中央に孤立している珍しい地形を持つが,その成因についてさまざまな議論があり,具体的なことはよくわかっていない。地理的・文化的に重要な信夫山について,市内の学校に通う者が調査し明らかにすることは郷土を認識・理解する上で重要だと考え,研究を開始した。2.研究仮説文献から得られた信夫山の地質情報及び成因として次のような説が挙げられる。・信夫山は東西で地質が異なり,西側は火砕流堆積物,東側は第三紀の堆積岩層から成り立っている。・信夫山は海底で形成された第三紀の海成層が隆起し,流紋岩の貫入を受け硬化した。この海成層は凝灰岩によってできており,信夫山の西側でより硬くなっている。・信夫山の表面には流紋岩が覆いかぶさっている。このように,信夫山の形成過程は諸説存在する。本研究では,どの説が有力かの検討も含め,信夫山がどのようにできたのか考察する。3.研究方法3-1露頭の観察我々は信夫山に登り,12箇所の露頭の観察を行うとともに,付近の転石を採取した。その際の露頭観察地点については図に示す。3-2偏光顕微鏡による岩石薄片の観察採取した転石の一部から岩石薄片を作成した。各露頭から作成し,観察可能な薄片を2つ得ることができた。それ以外の露頭の岩石は,非常にもろく,薄片を作成することが困難であった。3-3走査型電子顕微鏡(SEM)による観察走査型電子顕微鏡を用いて,岩石の表面を観察した。岩石は薄片を作成するこのできた露頭3及び4の岩石薄片を観察した。撮影したSEM画像上でそれぞれの岩石を構成する粒子の大きさを測定した。3-4 XRD装置を用いた鉱物同定西側と東側とが異なる岩石で出来ているのかを調べるため, X線回折(XRD)装置を用いて岩石を構成する鉱物の鑑定を行った。使用した岩石は地点1・2・9・11である。4.研究結果4-1 露頭観察の結果地点1・2・3・7の岩石は,いずれも非常に硬く,ハンマーで叩くと火花が発生した。表面は灰色をしていた。また,いずれも大きな割れ目があった。風化の影響と思われる。また,大きな割れ目があった。地点4・5・6・10・11・12の岩石は手で割ることができるほど脆かった。色はオレンジ色が中心であり,場所によっては赤橙の曲線状の縞模様が観察された。構成する粒子はいずれも泥質でかなり細かい。4-2 薄片観察の結果地点3の岩石を観察した。これらの岩石は,強く偏光した無色鉱物が多くみられた。それらの無色鉱物は表面では観察されず,断面でしか観察されなかった。また,いずれも角が多く,石英がちぎれていると思われる。地点4の岩石は砕屑粒子で構成されていた。大きさは約5μm程度であった。全体的にオレンジ色であり,細かい層構造であるラミナが見られた。幅は約1~2mmであった。4-3 SEMの結果地点3,4の岩石の写真のいずれも数μm程度の小さな尖った粒子で構成されていた。これらの粒子のうち,無作為に選んだ粒子を測長した。その結果,2つの露頭の岩石を構成する砕屑粒子のサイズには違いがないということがわかる。4-4 XRDの結果地点1・2の岩石は少量の長石を含んでいるが,全ての地点の岩石において主成分は石英であることが明らかになった。5.考察今回の研究で新たにわかったことは以下の3点である。ア)信夫山の東西で岩石の硬さ,色が異なる。イ)信夫山の岩石は凝灰岩で,構成粒子はほとんど石英である。ウ)信夫山の西側でカリ長石が見つかった。イの結果からこのカリ長石が熱水によるものではないかと推測した。また,ア・イ・ウの結果より,信夫山の岩石はもともと同じ凝灰岩で構成されていたものの,西側に熱水が貫入し石英・カリ長石が晶出したと考えた。これは信夫山が凝灰岩で構成されているという仮説を支持するものとなる。6.まとめ今回の研究では,既存の地質調査の真偽を確かめながら,信夫山の形成過程についての推定を行った。信夫山の東西の岩質の違うこと,西側に熱水が貫入したことが原因らしいことが本研究では明らかになった。このことをはっきりさせるためにも,今後は福島盆地全体の調査を行っていく必要がある。
