著者
若菜 マヤ
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

日常は「表現された秩序」だと唱えたミクロ社会学者、E. ゴッフマンの理論をH.ジェイムズの文学作品に重ね、ジェイムズ文学は現実の虚構性をリアルに描いたものだと*Performing the Everyday in Henry James’s Late Novels*(Ashgate, 2009)で主張。今度はジェイムズが高く評価したAusten、Wharton、G. Eliotの作品に同様の分析を行い、インティマシー(「親近感、近しさ」)をテーマに単著*Performing Intimacies of the Everyday*(仮) を書き上げ、英米の某学術出版社の外部審査用に準備中。
著者
白川 真一
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は,当初の研究計画通り,我々が先に提案した進化計算によるフロクラムの自動生成手法の拡張と実問題への応用を行った.まず,先に我々が提案したグラフ構造をプログラムの表現形式とする自動プログラミング手法であるGraph Structured Program Evolution(GRAPE)の拡張を行った.GRAPEを用いて探索空間を探索するエージェントの行動プログラムを自動生成することで,探索アルゴリズムの獲得を行う方法を提案した.提案手法を用いて関数最適化問題のベンチマーク関数とテンプレートマッチング,探索空間が動的に変化する問題に対して探索アルゴリズムの獲得実験を行った.提案手法によって構築された探索アルゴリズムは,従来提案されている探索アルゴリズムと比較して良好な結果を示すものであった.この成果によって,従来は問題に合わせて人が試行錯誤的に開発していた探索アルゴリズムを自動的に生成することができるようになると考えられる.次に,画像変換部を含む画像分類アルゴリズムの自動構築手法であるGenetic Image Network for Image Classification (GIN-IC)の拡張を行った.通常,画像分類は「画像の前処理」,「特徴量抽出」,「分類」の3つのフェーズから構成される.それぞれのフェーズについて様々な研究が行われているが.GIN-ICでは「画像変換部」,「特徴量抽出部」,「演算部」から構成される一連の画像分類アルゴリズムを全自動で構築する点に特徴がある.GIN-ICでは画像変換部をもつことによって,画像を分類し易いかたちに変換することが可能となる.本年度はこのGIN-ICを1つの弱識別器として扱い,アンサンブル学習法を利用してGIN-ICを複数組み合わせることで分類精度の向上を図った.
著者
尾上 陽介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

藤原定家の日記『明月記』原本の復元を目指し、各地に大量に存在する明治期以降の古美術品売立目録を網羅的に調査し、細かく切断された原本断簡などの定家関係資料を蒐集し、従来の原本一覧を増補・改訂するとともに、新たに判明した『明月記』逸文については翻刻した。また、陽明文庫などに所蔵される『明月記』原本から剥離された紙背文書についても調査し、撮影した画像を研究成果報告書で公開した。
著者
伊奈 正人
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

「間」の文化とかかわる日本文化論的な知見などを整理・総括し、その上で「間」を動的関係のなかでの個の存在感=触覚的な手応えの問題として規定した。そして、「間」を、若者の生の実感=柔軟さと頑なさの弁証関係の問題として仮説化し、事例調査を行った。若者が自己の生をどのように「シンボル化」して概括しているか、若者の「間の語彙」、その批評性に着目し、そこに「間の美学」を読解しようとしたことが特徴的成果である。
著者
吉住 潤子 城戸 瑞穂 大山 順子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年口腔粘膜に器質的変化を認めないにもかかわらず持続的な痛みを訴えるBurning Mouth syndrome:BMSといわれる患者が増加している。患者の訴えは唐辛子を食べた時の感覚に似ているのではないかと考え、BMSと唐辛子の辛味成分であるカプサイシンの受容体:TRPV1との関連を調べた。またTRPV1のSNPを調べたところ、BMS 発症や痛み感受性の個人差に関与する可能性が示唆された。
著者
小嵜 正敏
出版者
大阪市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

