著者
梅本 真吾
出版者
大分大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

好酸球性副鼻腔炎(ECRS)は組織中への著しい好酸球浸潤を特徴とする難治性の副鼻腔炎である。ECRSはステロイド以外の薬物効果が乏しく、手術を行っても高率に再発を来すため、新たな薬物療法の開発が求められている。一方で、内因性カンナビノイドはタイプ2カンナビノイドレセプター(CB2R)を通じて免疫系のバランスをとることが知られており、受容体発現が増強した際に外因性カンナビノイドを投与することで病態の修復を促す可能性が考えられている。本研究では、ECRSにおけるカンナビノイドシステムの寄与について検討することで、カンナビノイドシステムを介したECRSの治療の可能性につき評価する。
著者
磯村 拓哉 銅谷 賢治 小松 三佐子 蝦名 鉄平
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
学術変革領域研究(A)
巻号頁・発行日
2023-04-01

脳の計算原理を解明し人工知能に実装することは自然科学最大のフロンティアである。脳はどのように外界の生成モデルを獲得し予測や行動を実現しているのだろうか?本領域の目的は、最先端の計測技術を用いて様々な動物の脳から神経細胞の活動を高精度・大規模に取得し、データから生成モデルをリバースエンジニアリングすることで、脳の統一理論を構築・検証し、その神経基盤を解明することである。そのために神経科学と情報工学の融合領域を創成する。
著者
小林 一郎
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2023-06-30

本研究では、このような生物における知能の発達を参考にし、現在の深層学習による学習方式とは異なる脳内情報処理機構を模倣した発達型人工神経回路網モデルを開発する.モデルの発達過程を具体的に示すため、低次の機能(ここでは特定の単一の課題を解くことができる機能とする)の組合せから高次の機能(単一の機能を組み合わせからなる機能とする)を獲得し成長する例を取り上げ、3つの重要な脳内情報処理特徴:(I)脳内領野の機能表現、(II) 低次から高次への抽象化による情報表現、(III) 領野の連関処理による高次機能の実現、を有する課題の処理を実現する発達型人工神経回路網モデルの開発に挑戦する.
著者
定本 朋子
出版者
奈良女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

【目的】日常生活における食事の中には、嗜好品としてコーヒーや紅茶のようにカフェインを含む食物がたくさんあり、スポーツ選手も容易にカフェインを摂取するこができる。しかし、カフェインは運動中の糖質および脂質代謝を変動させ、持久性種目の持続時間を延長させるというドーピング作用を持つことが知られてきている。さらに、カフェインが中枢神経を覚醒させることから、中枢神経の興奮水準の相違により大きくパフォーマンスが変わる、重量上げなどにおける力発揮にもドーピング作用を持つのではないのかと注目されてきている。本研究の第1の目的は、種々の強度の力を繰り返し発揮させた際におけるカフェイン摂取が力発揮に与える影響について検討し、力発揮に及ぼすカフェインの影響が交感神経活動を代表する心拍数及び動脈血圧にみられるカフェイン摂取に伴う変動とどのように対応するのかについて検討することである。さらに、筋交感神経活動を実際に計測し対応関係を明きらかにすることを第2の実験目的とした(しかし、数名の被験者について筋交感神経活動を記録したが、プリアンプの性能に問題があり、ノイズの混入を回避できなかった。このため、再現性のある信頼できるデータの収集ができなかったので、第2の実験結果については省略する)。【方法】健康な成人女子15名を被験者とし、静的握力発揮による随意最大筋力(MVC)を測定し、その25%、50%、75%、100%MVCに相当する握力を被験者の主観的感覚尺度により分けて出力させる。4段階の握力を5分間にわたり20秒間隔で8回繰り返し発揮させた。このような力発揮を同一被験者にたいし、体重あたり6mgのカフェインをコーヒーとして摂取した場合とカフェインを含まないコーヒーを摂取した場合とにおいて繰り返し実験を行った。【結果】(1)100%MVCのように高い張力の発揮時には、カフェインの摂取により発揮される握力が有意に増大することが示された。(2)繰り返し発揮される力の減衰を見てみると、カフェイン摂取時の握力が摂取しない時よりも高い(疲労し易い)にも拘らず、摂取しない条件よりも常に高い力が維持できることが示された。カフェインの摂取は疲労感を軽減するのではないかと推察された。(3)(1)の結果にみられる握力の増大と、カフェイン摂取にともなう心拍数と動脈血圧の上昇との間には正の相関が示された。
著者
山本 浩之 吉田 正人 松尾 美幸 安藤 幸世 粟野 達也 鳥羽 景介
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

