著者
佐藤 悦子 遠藤 みどり
出版者
山梨県立看護大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2000

平成14年度研究目標:平成12・13年の研究から「在宅療養者および訪問看護師の在宅でケアされること、ケアすることの体験には『ずれ』が生じている」ことが明らかになった。さらに対象を広げ、その信頼性を高める。研究方法:1)研究対象:本研究の趣旨を了解し協力が得られた在宅療養者9名訪問看護師8名2)データ収集方法:半構成的面接法を用いインタビューを1名に対し2回行なった。在宅療養者には「訪問看護を受けていること」を、訪問看護師には「看護を提供していること」をそれぞれ自由に語ってもらった。承諾を得てメモやテープレコーダーに記録し、それをデータとした。3)データ分析方法:データから体験している世界をできる限り忠実に読み取り、研究者が読み取ったものを再度対象者に返し、それを新たなデータに加え分析することで客観性を高めた。研究結果および考察:在宅療養者全員が、「来てくれることで安心」という体験をし、訪問看護師も「訪問が安心感をもたらしている」という体験をしていた。また、ストーマ造設療養者は「細かなところまで教えてもらっている」という体験や疼痛のある療養者は「痛くないように援助してもらっている」という体験をしていた。訪問看護師は療養者が語った看護ケアを提供している体験に加え、変調を予測した予防的な看護ケアやよりよい生活を思考し提供している看護の具体的なケアについての体験もあったが、在宅療養者から語られることはなく、そこに「体験のずれ」があった。目に見える医療処置や疼痛への専門的看護技術の提供は、両者の体験として語られ、両者の明確な自已決定の一致が存在する。しかし、「体験のずれ」は両者の自己決定のずれを表し、それは、看護職者が提供している自己の看護ケアの意味を在宅療養者に語ることの不足に起因していると考える。
著者
戸村 佳代
出版者
明治大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では、主節が省略された複文が発話された際に、日本語話者がその省略部分を復元し正しく理解するのに関与しているメカニズムを、語用論・関連性理論などの観点から明らかにすることを目的とし、次の4つの視点で研究を進めた。(1) 日本語の母語話者が省略された主節の復元に利用する語用論的情報を明らかにする。(2) 主節の省略を許す接続助詞の意味情報と文脈の関わりを分析する。(3) 主節の省略を促す要因と主節の省略が可能となる条件を明らかにする。(4) 学習上の困難点をより明確にし、学習者に与えるべき情報を特定する。主節が省略された複文の主節を日本語話者が頭の中で復元し理解する際には、次の意味情報が大きく寄与している。(1) 問題となる複文に用いられている接続助詞が持つ意味情報(2) 問題となる複文に先行する文脈から得られる意味情報(3) 問題となる複文に続いて現れる文脈からの意味情報これらの情報の実態を捉えるために、従属節(S_1+接続助詞)のみの情報が主節(S_2)をどの程度まで規定し得るかを見るための調査を行い、調査結果をデータベース化した。分析にあたっては、(1) 特殊な文脈の中に入らず、従属節だけが単独で提示された場合、(2) 従属節がさらに条件節を伴っている場合(3) 文脈情報がさらに付け加わっている場合(4) 同一の文脈・同一の従属節に対して異なる接続助詞を伴わせた場合に、主節の解釈がどのように変化するかなどに分類し、接続助詞の機能と文脈の役割を明らかにする試みを行った。この研究の詳細については『明治大学教養論集』に発表の予定である。。
著者
川崎 登志喜
出版者
玉川大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1. 研究の概要本研究は先行研究を基に、イベント効果の中でもスポーツイベントに深く関わる「ダイレクト効果」「コミュニケーション効果」「直接的波及効果」「間接的波及効果」「パブリシティ効果」の5つの効果に、「運動生活に及ぼす影響」「市民生活に及ぼす影響」「地域住民によるオリンピックの評価」の3項目を加えた計8項目の大項目から導き出された質問項目を設定し、長野オリンピック開催1ヶ月前と閉幕1ヶ月後、閉幕1年後の計3回にわたって調査を実施し、長野オリンピックが地域住民に及ぼす効果を測定しようと試みた。2. 主な結果の概要(1) ダイレクト効果:すべての項目において、開催前に比べて認知度が増していることが明らかになった(P<0.001)。