単一分子を用いた機能性材料作成を目標として、円錐型分子を効果的に合成する新しいConvergent法の開発を行った。その結果、非常に効率的かつ広範な分子の合成に応用可能なConvergent法を新しく完成した。開発した合成方法はFrechetらによって開発されたConvergent法と鈴木カップリング反応、ヨウ素化反応、薗頭カップリング反応を繰り返し用いる新規のConvergent法により構成されている。この方法では最初にFrechetらのConvergent法により種々の世代のポリベンジルエーテル型デンドロンを側鎖として合成する。次に側鎖の末端にホウ酸基を導入する。このポリベンジルエーテル型側鎖を鈴木カップリング反応により、共役鎖に導入する。さらに、ヨウ素化、薗頭カップリング反応を行うことにより共役鎖を延長する。この3つの反応を繰り返し用いることで円錐型分子を高収率で合成することに成功した。このとき導入する側鎖の世代は順次大きなものを使用した。合成したデンドロンの精製には、当初の予想どおりGPCが非常に有効であることがわかった。特に、サイズの大きなデゾドリマーの分離に有効であった。さらに円錐型分子末端へのチオール基導入に関しても検討を行った。その中で共役系末端アセチレンをTBDMS (tert-butyldimethylsilyl)基でポリベンジルエーテル型デンドロン末端をTBDPS (tert-butyldiphenylsilyl)基で保護することによりチオールの導入が可能であることを明らかにした。
著者
宇山 智彦 秋田 茂 山室 信一 川島 真 守川 知子 池田 嘉郎 古矢 旬 菅 英輝 粟屋 利江 秋葉 淳
出版者
北海道大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2008

近代ユーラシアの諸帝国を比較し、帝国権力と現地社会の非対称な相互作用、帝国間競争における小国や越境集団の役割、周縁・植民地の近代化、そして20 世紀の帝国崩壊と脱植民地化の多様な展開を論じた。現在の地域大国は半帝国・半国民国家的な性格を持ち、かつての帝国の遺産と記憶に大きな影響を受けている。情報の不完全性のもとでの権力と少数者集団の駆け引きを論じる帝国論の方法は、現在の大国・小国関係の分析にも役立つ。
著者
山崎 寿美子
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

平成21年度は、カンボジアのラオ系クメール人村落における食事をめぐる生活実践が社会関係をどのように維持させるのか、あるいは揺るがすのかについて、他者評価やゴシップへの着目を通して考察することを目標とし、前年度に実施したカンボジアでのフィールドワークのデータ整理と分析を行った。食物交換や分配は、村人が日常生活を円滑に送るための重要な行為であり、相手と親愛し合っているか否か、あるいは気が合っているか否かといった社会関係の様態を不断に推測するバロメーターとなっている。食物の頻繁なやり取りがあると第三者による悪評から相手を擁護し、逆に、やり取りの中断は相手との関係悪化を再確認させ、悪評への加担につながる場合すらある。しかし重要なのは、関係の悪化において直接的対立は起こらず、ゴシップを流しながらも積極的な行為に出ず、関係の緊張が解れるのを待つという態度である。「だんまり」で「ただいるだけ」と表現されるそうした態度でやり過ごしながら、一定期間後に少しずつ食物のやり取りを再開させ、何の問題もなかったかのように平然とつきあうのである。本研究は、他者評価やゴシップに敏感な社会において、食物のやりとり・中断・再開といった行為が人間関係の状態を調整し、うまく生き抜く技法を提供していることを明示した。その技法は、カンボジアのラオ社会の生活実践の在り方の提示にとどまらず、現代日本社会において複雑な人間関係をどのように生きるかという我々の問題に手掛かりを与えてくれる点で意義深い。
著者
木下 一彦 石渡 信一
出版者
早稲田大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2009

たんぱく質分子機械が働く仕掛けを探るのに、個々の分子が働いている現場を顕微鏡下で直接観て、さらに必要なら力を加えて応答を観るのが、一分子生理学である。従来は妨害方向に力をかける例が多かったが、外力で積極的に「働かせてやる」ことによる理解を目指した。働かせて得た成果ばかりとは言えないが、回転分子モーターの逆回転によるATP合成の仕組みを始めとして、リニア一分子モーター、DNA上で働く分子機械、さらに超分子レベルにおいて細胞分裂機構などにつき、多くの知見を得た。
著者
有馬 正和
出版者
大阪府立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究の最終目標は,フェリー・客船などの動環境における車いすのユーザビリティ(使用性能)を正確に予測・評価することによって,車いす使用者が安心して船旅を楽しむことができるようにすることである。本年度は,動環境における「車いす一人体」系のモデリングを行うために,大阪府立大学工学部海洋システム工学科の「乗り心地シュミレータ」を用いて低周波動揺暴露時の人体の運動を計測した。外力としての動揺を把握するために,加速度計および角速度計を組み込んだ「船体動揺計測装置」を用いてキャビン床面の6自由度運動を計測した。一方,人体の応答運動を調べるために,座席上に置いた重心動揺計を用いて被験者の重心の移動を計測し,さらに,キャビンに固定したビデオカメラを用いて被験者の脊椎の曲がり具合等を計測・録画した。これは,動環境における車いすの挙動には人体をも含めた重心位置の変化が大きく影響すると判断したことによる。個人差の影響を調べるために,複数の被験者に依頼して,動揺暴露実験を実施した。また,人体モデルとの比較のため,昨年度に製作した「車いす用テストダミー(ISO7176-11準拠)」を用いた実験も実施した。ビデオに録画された被験者の脊椎の曲がり具合等から人体の重心位置を予測するためのモデルの構築を試み,重心動揺計による結果とほぼ一致することがわかった。本研究では,「車いす一人体」系のモデリングに必要となる資料を得ることができた。今後は,「動揺刺激⇒車いす⇔人体」の系全体を考慮したモデルの構築が望まれる。
著者
山根 健治
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

