著者
佐道 明広 小針 進 浅野 豊美 古川 浩司
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では「韓国研究者、日本政治外交(史)研究者、国際関係研究者を中心に、韓国の研究者の協力も得て、包括的な視点での資料収集を行なおうというものである。その際、文書資料はもちろんであるが、(略)近年ようやく方法論的に定着しつつあるオーラル・メソッドを用いて日韓関係に関する基礎的資料の収集を行う。(略)(第二に)今後の研究を発展させるためにはこれまでの研究状況の把握も必要なことから、日韓双方で行なわれた研究状況の確認や、収集したインタビューや収集資料に基づく研究課題の整理などを日韓両国の研究者で行なう」という2点に焦点をあてて研究した。そこで軍事政権下における韓国民主化運動の中心的リーダーの一人である金泳三元大統領、軍事政権下で国会副議長まで務めた張聖萬氏のオーラルヒストリーを実施し、それぞれ記録を公刊した。その内容および収集した文書資料等を韓国側研究者も交えて議論したところ、以下のような点が明らかになった。第一に、金元大統領・別の研究で実施した塚本三郎元民社党委員長(韓国の政党と交流があった)の証言等から、軍事政権下の韓国において、政府側だけでなく民主化運動の中心となった野党政治家も米国や日本との深い関係を背景に活動していたことである。第二に、民主化運動の中心である政党の活動について、これまで具体的な内容はあまり明らかにされてこなかったが、党内の状況、選挙運動の実態などが金元統領、張元副議長等の証言でその一面が表れてきたことである。第三に、大統領制のもとにおける大統領のリーダーシップの在り方や政策決定の一面が明らかにされたことである。以上の点は本研究で明らかにされたことであり、これを基礎に今後の研究に発展させていきたいと考えている。
著者
佐藤 俊 平野 聡 太田 至 河合 香吏 湖中 真哉 岡倉 登志
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

地域間の生態的,政治的,経済的,社会的,軍事的な諸要素の相互浸透的な相互作用は地域連環と定義され,在地の遊牧民が地域社会を自ら変容させつつ外的要因を選択的に取り込み,社会の持続性を維持するシステムを生活安全網と定義される。後者の概念はすぐれて地域社会に根ざすものであるが,複雑な地域連環を視野に入れてはじめて理解できるものである。1.遊牧生態系のGIS/RSによる解析:SRTM成果を標高値,DEMから計算された水系網の評価によって,基盤地図データの整備,地理情報の視覚化,自然環境のモデル化,遊牧民研究への応用が可能であることが検証された。2.地域社会の生活質リスクの解明:個々の遊牧社会が直面している問題のうち,家畜の略奪,市場経済化による社会的平準化機構の脆弱化,貧富の格差増幅による地域社会の変質,町場形成による牧野生態の劣化,就学と就労の増加による牧人不足と家計の多角化による家族構造の変化,伝統的政治体系と儀礼体系の変質などが,実証的資料によって明かにされた。3.地方的社会経済の広域的枠組みとその歴史的背景の解明:エチオピアでは,経済自由化によっても,社会的紐帯に制約された皮流通経路は開放されないことが判明した。ジブチのFRUD(ジブチ民族統一回復戦線)結成の背景,ならびに13〜15世紀のスルタン国家アファルに由来するアファル人のアイデンティティが文番資料によって明らかにされた。ケニアの政治的動向を,大統領の権限縮小,地方分権化をめざす現行憲法の見直し問題の経緯,国民投票(2005年11月実施)の選挙区党派別分布,憲法見直し問題とNARCの本格的分裂の3点について分析した結果,政党組織が意見集約機能を喪失して地域化していく過程が明らかとなった。今後の課題として,地域社会の生活安全網と地域連環を統合的に理解できるモデルを精緻化する作業が残されている。
著者
佐藤 俊彦
出版者
東北文化学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題では,高血圧ラットSHRの驚愕反応に関する行動的特徴と,その生理学的基礎,特に循環器機能との関連を明らかにすることを目標としている。昨年度に行ったSHRとWKYの驚愕反応と恐怖増強(fear-potentiated startle, FPS)を調べる実験について,追加実験を行って,データを追加した。各セッションの前半と後半の試行とで別個に平均を集計したところ,恐怖条件づけ後24時間では,セッション前半の試行のFPSの指標(%FPS)には有意な系統差はなく,後半でのみ,SHRの%FPSが大きかった。この結果より,SHRの情動的性質について,情動的な興奮性が一般に高まっているというよりはむしろ,情動喚起刺激に対する慣れが遅いと推定できた。この研究成果については平成18年10月に開催された北米神経科学会(米国Atlanta)にて発表するとともに,驚愕反応ならびに恐怖増強の世界的権威Michael Davis教授のラボ(Emory大学)を訪問し,実験手法についてアドバイスを受けた。また,同年11月の日本心理学会においても,SHRの驚愕反応に関する研究成果の発表を行った。今年度には新たな実験も開始した。昨年度からの予備実験の結果を踏まえながら,Davis教授から受けたアドバイスも参考に実験をデザインした。血管拡張薬ヒドララジンの静脈内投与により,血圧の低下したSHRでは,FPSの程度が有意に減少していた。また,少数の個体に対して,別種の降圧剤を投与したところ,同様にFPSが小さくなった。SHRで比較的大きなFPSがみられる生理学的背景として,心臓血管系の高い機能水準が寄与している可能性が示された。この成果は平成19年度の国内外の学会において発表するとともに,論文投稿を準備している。なお,本研究における動物飼育と実験実施にあたっては,東北大学文学研究科心理学研究室の設備を借用した。
著者
森川 修
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

