著者
佐藤 達夫
出版者
医学書院
雑誌
臨床泌尿器科 (ISSN:03852393)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.837-846, 1991-10-20

睾丸(精巣)のラテン語名testisの第1語義は「証人」witnessであり,「睾丸」は男性を証明するものという意味で派生した第2語義と想像される.使用頻度の高いtestify,testament,testという英単語もtestisと用じ語源をもつものらしい.睾丸のもつ重要性は"testis"に表わされていると見ていいだろうし,英語testisやフランス語tes-ticule,イタリア語testicolo,スペイン語testeに継承されているのも理解できるところである.それにくらべると,睾丸炎orchitisなどに使われるギリシャ語のorchisは蘭(一般にオーキッドorchidと呼ばれている)のことで,その球根の形に似ていることに由来し,またドイツ語のHoden(単数はHode,ふつう複数で用いられる)は古高地ドイツ語の包むumhüllenから由来したとされ(いわば「おくるみ」),testisよりインパクトがかなり弱い. ついでながら副睾丸(精巣上体)のepididymisのepi—はもちろん「の上に」であるが,didymisはギリシャ語で「対をなした」に由来する.つまり有対の睾丸の上にのっかったものという程の意味で,ギリシャ出身の大医学者Galenus(129〜199)が使っているという1).
著者
安井 昌之 吉田 宗人 玉置 哲也 谷口 泰徳 大田 喜一郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.745-751, 1997-08-01

カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)は中枢神経組織(CNS)や骨で重要な役割をもつ。ミネラルが関与すると推定されているCNSの変性疾患として筋萎縮性側索硬化症(ALS)やparkinsonism-dementia(PD)が挙げられ,多発地のグアムや紀伊半島南部の環境分析で,河川,土壌中の低Ca・Mg,高アルミニウム(Al)が指摘されている。今回,低Ca・Mg,高Al食負荷によるラット大腿皮質骨,腰椎骨梁骨やCNSをはじめとする軟部組織と,ALS紀伊症例のCNSと,紀伊半島南部の脊椎靱帯石灰化症の脊椎骨と脊椎靱帯のMg,Ca量を分析し,それらの類似性について検討した。ALSと偏食ラットのCNSを含む軟部組織はCa含有量は増加,Mg量は低下した。また同様に,脊椎靱帯石灰化症の脊椎靱帯はCaは蓄積,Mgは低値であった。一方,偏食ラットの大腿骨,腰椎骨のCa,Mg含有量は対照群に比し有意に低下したが,脊椎靱帯石灰化症の脊椎骨でも対照群に比較し有意にCa,Mg含有量は低値を示した。以上のことから,紀伊半島南部の河川のCa,Mg量が低値であり,ALS同様,多発する脊椎靱帯石灰化症が,環境要因の影響を受けており,さらにミネラル関連疾患が存在する可能性が示唆された。
著者
吉田 啓志 増田 裕里 近藤 駿 井戸田 弦 永井 宏達
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1275-1279, 2021-11-15

要旨 【目的】自立歩行が可能な脳卒中患者における日本語版Physical Activity Scale for the Elderly(PASE)を使用した身体活動量評価の妥当性および信頼性を検証することである.【方法】妥当性は,対象者27名に対し,入院環境と生活環境においてPASEと3軸加速度計にて評価した身体活動量の相関係数にて基準関連妥当性を評価した.信頼性は,対象者19名に対し,級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)にて検者内信頼性を評価した.【結果】妥当性は,生活環境において高い妥当性を認めた(ρ=−0.40〜−0.67).信頼性においても,高い信頼性を認めた(ICC=0.98).【結論】自立歩行が可能な脳卒中患者におけるPASEを使用した身体活動量評価は,妥当性および信頼性とも良好であり,生活環境での応用が今後期待される.
著者
出口 克巳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.744-746, 1992-08-01