しかしながら、「はあてぃ長野推進運動」「オリンピックアンバサダー」「スノーレッツクラブ」の3項目は、多くの市民に認知されなかった。(2) 直接的波及効果:「スポーツ施設が充実した」は開催前(4.08)から閉幕後(3.94)と平均値が減少し、期待通りではなかったという市民の評価ではないかと思われる(P<0.01)。また、オリンピックの理念である「国際平和」「国際交流」についてはそれぞれ平均値が上昇し、オリンピック(大会理念)効果が現れたと思われる。(3) 運動生活に及ぼす効果:スポーツイベントがその他のイベントと最も異なる効果を期待したい運動生活に及ぼす効果については、最も効果があったのは「スポーツへの関心」であった。(4) 市民意識に及ぼす効果:「開催を誇りに思う」「街を他人に自慢できる」(P<0.001)など、長野市民としてのアイデンティティーの向上がみられた。
著者
野呂 影勇 落合 勲 井上 哲理
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究は、コンピュータを中心としたマシンへの人間の感情の働きかけ、マシンからのメッセージに対する人間の受けとめ方に関する研究であり、その調査では対人行動の分析、特に交流分析を援用して深層面接を行った。そして面接結果をもとにコンピュータ操作場面の分析を行った。分析から以下の知見を得た。1.コンピュータに対するさまざまな態度基本的には大人(A)と大人(A)の理性的な交流、自分をコンピュータに順応させていく(AC)ような交流をとっている。しかし、エラーや不測の事態が起こった場面では攻撃的な傾向、動揺して萎縮する傾向(AC)、成果がでた時には自然な感情表現(FC)ややさしい言葉をかける(NP)などのさまざま態度をとっていることがわかった。2.交差交流(くいちがい)が起こっている順応したこども(AC)からコンピュータを罵倒するなどの態度をとる、あるいは養育の親(NP)から「がんばって」といった働きかけをするなどの働きかけを行っても、コンピュータからのメッセージが理性的な大人(A)の立場から発せられているため交流にくいちがいがおこっていた。3.熟練者のマシンとのやりとりの特徴コンピュータの熟練者達は、マシンとの表面のメッセージ上の理性的な大人(A)と大人(A)のやりとりのみならず、子供(C)や親(P)の状態にメッセージを自分なりに置き換えて使用していることが分かった。これらの結果から、操作者の情緒や感性を誘発し、創造的な作業を可能にするためには、人間の自由な子供(FC)の引き出す養育の親(NP)や自由な子供(FC)部分をコンピュータにもたせることが必要であると思われる。
著者
鈴木 泰子
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

【研究目的】病気におけるすこやかな生への「はずみ」が、病気とともに成長する子どもにとってどういう経験であるのかを明らかにする目的でフィールドワークを継続し分析をすすめる.【研究対象】13歳〜22歳の慢性疾患患者5名で、発症後5年以上経過した者で、本研究への参加の同意の得られた者.【データ収集方法】(1)対象が参加するボランティア活動における参加観察(2)グループおよび個別のインタビュー.【分析】小児看護分野・小児がん臨床分野の研究者・実践家、質的研究を継続して実践している研究者らによるスーパーバイズを受けながら、データを質的帰納的に分析した.【結果及び考察】病気との対峙を通して子どもは、(1)発病前の自分へのわだかまりを何度もいったりきたりしながら捨て、いやなことがあってもとがめだてせずにあるがままを受け入れるようになる、(2)健康であったときより高次のすこやかさ(安定感や身体感覚)を獲得する、(3)自分の成長とともに病気への感謝を実感するようになった.これらはボディイメージの耐え難さや受け入れ難さと深く関わりながら、周囲の者への反発、自らや周囲への語り、他者との相互関係によって熟成され、上昇停止体験や未来への諦めとは異なる現在と未来を精一杯生きる意思や生きる意味の獲得へとつながりゆくものと考えた.この病気と対峙する過程で、発達段階に適切な多面的、継続的なサポートが必要とされ、自らや他者のいのちをみつめ、相互に関わりあうことで、子どもは強くしなやかなすこやかさ(安心や安定)を獲得し、病気がすこやかな生への「はずみ」を強める要因となり得るとみなされた。【今後の課題】本研究は発症時の記憶がはっきりした少数の限られた発達段階を対象としたものであることが研究の限界であり、今後は対象数を増やし、隣接する発達段階による比較検討も必要とされる.周囲への反抗や攻撃を実感できず表現もできない子どもへの着目の重要性も示唆された.
