著者
田代 雄一 髙嶋 博
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.1387-1399, 2017-12-01

自己免疫性脳症は,臨床的および免疫学的に多様な疾患である。少なくとも20種類の自己免疫性脳炎・脳症が報告されており,最も一般的なタイプは橋本脳症と思われる。患者はしばしば機能的,心因性の運動障害または身体表現性障害を示すと誤って診断されることがわかっている。自己免疫性脳症患者は,主に運動障害,覚醒障害,感覚異常,および振戦,筋緊張亢進,または不随意運動などの不随意運動を中心に運動障害を示した。さらに,記憶喪失,心因性非てんかん性発作,解離性健忘症,てんかん,または自律神経症状を観察した。自己免疫性脳症を診断するために,われわれは,脳の障害の部位別の組合せによりびまん性脳障害を検出する方法を提案する。びまん性脳障害では文字どおり,麻痺,運動の滑らかさ障害,不随意運動,持続困難な運動症状,痛みなどの感覚異常,記憶の低下や学習能力低下などの高次脳機能障害,視覚異常などの視覚処理系の障害がみられる。これらの複合的な脳障害は自己免疫性脳症の全脳に散在性に存在する病変部位と合致する。3系統以上の脳由来の神経症候は,おおよそ「びまん性脳障害」を示し得る。はっきりと局在がわからない神経症候は,一般的な神経学的理解では,転換性障害または機能的(心因性)運動障害に分類される傾向があるので,医師は自己免疫性脳症を除外することなく,心因性神経障害と診断するべきではない。 *本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,付録動画を視聴することができます(公開期間:2020年11月末まで)。
著者
三田村 康貴 占部 和敬 古江 増隆
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.982-984, 2013-09-10

要旨 18歳,女性.3週間前から出現した右上腕の萎縮,陥凹を主訴に当科を受診した.5か月前にHPV(human papillomavirus)16/18に対する子宮頸がんワクチン(サーバリックス®)を同部位に筋肉内注射されていた.モルフェア,深在性エリテマトーデスなどの鑑別目的に皮膚生検を施行した.病理組織学的検査では病変の主体は皮下脂肪織にあり,脂肪細胞の変性および消失が認められた.ヒアリン様物質の沈着,脂肪滴を貪食する組織球を認めた.サーバリックス®による脂肪萎縮症と診断した.一般にステロイド局所注射により脂肪萎縮症をきたすことが多く,女性に多いことが知られている.サーバリックス®による脂肪萎縮症の報告は調べえた限りなく,きわめて稀であると考えられた.婦人科医師は本疾患を認識し,対策を取る必要があると考えたため報告する.
著者
石山 芳夫 深田 良雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.641-642, 1956-09-10

まえがき 新止血剤アドレノクロムモノセミカルバゾンは,1943年Dr.F.Barconner等により合成され,ベルギー,フランス等で種々研究が加えられた結果,優れた血管強化並びに止血作用を有することが明かとなつた。 之の止血機序は,従来の血液の凝固を促進させる止血剤とは異なり,アドレナリンの止血作用によるものである。すなわち,アドレナリンは生体内で酸化されて,アドレノクロム及びアドレノキシンとなり,止血作用を現わす。このうちアドレノクロムは交感神経刺戟作用がなく,止血剤として極めて有用なことが明かとなつたが,以前は不安定,且不溶性のため実用には供されなかつた。ところが或種の誘導体,特にモノセミカルバゾンは,乾燥状態でも水溶液でも,非常に安定であることが発見され,臨床的使用が可能となつた。
著者
船山 道隆
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1194-1196, 2013-12-15

カプグラ症候群とフレゴリの錯覚 人物誤認の代表として,カプグラ症候群とフレゴリの錯覚がある。いずれも統合失調症に出現した典型的な症例から命名された2,4)。カプグラ症候群は,自分の周囲の既知であるはずの人たちを,そっくりであるが本物ではない人によって置き換えられたと確信する現象である。カプグラ症候群はソジーの錯覚ともいわれるが,ソジーとはフランス語である人に生き写しの他人という意味である。多くの場合,親しい既知の人物に出現する。一方で,フレゴリの錯覚は,他者を別の他者の変装であると確信するものであり,たいていの場合は自分を迫害する,あるいは恋心を抱いてくるなどという妄想を伴う。この両者が混在する症例10,14)がしばしば認められるため,両者の機序を統合して捉える立場がある。Vié15)や加藤9)は,カプグラ症候群を同一性の欠損や同一性の低下,フレゴリ症候群を無媒介な同一性や同一性の過剰と考えている。また,人物誤認全般を妄想知覚からみる考え方8)もある。 近年はカプグラ症候群,フレゴリ症候群,相互変身症候群,自己分身症候群をまとめて,妄想性誤認症候群として論じる論調があり3),その後は脳血管障害,頭部外傷,レビー小体型認知症,アルツハイマー病などの脳器質疾患によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚の報告が相次いでいる。しかし,統合失調症と脳器質疾患に出現する人物誤認では,背景にある症状がかなり異なる。本論では,この背景にある症状の違いを中心に考えていく。
著者
樋室 伸顕
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1095-1102, 2017-12-15

