著者
岡野 光夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1989

外部環境に応答して構造変化、物質変化(透過性変化)を引き起す刺激応答型ハイドロゲルは、熱のあるときにのみ解熱剤を放出し、熱が下ると放出が直ちに停止するような新しい薬物送達システムを開拓するものである。ポリイソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)は温度変化に対し敏感に応答し、著しい膨潤変化を生じる。本研究ではIPAAmとアルキルメタクリレ-トとの共重合ゲルを合成し、抗炎症剤のインドメタシン透過性および放出性に及ぼす温度変化の影響を調べた。20℃で平衡膨潤に達した共重合ゲルを30℃に変化させると、ゲルは速やかに内部の水を押し出し収縮する。初期の速い変化の後、水の押し出しは遅くなり、1カ月後においても30℃の平衡膨潤値に達しなかった。これは温度変化によってゲル表面が最初に収縮したスキン構造を形成し、この表面全体の密になった層が内部からの水の流出を著しく阻害するためであると考えられた。この収縮過程はアルキル鎖長により異なり、IPAAmとブチルメタクリレ-ト(BMA)共重合ゲルは2〜3時間で8割程度収縮するのに対し、IPAAmとラウリルメタクリレ-ト(LMA)共重合ゲルでは2割程度しか収縮しないことが明らかとなった。このことから、アルキル鎖長が長いほどゲル表面に薄くて密なスキン層ができると考えられた。このようなゲル膜中のインドメタシンの透過を調べると、20℃では大きな透過性を示すのに対し、30℃では完全に透過性が停止することがわかった。とくに30℃〜20℃に温度低下させたとき、薬の透過速度の遅れ時間に及ぼすアルキル鎖長の影響を詳細に調べ、IPAAm-LMA共重合ゲル膜では薄いスキン層の形成のためきわめて速いON-OFF透過制御が可能となった。さらにインドメタシンの放出についても同様の結果が得られ、応答時間の短い完全な薬物のON-OFF制御が実現されることが明らかにした。
著者
野々村 禎昭 高井 義美 清水 孝雄 柴田 宣彦 小林 良二 尾西 裕文
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

血管平滑筋は内皮細胞との関連では病変時特異的増殖, 脱分化を行い, いわゆる動脈硬化性変化をもたらす. この際の形態変化等は詳しく調べられているが, 生化学, とくに収縮蛋白質レベル, 及び分子生物学的レベルの研究は遅れている. 本研究班はその弱点をおぎない, 新らしい展開をはかる為に我国の平滑筋生化学者を結集した.本年は平滑筋のミオシンの構造については尾西が中心になり, 公募班員の岡本と共に一次構造と機能の関連について, ATP結合位等を明らかにさせた. 下等動物平滑筋のCatch機構については八木がミオシン重鎖のリン酸化でかなり明らかになった. 一方細いフィラメント側の調節機序に影響した因子によってラッチ機構が生じるが, この説明に野々村は大動脈からとったゲルゾリンファミリーが働く可能性を示し, その進んだ精製で86K, 84K, 45Kダルトン蛋白質が存在することを明らかにした. 一方, 丸山はこの45Kが84Kの中心分解物である可能性を示し, その精製を行った. 柴田は血管においてカルデスモン様蛋白質の存在を明らかにし, 祖父江はカラデスモンに2種類あり, 非筋細胞, 未分化型のものと筋, 分化型の違いを明らかにした. 小林は平滑筋膜よりカルパクチンをとり, 山本はCa-ATPアーゼをとって膜でのCa調節への足がかりを求めた. 高井は血管培養細胞のC-キナーゼ存在様式が成長因子との関係から異ることを示し, 清水はロイコトリエン連関酵素系の精製とその機能への結びつきを示した. 野島はCM(カルモジュリン)遺伝子クローニングをcDNAクローニングから進め, 高血圧との関係を追究している.本年は班員全ての研究が具体化し, すでに病態との関係へと入ってきた班員もあり, 来年度に向けての一層の具体化が期待される.
著者
宮崎 和人
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1)語法研究的・要素主義的アプローチから文論・機能主義的なアプローチへ. 2)命題とモダリティを切り離す分析から両者の有機的相関性の解明へ. 3)主観性モダリティ論から現実性モダリティ論へ. 国内外の研究動向の検討および実行系のモダリティの分析を通じて、日本語モダリティ論の再構築は、こうした基本理念に基づいて進められていくべきであるということを確認した.
出版者
教化団体聯合会
巻号頁・発行日
1925
著者
前田 祐治 杉野 文俊 メッセイ デヴィット
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、キャプティブを通じたリスクファイナンスが、米英の企業に比べて、なぜ日本企業に浸透しないのかとの課題に対して、3つの仮説を立てて「ミクロ分析」と「マクロ分析」の2つのアプローチにより実証分析を行った。研究結果として、日本企業はキャプティブによる効率性よりも取引会社との利益相反をできるだけ避けようとする非合理的な経営判断を行っていることが示された。また、企業の持ち株会社である保険会社が企業価値向上よりも既存の保険商取引を重視していることが判明した。
著者
ナラキョウイクダイガクスウガクケンキュウカイ 奈良教育大学数学研究会
出版者
奈良教育大学数学研究会誌刊行会
雑誌
飛火野 : 奈良教育大学数学研究会誌
巻号頁・発行日
vol.9, 1993-06-25