著者
木下 謙治 山下 祐介 吉良 伸一 坂本 喜久雄 米澤 和彦 篠原 隆弘 岩元 泉
出版者
福岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

1. 九州の農業は、国内での農業生産のシェアを伸ばし、生産額も全国平均をかなり上回る数値をあげてきた。しかし、農外所得が低いために、農家所得は都府県平均の8割程度にとどまっている。2. 九州の各地で、佐賀県の代表的な水田地帯のようなところまで含めて、有力な専業農家は稲作への依存度を低めている。土地利用型農業の衰退化といえるが、それとともに、水田を如何に維持してゆくかが大きな問題となってきている。集落営農、機械共同利用組合、農作業センターなど様々な共同が必要となってきている。3. 南九州を中心とする畑作地帯では、茶、疏采園芸、花卉、畜産など多様な生産活動が展開しており、水田地帯よりも見通しは明るい。畑作地帯が有望となってきた背景には畑地潅漑が進展してきたことが大きい。いっそうの潅漑施設の整備が望まれる。゛4. 中山間地の農林業については、大分県上津江村でみたように、複雑な山間立地にみあった複合経営が必須である。そして、それを補うものとして、地場産業起こしが必要である。いわゆる、官民一体の地域づくりの運動の中に農林業を位置づけねばならない。5. 九州の農業を担っている中核的農家は、直系的家族である。家的な構成は、やはり、農家では今後とも維持されてゆくであろう。家=家父長制と考える必要はない。21世紀においても、農業の中心的な担い手は農家であると思われる。6. グローバルにみれば、九州農業は、日本農業と同じく零細な小農経営にとどまっている。むらに関わる共同は、なお、必要である。しかし、自治組織と生産組織との乖離は進んでいる。新しい農村コミュニティの形成も視野にいれなければならない。
著者
西口 利文
出版者
中部大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,小中学校の教員志望者が,問題場面でのコミュニケーションのレパートリーを学ぶための教育プログラムの開発を目的として実施した.この教育プログラムは,小中学生が教師に求める言葉かけに関する調査研究の成果を授業の中で報告しながら,受講者によるグループでの話し合いを中心にすすめるものであった.当該プログラムの効果を検討したところ,受講者のコミュニケーションのレパートリーを広げるのに資することを確認した.
