著者
鈴木 敬子 石川 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

数値標高モデル(DEM)から作成した陰影起伏図は,地形の視認性に優れ,地図の背景にも適した地形表現の一種である.しかし,陰影は光源設定や標高値の強調率に依存し,微地形や複雑な地形を正確に描くことは不可能であった.本研究では,陰影起伏図において光源が与える影響と,斜面方位に応じた陰影の濃度分布に着目し,起伏の規模に関わらず総ての地形が表され,かつ,地図の背景として適した陰影起伏表現の作成を試みた.まず,地形に複数の光源を設定し,最適な光源分布を検討した.複数光源では,全ての斜面に光量と濃度が異なる陰影が与えられ,方向依存性を軽減できるものの,極めて小さな起伏の表現が難しい.そこで,新たに陰影の不足箇所の抽出と補間方法を検討した.その結果,水平方向からの適切な光量と,それらと直交する方向のうち第3,4象限における方位クラスタリング処理から濃度を動的に変化させた陰影を合成することで,従来は表現不可能であった大小の地形が明瞭に描かれることを確認した.本手法による地形の陰影表現は適度な過高感を持ち,任意の色調の段彩と合成しても違和感が少なく,背景図としても利用可能であると考えられる.
著者
林 衛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

自然にはたらきかけ,自然を改変しながら進化的適応をはたしてきた人間やその営みを理解するためには,はたらきかけの対象である自然環境の理解が欠かせない。自然環境の理解は,人間やその営みの限界(ポジティブな表現では到達点)や矛盾を照らし出すはたらきをもっている。地球惑星科学の探究者はしばしば,その最先端にいてそれら限界や矛盾にいちはやく気づける。 社会の代表者として探究をしている科学研究者ならではの役割は,市民社会の構成員であるほかの主権者(市民)と共有を図ることにある。しかし,地球惑星科学によって得られる知見や批判的思考力はしばしば「抑制」され,活用されず,学問が軽視あるいはねじ曲げられる状況が放置され,自然災害や原発震災の原因となってきた。 「御用学者」問題発生に通ずる科学リテラシーや批判的思考力の「抑制」とその克服の道筋を,認知科学的な「共感」と理性のはたらかせ方のメタ認知から始まる人の「倫理」の視点から考察する。
著者
中村 淳路 Boes Evelien Brückner Helmut De Batist Marc 藤原 治 Garrett Edmund Heyvaert Vanessa Hubert-Ferrari Aurelia Lamair Laura 宮入 陽介 オブラクタ スティーブン 宍倉 正展 山本 真也 横山 祐典 The QuakeRecNankai team
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Great earthquakes have repeatedly occurred along the Nankai Trough, the subduction zone that lies south of Japan’s heavily industrialized southern coastline. While historical records and geological evidence have revealed spatial distribution of paleo-earthquakes, the temporal variation of the rupture zone is still under debate, in part due to its segmented behavior. Here we explore the potential of the sediment records from Lake Hamana and Fuji Five Lakes as new coherent time series of great earthquakes within the framework of the QuakeRecNankai project.We obtained pilot gravity cores form Lake Hamana and the Fuji lakes Motosu, Sai, Kawaguchi, and Yamanaka in 2014. In order to image the lateral changes of the event deposits, we also conducted reflection-seismic survey. Based on these results, potential coring sites were determined and then 3–10 m long piston cores were recovered from several sites in each lake in 2015. The cores consist of 2 m long sections with 1 m overlaps between the sections allowing us to reconstruct continuous records of tsunamis and paleo-earthquakes. In this presentation we introduce the progress of QuakeRecNankai project and discuss the potential of the lakes as Late Pleistocene and Holocene archives of tsunamis and paleo-earthquakes.
著者
勝 博史
雑誌
第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会
巻号頁・発行日
2018-05-21

クーリングに関して、多くの研究や専門誌において解熱効果は懐疑的な意見が主流を占めている一方で、臨床では指示や慣習により継続して実践されている現状がある。筆者は、解熱処置としてのクーリングは効果が低いと考えているが、臨床現場にてクーリングが継続して実施されている現状を鑑み、本Pro-conセッションにおいてはクーリングにpros(賛成)の立場として効果的クーリングについて再考する。 臨床で実施されているクーリングとは、頸部・腋窩・鼠径部など体の表層を走行している太い血管を、氷嚢などで冷却することにより体温の低下を期待するものである。しかし、多くの場合は寒冷反応から血管の収縮(熱放散の阻害)やシバリング(熱産生)が起こり、解熱には至らないことからクーリングが否定されている。クーリングが効果的に実施できるのは、寒冷反応を起こさないうつ熱などセットポイントの異常がない外的環境因子による高熱の場合か、全身麻酔などにより体温調整中枢(視床下部)が抑制されている状態のみである。このセッションのテーマである「重症患者の発熱に対するクーリング」として考えると、クリティカルケアを必要とする重症患者の多くは人工呼吸管理等により鎮静されている場合が多い。つまり、体温調節反応が起きにくい状態であるため、クーリングを効果的に実施することが可能であると考える。AHAやJRCのガイドライン2015では、クリティカルケア領域における低体温療法(広義のクーリング)の効果が認められている。そこで、改めてクーリングの意義について考えると、解熱により(1)心拍数を低下できる(特に小児領域)、(2)酸素消費量を低下できる、(3)爽快感や疼痛緩和が得られるなどのメリットがある。これらのメリットは、前述した通り限られた状況下においてのみ得られる効果ではあるが、筋弛緩薬による全身麻酔時や鎮静下の状態など患者を正しくアセスメントできれば効果的なクーリングが可能になると考える。また、臨床にてクーリングが継続されている理由として、解熱効果よりも(3)に示した患者の安楽や鎮痛の効果を目的に実施されていると考える。クリティカルケア領域における重症患者においては、不安や疼痛などのストレッサーはセカンドアタックを惹起する要因となる。解熱処置としてのクーリングの効果は限定的であるが、安楽や疼痛緩和によりセカンドアタック予防の効果も期待できるため、患者の状態を正しくアセスメントすることにより効果のあるクーリングが実施できると考える。 看護師として、「発熱したらクーリング」などの慣習的なケアや、事象が起きてから対応する対症看護ではなく、重篤化させないようにケアする予防看護の実践が重要である。提供するケアの意味と患者への効果をアセスメントした上で、予防看護として実施するクーリングにおいてはpros(賛成)の立場とする。