【表紙】【目次】【巻頭言】左利英嗣【数学教室の近況報告】北川如矢【新任教官の挨拶】南春男【特集1―小川庄太郎先生を偲んで―】小川先生を偲んで 上田常彦/報恩の誓い 久米繁/小川先生にお世話になったこと 福永成則/小川先生と思い出すこと 松本武【特集2―コンピュータ入門―】日本語LATEXの講習会 浅井照明/Xウインドウ・システムの概要 河本由美子/Mathematica 坂倉亜樹【進学にあたり】小野太幹【1992年数研活動】研修旅行 小池裕子/夏の「算数・数学教室」塚本和弘・倉田佳代子・山本真紀・中路清美・山本裕一・鶴野公昭・今在家典子・向井くみこ/教育実習 石川智子・渡辺美香・山尾桂子・坂幸之介・新内伸幸/大学祭 山本知子【1992年度卒業論文・修士論文】【編集後記】
著者
浅尾 浩史
出版者
奈良県農業総合センター
雑誌
奈良県農業総合センター研究報告 (ISSN:18821944)
巻号頁・発行日
no.40, pp.40-43, 2009-03

当センターでは明治時代からスイカの育種が行われ、昭和初期には'大和3号'と'甘露'の交配種'新大和'が育成された。当センター内の種子貯蔵庫には、これら品種・系統や海外から導入された品種が約80種保存されている。このように、当センターはスイカの育種、栽培、保存をはじめ、県内種苗会社への技術的支援を行ってきた。ボツワナ共和国のカラハリ砂漠地帯はスイカの原産地であり、スイカをはじめウリ科植物の遺伝資源の宝庫である。現地のサン族は野生スイカをはじめとする約300種の有用野生植物を数千年にわたり利用してきたが、カラハリ砂漠は氷河期を経験しておらず、個々の野生種は未だに系統化されていない。有用野生植物の分子レベルでの品種系統化や機能性の探索は重要な課題となっている。アジア・アフリカ学術基盤形成事業「ポストゲノミクス研究によるカラハリ砂漠資源野生植物の高度利用基盤の確立」の一環として2007年2月24日から3月5日まで、ボツワナ共和国が有する遺伝子資源を調査する機会を得たので、その概要を報告する。
著者
宮本 順二朗
出版者
帝塚山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

給与・賞与といった報酬割合が依然として高く、金額的にはまだまだ低いといわれるわが国企業において、ガバナンスを変えるための方策として、報酬体系・支給方法をただちに英米化するとは想定し難い。本稿では[1]タイム(1期)ラグ付きの役員報酬対企業業績回帰モデルよりも同時方程式モデルの方が説明力は高いこと、[2]'海外法人等持ち株比率'が取締役報酬と最も関連性が強いこと、[3]取締役報酬は、株価関連指標の中では'株価収益率(またはその変化率)'と正の相関、会計的指標の中では(対数変換)総資産額自己資本利益率と正の相関があり、'負債比率'と負の相関があることが判明した。さらに説明力を高めるためには、一方で、入手が比較的容易な会計(決算)数値データや株価関連データのみならず、(企業間異質性を示す)その他諸変数(例:役員の年齢・在任年数・員数)や(厳密には算出が難しい)フリー・キャッシュフローや、(乱用は慎まなければならないだろうが)適切なダミー変数などを利用するといったことも一考を要するだろう。また他方で、被説明変数(「経営者報酬」代理変数)として、取締役一人当たり平均報酬額を用いることに、再検討の余地は大いにあるだろう。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1385, pp.48-51, 2007-04-02

