著者
北川 浩 比嘉 吉一 尾形 成信 中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

結晶粒をナノメートルオーダまで微細化したナノ多結晶材料は、結晶粒を構成する原子の数に対して粒界を構成する原子の割合が高く、その構造は不規則である上に十分に構造緩和しておらず準平衡な状態にある。本研究では、ナノ結晶材料の強度を律している一般的な動的組織要因を明らかにする目的で、原子モデルを用いた大規模コンピュータ・シミュレーションを実施して、つぎのような結果を得た。(1)材料強度が粒径の減少に伴って低下する、結晶粒微細化に伴う軟化現象(逆Hall-Petchの関係)が見出される.この関係は、強さと欠陥体積率の関係として整理することができ、ナノ多結晶材料の強度は粒界領域で生じる原子構造変化により律される。(2)結晶粒径が非常に小さいナノ多結晶材料では,粒内に転位が安定して存在することは出来ず,Frank-Read源のような転位源を粒内に持つことはできない。しかし,積層欠陥エネルギーが低い材料では、拡張転位の幅と結晶粒径が同じスケールとなり、結晶すべりは部分転位のみで生じて、粒内を貫く形で積層欠陥が形成される。(3)粒内の積層欠焔の形成による構造的異方性が、ひずみ硬化、繰り返し硬化、および力学異方性を引き起こす。また、積層欠陥は、粒界部での変形のアコモデーション機構と連動して結晶粒変形の可逆的な要素となることが見出される。(4)自由表面を有するナノ多結晶材料では、積層欠陥エネルギーが大きい場合,粒界すべりにより局所変形が進行し粒界部で破断するが,積層欠陥エネルギーの小さと部分、転位による結晶すべりが主となり、粒内に残存する積層欠陥により二次すべり系の活動が抑制されて,変形の局所化が抑制され材料全体の延性が向上する。(5)アモルファス金属に局在化した変形が生じると、局所的な温度上昇によりアシストされた変形誘起再結晶が生じ、ナノサイズの結晶粒が生成される。
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2007

水素が材料の強度を劣化させる水素脆化はよく知られた現象である.水素エネルギーを安全に利用するためには,水素脆化のメカニズムの解明は非常に重要である.本研究では,水素と格子欠陥との相互作用に着目することで鋼材中での水素の役割に関する研究を行った.様々なシミュレーション手法を駆使した解析の結果,水素が格子欠陥を増殖し易くさせたり,運動性を大きく変化させることが明らかになった.
著者
中谷 彰宏
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

近年、生物的な自己強化や恒常性維持機能をも持つ適応的材料構造の実現への要求が、安全性、省エネルギー性、さらには環境確保という科学技術とその工業化への時代的要請の増大とともに、次第に高まりをみせてきている。本課題では、形状記憶合金を用いた知的複合材料および知的構造体のマクロな力学特性・変形特性をミクロな構成要素の特性から評価し、さらには、外場の変化に適応して、能動的に振舞う機能を設計するための有効な方法論を提案することを目的としている。ここでは、その基礎研究として、Ni-Ti形状記憶合金線を組み合わせた構造体を対象とし、内部構造の違いによる巨視的応答の違いを調べるとともに、目的とする巨視的応答を得るための内部構造の設計についてモデル解析を行なった。得られた成果は以下の通りである。(1)実験的検討として、知的構造体のセンサー・アクチュエーターとしての役割を担う形状記憶合金線の単軸引張試験を行ない、弾性および超弾性域の力学特性、および、その再現性を検討した。さらに、ここで得られた荷重変位曲線に対して、簡便な表式を用いた関数近似を行なった。また、複数の部材を簡便に組み合わせて、全体として複雑な応答をする構造を組み立てるために必要なジョイント部分の基礎的検討を行なった。(2)解析的検討として、形状記憶線材を組み合わせた構造体の有限変形問題を解くことができる有限要素コードを開発し、(1)で得られた荷重変位近似曲線を用いて、外力が作用する様々な構造体に対して、構造全体の変形と局所構造の変化を調べた。超弾性域の材料非線形性と負荷除荷過程のヒステリシスを利用することにより、様々な全体挙動を実現できることを示した。(3)以上で得られた知見をもとに、形状記憶線を組み合わせた構造、および、それを内部構造として用いる知的複合材料の設計に対する方法論を提案した。(以上)
著者
長村 利彦 伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

