著者
窪田 悠一 原田 勝孝 伊藤 岳
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究は、歴史事象の現代社会における影響を考察の対象とし、超長期的因果関係の分析 に基づく新たな実証的社会科学研究を提唱することを目的とする。特にここでは、戊辰戦 争における戦闘や暴力の遺産が現代日本政治経済に与える影響について実証データを収集 しながら考察する。この目的のために本研究では、a) 戊辰戦争における戦闘・暴力の発生 メカニズムの解明、b) そうした政治暴力と現代市民の政治意識・行動、また経済活動の関 係性の分析を行う。
著者
大林 太朗
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、関東大震災(1923年)からの復興に向けた日本のスポーツ界の対応を明らかにすることであった。文献資料(文書、雑誌、新聞等)の収集・分析を通して、震災直後に大日本体育協会(現在の日本スポーツ協会・日本オリンピック委員会)が帝都復興院・東京市当局に対して提出した「願書」の内容や、各大学の運動部学生による復興支援活動・チャリティマッチの記録、さらには上野公園における被災者(主に避難民)を対象とした「慰安運動会」の内容と文化的特徴が明らかとなった。
著者
寺田 寅彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究はヨーロッパで出版された英語教科書のイラストや写真の役割を検討したものである。外国語習得にイラストが有益であるのは、なによりも見て美しく、また文化的背景を学習者に提示するからである。今日出版されている英語教科書のほとんどがカラーイラストの入ったものである所以である。しかしながら、書かれていることと一致しないイラストや、情報過多ともいえるイラストが入っていることがある。それらは歴史的・政治的背景により、テキストの内容ではなく、ナチス・ドイツのスローガンのような政治的メッセージの内容を示しているのである。単なる語学学習が政治的道具に使われることを、本研究は明らかにしている。
著者
豊平 由美子 坂巻 路可 李 暁佳 吉永 有香里
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

交感神経系モデルとしての培養ウシ副腎髄質細胞を用いて、ストレス軽減効果の有る予防薬や気分障害の治療薬として適用できる可能性があるポリフェノールを選定した。アピゲニン、オーラプテン、イカリソサイドAはニコチン性アセチルコリン(ACh)受容体刺激よるカテコールアミン(CA)分泌と細胞内へのCa、Naイオン流入を濃度依存性に抑制した。アピゲニンとルテオリンはチロシン水酸化酵素(TH)活性を濃度依存的に抑制した。イカリソサイドAはACh刺激によるCA生合成やTH活性を濃度依存的に抑制した。アピゲニンとイカリソサイドAはイオンチャネルの機能を阻害してCA神経系の機能を抑制することが示唆された。
著者
小野寺 淳 杉本 史子 西谷地 晴美 宇野 日出生 宇野 日出男
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

