著者
横井 克彦 許斐 亜紀
出版者
聖徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

わが国は超高齢化社会に達しており、微量元素、特に亜鉛による老化制御の可能性を検討した。亜鉛欠乏ラットには、脱毛、体重の低下、脂肪の減少が見られ、超高齢者の老化に類似した表現型であった。亜鉛欠乏ラットは、自由摂取対照群やペアフェッド対照群とは明らかに異なった肝臓タンパク質の発現パターンを示した。わが国では亜鉛や鉄の摂取が不足しており、微量元素補給による老化制御について検討を続ける必要があるだろう。
著者
久保 勘二
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

近年,筆者はトロポノイドの構造的な特徴を活かした機能性ホストの開発を行っている。これまでに,トロポノイドに種々のイオノファー(アームドクラウン,アザクラウンエーテル,大環状ポリアン,シクロファン)を組み合わせたトロポノイドイオノファーを合成し,その金属イオンに対する錯体形成挙動を評価した。今回,蛍光分子(アントラセン,ナフタレン),トロポン並びにジアザクラウンエーテルを組み合わせたトロポノオイドイオノファーを合成し,その光化学的性質と重金属イオンに対する錯形成評価を試みた。N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルはメタノール溶液中9-メチルアントラセンの発光強度の400分の1という非常に弱い発光を与えた。この発光強度の現象は窒素原子から励起されたアントラセンヘの光誘起電子移動による蛍光消光により説明することができる。また,各種金属イオン存在下での蛍光スペクトルを測定したところ,N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルは平衡定数・発光強度変化共に高い銅イオン選択性を示した。ビスアンスリルメチルジアザ-18-クラウン-6エーテルはカリウムイオン選択性を示すことから,N-アンスリルメチル-N'-トロポニルジアザ-18-クラウン-6エーテルは銅イオン蛍光分析試薬として利用できる。一方,トロポノイドアザマクロサイクルの分子集合体への応用として,トロポノイドアザマクロサイクルをコアに有する液晶化合物を合成した。ビストロポニルピペラジン誘導体はエナンチオトロピックにスメクチックC相を発現することを見い出した。さらに,そのX線結晶構造解析の結果から,ビストロポニルピペラジン誘導体は結晶状態で,分子長軸が層法線に対して30度チルトした層構造を形成していることを見い出した。
著者
今西 幸男 松田 武久 川口 春馬 片岡 一則
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

長さ5cmのポリウレタン管の内壁に細胞増殖因子と接着因子を共固定化し,管の一端にシードした内皮細胞が培養によって成長し,他端まで管壁を一様に覆うのに要する時間が約1/2に短縮された。また,90日以上培養を続け,管壁が完全に内皮細胞層で覆れたあとも,細胞層ははく離しなかった。さらに,共固定化PMMA膜を用いて培養した内皮細胞のプロスタサイクリン分泌量は,流殖因子だけを固定化した場合の約1,7倍であった(今西)。ボロン酸素含有率を高めた水溶性ポリマーは,リンパ球の増殖能を有し,リンパ球増殖促進剤としてレクチン様の機能を有することが明らかとなった。このような合成ポリマーによるリンパ球活性化は,非抗原性,安定性など,天然レクチンに比して優れた特徴が期待され,新しい生物応答調節剤としての展開が考えられた(片岡)。表面構造をさまざまな制御した高分子ミクロスフェアを用いて,表面構造との生体成分との相互作用性の関係を解析した。また,DNA固定化ミクロスフェアを用いてDNA結合性転写活性因子の精製効率を上げるためDNAの固定化量を高めることを試み,成功した。さらに,細胞接着因子の活性部位テトラペプチド(RGDS)を固定化したミクロスフェアに対する顆粒球の認識応答として,特異的な活性酸素に基づく酸素消費を観察した(川口)。人工基底膜や平滑筋細胞を組め込むことにより安定性を高めた内皮細胞層は,非凝血性を著明に促進し,また,階層性構造をとることにより,高次の配向組織化をもたらした。平滑筋細胞の形質転換は,(1)生体中の環境因子(体液性因子および内皮細胞との細胞間相互作用),(2)拍動,および(3)三次元環境による細胞の形態,などの諸因子によって起こると考えられた(松田)。
著者
日高 三郎 大石 明子
出版者
福岡医療短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