はじめに 学生時代,小児施設での臨床実習が決まったとき,親とどのように接したらよいか不安に思った経験はないだろうか.一方,小児施設で臨床をしている理学療法士は,親とのかかわり方をどのように身につけているのだろうか.卒前卒後を通して,理学療法教育として家族とのかかわりを学ぶ機会は限られている.先輩からの助言や個人の学習努力,または積み重ねた経験に基づいて臨床実践されているのが現状である. 家族が子供の発達に大きな影響を与えることは疑いの余地がない.したがって子供の発達を支える小児理学療法では,根拠を持って家族とかかわる必要がある.そこで本稿では,Family-Centered Servicesの言葉の意味や概念,定義,効果をレビューする.そして家族を中心として理学療法を実践するうえで特に重要な情報提供のありかたを,私見を交えて述べる.小児理学療法の臨床・教育において,科学的根拠を持って家族とかかわるきっかけになることが本稿の目的である.
著者
粳間 剛 仙道 ますみ
出版者
三輪書店
雑誌
地域リハビリテーション (ISSN:18805523)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.70-77, 2018-01-15

最近不思議に思うことがあります. 毎週外来に来るパスタ屋のペンネさんは,普段は注射すれば腰痛が楽になると言ってくれるのですが…
著者
徳田 和宏 竹林 崇 藤田 敏晃
出版者
三輪書店
巻号頁・発行日
pp.1009-1013, 2019-08-15

Abstract:【目的】近年,急性期からの上肢麻痺に対する集中練習も有用とされつつある.今回,練習量確保のため病棟看護師と協働して行う病棟実施型のconstraint-induced movement therapy(CI療法)を開始したので,これらの結果について報告する.【方法】病棟実施型のCI療法を実施した脳卒中 8例について,介入前後におけるFugl-Meyer Assessment(FMA),Motor Activity Log(MAL)のamount of use(AOU)とquality of movement(QOM),Canadian Occupational Performance Measure(COPM)における満足度,遂行度を測定した.【結果】FMA,MALのAOUとQOM,COPMの満足度と遂行度のすべての項目において,有意な改善が認められていた.また,効果量についても全項目において大きな改善を認める結果であった.【結論】急性期からの病棟実施型のCI療法は,学習性不使用の防止や実生活での麻痺手を使用する行動変容に寄与できる可能性があり,中・長期予後によい影響を与える可能性が示唆された.
著者
小出 貢二 間中 信也 指田 純 高木 清 喜多村 孝幸 平川 誠 野間口 聰
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.729-734, 1991-08-10

I.はじめに 血小板減少症を呈するidiopathic thrombocytopenicpurpura(以下ITP),disseminated intravascular co—agulation等の出血性素因や肝疾患が,頭蓋内出血の原因となることは良く知られている.しかしながら血小板減少症の発現は,出血性脳血管障害の急性期ばかりではなく経過中のすべての時期に認められ,血小板減少症が必ずしも出血性脳血管障害の原因として元から存在したものばかりでなく,出血後経過中の様々な原因により.二次的に生じたものも多いと考えられた.そこでわれわれは,出血性脳血管障害の経過中に認められた血小板減少症の原因とその臨床的意義について検討をくわえ興味ある結果を得たので報告する.
著者
二通 諭
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.40, no.10, pp.1365, 2012-10-10