近年, バイオイメージングや光線力学療法の観点から, 近赤外蛍光が注目されてきている. しかしながら, 近赤外蛍光色素の蛍光量子収率は一般的に非常に低い. これはπ共役系を拡げるために分子構造が複雑であることや, エネルギーギャップが小さくなると蛍光放射速度定数は小さくなるという本質的な問題に起因する. 本研究では, 光-分子強結合場における近赤外蛍光の増強を試み, 増強に及ぼす因子・機構解明を目的とした. 光一分子強結合場として金ナノロッドとDNAとのナノ複合体を利用し, その光学特性について検討した. 本研究の開始段階で, 金ナノロッドの周囲に存在する界面活性剤の影響が大きいことが明らかとなった. この影響を取り除くために, 以下のような光一分子強結合場の構築を行った.第一に, 交互積層法を用いて, 金ナノロッド表面への修飾を行い, ナノ構造制御した. 界面活性剤で被覆されている金ナノロッドヘカチオン性高分子とアニオン性高分子を交互に積層させ, 最表面ヘアミンと反応できる近赤外蛍光標識試薬(ICG-Sulfb-OSu)を修飾した. この系において最大16倍, 平均1.7倍程度の増強が確認された. しかしながら, 粒子間の凝集などの影響により定量的な検討を行うことは困難であった.次に, 金ナノロッドを高度な構造規則性を有する天然高分子であるDNAに分散させた高分子積層薄膜による反応場の創成をおこなった. DNAを薄膜媒体として金ナノロッドを分散した薄膜を作成したところ, 金ナノロッドの分散濃度の増加にともない, 元の長軸由来のバンドより長波長側に新たな吸収が観測された. この吸収はPVAを媒体とした場合には観測されなかった. これはDNAによって配列制御されたロッド間でのプラズモン結合を示唆する. この薄膜を用いて近赤外蛍光の増強を試みたところ, 強度は約3倍増加した.
著者
鈴木 晃仁 脇村 孝平 飯島 渉 橋本 明 杉田 聡 渡部 幹夫 山下 麻衣 渡部 幹夫 山下 麻衣 猪飼 修平 永島 剛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

19世紀後半から20世紀前半にかけての日本における「健康転換」を、当時の先進国と日本の植民地を含めた広域の文脈で検討した。制度・行政的な側面と、社会的な側面の双方を分析し、日本の健康転換が、前近代社会としては疾病構造の点では比較的恵まれている状況で、市場が優越し公共の医療が未発達である状況において、欧米の制度を調整しながら受容したものであったことを明らかにした。
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

鋼材は高強度になるほど水素感受性が強くなり遅れ破壊が起こりやすくなる. 近年, 巨大ひずみを付加し結晶粒を微細化することにより, 材料を高強度化する方法が注目されている. これらの材料では, 材料中に大量の格子欠陥(粒界, 転位)が含まれるため水素の拡散速度が遅くなり, き裂先端部等の静水応力集中部への水素の集積が遅れることが考えられる. また, 本手法で製造された材料には, 従来の材料と比べて高エネルギーの粒界が多く含まれることが分かっており, 材料に含まれる粒界特性の違いによる影響が現れることも考えられる. したがって, これまでの材料とは異なる耐水素特性が現れる可能性がある. 本年度は, 原子モデルにより理想的な粒界を取り扱い, 水素トラップ量に与える粒界特性の影響に関する解析を行った.粒界を含むα-Feでは, 粒界特性(粒界エネルギー, フリーボリューム)と水素トラップ量は対応関係にあることがわかった. すなわち, 粒界エネルギーが低い粒界は, 隙き間が少なく水素トラップ量も少ない. 逆に, 粒界エネルギーが高い粒界は, 隙き間が多く水素トラップ量も多い. つまり, 巨大ひずみを加えて作成した微細粒材料は高エネルギー粒界を多く含むため, 水素吸蔵量が多くなる. 粒界への水素トラップ量を減らすためには, 水素との親和性が低く粒界フリーボリュームを減らす元素の添加が有効と考えられる. また, 水素環境下では, 温度が高く圧力が低いとトラップされる水素原子が少なく, 温度が低く圧力が高いと水素原子は多くトラップされること, トラップされる水素原子の数は, 水素ガス圧力より温度の影響を受けやすいことがわかった.
著者
松本 龍二
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