■血夜凝固過程におけるフラグメント 血液凝固過程の最終段階では,プロトロンビンが活性化されてトロンビンとなり,このトロンビンの作用により,フィブリノゲンからフィブリンが生成され血液凝固を完了する. プロトロンビンの活性は活性化された第X因子・第V因子,カルシウムイオン,リン脂質(血小板膜表面)の存在下において惹起される.この過程において,プロトロンビンは,そのアミノ末端基からフラグメント(F1,F2,F1+2)を放出し,トロンビンに変換する.生成されたトロンビンは,血小板,内皮細胞,フィブリノゲン,凝固第V・VIII・XIII因子などに作用する.さらに,トロンビンは生理的阻止因子アンチトロンビンIII(AT III)によって阻害され,安定で不活性なトロンビン/AT III複合体(TAT)が形成される.病的状態において,凝固系が活性化されても,循環血中のプロトロンビンのごく少量(1%以下)のみがトロンビンに変換されるだけである.それゆえ,プロトロンビンあるいはAT IIIの量を測定しても,血液内でのトロンビンの生成を評価することは不可能である.また,不安定なトロンビンを直接的に測定することも極めて困難である.一方,F2/F1+2あるいはTATはトロンビンに比べて安定であり,血中寿命も長いことから,これらを測定しうるならば,その血中の量的変化から,少量のトロンビン生成をモニターすることが可能となると想定しうる.
著者
齋藤 佑樹 上江洲 聖 金城 正太 友利 幸之介 東 登志夫
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.22-31, 2012-02-15

要旨:我々は,作業に焦点を当てた目標設定における意思決定を共有するためのiPad用アプリケーションである作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を開発した.ADOCでは,日常生活上の作業場面のイラスト94項目の中からクライエントにとって重要な作業をクライエントと作業療法士がそれぞれ選び,協業しながら目標設定を行う.今回,重度失語症のA氏に対してADOCを用いた結果,A氏が意味のある作業に気付き,作業に焦点を当てた実践へと展開するきっかけを作ることができた.この経験から,ADOCは意思疎通が困難なクライエントとの作業に焦点を当てた意思決定の共有を促進する有用なツールであることが示唆された.
著者
伊東 若子
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.529-533, 2017-06-15

はじめに 近年,成人の発達障害が注目を浴び,精神科外来を受診するケースが増えている。筆者は,睡眠障害を対象とした睡眠専門外来を行っているが,発達障害の患者が睡眠の問題を訴え来院するケースも非常に増えている。筆者が所属する病院が成人の発達障害専門外来を有しているところも大きいかもしれないが,睡眠の問題を訴えてくる患者の中に,「発達障害もあるのではないか」と自ら相談してくるケースや,また,睡眠の問題を主に訴えてくる患者であっても,その背景には発達障害があり,その結果としての睡眠の問題であることも多く経験する。発達障害に睡眠の問題を多く認めることは以前より知られているが,その原因は単一ではない。発達障害における睡眠障害は,発達障害の病態と深く関連しているものがあり,本稿では,発達障害の中でも注意欠如・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder;ADHD),自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder;ASD)と睡眠の関係について,病態との関係から概説したい。
著者
堀口 淳
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1197-1201, 2019-10-15

抄録 通常のドパミン作動薬では症状が十分に緩和されていないむずむず脚症候群に人参養栄湯を追加投与し,1年間以上良好な治療効果を自覚している3症例を報告した。 人参養栄湯の追加投与の治療効果は,3症例とも投与開始後3週間から1か月目ごろから顕著となった。また症例3では,人参養栄湯を追加投与後,服用中であったドパミン作動薬を減量できた。 3症例の異常知覚は多彩であり,「むずむず」だけではなく,また症例2の異常知覚の発現部位は両上肢にも認められた。 本稿では,ドパミン作動薬と人参養栄湯との併用療法がむずむず脚症候群に奏功することと,むずむず脚症候群の異常感覚は多彩であり,また発現部位は「脚」だけではないことも強調した。
著者
大嶋 栄子
出版者
医学書院
雑誌
精神看護 (ISSN:13432761)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.100-103, 2020-01-15

