著者
小松 秀雄
出版者
神戸女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

現代都市の伝統的祭りに関わる人々の行動様式と組織形成の実態について比較社会学的調査を実施してみた。まず、神戸の春の生田祭-神戸の都心における最大の神社祭礼-を支える人々の活動と組織構造を実証的に解明した。それによると、神戸の中心地域と重なる氏子区域を11の地区に分け、民主的な輪番制と委員会方式に基づいて祭祀を運営している。政教分離、氏子離れ、住民の流動化、都市文化の多様化などが進み、神社祭礼の実施は年々難しくなっているけれども、生田祭は岡方や宮元地区などの熱心な氏子たを核としながら、以前と変わらず盛大に行なわれている。次に、生田祭と比較する形で横浜の日枝神社の秋季例大祭-横浜の都心では最大の神社祭礼-の組織構成を調べてみた。その結果を見ると、やはり生田祭以上に盛大に行なわれており、例えば30台余りの山車が横浜の繁華街伊勢佐木モールを巡行し、強烈な集合的オルギーが顕在化した。参加者は年令、性別、職業に関して余り偏寄りがなく、全ての住民が平等に参加できる祭りであると言えよう。仕掛けや組織形式を工夫すれば、大都市でも伝統的祭礼が十分に伝承されることが明らかになった。なお、当初予定していた長崎の祭礼調査は、研究の都合上省略した。
著者
福島 邦夫
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は九州北部離島(対馬、壱岐、五島)と南部離島(甑島、トカラ列島口の島)のシャーマニズムと神楽(巫女舞い)を比較し、その共通する伝統を指摘しようとしたものである。従来の研究が比較的地域を限定していたことに対し、対象とする範囲を広げることにより、九州全体に広がっていた巫女の伝統を明らかにすることができる。まず、神楽において、巫女舞いの動きに共通点が見られることである。九州西岸の五島、甑島では、巫女は神前で大きく回って舞うと言う動作をする。衣装に関して言えば、甑島、トカラ列島口の島では先輩ネーシの髪の毛を頭に着けている。また、すべての巫女が左手で袖をつかみ右手に鈴を持って舞っている。次に、組織に関してのべると、神楽においては巫女は対馬、壱岐、においては法者と口の島ではホンボーイ、ジホーイなどの男性神職とペアになって舞いを舞ったことである。男性神職が太鼓を叩き、命婦、市、内侍が舞うと言う形である。法者は神楽保佐職つまり、神官を補佐する陰陽師であった形跡が見られる。また、巫女も大きな神社に関しては惣の市(一の内侍)、二の市(二の内侍)、三の市(三の内侍)など神社の女官としての地位があたえられていたことがわかっている。最後に信仰に関して、神霊が風として生き霊、死霊、山ノモン、イソノモン、ガラッパなどが考えられ、それを祓ったり、託宣をさせて、その言葉を伝えるなどのシャーマン的な行為を行っていた。これらは巫女と同じに法者もそうした行為を行っていた。また、比較的古い形をのこしているとみられる対馬やトカラ列島口の島では巫女自身が神歌を歌ったり、祝詞をあげたりする神官としての役割も果たしていたことである。
著者
首藤 もと子 小嶋 華津子 キンポ ネイサン サーベドラ ネアントロ フォーシェ キャロル ルイ ジャン=オーグスタン ALICE Sindzingre ANGELA Uforo Shanyo BRAHIMA Songore CLAUDE Sumata EDSON Kenji Kondo 江 時学 MBATIA Hiram Mwangi SAAVEDRA Neantro SEIFUDEIN Adem SHERLON Chi-yin Ip ZHANG Wei Wei
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中国の開発援助がどのような分野で供与され実施されているか、それは受入側の社会でどのように評価され、どのような経済的、社会的変化をもたらしているかについて、主として受入国での現地調査を基に分析した。平成20~22年度に現地調査を行った国は、アフリカ(タンザニア、ケニア、エチオピア、コンゴ、マリ)、東南アジア(インドネシア、フィリピン、ベトナム、メコン流域諸国)および中南米諸国(ブラジル、ペルー、コスタリカ、キューバ)である。現地調査とは別に、中国の対外援助の政策決定過程についての研究も行った。本研究の成果は2011年中に編集作業を進めて英文で出版する計画である。
著者
飯村 耕介
出版者
埼玉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