前年度までに、テラヘルツの光信号列を制御することを目的に、電気制御を用いない光の特性のみを利用した反射型の光変調素子を提案し、単一信号のピコ秒オーダーの光変調を達成してきた。今年度は、(I)擬似的なテラヘルツのパルストレインによる連続的にパルス信号を変調する試みおよび、(II)位相変調型の光変調を提案した。(I)疑似テラヘルツを発生させる光学系を新規に組み立て、一つのフェムト秒パルスを1ps〜数psの間隔を持つパルストレインに分割した。フタロシアニン系の色素分散高分子薄膜をもちい連続パルス光の光変調を試みた。導波モードが斜め入射である問題点から、1psの応答は得ることができなかったが、各パルス光を時間的に分離できる数ピコ秒から10psオーダーの間隔であれば連続パルス光変調の可能性を示唆した。(II)偏光板を複数組み合わせ、これまでの強度のみの光変調ではなく、位相変化を用いた手法について検討した。出力光は、Johns行列を用いた計算方法で予測された。この結果、導波モード条件では著しい位相の変化が確認され、検出偏光板の方位角度に依存した複雑な変化を示した。フェムト秒レーザー励起により、おもに屈折率の嘘数部のみの変化で光変調が実現できた。このように、情報通信技術における次世代の技術、全光制御型の光変調方法としてのあたらしい可能性を見出した。確立した成果はApplied Physics Lettersで近日公開予定である。
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

金属ガラスは極めて高い降伏応力や特殊な機能特性を有するものの,マクロな延性が乏しいという欠点を有する.常温での金属ガラスの変形と破壊はせん断帯の生成と伝ぱによって支配されているため,その詳細を解明して対策を考えることが必要である.ここでは,まず,切欠きを含む平板にモードIIの変形を加えることで,切欠き底からせん断帯を伝ぱさせる大規模な分子動力学シミュレーションを実施し,せん断帯内部の温度と応力の時間変化を詳細に評価した.そして,分子動力学シミュレーションの結果に基づき,金属ガラス中のせん断帯を粘性流体を含むモードII型き裂としてモデル化することで,不安定伝ぱを生じる可能性のある限界せん断帯長さを計算した.そして,その結果から実験的に観察されているせん断帯の長さをうまく説明できることを示した.さらに,金属ガラスが示す圧縮下と引張下での延性の大きな違いを,それぞれの場合の限界せん断帯長さの違いから説明した.また,初年度に引き続き,ナノ結晶を含む材料中のせん断帯伝ぱ挙動に関する計算も実施し,せん断帯の伝ぱ抵抗をJ積分を用いて評価した.その結果,せん断帯の伝ぱ挙動を効率的に変化させるためには,せん断帯の幅に対して十分なサイズを有する結晶粒子が必要であることが明らかになった.本研究によって,金属ガラスの延性を向上させるためには,(1)限界せん断帯長さを長くすること,(2)せん断帯を捕捉する機構の導入が重要であることがわかった.(1)を達成するためには,不均質性によって低い応力レベルからせん断帯を生成させることが有効であり,(2)を達成するためには,適切なサイズの軟質介在物の導入が特に有効であると考えられる.
著者
伊藤 冬樹
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究課題では,複数の分子を組み合わせることで形成される組織化分子配列系で進行するエネル1ギー・電子移動反応などの励起ダイナミクスについて時間・空間分解分光法を用い,時間発展と空間分布の階層性を明らかにすることを目的とする.組織化された分子配列系として光捕集能や光導電機能をもつ分子をDNAにインターカレートした機能組織体を対象とする.前年度のアクリジンオレンジーDNA薄膜における時間分解蛍光測定,蛍光異方性減衰の測定から,DNAにインターカレートして形成される分子配列系において高効率な励起エネルギー移動が生じていることを明らかにした.本年度は,この結果に基づき,DNA鎖上にカチオン性ポルフィリン(TMPyP)とシアニン系近赤外蛍光色素(DTrCI)を吸着させた系における励起エネルギー移動を観測し,これを利用した近赤外蛍光増強について検討した.TMPyPとDTTCIを混合したDNA緩衝溶液中ではTMPyPの濃度が増加するにつれて,DTTCIの蛍光強度はTMPyP非存在下の最大86倍程度増加した.このエネルギー移動過程のタイナミクスを検討するために,時間分解蛍光測定を行った.TMPyPの蛍光強度は2成分指数関数で減衰した.一方DTTCIの蛍光強度は立ち上がりと減衰の2成分指数関数で再現された.立ち上がり成分はTMPyPの早い減衰成分と一致したことからエネルギー移動によってDTrCIの励起状態が生成したことを示している.また,本研究課題により得られた知見に基づき,高分子薄膜中に形成された色素分子集合体の集台体サイズとその励起状態ダイナミクスに関する研究へと発展させることができた.
著者
松本 龍介
出版者
九州工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

