著者
中川 順子
出版者
熊本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題の研究成果は次の3点である。第一に、近世ロンドンの外国人教会による救貧は、同胞による困窮移民に対する救済活動として重要な役割を果たした。それは同時に、教会による移民の規律化とアイデンティティ形成の手段でもあった。第二に、18世紀初頭のドイツ系移民はロンドン流入後に支援獲得の手段としてパラタイン移民という自己意識を形成した。彼らの流入は移民に対するイギリス社会の態度を移民規制の方向に転換させた。第三に、他者の顕在化と他者との共生(救貧や法的地位の付与)を巡る議論は、近世イングランド社会(人々)に自己意識の形成を促した。
著者
細田 亜津子
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.83-95, 2005-01-31

トラジャ社会は農村社会である。就労者の約80%が農業に従事しており、その他の就労者も兼業が多い。しかし、水田面積は全面積の約10%であり、二期作と棚田での収穫という厳しい現実である。水田形態は、Uma Mana、Uma Tongkonanと呼ぶ一族の共有田と個人所有とがある。共有田の収獲物は儀式など公的儀礼のために使用される。儀式での恩恵は一般大衆にも及び社会的役割を持つ水田である。また、地主と小作の関係は、先祖代々からの関係が多い。土地を所有しない小作は、他地域への出稼ぎを行う。伝統的な収穫物の分配は地主と小作は50%-50%が多く、第二期作は30%-70%になる。この地主-小作の元で働く農夫は、Ikatという稲束の単位により、稲刈りの労働に比例して報酬をうけとる。田植えについては、同じ報酬を受け取る。このように平等性と競争性を取り人れた社会である。一方、農村社会の諸規則は、儀礼との関連が強く、分配や遺産相続に影響する事もトラジャの特色である。
著者
西田 健次 栗田 多喜夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.38, pp.333-342, 2005-05-13

カーネル学習法は、非線形識別関数を効率よく構成する手法であり、カーネルトリックとも呼ばれている。サポートベクターマシンは、現在知られている多くのパターン認識手法の中でも認識性能の優れた手法であると考えられているが、カーネルトリックによって非線形識別関数を構成できるようになったことが、その性能向上に大きく貢献している。カーネル学習法とサポートベクターマシンに代表される線形識別手法を組み合わせることにより高性能な識別器を構成する事が可能になったが、未学習データに対する認識性能(汎化性能)を更に向上するためには変数選択などの手法が重要な役割を果たす。本稿では、サポートベクターマシンを中心にカーネル学習法について概説し、汎化性能向上のための変数選択手法などを紹介する。さらに、画像認識への応用例も紹介する。Kernel method, which is also called Kernel Trick, is known to be one of the best scheme to extend linear classfier systems to nonlinear classifier systems. Support vector machine (SVM) is recognized as one of the best models for two class classification among the many methods, since its performace is drastically improved by kernel trick. Although we can build a high performance classifier system with combination of kernel method and linear classification method such as SVM, feature selection is still important to obtain high performance for unlearned data. This paper reviews kernel methods centering on the SVM and introduces some feature selection methods. Some examples of applications for image understanding are also introduced.
著者
穂積 勝人
出版者
東海大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