近年,海岸樹林の津波減災効果が注目されており,本研究では樹林モデルの高精度化のためにマングローブ林などの気根を有し,鉛直方向に大きく構造が変化する樹木を対象に,気根層を再現した植生模型を配置して水理模型実験を行い,上下層の密度比がもたらす流速や抵抗力への影響を明らかにした.植生模型は気根層を再現した植生模型(二層林モデル)とそれを鉛直方向に平均した植生模型(一層林モデル)の2ケースで検討した.二層林モデルでは樹高8mのマングローブ林の100分の1縮尺程度を参考に,高さの異なる直径2mmの木製円柱を組み合わせて配置した.下層部分の高さは20mmで円柱の中心間距離は8mm,上層の円柱の中心間距離は24mmとなる.一方,一層林モデルは直径5mmの木製円柱を24mm間隔で配置した.多くの研究,特に樹木抵抗を考慮した解析では,樹木の抵抗は水深積分化されて導入していることが多く,本研究の一層林モデルも二層林を水深積分化して与えている.二層林の下層部分は正三角形配置なので,その投影幅は円柱直径の6倍となり,投影幅を水深方向に平均すると4.5mmとなる.一層林ではこれとほぼ等価の幅を持つように5mm円柱を使用した.植生模型が無い条件に比べて,二層・一層林ともに植生帯前面で反射や堰上げにより最大水位が大きくなり,植生帯の背後で水位が低減した.二層林では下層部分に植生が偏って存在するため,一一層林に比べて植生帯前面での反射・堰上げの効果が小さくなった.二層林の場合は下層部の植生帯の密度が上層部に対して大きく,上層部で流れが加速し,下層部で流速が低下する.上層の流速は下層に比べて最大2.6倍となったが,植生帯全体における平均的な抵抗力は一層林のほうがわずかに大きい.そのため,植生帯前面での反射が大きく,抵抗もわずかに大きい一層林のほうが二層林に比べて背後における低減効果が大きくなることが分かった.
著者
長谷川 千尋
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