裸子植物でありながら被子植物のような二次木部を持つグネツム科の高木について、傾斜樹幹における負重力屈性発現のメカニズムを調査した。傾斜樹幹では、上側で二次木部の肥大成長が促進されると同時に、特異的に大きな引張の成長応力が発生することがわかった。その微視的メカニズムは、原始的なタイプの引張あて材をつくるモクレン科の樹種に類似していることがわかった。このことから、グネモンノキの負重力屈性挙動は、他の裸子植物に見られるような圧縮あて材型ではなく、被子植物に見られるような引張あて材型であると結論した。さらに二次師部においても、傾斜の上側で著しい肥厚が見られ、そこには大きな引張応力の発生が認められた。
著者
清水 教之 村本 裕二
出版者
名城大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、含水冷却固化させた竹繊維(竹-氷複合系)をガラス繊維強化プラスチック(GFRP)の代替材料として極低温超電導機器の電気絶縁システムに適用する可能性を検討することにある。従来から、超電導電力機器に必要とされる極低温領域の電気絶縁材料としてはもっぱらGFRPが使われてきた。しかし、GFRPは廃棄の際に環境に与える負荷が大きいことが問題視されている。これに対して、竹と氷で構成した竹-氷複合系は廃棄の際に環境に与える負荷は著しく小さい。竹材は、構造上水分を吸収するために、竹材に水分を含浸させた後、極低温冷媒中(液体窒素)に含浸し竹-氷複合絶縁系を形成させることを考えた。この複合系を試料として絶縁破壊特性を観測し、極低温領域における新しい複合材料の電気絶縁構成の可能性を評価した。本年度は、竹-氷複合絶縁系における交流絶縁破壊特性に及ぼす竹の異方性の影響を取り除くために竹をパルプにし、竹パルプ-氷複合系として実験を実施し、検討を行った。その結果、竹が持つ構造上の異方性を取り除くことができ、交流絶縁破壊特性に及ぼす異方性の影響も小さくすることができた。交流絶縁破壊特性においては、GFRPのものと同等程度の値を得ることができた。さらに竹をパルプ化することで形状を変化させることが可能となった。これらの結果より竹パルプ-氷複合系は、低環境負荷の極低温電気絶縁材料であることが実証され、今後、GFRPの代替材料として実機への応用の可能性が示された。
著者
最上 晴太 近藤 英治 千草 義継
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

前期破水は早産の主要な原因である。早産は時に出生児に合併症・後遺症を残し、医学的・社会的に大きな問題である。本研究では、①ヒト羊膜において破水前に微細な損傷→修復という細胞外マトリックスのリモデリングが行われ、恒常性の維持機構があるか、②胎仔マクロファージ欠損マウスを用いて、自然免疫による羊膜の修復機構をin vivoで解析、③細胞外マトリックスによる前期破水の治療法の探索を行う。このように前期破水を「卵膜の恒常性の破綻」という新たな観点からとらえて、早産の予防・治療法の開発を目指す。
著者
上田 浩史
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