比叡山西麓に位置する京都府左京区八瀬は八瀬童子会という組織をもつ。八瀬童子は天皇から特権を与えられ,明治・大正・昭和の三天皇の大喪にかかわった。皇室と比叡山との関係の中で八瀬童子の人々は独特な空間認識と歴史意識を育んだ。本研究は絵図,古文書,聞き取りから八瀬童子の空間認識と歴史意識を明らかにした。八瀬童子の空間認識は18世紀初頭に起こった比叡山延暦寺との境界争いで顕在化する。裁許の結果,比叡山と八瀬の境界が「老中連署山門結界絵図」に描かれた。地形図,空中写真などにより絵図に描かれた境界線や事物の位置を推定,現地で確認調査を行った。また絵図のデジタル画像を作成,5点の絵図の違いを明確にした。この結果,八瀬と比叡山の境界は現在の琵琶湖国定公園の西端,すなわち元禄国絵図における山城国と近江国の国境と一致した。この争論が発生した原因は八瀬や大原の集落で行われていた柴の採取にある。八瀬の人々は比叡山の聖域を越えて柴の採取を行い,京の市中で柴を売り歩いた。この日常的な経済行為が比叡山との境界争いを生んだ。しかしこの争論は天皇から特権を与えられた八瀬童子に有利な裁決が下された。これに感謝して始まったとされる「赦免地踊り」は実は11世紀中期まで遡ることができる。すなわち中世的な祭礼組織にみられる歴史意識は18世紀初頭に変質したと考えられる。
著者
薄井 和夫 DAWSON John
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、英国最大手の家電小売企業ディクソンズ社(現在DSGI社)が、(1) わが国カメラの英国への輸入とわが国チノン社との提携によって成長の端緒をつかみ、(2) 競合企業カリーズの買収を機に総合家電小売として成長を遂げる一方で、アメリカ市場参入の失敗による深刻な危機を経験し、(3) これを克服して現在の地位を確立するまでの発展の軌跡を解明し、「漸次的イノベーション」[=画期的な革新とは異なる部分改良型の革新]を同時並行的に継続することの重要性を明らかにした。同時に、わが国独自の系列家電チェーンの端緒を築いた戦前の展開を解明し、独立系企業の近年の展開によって欧米の家電小売業と直接比較研究を行ないうる条件が成熟してきたことを示した。
著者
新井 宗仁
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本研究で明らかになったことは、主に次の3つである。1.[α-ラクトアルブミン(α-LA)のモルテン・グロビュール(MG)状態の構造および安定性の解析]ヒトα-LAのMG状態及び巻き戻り中間体の構造と安定性を測定した結果、ヒトα-LAのMG状態は他のα-LAのMG状態よりも安定であり、かつ、より多くのα-ヘリックスを含むことが明らかになった。 2.[α-LAの変異体のフォールディング反応の解析]α-LAの様々な変異体を作成するために、ヤギα-LAの遺伝子をpSCREEN-1b(+)に組み込み、蛋白質の発現を行った。変異体を使った研究から、α-LAのフォールディング反応の遷移状態では、T29,I95,W118周辺の構造はまだ十分には形成されていないことが明らかになった。このことは、MG状態で形成される疎水性コアやCヘリックス周辺は遷移状態において構造化されていないことを示している。 3.[ストップトフローX線溶液散乱法によるα-LAの巻き戻り反応の測定]従来のストップトフローX線溶液散乱法では一次元PSPC型X線検出器を用いて測定を行っていたが、新たに開発された二次元CCD型X線検出器を用いることにより、400倍以上の感度向上に成功した。また、データの補正方法を確立した。本研究で完成した時分割X線溶液散乱法は、蛋白質のフォールディング研究のみならず、様々な研究に適用可能な優れた方法である。この方法を用いてα-LAの巻き戻り反応の測定を行った結果、α-LAは巻き戻り反応開始後数10ミリ秒以内に、平衡条件下で観測されるMG状態と同じ分子サイズと分子形状を持つ巻き戻り中間体を形成することが明らかになった。本研究の結果およびストップトフロー円二色性法による結果から、α-LAの巻き戻り中間体は平衡条件下で観測されるMG状態と同一であることが示された。
著者
高村 仁知
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

魚の嗜好性と機能性を高める調理法の開発を目的として、魚臭成分の原因となる脂質酸化生成物の生成を抑える抗酸化成分を含む香味野菜を加えて調理を行い、海産魚に含まれるにおい成分及び機能性成分の調理過程における変化を解析した。その結果、香味野菜を加えて調理することにより、脂質劣化に由来する揮発性成分が減少した。また、薬味なしの試料では調理後、抗酸化活性は減少していたが、薬味を加えることにより抗酸化活性が増加していた。以上の結果から、魚に香味野菜を加えて調理することにより嗜好性及び機能性において優れた効果を発揮することが示唆された。
著者
丁野 純男 戸上 紘平 板垣 史郎
出版者
北海道科学大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2023-06-30

アニサキスは、クジラを終宿主とし、鮭・秋刀魚・鱈などの魚を中間宿主とする寄生虫である。昨今、魚の生食に起因するアニサキス感染が話題となっているが、アニサキスを駆虫する治療薬等は開発されていない。本研究は、この状況を打破すべく、研究代表者らが得手とするドラッグデリバリーシステム (DDS) の斬新な学理を基に着想された、JSPS挑戦的研究(萌芽)(19K22778)で芽生えた潜在性を更に引き出す研究であり、アニサキス駆虫研究にブレイクスルーをもたらす可能性を秘めた開拓期の研究である。
著者
滝沢 誠 菊地 吉修 渡井 英誉 佐藤 祐樹 笹原 芳郎 笹原 千賀子 田村 隆太郎 戸田 英佑
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、伊豆半島における前期古墳の調査をつうじて、半島基部に形成された古墳時代前期の政治拠点と東日本太平洋岸域における広域的なネットワークとのかかわりについて検討した。あらたに確認された瓢箪山古墳(前方後円墳)の発掘調査では、同古墳の立地や墳丘構造が伊豆半島の基部を横断する交通路を強く意識したものであることを明らかにした。また、同古墳が築かれたとみられる古墳時代前期後半には、周辺域において集落規模の拡大や外部地域との交流が活発化する状況を把握することができた。これらの成果をふまえ、古墳時代前期後半には、伊豆半島基部の交通上の役割が高まり、その拠点的性格が顕在化したものと結論づけた。
著者
江畑 冬生
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究課題ではユーラシア大陸の東西に広がるチュルク諸語のうち北東語群に分類される諸言語を研究対象として,形態音韻プロセスや文法形式の生産性・義務性にも着目しながら,共時的な文法構造の記述と相互分岐と相互接触による歴史的変遷の解明を試みた.その中でも主としてサハ語・トゥバ語・ハカス語という3つの未解明言語に焦点をあて,現地調査とコーパス調査の両方を活用しながら,形態音韻規則・文法形式の義務性・形態法上の特徴・ボイス接辞の用法・証拠性関連接辞の用法・膠着性の度合い・格接辞の用法などに関する記述的・対照言語学的研究において新たな成果を得た.
著者
坂口 けさみ 中島 邦夫
出版者
三重県立看護短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