機械材料の高性能化や高度な構造健全性の要請のため,ミクロスケール構造変化に立脚した力学モデル構築の試みが盛んになされている.中でも代表的なアプローチとして,量子計算から原子間相互作用力を定義し,分子動力学法による欠陥構造のダイナミクスの理解を経て,離散転位動力学法による転位構造と力学特性の関連の解明へと繋げようとする一連の研究が挙げられる.しかしながら,離散転位動力学問題の単なる大規模化によってマクロな構造解析を実施することは非現実である.本研究ではこの問題点を突破するために均質化理論に基づく解析手法の開発を行なった.初年度は,連続体解析における代表体積要素内に周期境界条件を仮定した離散転位動力学問題を格納することで,連続体によるマクロ問題と離散転位動力学法によるミクロ問題を結合したマルチスケール解析手法の定式化を行なった後,それを用いて弾性体粒子を分散させた1滑り系の金属基複合材料の塑性変形挙動の解析を行った.本年度は,それに引き続き,転位が介在物内に侵入できるように,理論及び解析プログラムを拡張した後,転位源の活性化及び,介在物への転位のパイルアップと侵入挙動と,応力-ひずみ曲線との関係を異なる寸法の介在物に対して明らかにした.さらに,2滑り系に拡張し,多結晶体の塑性変形挙動と粒径及び転位構造との関わりに関する解析を行った.そして,転位が粒界を横断するメカニズムを離散転位動力学法に導入することで,降伏応力と加工硬化係数に対する粒径効果が適切に導入されることを明らかにした.
著者
宮崎 則幸 池田 徹 松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

先端デバイスの強度信頼性評価に使用することができる解析プログラムおよび実験手法を開発した。すなわち、解析プログラムとしては、異種材界面強度の破壊力学的評価プログラム、転位密度というミクロ情報を含む構成式を用いた転位密度評価解析プログラム、および大規模分子動力学解析プログラムを開発した。また、実験的手法としては、撮像装置として光学顕微鏡および走査型レーザ顕微鏡を用いた微小領域ひずみ計測システムを開発した。これらの解析的、実験的手法を用いて、電子デバイスの強度信頼性評価を行った。
著者
水本 浩典
出版者
神戸学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