著者
石根 幹久花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【序論】脳卒中によって運動麻痺が上肢に生じると,日常生活で麻痺手を使用できなくなる.客観的な上肢機能評価と日常生活での麻痺手の使用頻度には正の相関があるが,この傾向がすべての患者に当てはまるわけではない.脳卒中亜急性期の対象者のなかには,上肢機能評価の結果が良いにも関わらず,それに見合った麻痺手使用が日常生活に汎化されない患者が存在する.このような“mismatch”(Esser,2019)のある患者は,半側空間無視(Buxbaum,2020)や体性感覚障害(Esser,2021)や,自己効力感の低下を有すると指摘されている.しかし,これらは多数例における相関を調べた研究であり,“mismatch”の原因を詳細に検討した症例報告はほとんど見当たらない. 今回,麻痺が改善したにも関わらず,病棟生活での麻痺手使用が少なく,主観的な変化にも乏しかった脳卒中亜急性期の症例を経験した.そこで,本例の麻痺手使用と主観的変化が乏しい要因を検討したので報告する. なお,本報告は症例本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得た.【症例】70歳代の右利き男性である.病前のADL,IADLは自立していた.夜間に左半身麻痺を自覚し,翌朝も改善しなかったため当院に救急搬送された.頭部MRI拡散強調画像にて右放線冠~内包後脚に高信号域を認めた.また,FLAIR画像では右内包前脚~尾状核に陳旧性出血と思われる低信号域を認めた.その後は保存的に治療された. 【作業療法経過】第2病日のBRSは上肢Ⅳ,手指Ⅳ,FMA-UEは26点であった.体性感覚は正常であった.FIMは運動項目30点,認知項目29点.MMSE-Jは23点,MOCA-J19点であった.第14病日にFMA-UEは56点まで改善したがMALのAOU,QOM共に1点,3軸加速度計 (花田,2020)ではUse Ratioが0.70であり,非麻痺側上肢を多く使用していた. 作業療法ではADL練習と,修正CI療法やReoGo-J®︎を用いた上肢機能練習を,1回あたり40-60分を週6回行った. 第37病日のBRSは上肢Ⅴ,手指Ⅴ,FMA-UEは60点まで改善した.FIMも運動項目57点,認知項目34点に改善した.一方,MALのAOUは2.44点,QOMは2.33点で,Use Ratioも0.61と改善に乏しかった.そのため,この”mismatch”を検討する目的で,神経心理学的検討を行った.【mismatchに対する検討】MMSE-J29点,MOCA-Jは24点,RCPMは26点であった.TMTはA73秒,B138秒と低下していた.BVRTは正答数4で年齢相応であった.Kohs でIQは71.4で構成障害はなかった.BIT通常検査成績は143/146 点,Fluff Testは9/9で,半側空間無視や半身無視もなかった. また,観念性失行や観念運動性失行もなかった.しかし両手で”かいぐり”動作をしようとすると左手を動かせなくなった.Garbalini(2012)の検査でも両手を協調的に動かす際に左手を動かせなくなった.また,やる気スコアが19/42点であった.【考察】本症例は,両手を動かす際に左手を動かせなくなる運動無視を呈していた.日常生活動作は両手で行うことが殆どなので,これが”mismatch”に関与した可能性が考えられた.また,軽度のアパシーも麻痺手の使用行動に影響したかもしれない. 今後,麻痺手への介入だけでなく生活での使用に関与すると言われている症状に対しどのようなアプローチを行うべきか検討していく必要がある.