4種類の日常的な食事献立の試験管内石灰化への影響につきpH低落法を用いて研究した。主食のごはんは石灰化を促進させたが、食パン(トースト)は抑制した。献立1~3のじゃがいもなど2~3の料理と食材、さらに洋食的な献立4のバターなど2~3の料理と食材は石灰化を促進した。しかし、促進効果は口腔内では唾液の影響で発揮されないと考えられるので、われわれの日常的食事は歯石形成に抑制的であることが示唆される。
著者
冨永 典子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

体内の内分泌撹乱化学物質(ビスフェノールAや4-ノニルフェノール、フタル酸エステル類)の大半は食品からの摂取によると言われているが、日常食品中の濃度については現在までのところ測定例が少ない。そこで近年ますます購買層が拡大し、容器ごと温めることの多いプラスチック容器入りの総菜に着目し、購入時および電子レンジ加熱後の濃度を測定した。1)フタル酸エステル類:抽出・精製は日本環境科学会の定めた方法を一部改変して行った。同定はGCMS、測定は逆相HPLCで行った。6種類のフタル酸化合物について測定したが、実際の試料中からは常にフタル酸ジプチル(DBP)とフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)のみが検出され、現在の我が国での生産量を反映していた。含有量は加熱の有無によってほとんど変わらないか、加熱後の値の方が低い場合が多かった。これはフタル酸化合物の揮発性が高いためと考えられた。密閉度を上げて食品をラップで包み加熱すると、一旦揮発した物質がまた蒸気の凝縮とともに戻る傾向が見られた。2)ビスフェノールA : Tsuda, T.et al., J.Chromatogr.B, 723, 273(1999)の方法で抽出・精製後、同定・測定ともにGCMSで行った。食用油脂を使用した総菜と使用しないものを比較すると、明らかに油脂を用いて調理したものの方が高濃度であった。したがって、この物質が油脂および脂肪性食品に移行することが示唆された。加熱により含有量の増加傾向が見られたが、加熱による変動よりも加熱前総菜別の差の方が大きいことから、低温〜常温条件下でも容器から食品へ移行が起こると思われた。3)4-ノニルフェノール:ビスフェノールAと同時に抽出、精製段階で分離しGCMSで測定したが、夾雑物質が取りきれずピークの同定に至らなかった。抽出効率や精製度を高めるため別法での調製を試みたが、著しい結果は得られなかった。
著者
小林 信之 渡辺 昌宏 張 亜軍
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

船舶などで推進器として使用されているスクリューは,推進効率と運動性能の向上に限界がある.一方,進化の過程で最適化された水棲生物の泳動方法を見てみると,高い運動性能と高推進効率を有する泳動を行っていることが分かる.このことから,高効率で運動性能の高い船舶を開発する上で,水棲生物の泳動を模倣した研究は有益な知見をもたらすと考えられる.このため,本研究は柔軟なヒレの波動運動における波の数と振動数を変えられる水中推進機構の開発とその波動運動を滑らかに制御するための制御手法を構築した。水中推進機構の開発では、カムとフォロワーから構成されるスコッチヨーク機構を用いて柔軟なヒレに波動運動を発生させる水中推進機構を開発し,その機構を水槽内で泳動させることにより,柔らかいヒレの波の数と振動数の推進力と泳動速度への影響を調べた.また、波動運動を滑らかに制御する目的のために、水中推進機構の運動をマルチボディ・ダイナミクスの手法を用いて定式化した。運動方程式は幾何学的な拘束により非線形な微分代数方程式により表される。そして、運動制御のための制御系設計するための効率的な線形化手法を開発した。また、出力を用いたスライディングモード制御系の設計において、PD制御を併用する方法を提案し、より高い制御性能を得られる超平面設計を可能にした。実験から得られた以下の結果をいかに示す.(1)製作した水中推進機構は波の移動方向を変えることで前進と後進が可能である.(2)波の数が多くなると推力と泳動速度の変動が小さくなりスムーズな泳動が可能である.しかしながら,平均推力は小さい.(3)振動数が大きくなると平均推力と推力の変動は増大する.また,泳動速度は増大する.(4)波の数n=1程度の時,大きな平均泳動速度を得られる.(5)無次元振動数が大きくなると推進力と平均泳動速度は減少し,無次元振動数の値にかかわらず泳動速度の変動はほぼ一定である.
著者
渡邉 富夫 神代 充 山本 倫也
出版者
岡山県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