阪神・淡路大震災から15年が経過するなかで、戦後最大の都市型大規模災害に関係する史料(本研究では「震災資料」と呼称)のうち、特に、被災地の小学校・中学校などで多数形成された「避難所」に関する「震災資料」の所在を捜索するとともに、調査を目的としている。初年度に実施した神戸市域の小学校及び中学校に対するアンケート調査を基に、「避難所資料」の確認と発見に努めた。最終年度である平成22年度は、兵庫県南部地震の震源地に近い旧北淡町の避難所資料調査にも調査範囲を拡大した。(1) 震災資料所在の確認と資料の発見・神戸市立長田小学校避難所資料の発見と資料調査実施(原資料の寄贈を受ける)・神戸市立鵯越小学校(現・廃校)廃棄資料中から避難所資料発見・移管・淡路市立野島小学校(現・廃校)避難所資料の確認と資料調査実施(2) 聞き取り調査(避難所運営に係わる「記憶」資料の記録化)実施・神戸市長田区被災者からの聞き取り調査実施・神戸市東灘区被災者からの聞き取り調査実施(3) 神戸市消防局当時職員に対する聞き取り調査実施・特に、神戸市長田区の消火活動・人命救助活動に従事した職員(30名)に実施
著者
前田 昌弘
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度(平成20年度)は、インド洋津波に起因したスリランカにおける再定住事業の全体像を把握するために、政府・統計資料を用いて事業制度の分析、再定住地の建設動向と計画内容の分析、被災地から再定住地への人口移動の分析を行った。また、分析を踏まえ、再定住事業の影響が特に大きいと予想されるスリランカ南部・ウェリガマ郡の津波被災集落と再定住地を対象として、居住者の再定住プロセスと行政・NGOの再定住支援に関する実地調査を実施した。本年度は主に調査結果の分析を行い、再定住事業における環境移行にともなう居住者の環境適応の困難化の実態を指摘するとともに、従前居住地コミュニティ内のソーシャル・キャピタルの蓄積が環境移行の影響を緩和し住民環境適応を促進する可能性を指摘した。本研究は、再定住地の実態を踏まえ、従前居住地コミュニティ内のソーシャル・キャピタルを、世帯間関係(地縁関係、血縁関係、マイクロクレジットの関係)および住宅敷地の所有・利用関係という具体的な関係に着目して把握している。そして、それら関係の再編プロセスの分析を通じて、再定住地に環境適応している住民は従前居住地コミュニティとの関係性を何らかの形で維持していること、従前居住地との関係性は地縁・血縁だけでなくマイクロクレジットのような地縁・血縁によらない関係によっても維持されていることを明らかにした。自然災害に起因した再定住事業は一般的に、「住宅再建」と「住宅移転」の二者択一に陥りがちである。また、居住地の範囲で完結した計画が行われ、再定住地と従前居住地の関係性が無視されがちである。しかし、上記した調査結果は、「住宅再建」と「住宅移転」の二者択一の限界を改めて指摘するとともに、従前居住地と再定住地を補完的に捉えて住宅移転および再定住地を計画することの有効性を指摘しており、自然災害に起因した再定住事業の計画論に関する有意義な研究成果になり得ると考えられる。
著者
林 春男 河田 恵昭 BRUCE Baird 重川 希志依 田中 聡 永松 伸吾
出版者
京都大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2005

平成17年12月10日〜18日、平成18年3.月18日〜27日の2回に渡って、1)米国の危機管理体制、2)被害の全体像、3)災害対応、4)復旧・復興に関する現地調査を行い以下のような知見を得た。調査対象機関は以下の通りである。(1)連邦:連邦危機管理庁・米国下院議会、(2)ルイジアナ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、ルイジアナ復興局、(3)ミシシッピ州:連邦・州合同現地対策本部、州危機管理局、州復興担当事務所、(4)ニューオリンズ市:災害対策本部、都市計画局、(5)レイクビューコミュニティー、(6)在ニューオリンズ日本総領事館。(1)3つの災害:ハリケーン・カトリーナ災害として一括りで語られている災害は1)ハリケーン・カトリーナ、2)ニューオリンズの堤防決壊、3)ハリケーン・リタという3つの事案の複合災害として捉える必要があり、2)の事案は想定外であり、その事が今回の災害対応に関する大きな批判に繋がっている事が明らかになった。(2)危機対応システム:2001年の同時多発テロ以降の危機管理システムの見直しによりDHSの外局とされたFEMAの災害対応の失敗が大きな問題となっているが、その一方で新たに導入されたNRP(国家危機対応計画)、NIMS(国家危機対応システム)が上手く機能した。(3)応急対応期の活動:NRPに規定されるESF(危機支援機能)に基づき自治体の災害対応支援が行われた。被災者に直接支援を行うIndividual Assistance並びに被災自治体に対する支援を行うPublic Assistance共、現地に設置されたJoint Field Officeにおいて連邦政府直轄で業務が行われた。(4)復旧・復興期の活動:ルイジアナ州は復興事業を行う新たな機関Louisiana Recovery Authorityを設置し、復興計画の策定を行っており、住宅再建支援に最大15万ドルが支出される事がほぼ決定された。
著者
松本 龍介
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