著者
藤井 敦史 原田 晃樹 北島 健一 佐々木 伯朗 清水 洋行 中村 陽一 北島 健一 清水 洋行 佐々木 伯朗 中村 陽一
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本では、社会的企業が、企業の社会貢献との延長線上で捉えられ、制度的・社会的基盤条件を無視した研究が行われてきた。それに対し、我々は、EMESネットワークの社会的企業論を分析枠組の基礎に据え、英国イースト・ロンドンの社会的企業、並びに、障害者雇用領域で活動する日本の社会的企業について調査研究を行った。これらの比較調査から、社会的企業の発展にとっては、(1)委託事業を含む政府(行政)との協働のあり方や(2)地域でセクターを形成しうるインフラストラクチャー組織の存在が極めて重要であることが理解できた。
著者
田巻 義孝 小松 伸一 永松 裕希 原田 謙 今田 里佳 高橋 知音
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

Manly, Robertson, Anderson, & Nimmo-Smith(1999)が開発したTest of Everyday Attention for Children(以下,TEA-Chと略す)を参考とし,(1)注意が単一ではなく複数の機能から構成されているとみなす理論的枠組みに立脚し,(2)児童・生徒に親しみやすい刺激材料や課題を使用し,検査の生態学的妥当性に配慮している集団式注意機能検査バッテリーを作成した。検査バッテリーは,4種の下位検査(地図探し,音数え,指示動作,二重課題)から成っており,それぞれ異なる注意機能(つまり,選択的注意,持続的注意,反応抑制,注意分割)の査定を意図している。この検査バッテリーを小集団トレーニングプログラムに参加を希望したADHD児童に実施したところ、どの児童にも共通して平均より劣っているのは持続的注意の指標であった。このことから,小集団トレーニングプログラムでは,持続的な注意の改善を基本の目標に据え、行動管理の原則を用いるとととした。バークレー(2002)では、AD/HDを有する子どもの行動管理の原則として、即時的で頻繁なフィードバックと目立つ結果、否定の前の肯定、一貫性の保持を挙げている。このプログラムでも、これらの行動管理の原則を守り,子どもが学習や遊びの場面でつまずいた時に担当者がすぐに対応し、できないことを叱るのではなくできたことを誉めるようにし、がんばってシールをためると誉めてもらってご褒美がもらえるよう設定した。小集団トレーニング開始時と終了時の行動観察(生起頻度の評定)から,児童の立ち歩く回数が減り衝動的に発話することが減っていったことが確認された。また開始時と終了時および終了後2ヶ月の保護者の行動評定から,話し合いの態度や協調性,望まない状況での対処や決めたことへの取り組みが以前よりできるようになり効果が維持されたことが明らかになった。
著者
佐藤 毅 相田 敏彦 安川 一 川浦 康至 栗原 孝 市川 孝一 草津 攻
出版者
一橋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

1.調査の概要 (1)目的-子どもの社会化、とくにしつけの局面における親子(父、母、子)の相互行為の実態を明らかにすること。(2)対象-武蔵野市と長野市の小学5年生(271名)、中学2年生(208名)それぞれの親(父母、合計952名)から回答を得た。(3)方法-質問紙によるアンケート調査(一部で投影法を用いた)。2.調査による主な知見 (1)親の産育意識-育児の苦労や次の社会を担う世代という意識が強く、今や親の都合や家の存続を前提とした観念は薄くなっている。(2)親の子どもへの期待像、子ども自信の期待像-「やさしい子ども」をあげる回答が最も多いが、親子のズレも多く見られた。(3)子どもの将来の理想像-親子ともに「幸せな家庭生活」をあげるものが最も多い。(4)親の親子観-「子どもを独立した人格」と見なす回答が最も多かったが、父親の親子観が相対的に未分化なのにたいして、母親のそれには依存と干渉、放任と独立というカテゴリーがより明確に意識されている。