音声対話におけるうなずきや身振りなどの身体的リズムの引き込みをCGキャラクタやロボットなどのメディアに導入することで、身体的インタラクションを促進させ、一体感が実感できる身体的コミュニケーションシステムを研究開発した。本システム・技術は、メディアロボット・コンテンツ制作や携帯電話・インターネット等の音声対話インタフェース、音声認識ソフトへの導入など、広範囲な応用が容易に可能で、うなずく植物「ペコッぱ」など商品化した。
著者
赤間 亮 水田 かや乃 神楽岡 幼子 黒石 陽子 池山 晃 野口 隆 齊藤 千惠
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、日本近世演劇の基盤研究として近世期に出版された「役者評判記」を対象に、研究資料として正確な翻刻本文を作成し、それを使ったデータ・ベースを構築しようとするものである。今回の研究期間においては、いわゆる第三期(安永年間から享和年間まで)の役者評判記について、正確なデジタル翻刻本文を完成させるべく、研究協力グループも組織しながら大きく作業を進展させた。新時代の翻刻凡例を策定し、それに則った本文の調整、諸本を対照して、諸本確認翻刻(C翻刻)までの作業を実施した。また、役者移動DBを代表に、評判記を校正する情報データ・ベースの集合体をWEB上に展開し、海外の歌舞伎研究者の利用も想定した役者評判記の閲覧・検索システムによる、デジタル歌舞伎情報書庫を完成させるための作業を展開した。外題・人名・用語索引については、いわゆる手作業の線引は行わず、統合的な用語索引のシステムの実験を行った。役者評判記デジタル閲覧システムの原本閲覧システムを運用継続しながら、翻刻本文とのレイヤー化が実験された。検索された用語から、「歌舞伎興行年表」や「歌舞伎人名DB」「歌舞伎外題DB」「登場人物DB」「歌舞伎用語DB」へと連動が可能となった。また、今回の研究成果として、第三期以降の評判記の需要や地方への伝播について、あらたな視点による研究論文集をまとめた。
著者
合田 榮一
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

肝細胞増殖因子(HGF)は肝細胞をはじめ様々な組織の上皮系細胞の増殖を促進し、組織再生に重要な役割を担っていることが知られている。本研究でヒト線維芽細胞におけるHGF産生が天然物であるニガウリ胎座抽出物、冬虫夏草抽出物及びポリミキシンBにより促進されること、その作用機序並びに活性成分の性状を明らかにした。また、ポリミキシンB投与によりラット血漿及び肝臓中のHGFレベルが増加した。
著者
中村 和利 土屋 康雄 斎藤 トシ子
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、閉経後女性の骨密度低下抑制に有効なカルシウム付加量を明らかにすることであった。女性ボランティア450人を1)カルシウム250mg、2)カルシウム500mg、3)プラセボを毎日服用する群、の3群に割付け、2年間の腰椎および大腿骨頸部骨密度の低下を3群間で比較した。カルシウム250mg/日および500mg/日付加群の腰椎骨密度の低下がプラセボ群より有意に小さかった。カルシウム250mg/日の摂取増加は腰椎の骨密度の低下を遅らせる。
著者
杉本 厚夫
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