連歌作品を研究する上で、作品に付された古注釈(江戸時代以前に執筆されたもの)は、すこぶる有益で欠くべからざる資料であるが、すべての本文が学会に提供されているわけではない。そこで本研究では、連歌の百韻・千句の古注釈の伝存状況を網羅的に調査した。その結果、『伊勢千句』『牡丹花宗碩両吟百韻』『宗牧独吟何人百韻』に関わる新出の古注を発見したのを始め、既存の古注にも新たな伝本を補い、未翻刻の古注を全翻刻し、基礎的研究を行った。
著者
小場 弘之 森 雅樹 鳥脇 純一郎 山岸 雅彦 小場 弘之
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1.肺腫瘤影の良悪性の鑑別に関する研究-X線学的特徴とデジタルパラメータ良性40例,悪性40例,計80例の小型孤立性肺腫瘤影の胸部X線像を対象とし,X線学的特徴とデジタルパラメータによる肺腫瘤影の良悪性鑑別について検討した.良性腫瘤影は悪性に比し,形状は整で,濃度が高く,辺縁が鮮明で,スピキュラや血管収束像が少ない傾向があった.腫瘤影の面積Sをもとに半径を設定した多重円構造のウィンドウを設定し、デジタルパラメータを測定した.腫瘤影中央部のDCF-N出力値,腫瘤影辺縁の濃度勾配値および腫瘤影周辺部の濃度値と濃度差エントロピー値を測定し,腫瘤影の良悪性鑑別に有用な情報を得た.今回採用したデジタルパラメータによる良悪性の判別率は78%で,医師の読影による上記のX線像所見によって良悪性を判別した場合の判別率は74%であった.これらのデジタルパラメータは,腫瘤影の良悪性鑑別に関する診断支援に役立つ可能性があると考えられた.2.胸部X線像を用いた肺気腫の進行度の定量評価計算機によって胸部X線像上の血管影の太さを自動計測し,その結果を正常例と比較することによって肺気腫の病勢進行度を定量評価するための基礎的検討を行った.胸部単純像上で肋間部に複数のPOIを設定し,様々な方向の2階差分フィルタ出力の最大値を出力するMax-DDフィルタを用いて血管影の強調と抽出を行う.その後,孤立点や枝の除去・穴埋めを行い,血管影の太さの推定を行った.正常例および肺気腫例(中等度,重度)の胸部X線像を対象に検討したところ,肺気腫例では正常例よりも血管影の太さの分布が有意に細い方に偏っていた.今後は,各ROIの肺気腫進行度について医師と計算機の評価結果を比較し,本法の臨床的な有用性について検討する必要がある.
著者
小畑 秀文 小場 弘之 西谷 弘 長谷川 純一 山本 眞司 鳥脇 純一郎 松本 徹
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究では日本人に多い胃がんと肺がんに焦点をあわせ、既に整備済みのマンモグラムデータベースと併せて、主ながん検診用画像のデータベース化の整備を行うことを目的としている。本研究は2年度にわたるが、この間に整備されたデータベースについて以下にその概要を述べる。胃X線二重造影像:本データベースは診断の難易度や病変の種類などのバランスがとれるように選別されたFCR像76枚から成る。このうち65枚が異常陰影を含む。胸部CT像:本データベースでは、肺がん検診に利用されるスライス厚10mmのものと、精密な検査に用いられるより薄いスライス厚のもの2種類を含む。肺がん検診用は症例数70症例であり、25症例が肺癌症例である。精密検査用については、症例数7症例で、いずれも肺癌症例である。胸部単純X線像:本データベースは間接撮影像50症例、直接撮影像50症例から成る。工学サイドの利用者であっても、一般的には撮影法やその読影法の基礎もわからないのが普通である。そのため、アルゴリズムの組立てに助けとなるように、それらに関する解説を用意したり、専門医のスケッチ画や診断所見を各画像ごとに与えるように努めた。
著者
木庭 博美
出版者
大分大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

プリント配線パターンを基板上に作る方法のなかで、プリント基板加工機による生基板からパターンを削り出す方式は、低コスト、短時間加工が可能で、試作・少量基板の作製に最適である。本研究は、パソコン制御によるプリント基板加工装置を安価に製作し、教育に活用することを目的とする。製作した装置は、まずパソコン用基板CADソフトを用い、回路図またはプリント配線パターンを描き、パターンデータ(数値データ)を得る。次に作成した制御ソフトを用い、パターンデータを元に、製作した加工機を制御し、切削と穴あけをし、プリント配線板を作る。加工機本体は、X、Y、Zの各軸を台形ねじ型アクチュエータで作り、Z軸には小型電気ドリルを取り付けてある。各軸はステッピングモータで制御する。モータの駆動に専用の駆動用ICを使用することにより、制御ソフト、回路とも簡略化でき、細かい制御が可能である。加工範囲は150mm×100mmである。制御ソフトは、パターンデータを本装置用のNCデータに変換し、穴あけ用と切削用に分け、さらに穴あけ用は穴の径ごとに分離し、各NCデータのファイルを作る。次にNCデータを読込み、X、Y、Z軸用ステッピングモータの制御信号を作り加工機を制御する。ファイルごとにエンドミル、ドリルを交換しながら繰り返す。既存の物品を使用したり、手作りすることにより、プリント基板加工装置を安価に製作した。また、本装置を学生が自由に使用できるように、装置の取扱い説明書を作成し、電子回路の作製に利用した。今後も、卒業研究やものづくり教育などで本装置を活用する。
著者
西岡 孝
出版者
高知大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本年度は,CeRu2Al10の相転移の異常性を明らかにするため,正常な反強磁性転移を引き起こすRFe2Al10(R=Ce以外の希土類元素)の磁性を調べて比較した。それを実行するために,7T横磁場無冷媒マグネットを用いた全自動角度回転磁化・ホール効果システムの開発を行い,RFe2Al10の単結晶を9種類フラックス法で作成し,それらの電気抵抗,磁化の測定を行った。RFe2Al10はCeRu2Al10と同じYbFe2Al10型結晶構造を持っている。CeRu2Al10の相転移の主要な特徴を列挙すると次のようになる。(1) 高い相転移温度 (2) 半導体的挙動 (3) 巨大な結晶場分裂 (4) 転移温度以下でギャップの解放 (5) 転移温度以下で電気抵抗のとび (6) 磁性は2次元的 (7) 磁気秩序の伝搬ベクトルはb軸 (8) 磁性は一軸異方性を示すがa,c両軸でメタ磁性。RFe2Al10の電気抵抗はすべて転移温度以下でとびを示した。また,それらの磁化測定はすべてac面内の2次元性を示した。特に,DyFe2Al10のac面内の磁化の角度依存性は,らせん磁性を反映して,結晶構造の4回対称性とは異なる2回対称性が現れていることが明らかになった。これらの測定結果はCeRu2Al10の上で述べた(4)~(8)の特徴はCe以外の希土類にも現れていることがわかった。一方でCeRu2Al10および関連物質のCeOs2Al10のNQR測定により(1)~(3) の特徴は大きな伝導電子とf電子の交換相互作用Jcfに起因するものであることがわかった。したがって,CeRu2Al10の相転移は全く新しいものではなくて,結晶構造に密接に関係した相転移が大きな伝導電子とf電子の交換相互作用Jcfによってエンハンスされたものと理解することができることが明らかになった。
著者
MORI James Jiro 伊藤 久男 柳谷 俊 松林 修 加納 靖之 木下 正高 MA Kou-fong
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