鳥取大学における学力試験を課さない入試区分(AO入試,推薦入試Ⅰ)の合格者に対し,合格直後から入学直前まで,インターネットに接続されたPCを用いて自学自習ができるe-ラーニングを実施させた.合格後と入学後に学力試験の結果から,e-ラーニングの進捗率が高かった者や一定のペースで学習した者の成績は良好であった.また,卒業までの成績追跡の調査で,AO入試,推薦入試Ⅰの合格者は,一般入試合格者と比較して,大学在学中の学業成績や卒業率などに有意差は見られなかった.その結果,e-ラーニングは学習習慣を継続させるために有用なツールで,リメディアル教育として十分に利用可能である例を示した.
著者
小塚 良孝
出版者
愛知教育大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、古英語期の散文作品における定形動詞と名詞目的語の語順の決定要因をコロケーションに着目して調査、分析した。分析対象とした文献は年代記(Anglo-Saxon Chronicle)や宗教散文(West Saxon Gospelsなど)などである。本調査から、コロケーションが語順に影響を及ぼしたと考えられる場合があることが明らかになり、古英語の語順研究にはコロケーションという観点も重要であることが指摘された。
著者
高橋 芳子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

3年間における研究の結論実験協力校である5つの小学校において「表現運動・ダンスのクロス・カリキュラムへの試み」の実践的研究を行った結果、次の結論を得た。1. 魂をゆさぶる表現のためのクロス・カリキュラムは国語、社会、音楽、図画工作、保健(心のバランスをとる)の中から2〜3教科との構成を試みたが、教科のちがいによる効果の差はみられなかった。2. クロス・カリキュラムの実施において、各教科のプログラムは7因子が中核になる構成であり、7因子はそれぞれの条件が満たされている活動内容であることが好効果を生みだしていた。条件とは、Playはアゴーン、アレア、ミミクリ、イリンクスの要素を2つ以上、Improvisationはテーマかイメージのある即興表現であり、Relaxationは筋肉の弛緩、技能の向上を要求しない、同一化による安定感、ある程度の選択の幅をもった自由の保障、呼吸が自然にできる状態の活動の要素から3つ以上、Communicationは教師と児童、児童と児童の2つの関わりが成立していること、Combinationは表現の方法が歌を歌う・踊るなどのように2つ以上が絡み合っていること、Optionはひとつの活動を起こすのに3種以上の選択権が保障されていることであり、Demonstrationは教師による実演であり、それは児童の発想の転換や活動を刺激するものでなければならない。3. クロス・カリキュラムが有効であるためには教師がクロスされる教科において質の高い指導力を必要とする。
著者