それは社会から隔絶された場所にあった 刑務所と精神科病院は、とてもよく似た場所だ。どちらも、望んで行く場所ではないこと。自由が制限されること。そこから出るためには、できる限り本当のことは話さないほうがよく、周囲の人に心を許さないほうがいいとされてきたこと、などなど相似点が多い。 昨年秋、この映画の舞台となった「島根あさひ社会復帰促進センター」★1という民間が運営する刑務所を訪問し、TC(セラピューティック・コミュニティ=治療共同体)★2ユニットのプログラムを見学する機会を得た。そこは広島空港から高速バスを乗り継ぎ、インターチェンジまで迎えに来てもらわないとたどり着けない場所だ。ずいぶん不便な所にあると驚きながら、これも多くの精神科病院と同じだなと思った。監督の坂上香さんがちょうど映画を撮影していた頃、レンタカーを飛ばして飛行場に駆け込んで間に合ったとか、途中の風景があまりに綺麗でカメラに収めたとか、思うように進まない撮影の現場で起こるアクシデントについてのぼやきを聞いたりSNSで見たりしていた。だから、自分がその場所に立った時に、初めてなのにここに帰ってきたような気がした。
著者
三村 孝 伊藤 國彦
出版者
医学書院
雑誌
臨床外科 (ISSN:03869857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.12, pp.1327-1334, 1991-11-20

発育が緩慢で予後が良好な甲状腺腺癌のなかにあって,小児甲状腺癌は成人と異なった病態を呈する.進行が早いものが多く,頸部リンパ節転移が90%以上に,遠隔転移,特に肺転移が20%近くみられる.進行癌が多いにもかかわらず生命に対する予後は良好である.リンパ節転移のほか腺内転移も多く,甲状腺全摘とリンパ節郭清が理想的手術ではあるが,全摘に伴う反回神経麻痺,永久性テタニーなどの発生率も高く,甲状腺機能低下症の発生も小児にとっては問題であり,必要かつ十分な手術に止めるべきであるとの意見も少なくない.遠隔転移に対しては,甲状腺全摘後131Iによる内照射が行われる.
著者
中村 宅雄 村上 弦
出版者
医学書院
雑誌
臨床整形外科 (ISSN:05570433)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.397-401, 2007-05-25

ヒトの僧帽筋は肩甲骨を安定させ,肩関節の運動や肩甲骨の運動に関与する重要な筋である.僧帽筋裏面を走行する静脈は,1)動脈に伴走しない静脈が存在し,2)静脈の合流点の数は動脈の分岐点の数の1.5倍に達し,3)さらに静脈弁が欠落している,という特徴がある.また上大静脈へ流れる経路とは別に側副路として外椎骨静脈叢へ流れる経路が存在することも特徴として挙げられる.下大静脈を通る静脈還流は,腹圧や胸腔内圧の影響を受けやすいため,静脈還流が滞った際には椎骨静脈叢が重要な役割を果たすと考えられる.僧帽筋の静脈の特徴的な形態は,椎骨静脈叢の流出路であると同時に側副路であるという体幹の静脈還流上の特殊な位置付けから説明できるものと考える.また,これらの特徴を踏まえたうえで,理学療法において肩こりに関与する僧帽筋への手技の見直しが必要であり,静脈還流を促す方向へのマッサージを行うことによって,肩こりの改善を図ることができるのではないかと考える.
著者
矢沢 珪二郎
出版者
医学書院
雑誌
臨床婦人科産科 (ISSN:03869865)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.1106, 2015-11-10

経口避妊薬(ピル)の使用はある種の腫瘍を増加させる.今までにピルの使用と中枢神経腫瘍との関連を調べた文献は少ない.長期的なピル使用者では,グリオーマの発生頻度が非使用者のほぼ2倍であることが報告されている.デンマークの研究者たちは全国的な規模のpopulation based settingで,更年期以前の女性たちにおいて,ピルとglioma(神経膠腫)との関連を調べた.
著者
徳井 達司 米元 利彰 岩下 覚 樋山 光教 稲田 俊也 三村 將 鈴木 義徳 川口 毅 川井 尚 栗原 和彦
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.31, no.9, pp.919-929, 1989-09-15