我々は,車籠埔断層を横断する温度プロファイルを観測するために,深さ250mのボアホールを掘削した.この掘削場所は1999年集集地震による温度異常が2000年に観測された場所のごく近傍である.2008年と2010年の温度測定では,温度異常は観測されなかった.このことは,2000年に観測された温度シグナルが地震による摩擦発熱による真のシグナルであったことを示している.
著者
小西 美ゆき 佐藤 禮子
出版者
兵庫医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

原発がん手術体験を反映させた転移性肝がん患者の周手術期看護援助を検討するために、文献調査、患者を対象とした面接調査、看護師を対象とした面接調査、米国の私立病院の肝がん患者をケアする部門の視察を行った。原発がん手術による心身の影響を考慮すること、転移がんに直面する患者の心理に配慮すること、今後も続くがん治療・療養に対する視点をもつこと、患者のもつがんとともに生きる姿勢や力を尊重することが看護援助を考えるうえで重要であることが示唆された。
著者
津村 耕司
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

宇宙近赤外線背景放射(CIB)のロケット観測プロジェクトCosmic Infrared Background Experiment(CIBER)を進めている。CIBには銀河や星などの既知の天体からの寄与だけでは説明できない超過成分が存在し、第一世代天体の寄与が示唆されている。CIBERでは、液体窒素冷却された4本の専用望遠鏡をロケットに搭載し、大気圏外からCIBの絶対スペクトルや空間的ゆらぎを観測し、初期宇宙における星形成の様子を明らかにする。2009年2月25日にCIBERの第1回のロケット観測は無事に実施され、良好なデータを得ることが出来た。CIBER搭載光学系Low Resolution Spectrometer(LRS)で得られた空のスペクトルを解析した結果、黄道光のスペクトル中に今まで予期されていなかった吸収帯が900nm辺りに見つかった。この黄道光スペクトルを詳しく解析した結果、黄道光を担う近地球の惑星間塵は、小惑星帯に分布するS型小惑星起因であると結論した。惑星間塵の起源については、小惑星起源か彗星起源かという論争が長く続いているが、今回の結果は、この論争の解決に大きく貢献する非常に重要な発見であると思われる。CIBERは観測後に装置を回収して複数回の観測を行う計画となっており、第2回の打上げ観測は2010年6月の予定である。そこで回収された観測装置を第2回フライトに向けて改修・再調整も行った。特に第1回の観測結果から検出された迷光対策のため、LRSの既存のバッフルおよび迷光対策のために改造された新たなバッフルの性能比較評価実験およびその解析をすすめてきた。そのような仕事の結果、改造をほどこした第2回のフライトでは迷光成分は10分の1以下になることが期待できるとの結果が得られ、想定されている精度の観測が達成可能であるという結果が得られた。
著者
前原 信敏 佐藤 久聡
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