平成15年度は、平成14年度に明らかにした知見(緑茶に炎症性サイトカインの産生抑制作用がある事、TPA誘導耳介浮腫等の炎症モデルに対し抗炎症作用を示す事、それらの活性物質がカフェインである事)を元に、新たに発癌抑制作用を明らかにし、抗炎症作用および発癌抑制作用の機作の検討を行った。前年度の抗炎症実験において起炎剤として用いたTPAが発癌プロモーターとしても使用されている点に注目し、緑茶が、DMBAをイニシエーター、TPAをプロモーターとする多段階発癌も抑制出来る事を明らかにした。次に、炎症あるいは発癌におけるサイトカインの関与を明らかにするため、炎症あるいは発癌部位の皮膚をホモジェナイズし、ELISAにより局所性サイトカインを測定したところ、IL-1α、IL-1β、IL-6、IFN-γ、TNF-αの増加が認められ、しかも、それらは緑茶による抗炎症・発癌抑制時には抑制されていた。したがって、炎症・発癌過程に炎症性サイトカインの局所産生が関与し、緑茶は、それらの産生を抑制する事により抗炎症・発癌抑制作用を発揮している事が示唆された。次に、サイトカイン抑制の機作を検討した。緑茶およびカフェインは、LPSで誘導されるサイトカイン産生を蛋白およびmRNAレベルで抑制した。ヤクロファージをLPSで刺激すると、30〜60分にかけて1κBがリン酸化されたが、緑茶およびカフェインはこのリン酸化を抑制した。また、緑茶およびカフェィンは、p44/42MAPKのリン酸化を抑制した。JNK/SAPKのリン酸化は、緑茶により抑制されたが、カフェインでは抑制されなかった。したがって、緑茶およびカフェインは、1κBやp44/42MAPK系のリン酸化の抑制によりサイトカインの局所産生を抑制し、抗炎症・抗アレルギー作用や発癌抑制作用を発揮していることが推測された。
著者
愼 蒼健
出版者
東京理科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本宣教医療について考える場合には、朝鮮の農民たちが「総督府主導の植民地医学」/西洋医学から放逐され、西洋医学の経験を獲得しておらず、伝統医たちも存在しない中で生活をしていたという社会的背景を考慮しなければならない。そのうえで、(1)天理教と朝鮮総督府の関係は、「緊張と協力」の間にあった。(2)天理教の医療者は、非天理教の医師や看護婦と異なる医学・医療体系を身に付けていたのではなく、見捨てられた患者を懸命に看病・介護する「態度」の違いとして表現された。(3)天理教の医療伝道論と医学観には、中国大陸に漢方医学の普及を求めた日本漢方医学者に通じる点があった。
著者
阿部 竜也 増岡 淳 中原 由紀子 伊藤 寛
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

極めて予後不良な脳幹腫瘍DIPGの原因遺伝子としてH3F3A遺伝子のK27M変異が分かってきており、精力的に研究が行われ、さまざまな遺伝子異常、エピゲノム異常が報告されている。我々が樹立したK27M異常を有する幹細胞株では、既存の治療法では全く歯が立たず治療抵抗性であった。この腫瘍に対して、近年ドーパミンD2受容体(DRD2)拮抗薬であるONC201が注目を集めており我々も解析を行っている。本研究ではこのような幹細胞株に対して、その耐性のメカニズムを解析するとともに、H3K27M変異に関連する作用機序の異なるいくつかの分子標的薬を併用し、これまでにない新しい有効な治療法の開発を試みる。
著者
長廣 利崇
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

大学で得られた学びが職業にどのように活かされているのだろうか。比較的データを集めやすい「今」を対象とした研究は多いが、過去にさかのぼってこれを検討した研究は少ない。我々の生きる「今」は、過去の蓄積から成り立っているため、歴史的視点が重要になる。この研究は、第二次世界大戦以前における日本の高等教育(とくに文系の教育)を受けた学生・生徒の学びが職業にどのように結びついたかを検討するものである。この研究によって戦前期のイメージを掴み、「今」をより深く知ることができよう。
著者
山海 嘉之 京藤 康正 安信 誠二
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

歩行障害者(要歩行リハビリ者、寝たきり高齢者、脊髄損傷者)の方を対象として、自律制御およびパワーアシスト制御の両機能を有する超軽量外骨格系パワードスーツに組み込み障害の程度(筋力の個人差やリハビリ状況)に応じて適応的かつ自律的装着者と協調して歩行支援を行なうパワードスーツを開発することを目的として、研究を実施し以下のような研究成果を得た。現時点で世界最新鋭のシステムである。1)本パワードスーツを軽量化のため部分的にシェル構造として製作し、完成度の高いメカニカルシステムとすることが出来た。2)完全自立システムとするために、搭載型小型コンピュータのオペレーションシステムをRT-Linuxで構築し、安定かつ信頼性の高い計測・制御系を開発する事ができた3)運動学的・機構学的観点からシステム設計を実施するため、シミュレータを用いて適応的運動制御系の検証および制御アルゴリズムの実装を行った。4)人間の意思を反映したシステムであることが求められる為、新たなアルゴリズムを開発するとともに、カセンサ、筋電信号(EMG)、COGセンサによる自律制御系およびパワーアシスト系が混在する複合システムを構築し、実験によりその有効性を示すことが出来た。5)予測制御を組み込み、更に、人間との親和性を高めるため、人間の動作パターンのデータベース化を行い、これを用いた自律・パワーアシスト複合系を開発することができた
著者
平田 栄一朗 針貝 真理子 寺尾 恵仁 北川 千香子 三宅 舞
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