横田 紘子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は強誘電体や圧電体においてみられる巨大応答特性の起因を解明し、その原理を利用した新規物質を開発することを目的としている。本年度はこれまで共同研究を行っているイギリスのOxford大学に2カ月半の間滞在し、圧電材料として広く利用されているPb(Zr,Ti)O_3(以下PZT)の構造解析を行った。PZTにおいてはTi濃度が48%近傍において2相の境界が温度に対してほぼ垂直になるようなmorphotropic phase boundary (MPB)が存在し、この付近では誘電,電気機械定数が最大値をとることで知られている。このことはMPB近傍において対称性が著しく低下することによるものだと考えられてきた。しかしながら、申請者らは詳細な構造解析を行った結果、室温において低対称相と高対称相とが共存した状態になっていることを明らかにしてきた。このことから、PZTの相図を見直す必要があるのではないかと考え、温度,組成を変化させ構造解析を行った。その結果、PZTは常に2つ以上の相が共存する混晶状態であることが明らかとなった。すなわち、PZTにおいては対称性が低下することよりも、むしろ異なる相が共存することにより系全体が揺らいだ状態になることで巨大物性がもたらされるといえる。このような考え方はほかの凝縮系にも適用することができるユビキタスな概念であるといえる。これのら結果について、申請者は国際学会の場で発表を行い、2つの奨励賞を受賞している。また、新規物質をつくるという研究においてはパルスレーザー堆積法を利用した薄膜づくりを精力的に行ってきた。特に、マルチフェロイックス物質において一般にみられるdゼロネス問題を持たないことが期待される希土類遷移金属酸化物に着目をし研究を行ってきた。
著者
高塚 真央
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

1.本研究の目的は,新しい展開型構造の提案し,その展開挙動を明らかにすることである。本研究では,特に環境問題やエネルギ問題の観点から,大型平面状構造物としての太陽発電衛星の輸送・建設問題に着目し,その平面状構造を平面直交二方向同時に収納・展開する方法を提案している。本研究ではこれまで,シザーズ機構と「立方体の対角線方向の回転軸」を用いた正方形パネルの平面直交二方向同時展開法を提案してきた。しかしながら,この方法は回転軸の角度に高い精度が要求されるという問題があるため,本研究では新たに,パネル平面に垂直な回転軸のみを用いた展開方法を提案している。本方法は,正方形パネルをある特定の規則で連結することで,シザーズ機構のような連動型の収納・展開を可能にするものであり,「展開可能な連動式パネルユニット」という名称で国内特許を取得しているが,本年度はその研究成果が国際雑誌に掲載された。2.本研究では,上記の研究課題に加え,提案した展開型構造を宇宙で展開する際の動力学的挙動の解明も研究テーマとしている。宇宙における展開型構造は,構造力学的観点から考えると,支持点が無い不安定構造であり,通常の構造解析では解析対象とされていない構造である。そこで本研究では,その問題を動力学的に扱うことで,展開時に必要となる動力や時間および部材に生じる変形や応力などを予測計算できるようにしようとしている。本年度は,その初期段階として,シザーズ機構の基本ユニットの展開中の運動方程式の導出とその数値計算を行ない,その成果を国際学会及び国内学会で発表した。また,シザーズ機構の回転軸部の摩擦力を考慮し,部材の変形や応力の計算を行なった結果が,現在国際雑誌に掲載予定となっている。
著者
平松 彩子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