水素を安全に用いるためには,水素環境での金属材料の力学的挙動を正確に予測することが重要である.本研究では,材料/力学/環境的因子が金属の破壊形態に及ぼす影響を,解析と実験の両方から調べた.代表的な成果は以下の通りである.(a)境界条件によって支配的な水素の影響が変化する.(b)水素によって格子欠陥濃度が増大する機構を明らかにした.(c)水素が存在すると破壊直前に局所的な塑性ひずみ速度が急速に増大する.
著者
久保田 実 鰭崎 有 柄木 良友 稲田 ルミ子 信貴 豊一郎
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、絶対温度0.01K以下までの低温を容易に室温から数時間で作り出し、また急速に室温まで戻すことができる、しかも必要とあれば長時日に及ぶ連続運転が可能な"運搬が容易にできる新しい型式の希釈冷凍機"を試作開発するものである。第2年度末までに、開発の第1段階である'室温に ^3He回路のみを持つ ^3He JーT希釈冷凍機'で32mKを安定に作ることに成功し、第2段階の' ^3Heを室温部のポンプや圧縮機を使わずに循環する低温 ^3He回路の開発'をスタ-トさせた。今年度はこれを更に推進するために(1)4.2K〜30Kで働く活性炭吸着ポンプー圧縮機の試作とその基本特性の測定、(2)低温 ^3He加圧回路に欠かせない低温バルブの試作と、性能試験を行い、所期の目的の100μmole/s程度の循環を可能とする条件を見いだした。この結果は1990年4月の低温工学国際会議ICEC13(北京)、および低温物理学国際会議LTー19(1990年8月Brighton)に於て発表した。しかしながら複数の低温バルブと複数の吸着ポンプとを組み合わせて低温 ^3He回路を自動運転するには未だ至っていない。我々は低温バルブにはインコネル製の"Cーリング"と呼ばれるシ-ルを用いているが繰り返し使用するバルブの閉りと信頼性を改善するために"Cーリング"の表面をみずからインジュウムメッキして使用している。信頼性の向上にはシ-ル面の工作精度も問題でありその試験に長時間を要する。一方分溜室の温度を下げ冷凍機の性能向上を計るために吸着ポンプも3*10ー2mb程度の圧力まで十分機能する必要がある。ポンプ内のコンダクタンスの改善が望まれる。これらの問題点を解決して総括報告が1年以内にできるものと考えている。
著者
宮下 規久朗
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、1600年前後に初期キリスト教文化がいかに再評価されたかをあきらかにし、それが聖堂装飾をはじめとする当時のローマの美術活動に主題上・様式上いかに反映されたか、そしてそれが聖年における教皇庁や宗教団体の教義や政策、プロパガンダとどう関係したかを考察し、主要な画家の動向を追いながら、新たなバロック美術の誕生を促したメカニズムを総合的に解明しようとするものである。こうした調査によって、後期マニエリスムから初期バロックにいたる、イタリア美術史上もっともダイナミックな転換点の美術に、従来と異なる角度から光を当てることができ、また筆者が継続して行ってきたカラヴァッジョ研究にも、裏付けと深みを与えることができた。平成14年度は主として教皇庁における反宗教改革期の美術政策について研究を行った。反宗教改革期には、教皇庁の美術が当時の公的な美術様式と認定され、各教団の美術政策や個人の美術嗜好に強く影響していたからである。具体的には、16世紀から17世紀にかけての教皇権が、当時の欧米の歴史情勢の中でどのような政治的・社会的位置をしめていたのか、またそれが公的な聖庁であるヴァチカン宮殿と一族の居城であるパラッツォの美術装飾にどのように反映しているかについて調査した。平成15年度は、反宗教改革の国際的広がりという視点から、イタリア以外に普及した反宗教改革期の美術様式に注目した。また、わが国の禁教下から今日にいたるまでのいわゆる「隠れキリシタン」の美術については、その聖像(イコン)が存在するにもかかわらず、美術史上の研究対象となったことはほとんどなかった。しかし、キリスト教主題を持つ原図が閉ざされた社会でいかに変容し、異種の図像にいたるかというきわめて興味深い問題を提示しており、長崎県生月島で今も信仰されている聖画(納戸神・御前様)について若干の調査研究を行い、小論文を執筆した。平成16年度は著書『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』をまとめるため、今までに書いた諸論文を点検して書き直す作業に従事した。とくに第二章「1600年前後のローマ画壇とカラヴァッジョ」は、かつて書いた論文をほぼ全画的に書き直し、大幅に加筆してほとんど新しい論文にしてしまった。このように、1600年前後の混沌とした美術の状況と、反宗教改革とキリスト教考古学の流行に鼓舞されて起こった新たな潮流を、カラヴァッジョの革新という座標軸を設定することであきらかにすることができた。
著者
亀谷 乃里
出版者
女子栄養大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