ドイツのハノーバーで3月21日まで開催されていた世界最大級のIT展示会「CeBIT(セビット)」。携帯電話メーカーのソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズは参加した約6000社の1社だ。そのブースで説明員をしていたドイツ人のミッケル・ディンゼオはこう話す。
著者
竹本 泰一郎 千住 秀明 和泉 喬 門司 和彦 太田 保之 中根 允文
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

火山噴火災害の健康影響を把握し,継続的な健康管理にサーベイランスシステムを構築することを目的とした。長崎県雲仙普賢岳噴火の被災地である島原市と深江町で継続的に現地調査を行い、下記所見を得た。1)被災地の小中学生では噴火後「外で遊ぶことが減った」「テレビをみる・ゲームをする」など屋内の生活行動が増え、「夜中に起きる」「寝る時間が遅くなった」「朝起きるのがつらい」といった生活時間の変化も高頻度であった。「風邪を引きやすい」「咳・痰が出やすい」「喉が痛い」といった火山噴出物に由来する自覚症状も高頻度であった。また、これらの生活行動の変化・自覚症状が学校や家庭の避難で増強されていたことも特徴的であった。2)地域住民についてのアンケート調査では「眼の症状」が最も高頻度で、次いで「咳・痰の症状」であった。これらの有訴率は壮年期の女性、被害が大きい地区、避難住民で高かった。噴火活動の鎮静化とともに皮膚粘膜の刺激症状が低下したが、「咳・痰」「喘息」「呼吸困難」など呼吸器に関する症状は遷延化する傾向が認められた。3)スパイログラムによる呼吸機能検査では県内の非被災地に比べ閉塞性障害の頻度が高かった。4)避難住民に関する全般的健康調査(GHQ)では、壮年期の男女にストレスが強いこと、精神的健康度に頻回の避難、通院、自営業従事などが関わっていることが示唆された。以上の結果は、火山噴火の健康影響が火山噴出物による直接影響とともに避難・移住による生活環境や生業活動の変化をも包含していることを物語っている。
著者
志田 泰盛
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.1108-1113, 2013-03-25

本論文では,クマーリラの代表的著作『シュローカヴァールッティカ(Slokavarttika)』に対するスチャリタミシュラによる註釈『カーシカー註(Slokavarttikakasikatika)』の未出版章の中から,音声[常住性]論題(sabdadhikarana/sabdanityatadhikarana)について,その一次資料(貝葉写本と転写)の系統の主観的な分析結果を提示する.大前[1998]が提供する『シュローカヴァールッティカ』とその註釈の書誌学的情報は網羅的であるが,註釈文献については『スポータヴァーダ章』を含む資料を中心に報告されている.そこで,大前[1998]に大きく依拠しつつも,改めて南インドの諸写本機関を調査し,3種のマラヤラム文字貝葉写本と3種のナーガリー文字転写が当該章をカバーすることを確認した.さらに,ベナレスのナーガリー文字写本も加え,7種の一次資料が利用可能な状況にある.これらの一次資料を校合し,欠損の一致やマラヤラム文字特有の読み間違いなどの情報に基づいた主観分析の結果として,大きく3つの系統が推定されることを示す.
著者
大塚 正久 藤原 雅美
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

【目的】鉛フリーはんだ合金候補としてSn-3.5Ag-X系が有力視されている.しかしその実用化に際しては,動的負荷のみならず静的負荷に対する信頼性を確保する必要がある.静的変形の代表がクリープであるが,鉛フリーはんだのクリープ特性に関する既往の研究は多くない.そこで本研究ではSn-3.5Ag-X系合金バルク体のクリープ挙動を,クリープ速度,延性および破断寿命の観点から検討した.【方法】供試材は以下の合金である:(1)Sn-3.5mass%Ag,(2)Sn-3.5mass%Ag-xBi(x=2,5,10mass%),(3)Sn-3.5mass%Ag-xCu(x=1,2mass%).金型大気鋳造により得たインゴットからゲージ部φ4.5×15mmの丸棒試験片を切出した後,373Kで1hrのひずみ取り焼鈍を施し,温度298K,348Kおよび398Kにおいて肩掛けチャック方式の定荷重引張クリープ試験に供した.組織観察にはSEMを用いた.【結果】(1)Sn-3.5Ag合金では,微細に分散したAg_3Sn粒子の強化作用により,すべての温度と応力域でクリープ速度は強い応力依存性(n≒10)を示す.(2)Sn-3.5Ag合金にCuを添加するとクリープ速度は微減するにとどまる.またクリープ速度の応力および温度依存性はSn-3.5Ag合金のそれと同じである.(3)Sn-3.5Ag-xBi合金の場合,x≦2mass%ならば主としてBiの固溶体強化作用によってSn-3.5Ag合金よりも高応力域でのクリープ強度が上昇する.しかしx≧5mass%の高濃度合金では様相が大きく変り,高温では広い応力域で,また室温では低応力域でクリープ強度がSn-3.5Ag合金よりもかえって低くなる.これは,クリープ変形中のBi粒子の粗大化が低応力ほど顕著となることと,変形温度が高いほどBi固溶量が増し逆にBi粒子体積率が減ることによる.【総括】Sn-3.5mass%Ag系にCuを微量添加するのはクリープ信頼性の面でも得策だが,Bi添加は信頼性を大きく損なうので推奨できない.この結果は別途得ている疲労試験結果とも対応する.
著者
徳留 靖明
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