Modified Atmosphere(MA)包装と1-メチルシクロプロペン(1-MCP)の組合せ処理はカーネーションおよびインパチェンス鉢花の室内での観賞期間を延長させた.カーネーション鉢花への能動的MA包装(10%O_2,2.8%CO_2)と1-MCP処理は鉢花の呼吸とエチレン合成関連遺伝子の発現およびエチレン生成を抑制するとともに炭水化物含量の減少を緩和し,鉢花品質を改善することが示唆された.
著者
海老原 淳
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

地中生配偶体を形成するハナヤスリ科ハナワラビ属シダ植物で、配偶体の空間分布を効率的に調査するための分離法・分子同定法を確立した。複数種の胞子体が混生する茨城県つくば市の野生集団において胞子体の平面分布と地中生配偶体の空間分布とを解析した結果、胞子体が比較的少ない地点の土壌中に高密度で配偶体が生育し、2種の配偶体が空間的に近接する場合があることも明らかになった。
著者
山田 利博
出版者
宮崎大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

(1) 350ほどもある宮崎の神楽のうち、データベース化されたのはただ一つと言っても過言ではなかったこれまでの状況に対し、主要3系統5つのデータベースが提供できる準備が整った。(2)そのデータベースに付された字幕解説により、初心者でも神楽の舞の意味を容易に掴めるようになった。
著者
深尾 百合子 池田 浩治 並木 美太郎 高木 隆司
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