特別研究員として採用された平成二一年四月から、特別研究員を辞退した同年八月までの五ヶ月間に、下記二点の研究成果をあけた。(1)共和党多数であった一九九五年から二〇〇六年までの米国連邦議会下院二大政党においては、政党のイデオロギー的分極化が進み、政党指導部による党議拘束の強化が図られたとされてきた。このような中、五つのイデオロギー的議員連盟(民主党プログレッシブ・コーカス、ニュー・デモクラット・コアリション、ブルードッグ・コアリション、共和党チューズデー・グループ、リパブリカン・スタディー・コミッティー)が、次の役割を果たしていたことが本研究から明らかになった。まず政党指導部選出過程においては、共和党穏健派が党内古参の保守派下院議長を支持し、共和党保守派内での世代間の対立が存在した。民主党内では、指導部支持基盤がリベラル派と保守派に別れていた。また本会議投票では、環境保護政策、均衡財政法案、対中国貿易自由化法案に関して、二大政党の内部は分裂していた。さらに下院農業委員会においてブルードッグ・コアリション所属議員の占める割合が高く、また司法委員会ではプログレッシブ・コーカスとリパブリカン・スタディー・コミッティー議員が多く所属し、同委員会においてイデオロギー的対立が生じやすい構成となっていた。以上の内容を、論文として公表した(「11.研究発表」の第一項参照)。(2)Sean Theriault,Party Polarization in Congress.(Cambridge University Press,2008)の書評を執筆した(「11.研究発表」の第二項参照)。同書は、一九七三年以降およそ三十年間にわたり議会二大政党が分極化した理由を、本会議投票における審議手続き投票の増加に求める。同書の貢献は、審議手続き投票の増加を可視化し、その増加の論理を明らかにした点にある。また同書に対する批判として、同書が法案の実質の内容を考慮しない点が挙げられる。イデオロギー的議員連盟を通じた議会政治分析は、同書の弱点を補完しうるものと考えられる。
著者
石川 悟
出版者
北星学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、他者とのやり取り場面において、他者の意図および行動を推定しながら自身がより柔軟に行動できるために必要な処理機能について、行動実験による分析と、処理機構を念頭においた機能モデルの提案を目指した。行動実験結果から、他者の意図や行動の推定に必要な情報の抽出と、それらの情報に基づく行動予測・意図推定とともに、推定された他者の意図に合わせ、自身の行動をあらかじめ調整し適切な行動を選択できることが明らかになった。一方機能モデルの構築には、他者から得られる情報の価値の評価機構をより詳細に検討する必要性が示された。
著者
厳島 行雄
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

裁判等の証人は記憶を頼りに、自分の経験を語る。そのような記憶は再構成的であり、経験される出来事の記憶の正確さは、その出来事の後に触れる社会的情報によって大きく損なわれることが知られている。本研究ではそのような影響の基礎的研究を行い、情報が伝えられる媒体の違いによる効果、嘘をつくという行為による記憶への影響、耳撃証言の正確さを明らかにした。
著者
荒川 泰彦 NA Jongho
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、窒化ガリウム半導体(GaN)量子ドットの形成技術の確立に関しては,GaN量子ドットデバイス用ウェハの作製をおこなった。単一ドットを用いた量子情報デバイスに最適な低密度量子ドット、高品質半導体膜形成の成長条件を見出した。これと並行して,新しい半導体材料である有機半導体に関する研究にも取り組んだ。有機半導体に関する研究としてはフレキシブル基板上のNチャネルおよびPチャネル有機トランジスタの低電圧化に取り組んだ。また,その応用として,フレキシブル基板上にNチャネルおよびPチャネルの有機トランジスタを形成しCMOS回路を構成し,CMOS回路の動作に成功した。駆動電圧は2-7Vと有機トランジスタとして極めて低い電圧である。さらに,フレキシブル基板上のCMOS回路の高性能化を図るため低温製膜可能な無機酸化物半導体の開発にも取り組んだ。結果として,低温製膜においても移動度17cm2/Vsという値が得られ,有機半導体と比較すると極めて高い移動度が達成できた。また,低電圧駆動の有機トランジスタに用いた技術による酸化物トランジスタについても数Vでの動作を可能にした。上で述べたように,有機トランジスタおよび無機酸化物トランジスタは低温で製膜可能なため,フレキシブルデバイスへの応用が可能であり,本研究で得られた結果は,有機のPチャネルトランジスタと無機酸化物のNチャネルトランジスタを組み合わせた,フレキシブル基板上の高性能CMOS回路の実現を期待させる結果である。
著者
平田 栄一朗
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