「あなたはADHD系」,「彼はアスペ系」といったように,友人同士の他愛もない性質分類にも発達障害カテゴリーが用いられるようになってきた.そのような視座から,往年の映画の登場人物をみるならどのような解釈が成り立つだろうか.発達障害を有する人物は,映画の主人公になりやすい特異なキャラクターを有しているが,その頂点に立つ人物といえば,やはり「男はつらいよ」シリーズの寅さんこと車寅次郎(渥美清)である. 本人が語る自己像も「生まれついてのバカ」なら,おいちゃんの寅さん像も「生まれつきのバカ」であり,幼少期から発達や行動上の問題を有していたものと思われる.
著者
田代 綾美 宮本 恵美 古閑 公治 久保 高明 大塚 裕一 船越 和美
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.310-320, 2018-12-15

近年,超高齢化に伴い,誤嚥性肺炎に罹患する患者は年々増加している.一般的な喉頭挙上にかかわる筋力強化訓練は実施上の配慮の必要な場合が多い.本研究では,簡易に行える構音訓練が喉頭挙上訓練として有効であるか,その効果について表面筋電計を用いて検討した.「カ」は「タ」や「ラ」と比べて舌骨上筋群の筋活動が有意に高く(p<0.01),嚥下おでこ体操と比較して舌骨上筋群の筋活動が同程度であることが明らかとなった.さらに,1か月後の訓練効果を比較した際,「カ」連続構音群では,水の嚥下で単位時間当たりの筋活動量の増加(p<0.05),および筋活動持続時間の短縮が認められた(p<0.05).これは,舌骨上筋群は主に「速筋」により構成されていると推察されることから,「等張性運動」に相当する「カ」連続構音群で訓練効果がみられたのではないかと考えた.このことから,「カ」連続構音訓練は喉頭挙上訓練として有効であることが示唆された.
著者
岡田 理
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.119, 1997-04-15

「皮膚科の先生,焼身自殺の人が運ばれてきましたので,すぐ来てさい.」ICUの婦長さんからの電話である.「またか」と,医局に重苦しい空気が流れる.ICUへ行ってみると全身黒こげの若い女性が救急部のスタッフの治療を受けている.両親から話を聞くと,うつ病で治療中であったが,死にたい死にたいと何度も口にしていたとのこと.やけどの状態を説明すると,治療はいりませんから死なせてあげて下さいと懇願される.両親の要求をそのまま実行しようものなら大きく叩かれる昨今である.結局,懸命の治療にもかかわらずこの患者は20日後に亡くなってしまった.このようなことが繰り返される度に“焼身”自殺を止める策はなかったのかと思うのだが.昨年1996年の1年間で,5名の焼身自殺患者が当院に搬送されてきた.そもそも秋田県は人口当たりの自殺者の数が全国でも1〜2位を争うほど多い県である.北国の秋田では容易に灯油が入手できるので,焼身という手段が選択されているのであろう.救急蘇生の技術が発達した昨今では,どんな熱傷患者でもショック期を脱することが可能となっている.一命を取りとめた後は死ぬより辛い痛みが待ち受けている.また,形成外科がなく,救急部のスタッフの極めて少ない当院では,重症熱傷の治療に皮膚科が全面的に関わるので,医局員の少ない当科には大きな負担となっている.もちろんこうした患者の治療にも多額の医療費が使われているのが現実である.このような悲劇をなくすために,焼身自殺の悲惨さを広く知らしめることはできないものだろうか.皮膚科医,救急科医,精神科医などが協力して一大キャンペーンを行って頂ければありがたい.「焼身自殺はやめましょう,もしするなら他の方法でお願いします…」とは言えないが.
著者
内藤 朝雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.165-175, 2021-02-15

抄録 学校のいじめをモデル現象として,1) 群生秩序:集合的活性化輪郭が畏怖すべき規範の準拠点となる利害権力政治の秩序,2) 秩序の生態学モデル:複数の秩序が互いを環境として関係し合い位置付けあう生態学的な説明モデル,3) 人を生徒らしい生徒に変える自己裂開を伴う変換の連鎖としての学校らしい学校のコスモロジー,4) 自己裂開規範:自己を自発性の核心部分から裂け開いてしまうかのようなふるまいを倫理秩序の中心として強制し違背を許さない規範,についての理論を提示する。次にこれをもとに,構成要素を個体水準よりもミクロな内的メカニズムに設定し,それが個体水準を越えて,直接複数個体水準でまとまる現象を含めて説明するのに適した,IPS(inter-intra-personal-spiral)理論枠組とその可能性を展望する。ネットいじめは,1) 閉鎖空間の人間関係にネットが加わってブースター効果を及ぼすタイプと,2) 見ず知らずの被害者を不特定多数で攻撃するタイプに分ける必要がある。