胸腺内T細胞分化を支持するNotchシグナルの分子機構解析造血未分化細胞の胸腺への移行に始まるT細胞分化には、胸腺環境を担う上皮細胞を介したNotchシグナルの発動が必須であるが、その分子的詳細は明らかではない。これまで、未分化T細胞におけるNotchシグナルの解析には、Notchリガンド(NotchL):Dll1あるいはDll4を強制発現させたOP9細胞等の単層培養系が用いられてきた。しかし、これまでの我々の解析から、上記単層培養系にて調製された未分化T細胞は、胸腺内ではT細胞へ分化できないことが明らかとなり、単層培養系と本来の胸腺環境との間には、少なからず差異があることが示唆された。そこで我々は、Notchシグナルを付与しないT細胞分化環境として、Dll4欠失胸腺を用い、未分化T細胞への様々な遺伝子導入により、Notchシグナルを代替しうるシグナルについて調べた。Dll4非存在下に胸腺未分化T細胞(DN112画分)を胸腺器官培養にて分化誘導を行うと、ほとんどT細胞は分化しなかった。これは、TCR6鎖およびpTαの遺伝子導入を行っても改善しなかった。また、Notch下流にて機能することが示唆されるc-mycおよび活性化Aktの共発現によっても正常T細胞分化は再現できず、異常増殖が観察されるのみであった。これに対し、DN3画分のDP細胞への分化については、c-mycの恒常的発現によって、Dll4由来シグナルの欠失による分化停滞を限定的ながら回復させることが見出された。これらのことから、T細胞分化および正常細胞増殖の担保には、制御されたNotchシグナルの発動が重要であり、その本態としてc-mycが関与することが推察された。
著者
鈴木 浩司
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は,競技,種目,ポジションによってマウスガードデザインが異なると言うことを調査し,また装着する人によっても変化することがあり得ると言うことを明らかにすることである。アメリカンフットボール,アイスホッケー,ボクシングあるいは空手と言ったコンタクトスポーツでは外傷発生の危険性が高く,特に,顎口腔系の外傷予防にはマウスガードの装着が有効であり,我が国においても歯科関係者の努力とスポーツ関係者の理解によって広く認められるようになってきた。そして,一部の競技では試合中のマウスガード装着が義務化されたり,ラグビーやバスケットボールのようにトッププレーヤーが自主的に装着するようにもなってきている。また,一般市民の健康志向の高まりや,スポーツ少年少女の低年齢化などからマウスガードは一部のスポーツアスリートばかりのものでなく,一般歯科保健や学校歯科保健の見地からも重点目標として捉えられている。マウスガードに関しては,歯科医師が提供するカスタムメイドタイプのマウスガードの方が装着感,使用感に優れていることは明らかであり,いまや,その上の段階である競技特性や,個人の状況等,選手個々のニーズにまで応えた真のカスタムメイドマウスガードというものが必要とされている。その道の一流の選手が認めたマウスガードは一般競技者にとって良いアピールとなり,普及につながるからだ。そこで各種スポーツに対しマウスガードを装着し,空手道,サッカー,アメフト,フロアホッケーなどの競技におけるマウスガードのデザインを検討し,学会発表および誌上発表をしてきた。一方,コンタクトスポーツにおける外傷予防効果を目的とした使用方法以外のマウスガードの用い方についても着目し検討をしてきた。その結果トレーニング時のマウスガード装着により,より効果的なトレーニングが行えると言うことで,今後さらなる検討をしていきたい。
著者
グッド長橋 広行
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.539-544, 2009-11-01

本稿は,米国大学図書館が1990年代前半から提供し始めたGIS(Geographic Information Systems)サービスの動向と将来の展望を,過去のアンケート調査と著者の追跡調査,GIS教育との関わりを通して考察する。大規模大学図書館ではすでに90%の普及率に達しているが,今後利用者を増やしていくには,しっかりしたデータ・コレクション・プランが必要であると考えられる。また,中規模,小規模大学図書館はまだ20〜30%の普及率でこれからも伸びるであろうが,より充実したGISサービスを提供していくには,学科や学部との共同作業が望ましいと思われる。
著者
長橋 グッド 広行
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.285-289, 2008-06-01
被引用文献数
1

デジタル時代のいま,大学図書館に求められていることは,館内での対人サービスよりもオンラインでの情報検索がいかに使いやすいかである。ピッツバーグ大学図書館の2006年度の統計によると,オンラインの図書館利用回数は館内でのサービス利用回数の10.9倍であることが分かった。図書館ウェブサイトが利用者にどれほど使いやすくデザインされているかを知るために,2007年11月,ユーザビリティ調査を行った。調査の結果から,ウェブデザインの改善と検索ボックスの一本化が必要であることが分かった。次世代OPACにその解決策の1つがあるようだ。
著者
粟生田 友子 川里 庸子 菅原 峰子 櫻井 信人 長谷川 真澄 瀧 断子 鳥谷 めぐみ 太田 喜久子 小日向 真依 白取 絹恵
出版者
新潟県立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

環境因子に対して高齢者が示す反応からせん妄発症リスクを予測し、環境による発症リスクを軽減する方法を検討することを目的に、入院中の高齢者のせん妄発症に関わる物理的・人的環境因子に対する高齢者の認知の様態を明らかにし、せん妄発症群と非発症群の比較関連検証を行った。結果、物理的・人的環境に関して2群間に差が認められた項目は<部屋の位置><看護師の訪問頻度><緊張感を助長する検査の有無><他の患者との交流><不安を助長するものがある>であった。
著者
粟生田 佳奈子 河内 満彦 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.387-396, 1996-10
被引用文献数
7