レポート等の文章を書く能力を養成するための教材を作成した。理工系の留学生の最終目的が科学技術論文,レポート,レジュメを書くことを考慮して,題材を基礎科学分野(中学・高校レベル)からとった。開発教材は15のトピックからなっている。これらの教材の開発については「理工系留学生を対象としたボトムアップ型の作文指導および教材開発」という題で研究発表を行った。上記の教材を使って留学生を対象に作文指導を行ったところ,1つの教材に対して様々な解答文が可能であることが明らかになった。そこで,科学技術文として適切な解答文はどのようなものであるかを明らかにするために,教材[木炭の燃焼]を使用して日本語母語話者73人の解答文を収集した。これらの解答文を工学部専門教官3人(分担者を含む)に評価してもらい,この結果について分析を行った。評価の高かった解答文の分析により,科学技術文として不可欠な要素が抽出された。また,評価の低かった解答文データから,不適切とされた箇所を取り出し分類した。この研究結果を,論文「科学技術作文教材の開発およびモデル解答作成のための解答文分析」にまとめた。また,工学系学部日本人学生のレポート文を収集し,レポートの「考察」部分(一部結果を含む)の文章をデータベース化した。これらの文章を工学部専門教官に「考察」として適切な構成,表現であるかを評価してもらい,共通する欠点をまとめた。また,個々のレポートについてのコメントも記述した。
著者
水野 千依
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、ルネサンスの図像文化における古代異教的慣習の残存を、以下の三つの事例に即して、歴史人類学的観点から考察した。(1)古代異教の慣習や民間信仰を基層とするルネサンス期の終末論的預言や奇蹟の言説と図像、(2)ルネサンスの肖像史にみる古代異教の「祖先の像」「像による葬儀」「コンセクラティオ」の残存、(3)ルネサンスの像文化における奉納像(エクス・ヴォート)の地位。いずれの成果も論文として発表するとともに、出版を予定している著書の一部にて公開する。
著者
中島 卓郎 岡田 匡史
出版者
信州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本年度の研究は、「印象派期における音楽と絵画の相関(2)-ドビュッシーとモネの作品の構造的側面からの分析および考察-」を行った。ドビュッシーは、ピアノ作品におけるダンパーペダルの斬新な使用法により、1つ1つの和声をはっきりと示すことなく、それらを融合させて響きの色合を溶け合わせている。そして、そのような響きに包まれた休符や'で区切られる断片的な旋律は霧の中にうっすらと見えるかのようにぼかされている。これらは、モネが絵画において、SLの猛煙,立ち込める靄や霧をメイン・モティーフとし、輪郭をキチッと描かず、「積み藁」,「ルーアン大聖堂」,ロンドンで描いた「橋」とか「国会議事堂」などの連作,さらには殆ど融合してしまう晩期の「ばらの小道」連作など、対象が周りの空間に溶け込むような作法をとったことと極めて類似するものである。また、ドビュッシーが伝統的機能和声の破棄による方向性の薄い和声群を基盤としていることや、コントラストを避けた強弱法なども、やはりモネの、絵画作品において伝統的に使用されていた黒を避け、影を黒でない色で表すことによって生じる朦朧たる情調や、カラヴァッジオを嚆矢とするバロック的作風とは対照的に,明暗のコントラストを抑え,明るい色(概してパステル調)で全体をまとめていることなどと、相通じるものである。それらが結果として「ぼかしの効果」を生み出していると考える。ドビュッシーの作品に見られた、驚くほど多様で細密なアーティキュレーションや弱音域に執着した精緻な強弱法は、ほんの少しだけの微細な変化をもたらし、pp、pppの多彩さと限りないニュアンスを生み出した。一方、モネにおいては、白を混ぜる中間域トーンを主として達成される,色の無限とも言いうる諧調、緑にピンクやヴァイオレットが浸透したりもする移ろふようなデリケートな色調を用い、点描をビッシリと敷き詰めていく中で,その作品において色が発酵を始め,葉を繁らす木々,キラキラ輝く川面,陽を浴びた岩肌などが,独特なニュアンスを呈してくる。加えて、型・レ型・l型,また長短太細と,様々な種類のストロークが画面を構成し、油絵具の粘っこくネットリした触感性をよく生かした,稠密で美しいマティエールなどの技法も、「細部の緻密性と豊穣なニュアンス」という点において、ドビュッシーと近似していると捉えられる。そして、3点目は「主張のなさ」である。ドビュッシーの作品は、小節数・演奏所要時間の短さ、小規模な編成により、誠に簡潔性を帯びたものであり、極端な弱音城における表現の連続、旋回あるいは下降形をとる旋律線、楽節構造の曖昧さやモティーフの非発展性と非生成感、単調なリズムの反復などには、主張が感じられなく、クライマックスの不在と簡潔なコーダとともに、ドラマティックな展開とは全く無縁の世界と捉えられる。モネでの添景人物の反復的な置き方,並木の列,またはタッチの繰り返しには,やはり劇的な盛り上がりが認められない。そこでは、聖書などのテキスト,モティーフの寓意的・教訓的働きをベースとはせず,今ここで目に映り感覚に訴えてくる物を描き、ドラマを伴う人間でなく,普通の,ありふれたとも言いうる風景の方がテーマとなる。そして、対象となる人物に対し、しばしば目鼻口を描かず,心理表出に大きく益するところの表情が顔に表れていない。このようなアトモスフェリックな絵は中心性が退くため,拡散的な空間自体がテーマとなっている。これらのこと全てが、思弁性を帯びた主張をなくし、「耳を楽しませるための」、「目を楽しませるための」、音楽と絵画の創造を導いていると考える。
著者
佐藤 徹哉
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