(1).イオン性前駆体を用いたゾル-ゲル反応における構造形成過程の解析をおこなった。また、多様な反応系への本手法の拡張を試みた。まず、小角X線散乱(SAXS)その場観察により、多孔構造形成時の粒子形成過程および粒子凝集過程を明らかにした。1次粒子の粗大化を制御するとともに迅速な粒子凝集を誘起することが本手法を用いた多孔体作製に必要な条件であることが示された。SAXS測定で得られた知見に基づき、オングストローム領域、ナノメートル領域、マイクロメートル領域の3つの異なるサイズ領域に細孔を併せ持つ材料の作製にも成功した。これらの内容は国際学術論文誌にて発表済みである。併せて、リン酸カルシウム系における多孔体作製に関する研究を、昨年度に引き続きおこなった。試料作製手順および後処理手順を適切に制御することにより、多様な結晶構造を有するリン酸カルシウム多孔体の作製に成功した。上記内容および現在進行中の遷移金属酸化物多孔体作製に関する研究結果の一部は、国内および国際学会にて発表済みである。(2).無機ゾル-ゲル反応を用いて、有機ELデバイス中の界面構造の精密制御をおこなった。具体的には、無機ゾル-ゲル構造体の作製条件を変化させることにより、従来の研究では充分な検討がおこなわれていなかった作製条件-デバイス特性相関を系統的に調査した。本研究で得られた基礎科学的な知見に基づき、長寿命・高輝度・低電圧デバイス作製に向けた研究を進める予定である。上記の研究内容は国際学会にて発表済みであり、一部の研究結果は国際学術論文誌に投稿中である。
著者
大場 義夫 川畑 徹朗 丹 公雄
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.371-380, 1977-03-30

We have two chapters in this study. The details are as follows; Chapter 1. This chapter is the sequel to our treatise reported in the preceding Bulletin of The Faculty of Education Univ. of Tokyo Vol. 15. In that Bulletin, we hypothesized that the effect of noises on psychological performance was not merely inhibitory but also accelerating, designated them as "inhibitory effect" and "accelerating effect". The main purpose of this chapter is to investigate these two effects, in case of performing Intelligence-Tests which has 5 intellectual factors from simplicity to complexity. Experimental conditions and procedures are as follows ; Test : Intelligence-Test, known as Todai A-S form. Noise conditions : Control group-about 40 dB(A), Experimental group-White noise 80 dB(A), produced by Noise Field Generator, placed at the center of the experimental rooms. Grouping: 3 groups. Gl-Control. G2-Experimental, doing the test in Usual Sequence, G3-Experimental, doing the test in Reverse Sequence. Subjects : The first and the second year Junior High School, about 50 members in each group. The main findings of this chapter were shown under. Concerning the complex intellectual factors in intelligence-test, "inhibitory effect" came first which was shown in Reverse Sequence Group : G3. But in the simple intellectual factors, " accelerating effect" had a tendency to come first, which was same as Kroeperin-Test composed of mathematical computation. Anyway two effects mentioned the above had different influence upon intellectual factors by the degree of complexity. Chapter 2. In this chapter, we investigated the effect caused by exposure to the music, by carrying out experimentally on 173 male and 173 femail junior high school pupils engaged in some intellectual performance. The findings of this chapter were as follows ; 1. The intellectual performance in the case of the quiet condition was more efficient in comparison with that of the music exposure, 2, The inefficiency under the music was not related to the degree of the undesirability against music, but related to the degree of the unfamiliarity with music.