(5)親子のコミュニケーション関係-子どもは母親に比べて父親に対して、あまり話しかけないし、また、自分の話をきいてくれるとも思わないこと、さらに、相互理解という点でも父親は疎遠な存在である。(6)しつけの担い手-母親が主たる担い手となっている。(7)しつけの重点-父親は「礼儀作法」「勉強」「ものを大切に」、母親は「勉強」「礼儀作法」「家事」の順に多くあげる。(8)叱り方-父親では「怒鳴る」が「よくわかるように説明する」を上廻り、母親では「小言やぐちを言う」を多くあげる傾向がある。(9)叱り言葉-「早くしなさい」が親の言葉として最も多いが、子どものあげる叱られ言葉との間にギャップがある。(10)ほめ言葉-親は子どもの学業成績に関してほめている言葉が目立つ。(11)慰め言葉-親は子どもにリターンマッチをすすめる言葉を多く発する傾向があり、親子のギャップがある。
著者
奥富 庸一
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究によって、就学前の幼児をもつ母親(子育て期の母親)は、家族や周囲からの支援をやや得ながらも、自分自身に満足しておらず、周りに合わせて、自分の気持ちを抑えながら、がんばって子育てをしていることを明らかにした。このような現状から、A.S.E.の要素を取り入れた親子ふれあい運動あそびプログラムを開発し、そのストレスマネジメント効果を検証したところ、母親の自分自身に対する自信感が向上することを確認した。
著者
難波 啓一 ROLAND DEGENKOLBE ROLAND DECENKOLBE
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

細菌の運動器官であるべん毛は、20種類の蛋白質から構成される生体超分子で、回転モータである基部体、らせん繊維型プロペラとして働くフィラメント、そしてそれらを連結してユニバーサルジョイントとして働くフックと、おおまかに3つの部分からなる。べん毛フィラメントはフラジェリンが非共有結合でらせん状に重合したチューブ構造で、極低温電子顕微鏡像の画像解析による構造解析法の長年にわたる工夫によってその原子モデルの構築に成功した(Yonekura et al., Nature 2003)。フックの構造については、その直線型構造の低温電子顕微鏡像解析による低分解能立体像と、サブユニット蛋白質FlgEのX線結晶構造解析法による原子モデルを組み合わせ、機能構造である曲がったフックの擬似原子モデルを構築し、それに基づく分子動力学シミュレーションにより、ドメイン間相互作用表面で一定数の水素結合やファンデアワールス接触点を保ちつつ結合相手を順次替えて相互滑りを起こし、各素繊維が約30%にもおよぶ伸縮をしてユニバーサルジョイント機能を実現することを明らかにした。(Samatey et al.Nature 2004)Roland DEGENKOLBE研究員は、べん毛基部体の蛋白質であるFliMとFliN、そしてべん毛蛋白質輸送装置の基幹サブユニットFliIとFliHが形成する複合体について、電子顕微鏡とX線回折法を組み合わせた超分子立体構造解析手法によるその全体構造の解析をめざしている。この複合体はべん毛の自己構築過程で、輸送の効率化を計るための非常に大切な役割を果たしており、構造が解けて原子モデルが構築できれば、べん毛蛋白質輸送のしくみについて大きな手がかりが得られると予想され、大変楽しみな研究プロジェクトである。そこで、DEGENKOLBE研究員は、この複合体の構成蛋白質を共発現する大腸菌大量発現系を用いた蛋白質試料の調整法、精製法の工夫を行い、結晶化とX線結晶構造解析、そして電子顕微鏡による立体構造解析をめざした研究作業を着実に進めてきた。いくつかの条件で微小な結晶が結晶化ドロップに現れ、それを拾い上げて実験室のX線回折装置にかけて回折能を確認したが、まだ良好な回折像は得られていない。結晶化条件をさらに工夫することにより結晶をより大きく成長させ、高分解能の回折反射を観測できるよう日夜がんばっている。この種類の仕事はリスクが大きく、本来ならば、2年間のJSPS特別研究員の短い期間中に挑戦するのには多大な困難が予想されるが、DEGENKOLBE研究員はこの難しい問題に果敢に挑戦し、質の高い成果を上げようとしており、その姿勢は高く評価できる。