最近の欧米の政治思想研究は「根拠なき見せかけ」や「擬制」などの演劇的な特徴、すなわち「シアトロクラシー」の側面をデモクラシーの特性の一つとして検討している。この特性は、従来の政治思想研究において否定的に評価されていたが、最近の政治研究は、演劇的な特徴の良し悪しを多角度から再検証することで、LGBTや移民などを取り込む開かれた民主主義の発展の可能性を議論している。本研究は国内の演劇学・芸術学の研究者に加え、政治学者や海外の研究者も交えた研究会・講演会を通じて、最近のヨーロッパの演劇学が独自に発展させてきた政治-演劇論の意義を検証し、それらの論から民主主義の発展の可能性に寄与する考え方を導き出す。
著者
秋鹿 研一 東 千秋 加藤 之貴 劉 醇一
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-10-20

アンモニアはCa,Mgなどのハロゲン化合物と安定な錯塩を作る。塩化カルシウムにアンモニアが近づくと、窒素のローンペアーの強い配位力と塩素イオン同士の排斥力により、アンモニアのほうがカルシウムイオン近くに取り込まれる。結晶は2配位、8配位へと変化し、膨潤する。これをアンモニアの吸蔵材料として使うために、これらの錯形成反応の速度論データを取る装置をくみ上げ、データ取得を始めた。これらのデータは全くないこと、材料実用化のためにはあらゆる種類のデータを多くの技術者にとって貰う必要があるため、簡便な装置として、食品の水分量を測定する自動天秤を利用することを企画した。CaCl2にアンモニアを吸蔵させる際、水蒸気が共存すると正確なデータがとれないため、天秤を窒素気流雰囲気下へ設置した。CaCl2などの潮解性試料に対し、水分の吸収条件を検討した。吸収、脱離の速度に影響する因子は、アンモニア圧、(塩素、臭素混合であれば)陰イオンの種類と割合、結晶子あるいはクラスターサイズ、温度などである。CaCl2-CaBr2系は、常温、常圧でアンモニアを分離、貯蔵、放出でき、実用化の可能性がある。CaCl2は高い圧で、CaBr2は低い圧でアンモニアを吸収する。Cl/Bn比,1:1,の混合系は中間的構造を取るため、両者の中間的圧力(常圧付近)でアンモニアを吸蔵放出できる。これらについて、速度論データを取るための予備的実験を重ねたが、出発物質の水分制御が思ったより難しく、比較検討できるデータが十分に得られたとはいえない。従って、平衡に近い挙動のデータはこれまでのデータに加えることが出来たが、速度論的データについては再現性を得るに至っていない。サンプル調製法、速度データ取得装置については更なる検討を必要とした。実験データの整理法については理論的考察をさらに推し進めた。
著者
道上 義正 神林 康弘 中村 裕之
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

黄砂やPM2.5などの大気粉塵による健康影響が社会問題となっている。本研究では、大気粉塵中の重金属が成人慢性咳嗽(気管支喘息、咳喘息、アトピー咳)患者の目のかゆみや咳の悪化に関連していることを示した。重金属による症状の悪化は、血清IgEレベルの低い患者で強かった。重金属による影響は、アレルギー症状が弱い患者で強いことが示唆された。また、総浮遊粒子状物質とPM2.5で重金属の構成が異なっていた。特に、黄砂日では、総浮遊粒子状物質の重金属濃度は高くなったが、PM2.5では濃度があまり変わらない重金属もあった。粒子状物質による健康影響を考える上で、構成成分を考慮することが重要である。
著者
菅澤 貴之 三須 敏幸 桑畑 洋一郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