抄録 大麻の長期乱用による大麻精神病の6例を経験したので報告した。発病にいずれも連続大量使用かTHC高濃度の製品を使用しており,発病の契機に心理,状況的要因の関与が目立った。病像的には中毒性精神病の特徴をもち,無動機症候群,幻覚妄想状態が全例に認められた。これに意識変容,知的水準低下,気分欲動の変化,衝動異常,観念湧出,散乱等が加わり,組み合わさって経過した。精神病体験の持続は治療開始後1〜3カ月であったが,その間病状の改善は動揺を示し,フラッシュバックの挿間もみられた。陽性症状が消褪しても無動機症候群は多かれ少なかれ残遺するのが常で,3カ月以上経過後も完全に回復に至らない例もみられた。施用者の生活状態や臨床的所見から,場合によっては慢性人格障害に移行する可能性も示唆された。
著者
坂口 悠介
出版者
日本メディカルセンター
雑誌
臨牀透析 (ISSN:09105808)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.209-210, 2019-02-10

2011 年,米国Food and Drug Administration(FDA)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用(多くは1 年以上)時にまれに発生する重度の低マグネシウム(Mg)血症に関して注意喚起を行った.とくに基礎疾患のないPPI 内服者が低Mg血症からtorsades de pointes をきたしたというケースも報告されており,PPI 長期投与例では定期的な血清Mg 濃度のモニタリングが望ましい.PPI による低Mg血症はこの薬剤のclass effect であり,いずれのPPI でも発生しうる.低Mg 血症を生じる機序として腸管でのMg 吸収障害説が有力視されており,経口Mg 補充のみでは血中Mg 濃度は十分に上昇しないが,原因薬剤の中止によって数日以内に軽快することが多い.腸管でのMg 吸収を司る主たるトランスポーターであるtransientreceptor potential melastatin type 6(TRPM6)の活性は腸管内局所のpH に依存しており,PPI 使用による腸管内pH の上昇がTRPM6 を介したMg 吸収を減弱させると考えられている.なお,ヒスタミンH2 受容体拮抗薬による低Mg 血症の報告はない.PPI を長期投与されている133 例を対象としたオランダの研究では,TRPM6 の一塩基多型(rs3750425,rs2274924)をもつ集団で低Mg 血症のオッズ比が5 倍以上上昇しており,PPI によるこの副作用の発現に遺伝的背景が一部関与している可能性が示唆される.
著者
堀端 廣直 郭 哲次 坂口 守男 小野 善郎 百渓 陽三 吉益 文夫 東 雄司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.297-302, 1995-03-15

【抄録】夫婦の間で約5年間持続した二人組精神病について報告した。二人で鍼灸治療所を開いていたが,妻が宇宙からの通信を受け始め,被害妄想も生じた。1か月後には,夫も宇宙からの通信を受け始め同様の妄想を持った。 夫婦は,鍼灸業は停止し,近隣から孤立していった。約2年後に夫は“宇宙語”と称する言葉をしゃべり始め,その半年後には妻も同調し,“宇宙語”による夫婦間の交話が約2年間続いた。二人は不穏行為などで,トラブルを頻繁に起こしていたが,夫の父親が近所の人々からの苦情などに対応し,当人たちに経済的援助もしていた。夫婦の精神科治療への導入は困難であったが,通行人への暴力行為を契機として,妻が措置入院となり約4か月後,軽快退院した。夫は妻との分離後,約3週間目には妄想をなくしていた。感応の成立過程とその方向,“宇宙語”での交話によって夫婦の共生的関係が強くなり,父の庇護により二人の感応精神病が持続したことについて考察した。