Staphylococcus hyicusは子ブタの滲出性表皮炎の起因菌であり、本菌が産生するS.hyicus表皮剥脱毒素(SHET)により本疾病に特徴的な臨床症状が生じる。SHETはその分子中にセリンプロテアーゼ様構造を有するが、カゼイン分解能を有さないため、その標的物質は特殊な蛋白であることが推測されている。血清型A(SHETA)および血清型B(SHETB)の毒素は1日齢ニワトリひなの皮膚からEDTAにより抽出した液中の分子量40kDaの蛋白(P40)にのみ結合した。SHETAおよびSHETBは毒素感受性動物であるニワトリひなおよび子ブタのP40ならびに非感受性動物である哺乳マウスのP40の何れにも結合した。また、ニワトリP40に対する抗体はニワトリ、ブタおよびマウスP40の何れにも結合した。しかし、SHETAおよびSHETBはニワトリおよびブタP40を切断したが、マウスP40を切断できなかった。高度精製したニワトリP40のアミノ末端配列はウシ、イヌ、ヒトおよびマウスのデスモグレイン1(DSG1)およびDSG3の細胞外ドメインのアミノ酸配列と高度に合致した。そこで、抗ヒトDSG1血清と抗ヒトDSG3血清をニワトリ、ブタおよびマウスP40と反応させたところ、抗DSG1血清は全てのP40と結合したが、抗DSG3血清は何れのP40とも結合しなかった。SHETAおよびSHETBとニワトリ、ブタおよびマウスP40を反応させた後に抗DSG1血清と反応させたところ、ニワトリP40とブタP40には結合しなくなったが、マウスP40には依然として結合した。以上の成績より、SHETの標的蛋白がDSG1であること、SHETの動物感受性はDSG1細胞外ドメインに対する切断活性に依存することが示唆された。
著者
菊池 順 寺沢 和洋 村山 秀雄 錦戸 文彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

液体Xeは、原子番号54,密度約3.0の透明な液体である。γ線用のシンチレーターとしては、NaI(T1)結晶並みの発光効率を持ち、しかも、発光の減衰時間はBaF2よりも遅いが、NaI(T1)やLSOよりも遥かに早く、2nsecと22nsecとの2成分からなっている。その高発光効率、短減衰時間等の特徴を利用すれば、以下のような利点がある。1つは、真空紫外光は反射率が低く、反射で集光することは困難である。そこで、出来るだけ直接光のみを多量に集光することによってエネルギーの分解能を挙げることが出来る。また、このことは、複数の光電子増陪管によって観測されるそれぞれの光量を比較することによって発光源の位置を決定することが出来る事を意味する。更に、使用されたPMTの発光出力の総和を取ることによってエネルギー測定が可能であるとともに分解能をも向上させることが出来る。そのため、液体Xe中でも稼働し、真空紫外光にも有感で、5気圧でも稼働する新型のPMTを浜松フォトニクス社と共同で開発した。このPMTを利用して、小型液体Xe-PETを試作し、まずこのような点を実験的に検証することにした。つぎに液体Xeからの速い発光を利用すれば、きわめて高速のシステムを作ることが可能であるばかりでなく、time of flight(TOF)の技術を使用して、位置の精度を上げることが可能となる。このような方式は、これまで、BaF2で試みられていたが、その発光量が余りにも少なかったために、位置分解能を議論するところまで行かなかった。我々の実験では、液体Xeで2PMTを使用して高速重イオンに対して25psecの時間分解能を得ており、このことはPMTに十分な利得があれば、位置分解能がcmからmmのオーダーに入る可能性があることを示している。TOFによる位置の決定は、非常に、簡単なので、これはPET技術に新しい面を切り開くことになると考えられる。
著者
豊田 和弘
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