大学院博士課程修了者の就業状況については、近年、「ポスドク問題(若手研究者問題)」としてマスコミ等で社会問題化されているものの、大学院重点化政策が開始される1990年代までは博士課程在学者数が3万人未満にとどまり、対象者へのアプローチが困難であったことも影響し、未解明な部分が多い。そこで本研究では、インターネットによる調査票調査から収集された調査データを用いた計量分析(定量的手法)とインタビュー調査(定性的手法)を組み合わせた実証分析を行うことで、博士人材のキャリアパスの実態を多角的に捉えることを試みる。
著者
下條 信弘 山内 博 熊谷 嘉人 吉田 貴彦 相川 浩幸 石井 祐次
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

【目的】砒素は自然界に存在し、地下水等への浸入に由来する生体影響が懸念されている。特にアジア諸国のうち、中国やバングラディシュ等では高濃度の砒素を含む地下水汚染が頻発している。砒素を高濃度含んだ井戸水の慢性飲水により手足の角化症や皮膚の色素沈着、脱失等の砒素中毒症状を呈する。そこで我々は、中国内モンゴル自治区の飲水型慢性砒素汚染地域において、飲料水の改善による慢性砒素暴露住民の砒素中毒症状の回復等について調べた。【方法】中国内モンゴル自治区包頭市の慢性砒素汚染地域住民50名(男性22名,女性28名)を対象とした。これらの住民に対して中国の環境基準以下の砒素を含んだ井戸水を1年間供給した。【結果・考察】飲料水改善前の砒素暴露住民の8割程度が手足の角化症や皮膚の色素沈着、脱失等の典型的な慢性砒素中毒症状を呈していた。尿中無機砒素濃度は39±53μg/g of Cr.だった。しかし介入研究1年後に対象住民の尿中無機砒素濃度を測定した結果、介入前のそれの19%まで低下した。一方、無機砒素の代謝物であるメチル化体の生体内濃度は改水前と後では、有意な差は認められなかった。砒素中毒患者の約半数以上が角化症や皮膚の色素沈着、脱失の改善が観察された。また、慢性砒素暴露により、低下した生体内一酸化窒素濃度も改水により約2倍上昇することも明らかとなった。以上から、飲料水改善により慢性砒素暴露による砒素中毒症状は回復することが示唆された。
著者
森田 果 尾野 嘉邦
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

日本の法学研究では,実証研究が少しずつ出現し始めてはいるものの,観察データに依拠したものが主で,実験データを利用した実証研究は少ない。そこで本研究は,実験データに基づいた実証研究を展開することを主要な目的とする。米国においては,どの裁判官がどの判決文を執筆したかが明らかなことから,裁判官の属性や当事者の属性が判決にどのような影響を与えるのかについての研究が盛んである。これに対し,日本では,このようなデータが存在しないことから,同様の研究が難しい。そこで,本研究では,日本においても実施可能な,実験を活用した司法政治の実証研究の手法を探っていく。
著者
飯田 直樹
出版者
地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究は、小河滋次郎の児童保護に関する主張に光を当て、それが小河の社会事業思想の中核にあることを示す。その上で、その思想が具体化されたのは、小河が立案した方面委員制度よりも、むしろほとんど小河とは無関係と考えられていたセツルメントであること、また、小河の思想の影響を受けて、幼児保育がセツルメントの中心事業になることを明らかにする。さらに、小河の影響が、セツルメントを介して都市での露天託児実践や農村での農繁期託児所という領域にまで及ぶ事を示し、小河の思想に新たな意義を見出す。日本における福祉国家化が、児童保護の分野を軸に進行することを明らかにし、医療偏重の福祉国家史の刷新を目指したい。
著者
山本 まゆみ Horton William.B
出版者
宮城大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

過去30年の間行われてきた慰安婦研究は、新たな進展がないまま、政治言説をも根拠資料のように扱っている研究も多く、現在の価値観で77年前の社会を理解する状況に陥っている。本研究は、当時の社会の文脈で史料を分析し、慰安婦を総合的に理解することを目指す。研究対象地域のインドネシアは、日本軍政の史料が国内外で保存され、慰安婦研究史料も数多く保管されている。特に、オランダBC級戦犯臨時法廷の尋問調書等には当事者の「生の声」も散見できる。文化人類学の方法論に用い、時間軸に「声」を描き入れ、当時の医療体制と性病予防史料も分析し、日本占領期の法律も検証し、日本占領期インドネシアの慰安婦を理解する研究である。