著者
山川 充夫
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的はNPO法人と商店街との連携が中心市街地の活性化にいかなる役割を果たすのか、その経済的効果はいかなるものが期待されているのか検討した。大店立地法は売場面積規模が数万m^2に達するほどの出店申請をほとんど全て認め、これが周辺環境問題とりわけ生活環境問題を悪化させた。中小企業団体や地方自治体から厳しい意見が出され、まちづくり三法の改正が着手された。労働効率、売場効率、販売効率の検討から、大型店は売場面積が2〜3万m^2を超えないと効果が現れず、このことが売場面積規模を大きくする原因であることが判明した。また最寄品中心型商店街をロードサイド型と比較すると、売場効率では遜色のないものの、労働効率がかなり悪いことがわかり、これが地方都市中心商店街の衰退原因であることが判明した。地方都市中心商店街を活性化する方途の一つとしてNPO等との連携がある。中心市街地に訪れる生活者は中心商店街に、コミュニティの維持発展の基盤となる「安全・安心」、買い物などのサービス利便性、公共的性格を持つ交流・サービス機能、歴史的文化的豊かさ、地球環境問題への対応等に期待を寄せている。各種調査からこうした生活者の複合的かつ多様なニーズへの対応には、「商い」を専らとする商業者がNPO等と連携することが不可欠であることが判明した。福島県福島市では2002年度から「市民協働型まちづくり」に取り組み、企画提案型事業の公募、人材育成のための「まちづくり楽校」の開校、市民電子会議室の設置などの成果を出している。なかでも「ふくしま城下まちづくり協議会」の取り組みが注目される。この協議会は市民協働型でペーパープランにとどまっていた地区計画に生気を吹き込み、福島市が借上住宅として活用する商住型民間マンションが建設され、定住者の増加により伝統的なイベントも活気を取り戻し、まだ事例的に過ぎないものの、店舗が新規開店した。
著者
江口 一久
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

フィールドワークの前後、国内においては、現地で収集された資料を文字化した。文字化されたものは、そのモチーフ、話型などの比較をおこなった。同時に、すでに出版されているマンダラ山地民の社会・文化にかかわる書籍、研究論文などをよみ、今後の問題点をあきらかにした。そのうち資料としてまとまりのあるマタカム族の民間説話の「コイネー・フルフルデ語」のテキストを完成し、その英文のレジュメを作成した。この資料に関しては、北部カメルーンのフルベ族の民間説話との比較研究をおこなった。また、このテキストをもって、フィールドにのぞんだ。フィールド調査は、二度、雨期明けの一月から二月にかけておこなった。フィールド調査では、西部のマンダラ山地民、すなわち、マンダラ、マダ、ムヤン、ズルゴ族などの資料もあつめた。トコンベレ、モラ、マルアなどで、インフォーマントから直接民間説話の収集をおこなった。かれらのフルフルデ語学習歴をしるために、民間説話と同時に語り手たちのライフストーリーもあつめた。北部カメルーンの都市だけでなく、マンダラ山地民の出身地の村落なども、物質文化や精神文化をしるために、訪問調査をおこなった。とくに、イスラム化されていないかれらの村落には、さまざまな民間信仰につかわれる事物があるので、そういったものには、注意をはらった。帰国後、ある種のものに関しては、内容を理解するのが困難だから、収集した民間説話は、現地において、文字化の一歩手前の状態、すなわち、外部のものには、わからない表現、とくに、歌などの徹底的な聞き取りをおこなった。いままで、収集整理された資料を方向所としてまとめて、国立民族学博物館調査報告として、出版の準備をすすめている。この研究で得られた資料は、データ・ベースとして、インターネットで公開する予定である。
著者
山口 和恵
出版者