同研究により、日本とドイツ演劇のドラマトゥルギーに関連するドイツ語書籍を一冊編纂・出版し、ユートピア研究と文学・演劇に関する日本語書籍を出版することができた。さらには、ドイツ、ギリシア、カナダ、アメリカの国際シンポジウムに参加し、日本とヨーロッパ演劇の比較論的考察について議論する機会をもつことができた。とりわけ上記のドイツ語は、日本と諸外国の研究者が現代日本演劇をドイツ語で最初に網羅的に紹介する世界初の研究書となった。
著者
勝山 成美
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

我々は床や壁に映った影(キャストシャドウ)によって、物体の位置や動きを知ることができる。しかし、このようなキャストシャドウによる奥行き知覚が脳のどこで、どのように処理されているのかはわかっていない。そのため我々は、機能的MRI実験によってヒトがシャドウから物体が奥行き方向に動いて見える錯視動画を見ている時に活動する脳部位を調べた。その結果、MT野、V3A野、および右の後部頭頂間溝など、後頭葉から頭頂葉に至る視覚野が活動することがわかった。さらに我々は、サルに同じ動画を見せ、サルもヒトと同じようにシャドウから奥行き知覚を得ていることを明らかにした。
著者
黒澤 昌志
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究では次世代型ディスプレイとして期待されるシステム・イン・ディスプレイの実現に向けて,透明基板(石英等)上に高品質な歪みシリコンゲルマニウム(SiGe)を形成するプロセス技術の開発を目標としている.本年度に得られた成果を以下に記す.(1)金属(Al,Ni)誘起成長法とSiGeミキシング誘起溶融成長法の重畳により,(100),(111),(110)方位に整列した単結晶Ge薄膜を石英基板上に同時混載することに成功した.得られたGe薄膜には積層欠陥等は存在せず,高いキャリア移動度(約1000cm^2/Vs)を示すことを明らかにした.(2)本プロセスで形成したGe(100),(111),(110)単結晶薄膜には,約0.6%の2軸性伸張歪みが印加されていることを明らかにした.この歪みが石英基板との熱膨張係数差に起因することを理論計算により明らかにした.(3)更なる伸張歪み増強を目指し,SiN歪み印加膜付Si,Ge薄膜へのUV光照射を試みた.500℃以下の温度にてUV光(248nm)照射をすれば,更に約0.7%の伸張歪み増強が可能であることを見いだした.この現象は,SiN膜中に含まれるH原子の脱離により,SiN歪み印加膜の応力が増大したためであると推測される.
著者
枡田 幹也 CHOI Suyoung
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

トーリック多様体の微分同相による分類問題,特に,2つのトーリック多様体が同型なコホモロジー環をもてば微分同相かと問う問題(コホモロジー剛性問題)に取り組んだ.トーリック多様体の代数多様体(または複素多様体)としての分類は対応する扇の分類に帰着されるが,微分同相類または単に同相類における分類の研究は進んでいない.これまでコホモロジー剛性問題の反例は見つかっておらず,部分的な肯定的結果が得られているが,受け入れ研究者の枡田と,ある種の条件をみたすボット多様体に対しては,コホモロジー剛性問題が肯定的であることを示した.また,剛性問題が肯定的だとすると,コホモロジー環が同型であるトーリック多様体の特性類はコホモロジー同型写像で移りあう.ボット多様体に対してコホモロジー剛性は未解決であるが,この特性類の不変性は示すことができたのは大きな成果であった.トーリック多様体は複素代数多様体であるが,その実数版と言えるものとして実トーリック多様体がある.トーリック多様体は単連結であるが,実トーリック多様体は非単連結で,aspherical多様体である場合が多い.本研究では,実ボット多様体の分類を行った.この研究は受け入れ研究者の枡田が行っていたものだが,その研究がacyclic digraphという有向グラフと関係があることを見出し,幾何とグラフ理論の新たな関係を発見した.特に,実ポット多様体の微分同相による分類が,acyclic digraphの集合を3つの操作で移りあうものの同値類であることを示した.この3つの操作の内,一つはlocal complementationと呼ばれて既にグラフ理論で研究されていたものと一致したのは,驚きであった.
著者
小林 隆嗣
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