バルバラの生涯と未発見作品並びに彼に関する批評の発堀作業の結果報告。1.Soci【e!´】t【e!´】 des gens de lettres所有の古文書から(1)1846年12月8日付、協会長宛のバルバラの手紙(入会願い)(2)1847年1月6日付、バルバラの入会確認書、(3)1872年12月2日付、墓石商未亡人の協会宛の手紙(バルバラの基地使用期限切れの件)(4)1882年12月2日付、バルバラの弟、ジョルジュの協会長宛の手紙(シャルル・バルバラの遺児のため奨学金依頼の件)、以上を発見。(1)にはそれまでに発表されたバルバラの作品リスト及び寄稿したp【e!´】riodiguesの記載があり、中には未発見作品も含まれp【e!´】riodiguesに実際当って次の作品と事実が発見、判明した。・"Un Chiffonnier,"Almanach populaire de la France,Paris,1845,pp.95-100;・"O【u!`】est le drame? O【u!`】est la farce? Un Paillasse",Le Tam-Tam,11 sept,1836;・Le Conteur Orl【e!´】anais(recueil),Orl【e!´】ans,1845に寄稿;・Le Corsaire,Le Corsaire Satanに寄稿し始めた年が1845年又は1846年と判明。・1846年にバルバラがN゜2 M.le Princeに居住した事実が判り、シャンフルリの『回想』の中で語られている諸事件の年代が判り、以後の調査のための大きな手懸りを得た。(2)よりバルバラの文芸家協会入会年月日が判明。2.バルバラの友人ナダールの寄稿を手懸りに、・"Le Tems la Vie et la Nourriture 【d!´】unHomme,Le Commerce,24nov.1843を発見。3.バルバラの二児の出生証明書を発見しその名前と出生年月日が判明、(Marie Charles Eug【e!`】ne Antoine,1862年10月22日;Pierre Gabriel,1864年12月3日)、4.義母とGabrielの死亡証明書を発見し、バルバラとその妻、息子の一人、義母が5日間で相次いで死亡したことが判明。5.Arthur Pouginによるバルバラの記事、"Charles Barbara",La France musicale,7 oct.1866を発見。この中で未だ知られていないバルバラの作品の題"Organiste"があげられていて、以後の作品発見の手懸りを得た。
著者
沢田 知子 丸茂 みゆき 曽根 里子 谷口 久美子 渡邊 裕子 山下 哲郎 南 一誠 高井 宏之 西野 亜希子
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008-04-08

本研究は、近年の長寿命住宅への要請を踏まえ、官民の供給事例を対象に、体系的・経年的調査を実施し、「長寿命住宅(ハード)に対応する住まい方像(ソフト)」を明らかにすることを目的とした。調査(3種)として、「フリープラン賃貸住宅」の居住過程調査、「公的賃貸住宅(KSI含む)のライフスタイル調査、「住まいのリフォームコンクール」入賞作に関する調査を実施。その成果物として、日本建築学会査読論文3編、「長寿命住宅に対応する住まい方事例集」報告書等を作成した。また、100年超を視野に入れた長寿命化を図る「リフォーム計画論」として、現存住宅の所有者更新に力点をおいた「計画技術」を蓄積する必要性を示唆した。
著者
奥野 久美子
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

菊池寛の作品「岩見重太郎」および「入れ札」を中心に、大正期文学と博文館長篇講談とのかかわりを明らかにした。「岩見重太郎」においては博文館長篇講談が典拠であることを明らかにした。また「入れ札」でも同叢書が利用されていた可能性、および同叢書が川村花菱など大正期の他作家にも利用されていたことを証した。具体的成果は学会での口頭発表 2 件、論文 2 本である。