鳥取大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1.研究目的緊張や興奮から体をこわばらせがちな青年期をむかえた知的障害のある生徒の、やわらかい心と身体づくりをめざして、リラクゼーション効果が高いとされるボールストレッチと音楽療法の考え方を取り入れて、年間指導計画及び支援や評価方法などの学習プログラムを作成し、実践を通して生徒一人一人に適した学習プログラムのあり方や効果について検証を行う。2.研究内容(高等部自立活動「さわやかタイム」における授業(生徒5名)を対象)(1)生徒の実態を把握し、年間指導計画、学習プログラムを作成する。年間指導計画は、ねらいを3期に分けて設定する。1期:心と体のリラックス感を味わう。2期:自分で気持ちのいい感覚を求める。3期:自分の緊張や興奮に気づき、気持ちをコントロールする。(2)活動内容と支援の工夫環境音楽を流し、暗幕を張って暗くした部屋でリラクゼーションを行う。アロマやミラーボールなどでリラクゼーション効果を高める。生徒はセラピーボールやビーズクッションなどを使って、リラックスの姿勢を取る。場に慣れて緊張がほぐれてきた生徒には、教師が1対1でマッサージやボールストレッチを行う。個々にリラックスのスタイルがあると捉え、生徒が求める活動や刺激に応じる。3.研究成果・慣れない環境にじっとしていられなかったり大きな声が出たりする生徒もあったが、次第にリラックスした雰囲気を体感し、進んで部屋に入ってきたり好きなグッズを使って楽な姿勢を取ったりするようになった。・心身ともにリラックスした状態で教師とふれあう経験を重ねることにより、触刺激や人に対する緊張も緩和してきた。・ボールストレッチでは、はじめは体を硬くしてうまくバランスがとれなかった生徒も、3期にはボールに体を預けてバランスをとったり脱力したりできるようになった。・リラクゼーションの効果を再認識し、他の生徒にも必要と考え、高等部の生徒全員に場と時間を提供した。心身の状態に合わせてリラクゼーションを求め、主体的に自分をコントロールしようとする生徒が増えた。
著者
井岡 正宣
出版者
滋賀大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

特別な支援を必要とする子どもたちに対して、どのような支援を行えば意欲的に毛筆書写を行えば良いかを研究の目的とした。Y市で特別支援教育の必要な子どもを対象にした書道教室を年間9回開催した。毛筆書写は3年生からであるが、技術的なことを身につけることよりも楽しく書くことを目標にして1年生からも対象にして募集したところ、15名が集まった。1・2年生の初めて筆を持つ子どもたちは、慣れるまでに時間が掛かった。そこで、手順が分からない子どもに対しては写真カードで手順を示した。さらに、今日の学習活動がすぐに分かるように学習の流れを模造紙に示し視覚支援を行った。写真カードや模造紙を使うと、次第に見通しを持つことができ自ら活動できるようになった。題材は、字形にとらわれないように象形文字を中心とした。9・10月には全紙1/2の大きな紙にダイナミックに書くことに挑戦した。ほとんどの子どもたちは初めての体験で驚いていたが、書き上げた後自分の作品を見る顔は、満足感が溢れていた。できあがった作品が大きいと、迫力がありより充実感を得ることができる。作品はY市の文化祭に出品し、保護者の方や地域の方々にも見て頂いた。その後、一人の保護者は父親の経営する会社の事務所に飾り、来客者にも見て頂いてということだった。来客者はその迫力に驚いていると喜んで話しておられた。毎回子どもが書いた作品は、デジタルカメラで縮小し写真を額に入れたり、パネルに加工したりしたりして、机の上や壁に飾れるようにした。形のこだわるよりも子どもたちが、楽しいと感じる題材を選ぶことが大切である。さらに作品を掲示することにより、家族にも見て貰うことができ、次もがんばってみようという意欲につながった。
著者
田邉 新一 秋元 孝之 岩下 剛 堤 仁美 松本 隆
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