スポーツの世界は実力だけが評価される世界であると一般的には考えられている。しかし、日本では、選手を選ぶとき、あるいは組織をつくるときには、人的ネットワークであるOB会の影響を受ける。つまり、一見メリトクラシー(実力主義)社会のように見えるが、その背景にOB会組織が機能しているのである。また、スポーツ選手としてのメリトクラシーから撤退した人によって、身体的な能力を問われない新たな代替的な場所として、OB組織が存在し、そのなかで、そのスポーツへの関わり方を強め、再びその中での上昇志向をしていこうとする。あるいは、スポーツ関連の協会でのある一定の地位に付けなかった人によって、新たな地位を確保する集団として、OB会がその対象となることもある。つまり、その世界での権力構造から排除されて人によって、作られるOB会組織という点からして、これらは「代替的加熱」というにふさわしいものである。精確に言えば、スポーツ集団の中で形成された階級文化としての年功序列が、OB会組織の基盤であるといっても良い。さらに、経済的な側面から、OB会の援助に依存することから、そこに権力構造が生起しやすい。しかし、欧米では、OB会は日本の大相撲の「タニマチ」と同じように、パトロンとして存在し、サポーターとして、権力関係を構築することはない。プロ野球では、監督コーチにその球団のOBが多いが、米国のそれは、まったく関係がない。メジャーリーグの選手でなくとも、監督コーチとしての専門的な実力が認められるとなれる。その意味で、日本のプロ野球の組織は、OB会の権力構造を有していると言える。しかし、Jリーグは歴史も浅いこともあり、地元密着型を指向していることもあって、あまり偏ったOB組織を持っていない。今後は各種のスポーツ種目団体のOB会の権力構造について研究していく必要がある。
著者
西村 浩一 高橋 修平 本山 秀明 小杉 健二 根本 征樹
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

風力発電と太陽光パネルを用いた吹雪計測システムの開発を試みた。低温風洞で出力特性等の検証後、国内は新潟県と北海道、国外ではフランスアルプスで性能試験を行った。2013年には南極の昭和基地近傍の氷床上で、約2カ月にわたる吹雪の自動観測に成功したほか、フランスと共同でアデリーランドの観測タワーで吹雪フラックスの鉛直分布を求めた。また英国と共同で砕氷船により南極海の棚氷を周回し、海塩エアロゾルの供給源としての吹雪の寄与の測定を行った。一方、メソスケール気象モデルWRFで南極氷床上における気象要素の時系列変化を求め、これに基づいて算出された吹雪量を2000年の南極みずほ基地での観測結果と比較した
著者
加藤 弘之 陳 光輝 厳 善平 日置 史郎 梶谷 懐 宝劔 久俊 唐 成 中兼 和津次 丸川 知雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中国長江デルタの農村地域を対象として、企業の集中・集積、農地の流動化と不動産開発、出稼ぎ者の流入と定着の実態を、独自に収集したミクロデータの計量的分析を通じて明らかにした。また、空間経済学の手法に基づき、地理情報つき企業データを利用して産業集積地図を作成した
著者
河村 篤男 藤本 博志 藤本 康孝 下野 誠通
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究の成果の特徴は次の2点に集約される。(1)SAZZチョッパのトポロジーで、50kW出力、電力密度100kw/〓を実現した。(2)可変速駆動系システムに直列チョッパを導入する時の省エネ効果は、そのシステム構成によって幅がある。特に、電気自動車に限れば、25kw試験装置において直列チョッパの高電力密度化、軽量化により、JC08モード走行において3%以上の省エネ効果が確認された。さらに、チョッパの軽量化と直流電圧の選択によっては、10%程度の省エネの可能性が示された。
著者
納口 恭明 下川 信也 栢原 孝浩 鈴木 真一 小林 俊市
出版者
独立行政法人防災科学技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