プロラクチンは、単に乳腺発育や乳汁分泌維持作用を示すのみでなく母性行動の誘起、維持にも重要な役割を有するホルモンであることが明らかになってきた。今年度私達は、乳仔接触刺激による非妊雌及び雄ラットの母性行動・父性行動を観察すると共に、脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現について検討した。また同時に血中プロラクチン濃度の変化についても検討を加えた。雌及び雄ラットの母性行動については各ラットを収容したケージ内に生後3〜16日目の仔ラットを2匹入れ、crouching, licking, nest building, retrieval and groupingの5項目について毎日2時間、2週間仔に対する行動を観察記録した。脳内のプロラクチン受容体mRNAの発現についてはlong form及びshort formの2つの分子種を同時に特異的に検出できるように構築したRNAをプローブとするRNase Protection Assay法により行った。また血中プロラクチン濃度はEIA法により分析した。その結果、仔ラットに対する母性行動・父性行動の発現には性差なく仔ラットへの接触日数と共に、愛着行動の増加していくことが観察された。そこで乳仔に対する母性行動、父性行動が誘導された雌及び雄ラットの脳内プロラクチン受容体mRNAの発現をみると、プロラクチン受容体mRNAのlong formの発現が有意に増加していた。また母性行動、父性行動を示したラットでは明らかに血中プロラクチン濃度が上昇していた。以上、乳仔に対する母性行動・父性行動は性差を問わず、基本的に備わっている能力であり、プロラクチンは脳内プロラクチン受容体遺伝子の発現を誘導し、その結果仔への母性行動あるいは父性行動を促進することが示唆された。
著者
青木 茂樹 下地 啓五
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

短い拡散時間のOscillating gradient spin-echo(OGSE)を用い 類上皮腫(MRMS2018), 急性期脳梗塞(Neurorad2018)、脈絡叢嚢胞(MRI2019), 脳腫瘍(MRI 2020), 脳梁膨大部病変(MRMS 2021),脳膿瘍(MRMS2022)およびファントム(JJR2018)で拡散時間の影響を調べた。拡散制限の原因として、類上皮腫の層状構造によるものが信号に影響を与えることが示される一方、急性期脳梗塞や腫瘍などでは現在のOGSE信号の低下は一部であった。制限拡散を起こす微細構造が現在のOGSEで観察できる5-10μmよりも小さいと考えられた。
著者
辻内 琢也 扇原 淳 桂川 泰典 小島 隆矢 金 智慧 平田 修三 多賀 努 増田 和高 岩垣 穂大 日高 友郎 明戸 隆浩 根ケ山 光一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、「帰還か移住か避難継続か」の選択を迫られる原発事故被災者が、今後数年間で安心して生活できる新たな居住環境をどのように構築していくのか、現状と問題点を明らかにし、「居住福祉」に資する心理社会的ケアの戦略を人間科学的学融合研究にて提言していくことにある。「居住は基本的人権である」と言われるように、被災者が安心・安全に生活できる基盤を構築するためには、内科学・心身医学・公衆衛生学・臨床心理学・発達行動学・社会学・社会福祉学・平和学・建築学・環境科学といった学融合的な調査研究が欠かせない。応募者らは2011年発災当時から被災者支援を目指した研究を継続させており、本課題にてさらに発展を目指す。
著者
藤木 大介
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究は、ニホンジカの高密度化に伴う森林下層植生の衰退がツキノワグマ(以下、クマ)の採餌生態や人里への出没に及ぼす影響を解明することを目的とする。調査地域は北近畿西部個体群の分布域である丹後山系とする。定期的に山系を踏査し、クマの糞塊を収集する。そのうえで内容物の組成やその季節変化について把握するとともに、下層植生が衰退してない地域との食性の相違を明らかにする。また、兵庫県域スケールで収集されている森林下層植生の衰退状況とクマの出没情報の長期モニタリング・データを関係解析することで、クマの出没情報の時空間的な変動が下層植生の衰退とどのような地理的関連性があるかを明らかにする。
著者
杉本 和宏
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