外科的矯正治療前後における成人骨格性反対咬合症患者の発音機能を評価する目的で, 発音時の舌接触パターン, 顎運動, および発声音の解析を横断的資料を用いて行った.研究対象は初診時に外科的矯正治療を要すると診断された成人骨格性反対咬合症患者38例(非開咬-術前群20例, 開咬-術前群18例)および治療後2年以上経過した患者31例(非開咬-術後群16例, 開咬-術後群15例)である.対照群には正常咬合者13例(正常咬合群)を用いた.結果は以下の通りであった.1. 術前および術後の反対咬合症患者では, 発音時における舌の口蓋への接触部位は正常咬合群より前方位を示していた.顎運動経路は, 非開咬-術前群では後方位を, 開咬-術前群では上方位を示した.一方, 術後では両群とも正常咬合群に類似したパターンを示す傾向が認められた.顎運動距離については, 各群間に有意差はみられなかった.2. 日本語としての"自然らしさ"については, 両術前群は正常咬合群に劣るといえた."自然らしさ"は術後に改善の傾向がみられたが, 依然として正常咬合群より劣っていた.3. スペクトル分析については各群間で差が認められなかった.以上の結果から, 外科的矯正治療は成人骨格性反対咬合症患者の発音機能の向上に寄与する可能性があるものと思われた.しかし, 術後群と正常咬合群とを比較した場合では, 術後群の音質は依然として劣っていた.このことは発音機能に関わる神経筋機構の恒常性は形態改善に速やかに順応するものではないことを示唆しているものと考えられた.
著者
柳町 智治 岡田 みさを
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研調査では、日本語の「学習」を「学習者と周囲とのコミュニケーションが環境中の様々なリソースに媒介され変容していくプロセス」として捉え、目本語の使用、学習といった実践のあり方を「具体的な文脈に属する複数の人間、道具のやりとりのダイナミクス」と見なし再考した。具体的には、第二言語話者あるいは日本語母語話者が日常的な実践を行っている場面(理系大学院における実験場面やボクシングの練習場面)をとりあげ、そこで見られるインタラクションをビデオデータの微視的な分析やフィールド調査を通じて詳細に記述、分析するということを行った。その際、(1)人の行動がその場の言語、非言語行動、人工物の使用といったマルチモダルなリソースの並置を通してどのように成し遂げられているのか、(2)何かを学習するということをその文脈で特有のものの見方(professional vision)を学ぶことと捉えた場合、個々の文脈においてそうした「vision」が当事者たちによってどのように提示されその理解が達成されているのか、の2点を分析考察の中心とした。日本語によるインタラクションを「マルチモダリティ」および「vision」の視点から考察した研究はまだほとんど行われていないが、3年間の本プロジェクトでは、日本語第二言語話者と日本語母語話者の相互行為が当該文脈においてどのように成し遂げられ、組織化されているのかの一端を具体的なインタラクションの分析を通して明らかにした。
著者
森 稔 澤木 美奈子
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.101, no.713, pp.25-40, 2002-03-08
被引用文献数
4

本稿では,変形や画質劣化が生じた低品質な文字に対する認識手法及びその応用について紹介する.また,性能評価に用いられるデータベース及び評価手法についても述べる.
著者
田中 俊一 島山 俊夫 増田 好成 麻田 貴志 岩砂 里美 江藤 忠明 千々岩 一男
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1585-1589, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
20
被引用文献数
4 3

はじめに:当科で経験した腹部外科手術症例について,年齢別,緊急・待期手術別,併存疾患別に術後合併症発生率と術後30日以内死亡率を検討し,90歳以上の高齢者の手術における問題点を検討した.対象:2003年4月から2006年3月までの3年間に腹部手術を行った1,534例を対象とし,うち80歳代が240例,90歳以上の超高齢者は52例であった.結果:90歳以上の超高齢者群では,90歳未満群と比べて女性が多く,併存疾患を有する率も高率で,術後合併症発生率は44%と90歳未満の20%と比べ有意に高値であった.90歳以上の超高齢者群における術後死亡率は9.6%と,79歳以下と80~89歳の2群の死亡率と比較して高値を示し,待期・緊急手術両方とも90歳以上の超高齢者群で有意に高率であった.特に,術前併存疾患がある場合と術後合併症発生例において,超高齢者群で術後死亡率が有意に高かった.多変量解析で超高齢者の術後死亡に影響する有意な要因は,術後呼吸器合併症であった.考察:90歳以上の超高齢者の手術で,術前併存疾患を伴う症例や術後合併症を伴う症例では術後死亡率が高く,慎重な手術適応と術後管理を要するものと考えられた.