植物に固有の細胞壁が病原体による感染を未然に防ぐ物理的な障壁となることは周知の事実であるが、外界からの生物的あるいは化学的な情報を受信(認識)し、それらを正確に伝達して細胞あるいは組織全体の防御機構を成立させる動的な小器官であることが最近の申請者らの研究によって明らかとなってきた。本研究は、細胞の外側で行われる高次の情報処理システムの分子基盤について、病理学の視点からメスを入れ、細胞(組織)の統御と恒常性の維持を図る植物細胞壁の新たな機能に迫るものである。
著者
豊田 雅士 梅澤 明弘 五條 理志 板倉 陽子 上 大介 三好 俊一郎 肥田 直子 井上 麻油
出版者
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

幹細胞移植医療における安全性や有効欧の検証として、前臨床研究としての中大動物実験が求められる。本研究ではヒトで心筋分化能が高いとして期待される羊膜細胞をブタ羊膜から樹立しヒト細胞と比較した。さらにブタの心不全モデルを作製し、そこに細胞を移植し評価した。その結果、ブタ羊膜細胞はヒトと同等な特性を有しており、移植により心機能が改善し、移植した細胞は生着後心筋への分化が認められた。
著者
豊田 紀章
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

Ar等から形成されたメゾスコピッククラスタービームを用い、ピックアップセルを用いた混合クラスター形成や、荷電状態、クラスターサイズ、照射中雰囲気ガスなどを変化させて有機材料のダメージフリー・ナノ加工を行った。損傷評価には主としてGCIBと真空一貫で接続された光電子分光分析装置を用いた。その結果、低イオン化電子電圧による多価クラスターイオン生成の抑制や、クラスターサイズ制御、水蒸気等の雰囲気ガス制御を行うことにより、低損傷で有機材料の加工が可能であることを示した。
著者
宮下 純夫 木村 学 MELINIKOV M. ROZHDESTVENS SERGEYEV K.F 榊原 正幸 石塚 英男 岡村 真 木村 学
出版者
新潟大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