磁性原子がランダムに配列した磁性体であるスピングラスでは、低温でスピンが凍結し、エイジング現象やメモリー効果などの特徴的な記憶現象を示す。しかし、その詳細については不明な点が多い。本研究では、スピン配列の詳細な情報を得るためにスピン流の利用に注目した。これは、スピン流がスピンの方向とスピンが流れる方向の二つの量を持つベクトル量であり、スピングラス中のスピンと直接相互作用してスピン配列の有用な情報をもたらし得るためである。スピン流を用いてスピングラスの低温相での挙動を解明することを目的に研究を進めた。強磁性FeNi層/中間Cu層/スピングラスAgMn層の3層構造をスパッタ法により作成し、強磁性層の強磁性共鳴を利用したスピンポンピングによるスピングラス層への非局所スピン流注入を試みた。比較のため、スピングラス層を含まない強磁性FeNi層/中間Cu層の2層構造も作成した。中間層は強磁性相とスピングラス層の間に交換結合が生じさせないために挿入した。マイクロ波を薄膜に対して垂直方向に、掃引磁場を薄膜に対して平行方向に印加し、低温での強磁性共鳴のスペクトルの半値幅の温度依存性を調べた。その結果、3層構造試料の半値幅はすべての温度領域で2層構造試料の半値幅より大きく、これはスピングラス層に注入されたスピン流が吸収されることにより生じるものと考えられる。また、2つの試料での半値幅の差はスピングラス転移温度近傍で極小を示した。この特徴は、スピングラス転移温度以下で、スピン拡散長が急激に低下するか、またはミキシングコンダクタンスが増大することで解釈される。現在のところ、この両者のどちらが支配的であるのかについては明らかではないが、スピングラス相と常磁性相ではスピン流の挙動が異なることがわかった。
著者
秋山 毅志
出版者
核融合科学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、機械振動が誤差要因とならないDispersion干渉計に、光弾性変調器を用いた変調強度比計測による位相差抽出手法を適用し、高精度化を図った。周波数安定化させた連続発振レーザーでは、パワー密度が小さいために通常2倍高調波の発生が難しいが、非線形光学結晶AgGaSe_2を用いて、計測に十分な2倍高調波成分を生成した。プラズマを模擬するセレン化亜鉛板を用い、正しい位相差を計測・抽出できることを示し、提案した手法の有効性を示した。機械振動を模擬した計測も行い、光学的に機械振動がキャンセルされ、計測結果に誤差をもたらさないことを確認した。
著者
井上 悦子
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

「目的」この研究は100歳長寿者の健康度,生活像及び生活支援ニードを明らかにすることを目的とした。「対象」佐賀県に在住する100歳長寿者で承諾の得られた79名を対象とした。「方法」半構成的質問紙を介した面接調査を1.HDS-R 2.Barthel Index 3.老研式IADL 4.AADL 5.PGCモラールスケール6.ライフイベント調査(喜び悲しみの体験,苦労したこと,生きがい)の測定具を使用して行った.「結果」年齢100歳-107.(平均10.1.2)性別男性6名,女性73名,居住場所.在宅22名(27.8%)施設57名(72.2%),HDS-R.8.52,Barthel Index45.38,老研式IADL1.59,AADL1.42,PGCモラールスケール8.79であった。80-90歳寿者24名を同じ尺度で行った調査結果は.HDS-R 19.75,Barthel Index96.67老研式IADL8.21,AADL8.35,PGCモラールスケール9.63であった。身体的能力及び認知能力においては100長寿者と80-90歳寿者の群間にt検定において有意差(P<0.01)があった。ライフイベント調査では両群間においての有意差はなかった。ライフイベントによる生きがいについては,明確に自分の生きがいを答える事ができた者は21名(26.6%)であった。生きがいがあると答えたものには「佐賀県で長寿者一番になるやゲイトボールで勝つ事など人生に対して目的があり,まだまだ何年でも生きたい」と意欲的であった.生きがいがないと答えた対象者はその理由として「ここまで長く生きたからもう十分という満足感」と「長く生きても仕方が無い」「夫・子供・友達も逝ってしまった」という無力感や寂寥感が述べられた。佐賀県に居住する100歳長寿者の主観的幸福感は身体動作能力,認知能力の高い者が生活においても満足しているが全体の概ね1/4の回答によるものであり対象者全体の中では少数である。この考えにおいて100歳長寿者全体としての満足度は低いと考えられる。100歳長寿者がますます増える傾向にあるが,身体能力が低下してない80代からのADLの強化につながる活動計画が100歳長寿者の生活満足感を得る一つの方策と考える。
著者
鈴木 薫 高瀬 浩一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

エタノールとシリコン基板の境界面に直流沿面放電を行い、陰極と基板間に挟んだ触媒金属メッシュの溶融とエタノールの熱分解によるカーボンナノチューブ(CNT)の析出で鉄やニッケル・銅・ステンレスを内包したCNTの生成に成功した。特にNi内包CNTは、直径D:5~80nm・長さL:50~800nmと直線でアスペクト比が10~20と高く、3~50層のグラフェンがNi棒の周りに析出したCNTが生成し、Niは面心立方構造の結晶性を有し格子定数は0.34nmであった。また、強磁性金属内包CNTを収束イオンビームにより針状タングステン先端に移植し、磁気力顕微鏡用の新規なプローブ作製に成功した。