災害を引き起こすような自然現象を科学教育・防災教育を目的にコンパクトに再現できる装置をまとめた手で持ち運べるハンディータイプの科学館と車1台で運べるポータブル科学館を開発した。このなかには雪崩、落石、地盤液状化現象、固有振動によるビルの倒壊、台風、突風などが含まれる。これらを用いた実践例は合計で数百件を越える。
著者
板倉 安正 稲葉 宏幸 澤田 豊明
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、毎年多くの被害を出している土砂災害を軽減・防止するために音響法と映像法を組み合わせた新しい監視システムの開発を目指して、その可能性を検討し実用化への見通しを着けることである。3年間の研究を通して次の点を明らかにすることができた。(1)音響法としては、土砂移動に伴って発生する地中振動をマイクロフォン型音響センサによって捉える方式を提案し、これが他の振動センサに比べてS/N比が優れていることを明らかにした。さらに、これをオイル浸タイプにすると検知範囲が約2倍向上することを示し、その改良に努めた。(2)映像法としては、土石流のビデオ映像から市販のMPEGソフトを用いて画像の動ベクトルを抽出し、その変化の大きさから土石流の近接を知る方式を提案した。同じビデオ映像に計算機対話型空間フィルタ速度計測法を適用して土石流の流下速度を計測することに成功した。また、他の画像処理法として時空間勾配空間法や相関法を適用して、土石流表面速度の2次元速度ベクトルの推定にも成功し、精度の点で相関法の方が優れていることを示した。(3)音響法と映像法を組み合わせることによって、濃霧や豪雨で見えにくくなった映像法を音響法が補い、また、音響法では実体が明確でない点を映像法が補うという利点を生かすことができると期待される。実際の土石流によってこの利点を確認するまでには至らなかったが、具体的なシステムを提案することによって次の研究を展望することができた。(4)これらの成果を、海外調査結果と併せて、2001年11月スイスベルン市郊外のスイス国立水理・地理調査所で開催された土石流モニタリング技術のワークショップで発表して評価を得るとともに、これからの研究の見通しを得ることができた。
著者
片岡 幹雄 郷 信広 上久保 裕生 徳永 史生 SMITH Jeremy ZACCAI Josep
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

黄色ブドウ球菌核酸分解酵素(SNase)を用いて、室温及び25Kでの中性子非弾性散乱スペクトルを広いエネルギー範囲で観測した。蛋白質の非弾性散乱スペクトルとしては、世界最高精度のデータを得ることができた。25Kスペクトルは、定性的に基準振動解析により説明することができ、ピークの帰属が行われた。理論的に予想される振動モードの実在が証明された。しかし、定量的な一致度はよくなく、理論計算に用いられているポテンシャル関数に改善の余地があることを示した。また、室温のスペクトルは分子動力学シミュレーションにより説明されることが示された。SNase野生型とフラグメント(折畳まれていない)についての中性子非弾性・準弾性散乱測定から、折畳まれることによって獲得される特異的な運動は、ガラス転移以上の温度で出現する水によって活性化される非調和的な運動であることが示唆された。蛋白質におけるボソンピークは分子量依存性を示唆し、ボソンピークの起源となる低エネルギー励起は二次構造などに局在したものではなく、分子全体に広がっているモードによることが推測された。また、この性質は、蛋白質を含めソフトマターに共通の性質であると考えられる。蛋白質動力学の不均一性を評価する方法が考察され、バクテリオロドプシンについては、機能との関係が議論された。膜蛋白質と水溶性蛋白質とで不均一性には差があることも示された。ガラス転移は、蛋白質の部位により起きる温度が変わることが、重水素ラベルを用いて示された。これも動力学の不均一性の現れであることが示唆された。
著者
内山 晴夫 十文字 正憲
出版者
八戸工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

東北地方の太平洋沿岸で頻発するヤマセは濃霧を伴い冷害の元凶として恐れられている。また、霧による視界不良は、陸海空すべての交通機関にとって安全運行の障害となっている。我々はコロナ放電を応用した静電式霧消去ネットを考案し、その実用化試験を繰り返し実施した。その過程で、霧の粒径が100ミクロン以上になると急速に消霧性能が低下する、ということが問題点として浮上した。本研究の目的は、この装置を線対ロッド電極構造へと改良し、こうした問題点を解決することにあり、研究成果および残された検討課題は以下の通りである。1.静電式霧消去装置の性能評価に関する実験的検討これまでは、静電式ネットの効率評価を単に霧の液化率だけに注目して行い、消費電力を考慮していなかった。そこで消費電力も視野にいれた“液化指数"の導入を提案し、実験例を示した。2.超音波式霧発生器の試作多数の小孔を穿ったステンレス薄板をド-ナツ状の円環振動子に貼りつけ、約29kHzで振動させた。その結果、円環の中心部に近い小孔ほど大粒径の霧を発生し得ることを見出した。霧の連続大量発生が課題で、そのためには、キャビティの改良と水圧の微妙な調整が必要である。3.線対ロッド電極構造の霧消去装置試作線対ロッド電極構造が有効であることは既に確認済みである。試作装置では、これらの電極をインラインあるいはジグザグに配した場合について実験し、後者が優れているという知見を得た。4.線対ロッド電極構造の理論解析インラインおよびジグザグに配した線対ロッド電極構造の静電界解析とイオン風を考慮した霧の消去メカニズムに関する理論検討を行い、後者の優越性を定性的に解析した。
著者
澤野 弘明
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