サハリン島は地質学的に日本列島の延長であり,環太平洋造山帯の一部を担っている.本研究では,サハリン南部の詳細な調査をおこない,サハリンにおける沈み込み・付加テクトニクスについて解明するとともに,日本での結果とあわせ,環太平洋造山帯のテクトニクスに迫ることを目的としている.これまでの成果は以下のように要約される.1.アニバ岩体:アニバ湾の北部及び東海岸には白亜紀付加体ーアニバ岩体が露出している.本岩体は緑色岩類が卓越する点で,白亜紀付加体の典型である四万十帯とは異なる.北部海岸の岩体は構造的・岩相的に二つのユニットに区分される.上部ユニットでは玄武岩から陸源砕屑物に至る一連の層序が観察され,下部ユニット上に衝上している.下部ユニットは主に玄武岩とメランジェからなり,石灰岩ブロックもしばしば含まれる.構造は,沈み込み帯における初生的な構造を表していると考えられる.スラストシ-トが繰り返す東フェルゲンツ構造を示す.アニバ湾東海岸ではメランジェが卓越しており,石灰岩のブロックを多数含むという点でやや異なる.構造的には,北部海岸と同様の覆瓦構造を示す.石灰岩とチャ-トの互層の出現は,本地域の付加体が海洋島などから由来していることを示唆している.2.ススナイ帯:本帯は神居古潭帯の延長に位置する高圧変成帯で,サハリン東海岸の50Kmにおよぶ調査により,南へ向かって各々が多数のスラストシ-トからなる5つのドメインが識別された.ドメイン1は緑色片岩ーチャ-トー泥質片岩と緑色片岩の互層から,ドメイン2は玄武岩質岩ーメタチャ-ト,泥質片岩と緑岩片岩ないしメタチャ-トの互層,泥質片岩からなっている.ドメイン3の最下部はメランジェから,上部は砂質岩を伴う泥質片岩からなる.ドメイン4は玄武岩が大量に出現することで特徴づけられ,上位は石灰岩ないしチャ-トを含む玄武岩質堆積岩,黒色頁岩によって覆われている.ドメイン5は黒色頁岩と珪質片岩の互層からなっている.緑色岩やメランジェが出現しない点で異なっている.変形作用は3時相が識別された.D1時相は東ないし北東方向のL1線構造とS1片理面の形成,D2時相は全域に発達する,北東走向の非対称褶曲,シ-ス褶曲,北西方向の線構造などによって示される.センスは南方を示す.D3時相は直立した褶曲軸面をもつ開いた褶曲で,褶曲軸は北東走向で水平に近い.D1ーD2時相はダクタイルな変形であるが,D3時相はブリットルな変形を示している.変成作用は塩基性岩の鉱物組み合わせに基づいて,パンペリ-石ーアクチノ閃石帯(ドメイン3,4,5)とパンペリ-石ーエピド-トーアクチノ閃石帯(ドメイン1,2)の二つに分類される.前者に出沼する青色片岩はNa角閃石ーNa輝石ー緑泥石ーヘマタイト,後者の青色片岩はエピド-トーNa角閃石ーNa輝石ー緑泥石の組み合わせを示す.Na角閃石はマグネシオリ-ベカイトでありNa輝石はジェ-ダイト成分に乏しいエジリン輝石ないしエジリン普通輝石である.最高変成条件は200ー300℃,4ー5Kbarと見積られる.また,変成作用の時期はD2時相と考えられる.3.玄武岩類の岩石学的特徴:主要成分・微量成分分析に基づいて,アニバ岩体とススナイ岩体に大量に出現する玄武岩類には,NーMORB,TーMORB,EーMORB,OIT,アルカリ玄武岩にわたる様々な岩石が存在していることが明かとなった.大局的な傾向としては,アニバ岩体はアルカリ玄武岩とOITが,ススナイ岩体ではTーMORBが卓越しているという特徴がある.これらのことから,アニバ岩体の多くは海山ないし海洋島に,ススナイ岩体は海台に由来する可能性が強い.4.化石年代:アニバ岩体のチャ-トや灰緑色頁岩からチトニアンとコニアシアンを示す放散虫が確認されている.5.今後の展望:現在,化石年代や岩石の放射年代,鉱物分析などが進行しつつある.これらのデ-タが得られて全体的な検討が進むと,海洋地殻物質の付加・上昇過程が解き明かされ,サハリン南部は付加体の形成を解明する世界的な典型となることが期待される.また,そのためにはさらに広域的な調査が求められる.
著者
増本 純也
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

細胞内病原体受容体のNOD蛋白質の変異による自己炎症性疾患の病態を解析することで、炎症を制御するインフラマソームの機能を詳細に描き出すことができ、その制御の異常によって自己炎症性疾患が発症することが裏付けられた。今回の研究でインフラマソームの果たす炎症制御への役割が類推できたことで、炎症性疾患の予防や治療への応用が可能になると考えられる。
著者
塙 晴雄 小玉 誠
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

IL-1阻害薬は炎症が関わる疾患の治療薬として期待される。我々は、IL-1受容体アクセサリー蛋白(Acp)-免疫グロブリン(Ig)とIL-1RタイプII(IL-1R2)-Igのヘテロダイマー(Acp-Ig/IL1R2-Igヘテロダイマーと呼ぶ)を作成し、そのIL-1阻害作用を既存のIL-1阻害薬と比較検討した。Acp-Ig/IL1R2-Igヘテロダイマー(ラット,IC50=1.95pM;ヒト,IC50=0.14pM)はIL1RA(ラット,IC50=1,935pM)やAcp-IL1R type I(IL1R1)-Igホモダイマー(ラット,IC50=73.7pM;ヒト,IC50=4.48pM)、Acp-IL1R2-Igホモダイマー(ラット,IC50=72.8pM)よりも強力にIL-1を阻害し、それはIL-1αおよびIL-1β共に強く阻害した。