著者
與田 夏菜恵花田 恵介小山 隆藤田 敏晃
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【はじめに】脳卒中後の体性感覚障害は,運動麻痺と同じく,麻痺手での物品操作を難しくするとともに,学習性不使用を助長する.しかし,どのような体性感覚障害が麻痺手の機能や日常生活での麻痺手使用に影響を与えるかについてはあまり検討されていないように思われる.今回,重度の体性感覚障害を呈した亜急性期の脳卒中患者2例を経験した.各症例における運動機能や感覚機能の経過を詳細に評価したので報告する.なお,本報告はご本人に発表の意図を十分説明し書面にて同意を得ている.【事例】事例1 50歳代後半の右利き男性.病前生活は自立していた.早朝に突然左半身の麻痺と呂律困難が生じたため,当院に救急搬送された.頭部MRIでは右視床に出血巣を認めるとともに,左橋に陳旧性梗塞を認めた.既往に糖尿病,高血圧,不整脈があった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが47点で,FMA-Sは0点であった.MMSEは29点,MoCA-Jは27点で認知機能は全般的に保たれていた.第14病日にはFMA-UEが52点に向上した.MALはAOUが0.3点,QOMが0.4点で,3軸加速度計(Bailey,2015)によるUse Ratioは0.59であった.また,第12病日の体性感覚検査では,触覚や温痛覚が強く障害されていた.運動覚も重度に鈍麻しており,拇指探し試験はⅢ度であった.二点識別や立体覚は検査困難であった.一方で,重量覚 (SOT-600, 酒井医療)は20g差が弁別できた,また,紙ヤスリを使った手触り覚は,粗めの番手であれば#20差を弁別できた.事例は「触った感触はないが,力の入れ具合で弁別できる」と語った.事例2 60歳代前半の右利き女性.病前生活は自立していた.知り合いの店に入るなり倒れたため当院に救急搬送された.頭部MRIでは左被殻に出血巣を認めた.既往歴はなかった.初期評価時の上肢機能はFMA-UEが24点で,FMA-Sは0点であった.発話はジャルゴン様で聞き取りにくく,錯語も強かったが,単語レベルでの簡単な動作従命は可能であった.第18病日にはFMA-UEが44点に向上した.MALはAOU,QOMともに0点で,Use Ratioは0.73であった.体性感覚検査では,触覚や温痛覚,運動覚,拇指探し試験は事例1と同じく重度に障害されており,二点識別や立体覚は検査困難であった.重量覚は40g差でなければ弁別できなかった.また,紙ヤスリは#40差でも弁別できない時があった.【方法】 事例1は第4病日より,事例2は第2病日より作業療法を開始した.2症例とも移乗動作やトイレ動作獲得に向けたADL練習や上肢機能練習(ReoGo-J®︎を含む)を1回あたり40-60分,週6回行った.前述のように介入開始時と発症約2週経過時に加え,発症1ヶ月経過時にも同様の評価を行った.【結果】事例1 FMA-UEは62点に改善した.MALはAOU1点,QOM2点で,顔を洗うときに左手も添える,お茶碗に手を添えて食事をするなど使用場面が見られるようになった.Use Ratioは1.05と病棟生活でも左右手が同等の使用量まで改善した. 事例2 FMA-UEは57点に改善した.MALはAOU1点,QOM0点であった.Use Ratioは0.76で,発症2週時と変わらなかった.【考察】重度体性感覚障害であった2事例に対し,亜急性期における麻痺手の上肢機能や体性感覚機能の改善経過を比較した.事例1,2ともにFMA-UEは大幅に改善したが,麻痺手の使用行動には明らかな差が見られた.発症後約2週目に評価した体性感覚検査では,2事例とも基本的な体性感覚が重度に障害されていたにも関わらず,事例1は事例2と異なり,重量覚や手触り覚が比較的保たれていた.2事例の検討より,体性感覚の各様式のなかでも,能動的触知覚(active touch)の残存が,日常生活における麻痺手使用に影響を及ぼす可能性が示唆された.