人間の快適性、建物の室内環境制御及びエネルギー消費の効率化、空調システムの運用性能向上を考慮した統合制御の最適化を目的とした。環境要素をVRとHDRを用いて提示することの有効性、建築に有用な臭気評価法の提案と性能試験、高顕熱型空調のエネルギー対比快適性能の優秀性を示した。また、個別分散システムを対象とニューラルネットワークを用いた冷媒物性値近似法を提案・出力精度を評価した。空調シミュレーションにおいて、オープンソース化と再利用性を高めるためオブジェクト指向言語を用いたスケジューラ抽象化及びモジュール形式シミュレーションを制作し有効性を検証した。
著者
梅宮 典子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

集合住宅10戸の夏季から中間期の窓開閉、冷房使用、室内温熱環境の実測記録により、1)外気温26℃〜33℃で冷房使用率は70%程度、2)冷房期の冷房使用率は室温でロジスティック回帰できる、3)外気温と開放率の関係は季節によらず一定、4)外気温22℃のとき開放率最大、5)外気温22℃、27℃、31℃で調節の選択傾向が変化、6)外気温が室温より4K高いとき開放率最大、7)冷房期に「冷房停止・閉鎖」の選択率が最大のときPMVは1.5〜1.75。8)内外気温は季節ごとには相関なし、9)冷房〜中間期合計では相関は冷房停止・開放、冷房停止・閉鎖のとき高く、冷房使用時は相関なし、10)内外気温の相関は冷房停止・開放からの変化では冷房期と冷房終了期に高く、冷房停止・開放への変化では低い。11)中間期には内外気温の相関は、閉鎖から開放への変化時が、開放から閉鎖への変化時より高い。一方、集合住宅290戸の夏季温熱環境調節のアンケートにより、1)開放する理由は換気・通風、掃除、2)閉めておく理由は温熱環境維持が特に低開放頻度住戸で強く、防犯が開放頻度によらず強い。3)閉鎖する理由は冷房、外出。開放頻度の低い住戸は騒音、高い住戸は室温低下に敏感、4)居住年数とエアコン台数(有意水準1%)、就寝時の冷房使用と年齢、虫(2%)が冷房費に関連。5)南向き住戸は冷房費が安く、設定温度が高く、主観的冷房使用程度が低い。西向き住戸は冷房費が高い、5)睡眠や食事など生活様式、外界への好み、環境問題への関心は冷房費と関連が弱い、6)外部の視線は使用程度に関連、7)体質は設定温度にのみ関連、8)結露、におい、カビがあると使用程度が高く設定温度が高い、9)冷房費節約意識は設定温度を上げ使用程度を下げるが、冷房費には影響しない。以上、温熱環境調節行為の生起と生起状態が室温と外気温をもとに推定できる可能性が示された。
著者
那谷 雅之 井上 裕匡
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温多湿環境下ラットの心筋及び脳幹における遺伝子発現量を定量した。心筋では直腸温上昇と共にHSP70 発現量は増加する一方で、42℃-44℃上昇間に Bcl-2/Bax は減少、β-MHC は増加した。脳幹では、直腸温上昇に伴いHSP70 は増加する一方で、iNOSは低下した。Bcl-2/Bax は37℃から42℃までは明らかな変化を示さなかったが、42℃-44℃間では有意に低下した。過度の体温上昇は心臓・脳幹の形態学的・機能的障害を引き起こす可能性を示唆していると考えられた。
著者
杉戸 清樹 塚田 実知代 尾崎 喜光 吉岡 泰夫
出版者
国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 日常の言語場面における談話のまとまり(質問・要求・あいさつなど)が言語行動として実現される際,どのような「構え」のもとに生成され受容されるかについて,言語行動論・社会言語学の枠組みで検討することを目的として,次の研究を進めた。(1) 前年度までに行った愛知県岡崎市,東京都内などでの探索的な臨地調査の結果,及び国語研究所の従来蓄積した敬語意識調査の結果などについて,「構え」という視点から整理・分析し,より具体的な分析の手がかりとして「メタ言語行動表現」という表現類型の有効性を検討した。(2) これらの検討に基づき,「メタ言語行動表現」「構え」「ととのえる」などという研究上の観点・方法論的枠組みについて,その有効性を主張しうる見通しを得て,その内容を提案・議論する研究論文を執筆した(裏面第11項参照)。2. 本研究の最終年度にあたるため,上記の研究論文等を中心にして「研究成果報告書」をとりまとめ印刷した(A4判全75ページ)。