カーナビゲーションシステムやPDAなどを用いた経路案内システムの需要が年々高まっている。これらのシステムにはあらかじめ用意された地図情報に基づいて、現在位置および案内経路を計算している。しかし日々変化する道路に対応した柔軟な経路案内をすることは極めて難しい。そこでシステムから得られるマルチモーダル情報を集約し、道路環境情報をリアルタイムに収集することで、ユーザ周辺の道路環境を考慮した経路案内を提示する戦を提案した。ここでマルチモーダル情報として、カメラ、GPSやジャイロセンサなどの検出装置や二次記憶媒体から得られる実写動画像、位置、姿勢、地図情報を想定している。また道路環境情報とは道路、道路標識、歩行者などの障害物、といった交通に関する情報である。本手法では道路環境情報の収集・解析による、詳細な地図情報の収集作業の削減や障害物回避などの注意喚起が可能な点であるため、社会的異議がある。そして現実のシステムとして実装するための課題を列挙した。さて、これまでに提案した道路環境認識のひとつである道路エッジ追跡法では、実写動画像中に障害物が存在する場合、追跡精度が低下する。そのため動画像中に存在する静的・動的物体を抽出し、抽出形状に基づいて隠蔽された領域を補正する手法の検討を行った。実験の結果、提案手法の有効性が示された。経路案内に対して、ユーザ固有の視認性が存在する。そこでユーザの好みを考慮した経路案内について考察した。視認性に関する要素をパラメータ化することにより、できるだけ多くのユーザに対応できる経路案内の可能性が見いだされた。
著者
日高 優
出版者
群馬県立女子大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2006

本研究の二年目に当たる平成19年度は、研究計画に基づき、前年度の基礎的作業によって取り上げるべき事例として選定された各々の内容を、「パフォーマティヴィティ」概念を手掛かりにして調査、分析した。本研究の目的は「デモクラシーの価値を動態的に生成してくるつねに可変的な価値として分析する」というものであり、「パフォーマティヴィティ」概念はこの目的にとって根幹にある概念であった。デモクラシーの価値とポジティヴに、あるいはネガティヴに切り結ぶ事例として取り上げたのは、冷戦構造下アメリカ文化が世界に急速に波及していった50年代の<ファミリー・オヴ・マン>展、60年代の公民権運動やヴェトナム戦争などにおける写真実践、ポピュラーカルチャーの浸透を背景にした70年代のニューカラー・フォトグラフィのインパクトなどである。<観者>-<メディア>-<写真行為者>というデモクラシーの意味・価値生成連関においてこうした事例を分析することが目指され、おこなうことができた。(具体的な成果は、現在青弓社からの刊行のために執筆中の著書にて公表予定される)。ワシントンD.C.の議会図書館やナショナル・ギャラリー・オブ・アートのアーカイヴ、ボストン美術館図書館に直接赴き、本研究の一次資料の調査、収集をおこなった。西部開拓期の初期写真から60年代のカウンターカルチャーの下に撮影されたゲイリー・ウィノグランドのポートフォリオなどの一資料、研究論文など文献調査をおこなうことができた。特に、デモクラシーと写真という観点からの文献資料、トラウマという観点を導入した展覧会カタログや文献などを収集したことは、新しい視角へと本研究テーマを広げて探るのに有効であった。