エステル結合を含むポリマーを遺伝情報に基づいて合成できれば,規則正しいポリエステルの合成が可能となる.本研究では,リボソームにおけるエステル結合の導入を実現するために,アミノアシルtRNA合成酵素のひとつを改変した.その結果,効率よくエステル結合の構成要素となるα-ヒドロキシ酸を認識する酵素が得られた.それらを用いることで,エステル結合を形成させるのに必要なα-ヒドロキシ酸が2つ連続して導入できる試験管内の系を確立することに成功した.
著者
佐藤 徳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

エージェンシー感とは「行為を引き起こしたのは自分だ」という感覚のことである。エージェンシー感がどのように成立するかについては主に二つのモデルがある。一方の説では順モデルによる動作の感覚結果の予測がエージェンシー感の成立に関わっているとされ、別の説では行為に先行する思考とその行為が一致し、他に原因が考えられなければ、エージェンシー感が体験されると考えられている。本研究では、エージェンシー感を、より基底にある非概念的、かつ、前反省的な感覚運動レベルのエージェンシー感と、概念的かつ反省的なエージェンシー判断に分け、前者の指標として感覚減衰、後者の指標として顕在的なエージェンシー判断を用い、前者が主に順モデルによる予測と実際の結果の一致性に、後者が順モデルによる予測と実際の結果の一致性と先行思考と結果の概念的一致性の双方に依存することを示した。また、順モデルによる予測と実際の結果の一致性や先行思考と結果の概念的一致性などの複数のエージェンシー判断手掛かりのうち、どの手掛かりがエージェンシー判断に大きな影響を及ぼすかは、それぞれの手掛かりの相対的な信頼性如何であることを示した。
著者
柄木田 康之
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究はミクロネシア連邦ポンペイ島,米国グアム島のヤップ出身者のアソシエーションの民族誌調査に基づき,移民と母社会が国家を超えた脱領域的公共圏を構成していると指摘し,アソシエーションの活動による民族アイデンティティの生成,リーダーシップの生成,募金活動による社会的連帯の生成について報告した。
著者
青木 善治
出版者
三条市立月岡小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

1研究目的造形的な活動を通して、子どもたちが周囲のもの、人、こととの関係において、自己をつくり変え、自分が生きている社会や文化との通路をつくりだしていくためには、子どもたちの学習活動を生きることと学ぶことを一体化した全人的な人間形成の視点から捉えなおし、真に学びがつくられていく学習状況へとつくり変える必要がある。そこで、これまでの造形教育を成り立たせてきた個人活動モデルの枠組を問い直し、次の点について明らかにすることを目的とした。(1)一人ひとりの子どもが教材(もの)、場(状況)、活動、他者(人)とのかかわり合いを通して、社会的で文化的に新たな行為をつくり生きることが可能となる行為と活動の論理を明らかにすること。(2)こうした行為と活動の論理に基づきつくられた学習状況において、子どもたちが行うつくり表す行為を、もの・こと・人との相互行為の視点から捉えなおす試みを繰り返すことにより、全人的な表現活動を展開することが可能となる教育実践の在り方とその開発研究の在り方を実践的に明らかにすること。2研究方法造形的な学習場面をビデオカメラを用いて記録し、会話、相互作用、相互行為、造形行為を記述し、子どもの活動世界とつくり表していくものとの世界とが、どのような関係性において相互的につくられていくのか、相互行為分析を行い捉えなおした。3研究成果子どもが学びを生成していく行為や活動の論理に基づき、新たな活動状況を開発し再実践することにより、子どもたちがもの・こと・人との相互行為を通して、自身の行為や活動の論理と、学びを拡張する在り方について検証と考察を行った。その結果、子どもたちがもの・こと・人と生き合う学びの過程をつくり成り立たせていく「学力」や「基礎・基本」、その過程を支援していく「評価」のあり方を研究開発する上で基本となる臨床的な実践研究開発法において大切なことを実践的に明らかにすることができた。