エピジェネティック制御と男性不妊症との関係に関するエビデンスは増えている。今回我々は、プロモーター領域にTDMR(組織特異的メチル化可変領域)をもつGTF2A1L遺伝子に注目して研究を行った。86症例の非閉塞性無精子症の中で17症例がhypospermatogenesisの組織型であった。この中で、5例がTDMRの高メチル化群、12例が低メチル化群であった。TDMRの高メチル化は、GTF2A1L遺伝子発現の低下と関連していた。しかし、両群とも精子回収率、受精率、妊娠率、出生率に関して比較的好成績であり、GTF2A1L遺伝子発現の異常は妊娠率へは影響を与えていなかった。
著者
高橋 浩 南 雅代
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

水の溶存無機炭素(DIC)分析では、試料採取から分析までの期間に生物活動によりDICが変化しないように、塩化第二水銀の添加が認知されているが、水銀の錯体形成等の影響や環境負荷が大きいことが問題である。そこで、水試料のDIC変化を防ぐ処理として、塩化ベンザルコニウム(BAC)の添加とろ過を併用した手法を確立する。具体的には、ろ過実施に関するブランク検証と最適なろ紙孔径の選択、BACの添加によるブランクの低減手順の検証、複数の天然試料を用いた処理の有効性の検証を行う。本研究により水銀を使用せずに正確なDIC分析が可能となることで、分析の効率化と安全性の向上を実現し、将来にわたって大きな貢献となる。
著者
山口 直孝 竹内 栄美子 福田 桃子 橋本 あゆみ 竹峰 義和 坂 堅太 木村 政樹 石橋 正孝
出版者
二松學舍大學
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

『神聖喜劇』で知られる作家大西巨人(1916~2014)の教養形成と作品の成立過程とを実証的に考察し、西洋の事例と比較しながら、現代の知識人のありようを探る。新日本文学会や記録芸術の会など、関係した文学芸術運動の活動の詳細を明らかにする。研究は、①資料調査、②聞き取り調査、③フィールドワークから成る。①は、大西巨人資料(二松学舎大学寄託)を核としながら、ほかの文学館や図書館についても行う。②はは、大西巨人の家族や知人に対して行う。③は、福岡や対馬で行う。成果は、公開ワークショップで報告する。資料目録や年譜など各種データベースを作成する。自筆資料をデジタルデータ化し、重要なものを翻刻する。
著者
吉村 政穂 藤間 大順 堀 治彦
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

研究にあたっては、まず文献に基づいて最近の動向に関する調査・分析を進める。具体的には、OECD、EU によって策定される国際的ルールとあわせて、この分野での国際的な議論をリードする米国、そして金融面での産業政策に力を入れる英国及びシンガポールを取り上げ、(a) 新しい国際課税ルールの受容に伴う国内法人税制の変化、(b) ICO 発行によって調達された資金の課税、(c) 分散型自律組織(DAO)の課税上の取扱いといった論点を軸として各国の議論を対比する。さらに他の研究者・実務家との議論を重ね、日本の法人税制がどのような変容を迎えるのか、またどういった対応が望ましいのかを議論していく。
著者
山本 雅道 白井 浩子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

1. 走査型電子顕微鏡を用いて無腸目 Convoluta naikaiensisの初期発生の過程を詳細に記載し、産卵から孵化(約90時間後)までを以下の4期16ステージにわけた。第1期(卵割期):St.1-St.7, 第2期(陥入期):St8-St.10,第3期(球形期):St.11-St.12,第4期(偏平期):St.13-St.16卵割は変形ラセン卵割で、割球の胚内部への侵入は動物極、植物極の2極で進行した。2. 扁形動物渦虫綱より無腸目、カテヌラ目、多食目、卵黄皮目、順列目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目の9目より17種を選び、18S rDNAのほぼ全長にあたる約2000塩基対のDNA断片の塩基配列を決定した。そのデータをもとに近隣結合法、最節約法、最尤法により系統樹を作成したところ、すべての系統樹で無腸目が渦虫類のなかで最も早期に分岐したグループであるという結論が得られた。3. 扁形動物渦虫綱の無腸目、カテヌラ目、多食目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目の7目のミトコンドリアの遺伝子暗号を比較した。無腸目を除く6目AAA,ATAは各々アスパラギン酸、イソロイシンを指定してたが、無腸目ミトコンドリアではリジン、メチオニンを指定してた。この事実は、無腸目は他の扁形動物が特殊化する以前の段階で分岐していたことを示唆しており、無腸目の原始性を明確に示す結果と言える。4. 無腸目は体表上皮細胞とその下の筋肉組織を隔てる基底膜構造が全く存在せず、表皮と筋肉が複合構造を形成している。筋表皮複合構造の形成過程を透過型電子顕微鏡で追跡し、発生過程においても基底膜構造が出現する時期は全くないという結論を得た。この事実は、無腸目の筋肉表皮複合構造が退化の結果生じたものではないということを示唆している。